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■△・第3の女(15)

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千里はコスモスが夕方会ったiPhoneを持っている千里が“千里1”、6月に品川ありさ『アクア・ウィタエ』の音源製作で龍笛を吹いたT008を持っている千里が“千里2”で、自分はAquosを持っていて“千里3”であると語った。
 
「取り敢えず持っている携帯を見れば区別はつくわけか」
「それよりエネルギーレベルで分かるでしょ?」
「・・・・分かる気がする」
「それで見分けた方が安全だよ。携帯なんて簡単に同じ型を用意できる」
「確かに。でも3人はお互いに協力して行動しているの?」
 
「全然。私と2番はお互いにライバルだと思っている。だから話もしない。1番はそもそも自分が3人に分かれたことに気付いていない」
 
コスモスはしばらく考えていた。
 
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「それはそうかも知れない気がするよ。1番の霊感は私やケイさんに比べたらずっと大きいけど、3番さんよりは遙かに小さい」
「2番は私の倍くらいだよ」
 
「それって、A380がB747の倍近く乗るって話だと思う。1番は小型のビジネスジェット。私やケイさんは空を飛べない自動車」
とコスモスが言う。
 
「よく分かってんじゃん。でもケイやコスモスちゃんは飛べなくても時速300kmで走れるF1マシンだと思うよ」
 
と千里は言った。コスモスも頷いていた。
 

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「千里1が事故に遭って、バスケの能力も音楽的能力も、そして霊的な能力も極端に低下した。それで千里1は代表落ちしたけど、代わりに私が日本代表になった」
 
「あの奇跡の復活劇はそういうことだったのか」
 
「それで音楽の方では、他の2人の存在に気付いていない千里1が醍醐春海として活動し続けているけど、あの子は今、埋め曲は書けてもクリエイティブな作曲ができない。それで私と2番が琴沢幸穂として活動することにしたんだよね」
 
「そういうことなら琴沢幸穂さんに、今後もアクアほかの楽曲をお願いしたい」
とコスモスは言った。
 
「うん。よろしく。それで琴沢幸穂に依頼のあった曲を振り分けるのと私が不審に思わないようにするため、2番の指示で天野貴子が代理人として表に出ている」
 
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「そういうことか。でも不審に思うでしょ?」
「思う。思う。でも私は気付かないふりをしている」
「それ気付かないふりしてること自体が2番にはバレてると思う」
 
「まあキツネとタヌキの化かし合いだね」
「自分同士で鎬を削って(しのぎをけずって)るんだ!?」
 
「アクアの方は3人で仲良くやっているよ」
「へー!」
 
「だからあの子たち、トイレとかに行く振りして入れ替わって交替で出演している」
「よくやるなあ」
「この春にタイで写真集の撮影した時も佐斗志はM、友利恵はFが演じている。Nは交代要員。だから実際には佐斗志はMとN、友利恵はFとNで撮影した」
 
「M?F?」
「アクアは男の子と女の子と男の娘に分裂したからね」
「うっそー!?」
 
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「だから男の子がM、女の子がF、男の娘がN」
「なるほど」
 
「アクアがこの春からちゃんと勉強もするようになったのは3人で分担しているから。基本的に学校に行く子と仕事に行く子は別。仕事に行く子は午前中仮眠している。誰が何するかは日替わり」
「そういうことか」
 
「でも社長さんとしては、そんなこと気付いていないふりして、あくまで1人のアクアを出演させているというつもりで仕事を割り振ってあげて。そうしないとあの子3人でも対応しきれなくなって、過労で3人とも倒れるから」
 
コスモスはしばらく考えてから言った。
「そうする。アクアはあくまで1人。だから1人分の仕事しかさせない」
「うん。それはお願い」
 
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「アクアが3人いることは、山村マネージャーだけが知っていて、入れ替わりに協力している。チケットの手配とかもしている」
「ああ、それは協力者がいなきゃ無理だよ。そういえば山村さんって、千里さんの古い友人なんでしょ?」
 
「そうそう。面白い人だよ。ちなみに山村はまだ私の分裂には気付いてない」
「言わないんだ!?」
「あの人はわりと鈍いから」
「なるほどー」
 

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「千里ちゃんは全員女の子なの?」
とコスモスは訊いた。
 
「実は私は当初男の子2人・女の子2人の4人に分裂したんだよ」
「え〜〜!?」
「仮に0番・1番・2番・3番と呼ぶけど、0番と2番は女の子、1番と3番は男の子だった。でも分裂してから2時間ほどで0番と1番が合体して、合体後その子は女の子になった」
 
コスモスは少し考えていた。
 
「だったらここにいる3番さんは男の子?」
「但し性転換手術済み」
「あぁ」
「現在の1番と2番は天然の女の子」
「ということは全員女の子になっちゃったんだ?」
「そそ」
 
「3番さんは分裂した後で性転換したの?」
「いや、分裂した時点で既に性転換手術済みだったよ」
「へー」
「あの痛い手術を2度も受けたくないよ」
「やはり痛いんだ?」
 
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「アクアも今は男の子2人と女の子1人だけど、その内性転換して女の子3人になっちゃったりして」
 
「うーん。全員女の子になるのは困る。男の娘は性転換してもいいけど男の子はそのままでいて欲しい。男の子が1人いれば他は別にいいよ。AVとかやらせるのでもない限り、性器はわりとどうでもいい」
 
「まあそれは言えるね」
 

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「千里ちゃんは全員女の子になってしまったということは数年後にひとつに戻る場合もたぶん女の子だよね?」
「だと思うけどなあ」
「アクアはどうなるんだろう?」
 
「本人は『おっぱい大きくしたいんでしょ?』とか『タマタマ取りたいんでしょ?』とか言うとよく『まだいい』と言うじゃん」
 
「ああ、よく言う気がする」
 
「本人もまだ自分が男になりたいのか女になりたいのか気持ちが安定していないんだと思う。アクアに声変わりが来ないのは、本人の意志で第2次性徴が来るのを停めているからだよ。最終的に高校を卒業した頃あるいは20歳頃に、本人が自分の性別を選ばなければならない。その時自分が決めた性別の身体が残るのだと思う」
 
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コスモスはしばらく考えていた。そして言った。
 
「その時、彼が選んだ性別に合わせてプロデュースしていくよ」
 
「男の子を選択したら人気は急落するだろうけど、それでも充分人気のある俳優としてやっていけると思う。あの子、俳優として天才的だからね」
 
「そうそう。あの子は人気だけではなくてちゃんと演技力がある」
 
「女の子を選択したら人気は壊滅的に無くなるだろうけど、バラエティ路線で行くとそこそこ売れると思うよ。あの子機転が利くから」
 
「それはあるよね」
 

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と言ってからコスモスはふと思いついたように訊いた。
 
「山村さんは性転換してるんだっけ?」
「してないしてない。ちゃんとちんちんあるよ。彼の実態は女装好きの健全男だよ。女装は趣味であって、女になりたい訳では無い。ドラッグクイーンに近い」
 
「そうだったんだ!?でもお医者さんの奥さんを10年間やったという話を聞いたけど」
「それはでっちあげという奴。興信所の調査員がうまく欺されたんだよ」
「うっそー!?」
「紅川さんには内緒でね」
 
「でも女湯には入れると聞いたけど?」
「必殺ちんちん隠しのワザだね。女湯の中でそれを見せたりはしないよ」
「うーん・・・」
 
「山村は女たらしだけど、紳士だから、女性をレイプしたりはしないから、ある意味安全な男だよ」
「だったらまあいいか」
 
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「少なくともアクアとセックスしたりはしないから」
「千里ちゃんの話聞いていると、それは安心みたい」
「ただし周囲のスタッフまでは知らないよ。女性スタッフ多いし。レイプはしなくても口説き落として寝ちゃう可能性はある」
 
「関係作っちゃったら結婚くらいしてくれるよね?」
「責任感はあるから、結婚しなくてもちゃんと生活費を払うと思うよ」
「だったらいいかな」
 

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最後にコスモスは尋ねた。
「あの人何歳?」
 
「聖徳太子と一緒に産まれたと言っていたから、それが本当なら574年の生まれということになって、今年で1443歳になるはず」
と千里は答える。
 
「ああそのくらいかもね」
とコスモスは納得するように言った。
 

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そういうわけで、千里とアクアの分裂を、一般の人で最初に知ったのは2017.9.9秋風コスモスだったのである。
 
コスモスが千里3からその話を聞いたことを天野貴子(きーちゃん)も千里2も全く気付いていなかった。コスモスは話を聞いてもアクアの扱いを変えなかったし、いつもポーカーフェイスなので、彼女の心中を読むのはひじょうに難しい。
 
(それでケイは彼女に経営者の素質があることを見抜いたのだが)
 
ちなみにこの日の翌日9月10日は映画のラッシュを関係者一同(コスモス、ゆりこ、和泉、山村、紅川、三田原、青葉、丸山アイ)で見た後、レストランで食事をしていたら、青葉が座っていた席に大理石の石像が倒れてくるという事故があった。青葉は偶然トイレに行っていて無事だったものの、さすがに青くなった。そこから厄払い旅行の計画が急浮上するのである。
 
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コスモスは先週、紅川が鱒渕の見舞いに行った時、今月中に退院出来る見込みだと聞いて喜び、自身も病院に行って回復したことをお祝いするとともに、年内は給料は払うので会社には出て来なくていいから、いい音楽を聴いたり、いい絵を見たりして、ゆっくり身体を休めて欲しいと言った。それで年明けから山村と二頭体制でアクアのマネージャーに復帰してほしいと言っていたのだが、アクアが3人に分裂していることを知り、鱒渕をアクアのマネージャーに戻すと、“アクアたち”の運用がかえって難しくなるぞと思った。
 
この問題は10月に急展開がある。
 

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千里とアクアの分裂を知った2人目が青葉であった。青葉は2017.9.17に千里2からその話を聞くことになる。青葉は千里3とも会うといいよと言われて会いに行った。千里3はあくまで自分の分裂に気付いていないふりをしていたし、青葉も千里2が言っていたように、3番は分裂に気付いていないと信じ込んでいた。
 
その日、青葉は千里3とも2時間くらい話してから別れ、電話で千里2と再度少し話してから、大宮の彪志のアパートに泊まった。
 
青葉が帰ってから千里3は呟いた。
 
「『携帯見たら誰かは区別つくな』とか、青葉って本当に欺されやすい体質みたい」
 
青葉が内心考えたりすることは千里には筒抜けである。
 
「2番さんもこちらと同じ機種のアクオスを用意したようですよ」
と《わっちゃん》が言う。
 
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「1番が結婚すると言うから、結果的に私が3人いることを多くの人に打ち明けざるを得ない。青葉でさえ、ああ思っちゃうんだから、他の人も携帯見れば誰か分かると思うだろうね」
と千里3は苦笑しながら言った。
 
「青葉さん、“あれ”を付けられたことに気付いていませんよね?」
「雪娘や海坊主たちも気付かなかったと思う。“姫様”は気付いたけど、それを教えてあげるほど親切な人ではないし」
 

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