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■△・第3の女(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2019-03-30
 
ゴールデンウィークのドームツアーが終わった後のアクアのマネージング体制だが、取り敢えず川崎ゆりこがほとんど名前だけのマネージャーとなり、実際の出演交渉などに関しては、§§プロの元マネージャー・牛田典子に2ヶ月だけの約束で担当してもらうことにした。
 
彼女は春風アルトや冬風オペラなどのマネージャーを務め、3年前、アクアたちがデビューする直前の頃に、結婚を機会に退職した。現在は夫とともに山梨に住んでいるのだが、子供が居ないので、2ヶ月間東京に単身赴任してくれる。現在の苗字は馬場であるが、牛田典子の名前が放送局などに通じるので、旧姓で活動する。
 
「私体力無いから送迎とかは別の人に頼んで」
 
と言うので、研修生で運転が上手い吉田和紗・川内峰花が送迎で駆り出されることとなったが、ふたりでやっているにも関わらず「きつい!」と音を上げ、コスモスと紅川は、★★情報サービスから、津島恭一さん(本来は上島雷太担当)を2ヶ月間だけの約束で借りることにした。
 
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一方で鱒渕の後任のマネージャーとして主としてコネで名前のあがった人と何人も紅川が面接をしたが、その中で浮上してきたのが、元集団アイドルの緑川志穂、元イベンター所属の高村友香だったのだが、ふたりともアシスタント的な能力は高いものの、アクアのマネージャーに求められる交渉能力の面ではやや弱い気がした。しかしこの2人は取り敢えず採用することにし、2人が今やっているバイトを辞められる7月からお願いすることにした。
 

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そして最終的に後任の本命として浮上したのが四谷勾美であった。
 
紅川は最初彼女に会った時、女装男性かと思ったのだが、履歴書では都内の男性医師と10年にわたる結婚生活をしたのち離婚ということであったので、性転換手術済み・戸籍上の性別も変更済みなのかな?と考えた。もしそうだとしたら、性別が微妙なアクアを担当するには良いかも知れないと紅川は考えたのである。
 
ただ紅川が女装男性かと思ったのは、紅川が過去に多数の女装者を見ていて“目が肥えて”いたからで、多くの人には「ふつうのおばちゃん」にしか見えないだろうとも思った。あまりにも“ふつう”すぎで、警戒心を緩めてしまいがちである。紅川は多分この「ふつうさ」は彼女の演出だろうと思った。
 
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彼女の奥に物凄い桁外れのパワーを感じるのである。
 
「スポーツなどなさっていました?」
「ソフトボール、バスケット、バレー、スキー、水泳、剣道、射撃、など若い頃からやっていました。マラソン大会にも10回ほど参加して全部完走しています」
「それは凄い。この仕事は体力が必要なんですよ」
 
確かにこの人ならマラソンくらい平気で完走しそうである。
 
四谷のポイントとしては、まず運転がうまく、大型免許・大型二輪免許を持っている上、船舶の免許、ヘリコプターやビジネスジェットの免許まで持っていて(F15やMig-21でも操縦経験があるというのはさすがに冗談だろう)、アクアのトランスジェンダー、もとい!トランスポートを任せるのに頼もしいこと。
 
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英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・ポルトガル語・イタリア語・タイ語・タガログ語・ヒンズー語・アラビア語・ロシア語・中国語・韓国語が話せるという、高い語学能力があり、アクアの海外展開を考える場合も頼りに出来そうであること。
 
10年くらい前に花村かほりのマネージャーを3年間務めていたし、それ以前に演歌歌手・三條みゆきのマネージャーをしたことがあり、芸能界の習慣になじみがあること(二葉あき子のマネージャーもしていたというのはさすがにジョークだろう)。
 
そして何と言っても実際に彼女と話していて感じ取った、交渉能力の高さである。気配りも物凄い。頭の回転も速いようである。
 
年齢は履歴書では1440歳と書いたのを消して44歳と訂正してあった。年齢のよく分からない人なのだが44歳といわれたら44歳にも見えるので、まあその程度の年齢なのだろう。
 
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紅川がひとつだけ懸念したのは演歌歌手のマネージャーをしていたということからヤクザとの関わりがないかということだった。三條みゆき自体には黒い方面の噂は無かったし、彼女が所属していたZZプロも演歌世界では比較的クリーンなプロダクションである。
 
紅川は興信所に彼女の周辺調査を依頼するとともに、本人が知り合いとしてあげた何人かの人物に彼女のことを尋ねてみることにした。
 
醍醐春海、AYA、鹿島信子、この3人は大笑いして
 
「殺しても死なない人だから過労で倒れる心配は無いです」
「運転が凄く上手いし、とっても楽しい人ですよ、冗談がきついけど」
「アクアちゃんが性転換しても、人気が落ちないようにうまくできますよ」
 
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などと言われた。紅川はなぜ笑うのか困惑したが、取り敢えず問題は無い人物のようである。
 
ちなみにこの時、紅川が連絡した“醍醐春海”は紅川が元から持っていた電話番号に掛けたので、T008を使用している千里2である。
 

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花村かほりは引退して郷里に帰っているが、ある理由により、電話番号は分かるので直接電話してみた。
 
「凄い人ですよ。人脈が広いみたい。公演先でバックバンドが手配されていなかったなんて、とんでもない事件があったんですが、1時間で演奏できる人を呼び出して伴奏者をそろえちゃったんですよ」
 
「それは凄い」
 
「交渉能力の高い人でしたね。RC大賞を取った年に、業者が優待券を乱発して実際に来た人が会場に入りきれないことがあったんです。普通ならお帰り頂く所でしょ?でも彼、じゃなかった彼女、せっかく聞きに来てくださったお客さんに申し訳無いと言って、市内の体育館を借りれないかと市と交渉してくださって。予約もしていなかったのに使えることになって、お客さん大移動して1時間遅れの開演になったものの、全員を入れることができたんですよ」
 
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「ハプニングに強い人なんだね」
「そうです、そうです。何があっても決して慌てず、打破する方法を考え出すんです」
 
それはマネージャーとしてはひじょうに有能な人物だぞと紅川は思った。
 

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「ところであの人、性転換してるんだっけ?」
と紅川は尋ねてみた。
 
「そのあたりは知ってますけど、彼女の名誉のために秘密ということで。あの人、性欲は適当に処理しているから、仕事上関わった人とは、男性であれ、女性であれ、手を出すことないですから、彼もしくは彼女の性別は気にすること無いと思います。女子更衣室や女湯に入れても問題無いですよ」
 
「分かった。ありがとう」
 
女湯に入れるのなら実質女ということでいいのだろう。やはり肉体改造しているのかな?
 

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三條みゆきは消息不明だが、彼女が所属していた、ZZプロのマネージャーで旧知の人物に電話してみた。彼は
 
「あの人は凄いです。私もだいぶあの人に仕事を習ったし面倒な案件で助けてもらったんですよ」
 
と言っていたので、評価は良いようである。彼も四谷の緊急対応能力の高さをいくつかの例を挙げて語った。
 
しかし紅川が電話した人物は現在55歳である。その彼が仕事を習ったって・・・本当は四谷は何歳なんだ!??
 

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興信所の調査では彼女に怪しい交友は無いことが分かる。
 
医師との結婚生活も大きな問題はなく、病院のスタッフなどにも親しまれていたことが判明した。離婚の原因は夫の浮気で、病院の看護婦と不倫をして離婚に至ったということ。1億円の慰謝料をもらって離婚したようである。結果的に大きな資産を持っているというのもポイントが高い。経済的なゆとりのある人は買収されにくい。
 
現在お勤めなどはしておらず、株の運用で食っているようである。彼女の昨年の税務申告書類を入手したが、株・FX・仮想通貨で2000万円も利益を得ていた。どうも資産運用の達人のようである。
 
彼女の借金もふつうにクレカのショッピングの残高程度しかないことが判明している。所有しているゴルフ・カブリオレは300万円でキャッシュで買ったもの、住んでいるマンションは賃貸で家賃は10万円である。億の資産を持っていたらマンションなり一戸建てなり買っても良さそうだが、賃貸の方が気楽、と周囲には言っているらしい。
 
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それで、この際、彼女の年齢と性別は気にしないことにした。能力と資質が高ければ、年も性も関係無い。彼女の体力はまだ20代並みのようである。
 

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そういう訳で7月に入ってから、コスモスと紅川は彼女の採用を決めたのである。7月15日からアクアの夏のツアーが始まるので、その前にマネージャーチームを固めておきたいというのもあった。
 
7月7日から13日までの一週間を、暫定運用チームから新チームへの引き継ぎ期間とした。
 
暫定チーム:牛田典子・吉田和紗・川内峰花・津島恭一
新チーム:四谷勾美・緑川志穂・高村友香・吉田和紗!
 
暫定チームが実際にやってみて、アクアのマネージングは最低でも4-5人必要ということになり、吉田和紗(桜木ワルツ)は結局チームに残留することになった。それに完全に切り替わると引き継ぎ漏れが発生しやすいので、1人は残ったほうが良かったのである。
 
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なお、鱒渕水帆だが、6月くらいになっても“瀕死”の状態から抜け出ることができず、腎臓も肝臓も機能が極端に低下したままであった。むろん退院などとても考えられない。医師は付き添っているお母さんと、毎週1度は来てくれる紅川会長に
 
「いつ急変してもおかしくありません。覚悟はしていて下さい」
と言っていた。
 
人工透析も週に2回受けている。水帆の母は水帆の借りていたアパートに住み込み、毎日病院に来てくれた。水帆自身も医者の様々な言葉や、母の行動・表情などから、これは結構重症なのかもと考え始めていた。
 
アクアも忙しい中、週に2回くらいお見舞いに来てくれて、水帆は感激していた。アクアは仕事であちこちに行った時のお土産も持って来てくれた。現時点では水帆は食事は塩分の強いもの以外は禁忌も無く
「これ美味しいね」
と言って、一緒にお土産のお菓子などを食べていた。
 
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一方今井葉月の方は「お見舞いに行きたいけど時間が無い」と言って、何度か仕事の合間などに電話を掛けてきてくれた。
 
「あなたアクアちゃんより忙しいみたいだから身体に気をつけてね」
と水帆は葉月に言っておいた。
 
水帆の仕事を引き継いだ暫定マネージングチームの牛田さんほかのメンツも、よく来てくれていた。
 
新チームの四谷・緑川・高村はアクアの夏のツアーが一段落した所で来るという話だったが、水帆はそれまで私生きているのかなあと少し不安を感じていた。
 

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ところでこの春、アクアと千里が出会った時(2008年インターハイ)のエピソードが映画化されることになり『アクア2008〜奇跡の邂逅』という映画が制作されていた。アクア自身は出演せず、アクア相当の佐藤翌桧は小学3年生の子役、三次香美ちゃんが演じる。
 
ちなみにこの香美ちゃんについては、映画公開後
 
「え?女の子でしょ?」
「うそ。アクアの役だから男の子だと思ってた」
 
と性別論争を巻き起こす。
 
ネット上でも本人の同級生の親などと称する人から
「男の子ですよ」
「女の子ですよ」
という双方のツイートがあり、混乱を極めた。
 
結局、映画のプロデューサー・監督と香美本人が記者会見して
「私、一応男の子です」
と言って、健康保険証まで見せて、やっと議論は収拾した。
 
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「でも可愛い!」
「男になってしまうのはもったいない」
「女の子にしてあげたい」
「アクア2世かな?」
 
などとネットの反応は暴走気味で、香美ちゃんに着せてあげてといって大量に女の子用の服が送られてきて、女装趣味のない香美は、かなり困惑したらしい。(映画でも女装シーンなどは無い)
 

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この映画では、アクアと同じ事務所の品川ありさが村山千里相当の可能三恵役で出演し、主題歌も歌うことになった。それが
 
『マイナス1%の望み/アクア・ウィタエ』
 
である。『アクア・ウィタエ』は葵照子が新たな歌詞を書いた。
 
この曲の制作は映画制作が一段落した6月中旬に行われたのだが、ここで龍笛を千里本人に吹いてもらえないかという話が浮上する。ありさの音源製作に立ち会っていた秋風コスモスが海外遠征中の千里に電話してみた。
 
実際に電話を受けたのはコスモスのアドレス帳に入っていた番号の電話を所持している千里2である。千里2は実はアメリカでWBCBLをやっていた。
 
千里2はヨーロッパで代表合宿中の千里(千里1)のふりをして
 
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「6月13日に帰国して、18日から合宿に入るから、15日か16日なら参加できるよ」
 
と伝え、結局6月16日にスタジオに行くことにした。
 

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実際には千里2は6月14日に「昨日帰国した」と称して冬子のマンションを訪れ「実はちょっと困っていて」と言っている冬子の相談を受ける。ローズ+リリーが今年制作しているアルバムで、曲が足りないので、青葉と七星が「ケイが書いたような曲を書いてケイの名前で発表しよう」と言って、曲を書いてくれたものの、実際に受け取った曲は、ケイが書いたように見えなかったのである。
 
千里は、やはり予想通りだなと苦笑し、直接青葉と七星に電話して楽曲の改造許可を取ると2日でその2曲を改造して、本当にまるでケイが書いたような曲にしてしまった。それを千里2は6月16日に冬子のマンションを訪れて渡し、その足でスタジオに向かったのである。
 
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