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■△・第3の女(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2019-04-06
 
「津田山駅ってどのあたりだっけ?」
と青葉は千里3に尋ねた。
 
「練習場の最寄り駅の武蔵中原は南武線の駅なんだけど、そこから3駅なんだよ」
「それは便利だね」
 
↓路線図(再掲)

 
「基本的には寝るだけだから電話機は付けてない。留守の時間が多いから、そこに掛けられても出られないし」
 
「そうだよね」
「連絡用には携帯があればいいし、作曲の受注と納品はメールでいいし」
 
でも、ちー姉宛のメールはすぐ行方不明になるよな、と青葉は内心思っている。
 
千里は“どの家に置いている”“どのPC”の“どのメールクライアント”で受信したか、自分で分からなくなるのである。
 
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「ちー姉の携帯、見せてもらえる?」
と青葉は訊いた。
 
「これ?」
と言って、千里はピンクのアクオス・セリエを見せてくれた。
 
つまり千里1がiPhone(故障中)、千里2がガラケーのT008、千里3がAndroidスマホのアクオスを持っているわけか、と青葉は納得した。当面持っている携帯を見せてもらえば誰なのかは区別付くな、などと思う。
 
※青葉流3人の千里の見分け方
 
千里1 用賀/iPhone/ミラ(Red Impulse 二軍)/オーラほぼ無し
千里2 葛西/ガラケー/オーリス (外国リーグ)/オーラが極めて強力
千里3 川崎/Aquos/アテンザ(Red Impulse 一軍)/オーラはわりと有る
 

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「ところで改めて訊きたいけど、ちー姉、貴司さんのことが好きだよね?」
と青葉はこの千里にも訊いた。
 
「貴司の会社の書類では、貴司の妻は細川千里と記載されているんだよ」
などと千里は言いながら左手薬指を見せる。
 
そこにはアクアマリンのプラチナリングと結婚指輪らしい石の無いプラチナリングが並んで輝いている。アクアマリンの指輪は千里姉が大学1年の時に貴司さんからもらったものと聞いている(*1)。青葉は千里姉が『門出』を書いた朝、この指輪を3年ぶりくらいに付けているのを見たよな、とあの時のことを思い出していた。
 
「ちー姉が奥さんとして登録されているのなら、阿倍子さんは?」
「同居している叔母として記載されているはず」
「え〜〜〜!?」
「同居している三親等以内の親族は健康保険の被扶養者にできるからね」
と言って千里は笑っている。
 
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「なんでそうなってるんだっけ?」
「私と貴司は本来2012年12月22日・夫婦の日に結婚式をあげる予定だった。それでその日私はどうにも気持ちが抑えられなくて、大阪の、式を挙げる予定だったホテルまで出かけて行った。すると貴司もそこに来ていたんだな」
 
「やはり貴司さんも、ちー姉のこと好きなんだね」
「それを確信してなきゃ、やってられないよ」
と言う千里に青葉は心を打たれた。
 

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「まあそれで折角会ったしというので一緒に食事したんだけど」
「食事するんだ!?」
と言って青葉はさすがに呆れる。よく婚約破棄したばかりの相手と食事出来るものだ。
 
「そしたらそこに上司の高倉部長が来合わせてさ」
「へー」
「それで私が冗談で、これから新婚旅行なんですと言ったら、いつ結婚したの?と言われて」
 
それ冗談なのかなぁ?と青葉は疑問を感じる。
 
「結婚したならすぐ届けを出しなさいと言われて。それでお休みももらったから、その後、広島まで一週間の新婚旅行に行って来たんだよ」
「え〜〜!?」
「そして会社には私と結婚したという届けを出さざるを得なくなった」
「うーん・・・」
 
「もっとも私が高収入者だから、私は貴司の被扶養者にもなっていないし、健康保険も別だけどね。だから扶養者手当等の搾取はしてないよ」
 
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「まあ私にしてもちー姉にしても、被扶養者になるのは不可能だよね」
 
多分千里姉の年収は貴司さんの50倍、自分の年収は彪志の20倍くらいかな?と青葉は思った。
 
「それで阿倍子さんと結婚した時は、結婚式には会社の人は誰も呼べなかったし、結婚したという届けも出せなかったけど、被扶養者にはしないといけないから、叔母ということにして被扶養者にしたんだよね。年金は国民年金にしか入れないから、国民年金基金にも加入して二階建て部分まで貴司が払っていた」
 
「京平君は?」
「会社の書類では私と貴司の間の子供になっているよ」
「凄い・・・」
 

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(*1) 実際には保管していた場所から最初に千里2がティファニーの婚約指輪と同じくティファニーの結婚指輪を持ち出し、その後、千里3がアクアマリンの指輪と淑子から“嫁の証”として渡されたプラチナの結婚指輪を持ち出したので、千里1の所には婚約指輪も結婚指輪も残らなかった。結果的に千里2も3も同色で婚約指輪と結婚指輪を確保したことになる。プラスチーナの指輪はバッグの中に入っていたのでコピーされてしまい、1・2・3が1個ずつ持っている。
 
携帯に取り付けていた金色のリング(酸化発色ステンレス)の付いたストラップについては後述する。
 

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さて、アクアのドラマ等の出演はだいたい夏と冬で別のシリーズになっている。
 
2015-17.春〜秋 ときめき病院物語
2018-.春〜秋 ほのぼの奉行所物語
2015.秋〜冬「ねらわれた学園」
2016.秋〜冬「時のどこかで」
2017-18.冬「少年探偵団」
 
2016.映画「時のどこかで」
2017.映画「キャッツアイ」
2018.映画「80日間世界一周」
2019.映画「ヒカルの碁」
 
2016年に過密スケジュールでさすがのアクアも倒れたことから2017年以降、映画制作の時期は他のスケジュールを基本的に入れないことになった。ずっと後に丸山アイが語ったことによると、アクア分裂の芽は2016.7.23にアクアがステージ上で倒れた時から始まっていたのではないかという。
 
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2017年夏に制作した映画『キャッツアイ・華麗なる賭け』では、豪華客船とカジノのシーンを香港で撮影した。この時はアクアのマネージャーを務める《こうちゃん》が《くうちゃん》に依頼してアクアを香港に転送してもらうことにした。
 
この映画でアクアは三姉妹の怪盗キャッツアイの末妹・来生愛と、次女瞳の恋人で刑事の内海俊夫刑事を演じる。アクアのボディダブルはいつものように最初今井葉月を使っていたのだが、彼の疲労が激しいので途中から葉月は愛のボディダブル専任とし、内海刑事のボディダブルは姫路スピカにやらせることとなっていた。
 
つまり西湖は女役、スピカは男役である!がスピカは男役面白そうと張り切った、
 
2017.8.17 撮影クルーが香港に渡航。
 
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飛行機に乗ったのはM。FとNはホテルに転送してもらう。夕方クルーズ船のオーナーからディナーに招待される。出席したのはN。
 
2017.8.18-20 クィーン・セレネの船内で撮影。
 
基本的に愛はF、内海俊夫はM。Nは交代要員で両方の衣装を使用する。レオタード姿になったのは、ほとんどN。これはFがそういう“恥ずかしい衣装”を嫌がったためである。船内のプールで“かっわいい”水着を着て泳いだのはF。他の2人が「さすがに勘弁して」と言ったため。
 
今回は丸山アイが出演者のひとりとして撮影に同行している(浅谷光子刑事・男盗賊ねずみ役)ため、《こうちゃん》としてもやりやすかった。不自然さが出ないように彼女が色々支援してくれた部分もあった。実際M/F/Nの3人が来生愛・内海俊夫の2つの役をするというのは本人たちも混乱しがちで(実際今回は出演者全員混乱していた)《こうちゃん》も訳が分からなくなりがちな所を頭の回転の速い丸山アイが注意して、正しく交替させたようである。可愛い水着を着るようにFを乗せたのもアイだったらしい。
 
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2017.8.21 帰国
 
飛行機に乗ったのはNで、MとFは《くうちゃん》に転送してもらう。
 

Fは春にタイに行った時も往復転送で飛行機に乗っていないし、今回も乗っていない。
 
「僕って第三の女なのかなあ」
などと言っていたが、MとNは
「その言い方だと全員女みたいだけど、ボクたちは男なんだけど」
と言っていた。
 
「2人とも性転換して全員女の子になるとかは?」
「やだ」
「まだいい」
 
「ちょっとちんちん取って穴をあけるだけじゃん」
「取りたくない」
「どうしようかなあ」
 
「ちんちんなんて邪魔じゃない?」
「邪魔じゃない!」
「邪魔ではあるんだけどね」
 

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ところでこの映画『キャッツアイ・華麗なる賭け』の主題歌はアクアが歌うことになっていたのだが、本来は“順番”からいくと、アクアのシングルは次は、1曲はマリ&ケイ、1曲は加糖珈琲&醍醐春海で制作するはずだった。
 
ところがケイはアルバム『郷愁』の制作で死んでいて、醍醐春海こと千里は7月4日の事故の後、創造的な制作ができなくなっていた。
 
それで1曲は3回連続(星の向こうに・憧れのビキニに続いて)になってしまうものの、青葉に書いてもらうことにして、岡崎天音+大宮万葉で『真夜中のレッスン』という曲を作ってもらった。
 
そしてカップリング曲なのだが、千里2はコスモスに電話して、自分は今アクアに歌ってもらうような良質の作品が書けないが、後輩の琴沢幸穂という女子大生がひじょうに良い作品を書くので使ってもらえないかと言い、琴沢がローズ+リリーのために書いた『フック船長』という曲を見せる。
 
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「カッコいい曲を書くね!」
ということで
「いい作品を書いてもらったら使う」という条件で琴沢幸穂に作品の提示をお願いした。すると琴沢がわずか3日で『恋を賭けようか』という曲を書いて送って来てくれたのである。
 
それで映画制作チームと§§ミュージック・TKRの三者はこの曲を採用することにし、『真夜中のレッスン』とカップリングでCDを出すことにした。映画の制作中にエレメントガードだけでスタジオに入って伴奏を完成させ、9月1-3日の間にアクア自身もスタジオに入って歌唱を録音した。それでマスタリングをしてプレスし、10月4日に発売された。
 
アクアの10枚目のシングルである。
 
これが実は琴沢幸穂の初出となった。
 
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コスモスは今後アクアの楽曲に琴沢幸穂の曲を使うなら、本人と一度直接会っておく必要があると考えた。
 
そこで音源製作が終わった週末の9月9日(土)、コスモスはアポも取らずに北千住の天野貴子のオフィスを訪れた。コスモスとしては、琴沢幸穂と会う時は電話で予め都合を聞く必要があるが、代理人の天野貴子は本人または留守番の誰かがいるだろうから、訪問するのにいちいち事前に連絡する必要は無いだろうと思ったのである。
 
それで住所にあるマンションの5階に登り、廊下を歩いて行っていたら、ドアが少し開いている部屋があった。それが天野の部屋番号である。みるとサンダルが引っかかってドアが閉じていない。わざとなのかうっかりなのかは分からない。コスモスはドアを開けて声を掛けようとしたが、その時、部屋の中から会話が聞こえてくる。
 
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「ああ。あそこの音間違いは直してくれたのね?」
 
「うん。コスモスさんから連絡があってさ、私も譜面見て確認したら確かにここはソじゃなくてラだろうと思ったから、千里に電話しようかとも思ったんだけど、ちょうど日本代表の、テレビ局取材が入っていた日だったし、この程度の軽微な修正は事後承諾でいいだろうと思ったからこちらで直した」
 
「うん、いいよ。その手の校正作業はどんどんやって。私だいたいその手のイージーミスが昔から多いし。私もあそこの間違いは気付いたけど、その程度は現場で修正させるんじゃないかと思ったからそのままにしておいた」
 
コスモスは困惑した。
 
聞こえてくる声は天野貴子と千里のようなのである。千里さんは確か今週末、北海道に行くと聞いていたのに。なぜここに居るのだろう?予定を変更したのだろうか??
 
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それより今の話は先日制作したアクアの『恋を賭けようか』のサビ部分の音を修正した件のように思えるのである。まさか琴沢幸穂って千里さんなの!?
 
部屋の中の会話は続く。
 
「じゃ次もまたアクアの作品書けばいいのね?今度は江戸川乱歩の『少年探偵団』か。当然アクアは女装するよね?」
 
「まあ小林少年は女装が売りだし」
 

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