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■△・第3の女(14)

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コスモスは完全に中に入るタイミングを逸した。今更出て行くと立ち聞きしていたように思われそうだ(実際立ち聞きしている)。
 
それで立ちすくんでいたら、その内話が終わり、千里が
「じゃ私は練習があるから帰るね」
と言って帰る態勢である。
 
コスモスは慌てた。
 
そっと足音を立てずに部屋から離れると、エレベータの向こう側の曲がり角の影に隠れた。まるで悪いことでもしているかのようである。
 
千里は部屋を出たようで、パンプスで歩く音が近づいてくる。やがてエレベータの前まで来たが、そこで停まらず!角を曲がってしまった。
 
「あっ」
とコスモスはバツが悪そうな声を出す。
 
「お茶でも飲まない?」
と千里は笑顔で言った。
 
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「うん」
とコスモスは頷いて返事をした。
 

ふたりはルミネ北千住の中のティールームの中に入る。しばらく雑談が続いたところでコスモスは尋ねた。
 
「もしかして琴沢幸穂って千里ちゃんだったの?」
 
すると千里は微笑んで銀色のスマホ(Zenfone)を取り出した。
 
「あれ?スマホに変えたんだっけ?」
という質問には答えず、千里はコスモスにも見えるようにしてスマホを操作する。アドレス帳のトップに『千里1』『千里2』『千里3』と並んでいるのを見せる。
 
「まず3番に掛けてみるね」
と言ってその番号に発信する。するとすぐ傍で『Nurses run』が鳴る。千里はバッグからピンクのスマホ(Aquos Serie mini)を取り出す。
 
「これはここに掛かるんだよね」
と言っている。Zenfoneの方の発信を止める。
 
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千里は『千里1』と書いてある番号を選択し
 
「ここに掛けるからさ、西宮ネオンの『お寿司バンザイ』で、間奏の所にネオン自身のギターソロを入れたいから、もっと簡単に弾けるものに直してくれないかと頼んでごらんよ」
と千里は言った。
 
コスモスは驚く。それは昨夜制作側からその意見が出て、週明けにも天野さんを通じて依頼しようと思っていたことである。
 
なぜその話を知っているのだろう?と思いながらも、コスモスは千里のZenfoneを受け取り、そこに表示されている番号に掛けてみた。03で始まるので都内の固定電話の番号のようである。
 
呼び出し音が4回鳴った所で向こうがオフフックする。
 
「はい、村山です」
という千里の声。コスモスはぎょっとしながらも、
「すみません、伊藤です。醍醐先生、お願いがあるのですが」
 
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と言って、今目の前の千里が言及した、ギターソロを簡単に演奏できるものに差し替える件、もうひとつはこの曲はカワサキの新型スクーターのCMに使用するのだが、2番の歌詞の中に寿司ネタの名前として「スズキ」が出てきて、ライバル企業の名前に聞こえるので、別のに差し替えてもらえないかというのを依頼した。
 
(秋風コスモスの本名は伊藤宏美)
 
電話の向こうの千里は
「カワサキがスクーター出すんですか!?」
 
と驚いていたが、快諾し、寿司ネタの名前は「まいか」「しらす」「あなご」とかにしましょうかと言って、コスモスが「あなご」でいいですか?と言ったので、それを採用することにした。ギターソロについては、ネオンの演奏技術を見たいので、一度聞かせてくれということだったので、夕方都内のスタジオで会うことにした。
 
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それで電話を切った。
 

「これどうなってんの?」
とコスモスは目の前にいる千里に尋ねた。しかし千里は逆に
 
「さっすが宏美ちゃん、うまいね。その千里とも会って見比べてみることにしたね」
と言った。
 
千里はパソコンを開き、またバッグの中に入れていたWifiルータのスイッチを入れた。
 
「たぶんレース結果が速報されてるんじゃないかなあ」
などと言って、何かを検索しているようだったが、やがて見つけたようで、そのページをコスモスに見せる。
 
自動車レースの結果のようである。予選が終わって、その予選通過者の名前が出ている。
 
「あ」
とコスモスが声をあげる。
 
その中に“Chisato Murayama”の名前があるのである。
 
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「これはいつのレース?」
とひとりごとのように言うと画面の端を見ている。
 
「今日のレースだ!」
 
「今日予選をやって、明日10日に決勝みたいね」
「場所は十勝スピードウェイになってる。北海道だよね?」
「うん。十勝支庁の更別村(さらべつむら)という所」
 
コスモスは腕を組んで考えた。
 
「要するに千里ちゃんって、何人かいるんだ?」
 
「千里には本物と影武者と偽物がいるんだよ」
と言って千里は笑っている。
 
「何それ?もしかして全部で10人くらい居たりして?」
「10人居るのはケイだと思うなあ」
「やはりケイさんって、10人くらい居るよね?」
とコスモスは真顔で訊いている。
 
「なかなか口を割らないんだよね〜。でも1人では絶対あり得ないよ」
と千里は言っている。
 
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「宏美ちゃん、仙台のクレールには何度か行ってるよね?」
「うん。信濃町ガールズが定演しているから」
「そこのチーフのマキコちゃんが面白いこと言っていたよ」
「うん?」
「私の本物と偽物の見分け方だって」
「へー!」
 
「その1。本物はお乳の臭いがするけど、偽物はしない」
「あ、何度かその臭いは感じたことある」
「でもさすがに授乳がほぼ終了しているから、もうお乳の臭いはしない」
「やはりお子さんができたの?」
 
「今2歳だよ。大阪に住んでいるんだよ」
「例の彼氏のところか!」
「なんかその話、随分広まっているなあ」
と千里は苦笑している。
 
「その2。本物はガラケー使いで、偽物はスマホを使う。偽物が使うスマホとしては、Aquos, iPhone, Arrows, Galaxy が確認されている」
 
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「じゃここにいる千里ちゃんはニセモノ?」
 
「実は本物は3人で、その3人がiPhone, T008, Aquosを持っている」
「へー!」
 
「私はこのAquosがメイン端末。宏美ちゃんが夕方会う子はiPhoneを持っていると思うけど、そのiPhone壊れているから」
「え〜〜〜!?」
 
「リスのストラップが付いているから分かりやすい。あの子、機械音痴だから使えないのを自分の操作が悪いせいだと思っている。だから“わけの分からない”スマホはやめて、ガラケーに戻したいと思っている」
 
「うむむ」
 
「影武者は5人で、持っている携帯は、B(きーちゃん)とC(せいちゃん)がArrows、D(てんちゃん)とE(すーちゃん)がXperia、F(こうちゃん)がGalaxy」
「うーん」
 
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「偽物は何人居るか分からない」
「分からないんだ!?」
「私の関知しない所で勝手に活動しているからね。iPhone使っている子とUrbano使っている子(*2)が存在することは確認している」
「へー!」
 
「私ってこの長い髪で認識されているから、このくらい髪が長いと多少顔が違っても私だと思われる」
「あ、それありそう!」
 
それで詳しいことは“醍醐春海”と会った後で話すよと千里は言い、夜9時頃に再度渋谷で会うことにして別れたのであった。
 
(*2)iPhone使いは虚空、Urbano使いは西沢まどか、である。
 

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コスモスはレコード会社の担当者と会った後、16時に新宿のスタジオに入った。西宮ネオンと、今回の音源製作で伴奏をしてくれるスタジオミュージシャンの人たちが来ている。§§ミュージックでは、基本的に打ち込みの伴奏データをそのまま製品に残すことはせず、原則として生演奏をバックに歌ったものを収録するようにしている。
 
伴奏者は、各歌手ごとにできるだけ毎回同じメンバーをそろえるようにしてはいるが、アクア・ありさ・ひろか以外の歌手の伴奏者は専属契約ではないのでどうしても毎回微妙に違うメンバーになりがちである。今回はギターとドラムスとキーボードの人は前回と同じだが、ベースの人が違っていた。姫路スピカの伴奏に多く参加しているベースの人が来てくれている。
 
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“醍醐春海”は16時半に来て、西宮ネオンに何かギターを弾いてみてと言った。それで彼は ONE OK ROCK "Re:make" をエレキギターを弾きながら自分で歌った。
 
「うまいじゃん」
と醍醐春海は言った。
 
「ちゃんとこの曲のギターソロは弾けてたね。だいぶ練習した?」
「この曲は中学生の頃、友だちと一緒に随分練習したんですよー」
「なるほど。この程度は弾けるんだったら、そのくらいのレベルのを書くよ」
「すみませーん。先日頂いた譜面のギターソロは一週間くらい練習していたんですが、挫折しました」
「あれはスタジオミュージシャンの人向けに書いたからね。吉岡さんなら初見で弾けるでしょ?」
と千里はギターの人に声を掛ける。
 
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「わあ、私の名前覚えていて頂けました?」
「KARIONのツアーで一緒になったことあったし」
「はい。ちょっと懐かしいですね。醍醐先生がまだ女子高生で」
「うん。その頃かな」
 
それで吉岡が「さすがに初見では無理ですが3〜4時間練習しました」と言って『お寿司バンザイ』の現在の譜面に指定されたギターソロを弾いてみせる。
 
「格好いい!」
と西宮ネオンが声をあげた。
 
「まあネオン君もずっと練習してたら5年後くらいには弾けるようになるよ」
「頑張ります」
「でも今回はもっと易しいのを書くね」
「すみません」
 
それで“醍醐春海”は帰っていったものの、コスモスはずっと腕を組んで考えていた。確かにこの“醍醐春海”はリスのストラップの付いたiPhoneを持っていた。しかしコスモスと一緒だった1時間ほどの間に、彼女は一度もそのiPhoneで通話などはしなかった。時刻を見るのに開いただけである。またそのスマホからは1度も通知音の類いがしなかった。
 
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この日ネオンはカップリング曲の『山越えホワイトロード』の練習をしていたのでコスモスは1時間ほど立ち会ってから、赤坂の##放送に寄り、そのあと21時に渋谷のレストランに行った。予約の名前を言うと
 
「お連れ様はいらっしゃってますよ」
というので、案内されて個室に入る。
 
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
とコスモスが言うと
「ううん。まだ約束の時間の前だよ」
と千里は言う。
 
コスモスはあらためて“この千里”を観察した。
 
「エネルギーレベルが全然違う」
とコスモスは言った。
 
「そう?」
「夕方会った千里ちゃんを1としたら、ここにいる千里ちゃんは10くらいある」
「それはかなり正確な把握という気がするよ。あの子も7月4日に事故にあった時は今の更に10分の1くらいだった。それがここまで回復してきた」
 
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コスモスはしばらく目を瞑って考えていたが、やがて目を開けて言った。
 
「事故に遭って調子を落としたのがあの千里ちゃんなんだ?」
「うん。だから調子を落としていない残り2人の千里の作品を発表するために琴沢幸穂を作ったんだよ」
 
「そういうことだったのか。いつから3人いるの?最初から?」
「春に落雷に遭った時に3つに分かれちゃったんだよ」
「それが『サンダーボルト−青天の霹靂』か!」
「そうそう。世間では『アクアちゃん−性転の霹靂』という替え歌が流行ってるけど」
と千里が言うと、コスモスは吹き出した。
 
「あの歌詞作った人、センスいいね?」
「うまいよね。マリちゃんの愛唱歌になっているみたいだよ」
「あはは。マリちゃんも紗雪さんも危ない目をしているから」
 
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「うん。いかにしてアクアを拉致して強制的に性転換手術を受けさせるかって作戦練っているみたいだし」
 
「こわいなあ」
と言ってコスモスは笑っている。
 
「ちなみにアクアも3人に分裂したよ」
と千里が言うと、コスモスはギョッとした顔をしたものの
 
「ひょっとしたらアクアって3人くらいいないかって、私も思ってた!」
とコスモスは言った。
 

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「アクアって、今年映画にもなったけど、小学1年の時に千里ちゃんに命を助けられてるよね?ひょっとして、アクア自身が実は千里ちゃんの魔法のようなもので存在していて、千里ちゃんが分裂したから、それに合わせてアクアも分裂したとか?」
とコスモスは訊く。
 
「それは無い。多分これは私とアクアが親しいから、どちらかの分裂が他方の分裂を誘発したんだと思う。ふたりとも分裂の臨界状態にあったんだよ」
 
「でも人間が分裂することってあるの?」
 
「清水玲子の『パピヨン』では主人公で女の子みたいな容姿の王子ナザレの侍従サラートが分裂してそっくりの容姿のイオが生まれるけどね」
「へー」
「ただサラートはプラナリアなどと同様の、ふたつに切ったら各々が完全再生しちゃう生物という設定」
 
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「切っちゃうんだ?」
「お腹の所で真っ二つになる。それで死んだかと思ったら、各々が完全な形に再生しちゃって、サラートとイオになるんだ」
 
「千里ちゃん、プラナリアじゃないよね?」
「人間のつもりだけど。アクアもね」
「どうやって分裂した訳?」
 
「数学にバナッハ=タルスキーの定理というのがあるんだけど知らない?」
「知らない」
 
「球が1個あった時、この球を上手に切り分ければ、元の球と同じサイズの球が3つできるという定理」
「それ各々の球がスカスカにならない?」
「ならない。全部詰まっているし、各々の球が元の球と合同なんだよ」
「そんな馬鹿な」
 
「もっと易しい問題で『賢いホテルの支配人』というのがある」
「うん」
「同じ思考から色々な結論が導かれるんだけど、例えばここに無限個の部屋があるホテルAがあり、満員だったとする」
「うん」
 
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「新しいホテルB・Cを作り、それらも無限の部屋があった。それで今ホテルAに泊まっている人にこのような移動をお願いした」
と言って千里は紙に↓のようなものを書いた。
 
1号室の客→Cの1号室
2号室の客→Bの1号室
3号室の客→Aの1号室
 
4号室の客→Cの2号室
5号室の客→Bの2号室
6号室の客→Aの2号室
 
7号室の客→Cの3号室
8号室の客→Bの3号室
9号室の客→Aの3号室
・・・・・
 
「このようにしてAの全部屋の客に移動をお願いすると、ホテルAもホテルBもホテルCも全部満員になる」
 
「え?ちょっと待って」
と言ってコスモスはしばらく考えている。
 
「ほんとだ。でもなんか欺された気がする」
 
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「欺されてない。これは数学的に正しいんだよ。これと同じような操作をしたのが、バナッハ=タルスキーの定理だね。濃度がアレフ・ゼロじゃなくてアレフだから、もっと難しい操作しているけど」
 
「それで3つに分かれたんだ?」
「かどうかは分からない。でも私にしてもアクアにしても3つに分裂して、それで体重が3分の1になったりはしていない。全員同じ体重だよ」
 
「質量保存の法則に反している気がする」
 
「どこかで辻褄合わせが起きていると思うよ。ごくローカルに見たら質量保存の法則が破れているように見えても、実はどこかでその分の質量が減算されているんだよ」
 
「代わりに誰か4人消えていたりして?」
「人間ではないだろうね。何かの物体が人間4人の体重分消費されたんだよ」
「それこの後どうなるわけ?」
「たぶん3〜4年の内には私もアクアも1人に戻ると思う。今は一時的な励起(れいき)状態にあるんだよ」
 
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「そして4人分の質量がどこかに戻される?」
「そういうことになると思う」
 

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