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生地を仕立てて服を作る場合、生地の全てが服になるわけではなく、必ず余りが出る。これを端切れ(はぎれ)という。端切れの使い道にはこのようなものがある。
・ハンカチに加工したり、和装バッグの表面に使う。
・帯揚げや半襟などに使う。
・お人形さんの衣裳を作るのに使う。
・最終的に残った小さな端切れはクッションやぬいぐるみの中身に使う。
雅では端切れを京都市内の“黒猫人形店”というところにお人形さんの衣裳製作用に売却していた。千里はその話を聞いて、あれ?白井さんから株券もらった所だっけ?とも思ったのだが、確認してみるとそちらは“白猫人形店”だった。
「ああ、白猫人形店と黒猫人形店って並んでるんですよ」
「へー」
「小さな通りをはさんで向かい合ってて」
「ほお」
「白猫人形店は白い招き猫、黒猫人形店は黒い招き猫が表に立ってて、それを写した写真がよくブログとかに上げられてますよ」
「ああ、いいネタになりますね」
ところが今年雅は前年の20倍近い振袖を作った(シルック製も入れると30倍)ので、端切れも大量に出た。それで黒猫人形店だけでは使い切れないのでそこから紹介してもらいパンダ人形店というところで買ってもらうことにした。黒猫のお友達の熊猫?
(中国語でジャイアントパンダは大熊猫、レッサーパンダは小熊猫)
ここは若手の人形師さん5人で作った会社で人形のボディ作りに3Dプリンタを使うなどの意欲的な試みをしている。段飾りの雛人形(15体+御道具)を10万円程度で出したいなどとも言っていた。(通常は80万円程度)。
(15:内裏雛/三人官女/五人囃子/左右大臣/泣き上戸・笑い上戸・怒り上戸)
千里は雛壇に使う板はミズナラとかを安く出しますよと言っておいた。
ところでパンダ人形店はこの夏の大雨で工房の屋根や壁が壊れ、取り敢えずはブルーシートを張ってしのいでいた。
千里は雅の小川社長から頼まれたので、大力工務店を入れて屋根と壁の修理をさせた。工事代金は小川さんが個人で立て替えておいてあげた。
12月12日、全日本学生剣道オープン大会が宮城県の仙台で行われた。
京教チームはシルキー/双葉/千里/清香/森田(3年)、というメンツで参加。ベスト16まで行ったところで宮崎のチームに敗れた。
12月23日は玲羅が京都南邸に来た。当日、ロビンは雅関係の打合せで時間が取れなかったが、清香が大阪に食べ歩きに連れてってくれた。24-25日はロビン自身が京都観光に連れて行った。またお年玉代わりにギターを買ってあげた。。
25日は双葉や清香たちは、シルキーも誘って太秦(うずまさ)の映画村に行っていたらしい。
12月25日、東の千里はコンビニに行ってKARIONの和泉と歌月(ローズ+リリーのケイ)に遭遇し、今年7月に日食観察に行った時、沖縄の波上宮で託されていた鈴を2人に渡した。ケイは「水沢歌月さん」などと当時ほとんど知られていなかった名前で呼ばれて驚いていた。(千里とケイは2007.7に唐津のインターハイでも会っている)
(同じ“鈴”と言ってもタイでカエル大王様から預かり青葉に渡した物質活性化の鈴とは違い、こちらは創作能力の源泉となるものである)
年末、雨宮や毛利たちは北海道の旭岳に入り、千里の占いにもとづき、チェリーツインの桃川春美が2007年11月に落とした自作譜面を発見した。かなりのページが判読可能だったが『雪の光』という曲だけが読めなかった。この曲の復元は千里に託されることになる。
12月27日、姫路の和弥は立花K神社をまゆりと越智さんに任せ、花絵と一緒に星月も連れ神戸空港に移動した。京都から来た千里・玲羅・公世と落ち合い、一緒に桜ジェットで旭川まで飛ぶ。千里と玲羅は天子のアパートに行き、お土産の“おたべさん”を渡してから、天子のアパートに一晩泊まり、28日はおせち作りをした。そのあと一緒に留萌に移動し、玲羅はロゼ家に戻った。ロビンはP大神様にご挨拶してからいったん洞門の鏡で京都に戻った。
年末年始、双葉は、たつの市の実家に戻るが、清香は姫路の両親の家には行かない。南邸は千里(ロビン)・清香と、あとはコリン・百合だけになる。小郷は姫路で夜梨子の助手を務める。またロビンは頻繁に出掛ける。
公世は27日のうちに旭川から高速バスで留萌の実家に帰省した。お土産はやはり“おたべさん”である。公世は両親から
「成人式の着物はどうするの?」
と訊かれたが、
「千里ちゃんが京都の呉服屋さんに関わってるからそこで作るつもり」
と答えておいた。成人式は1年後である。両親は公世に振袖を着せる気で居るが、本人は紋付き・袴を着る気でいる。また“関わってる”はバイトでもしてるのだろうと思われたようである。まさか所有しているとは思わない。
和弥たちは、いつものようにサハリンが持って来てくれていた車の後部座席に星月を乗せ、花絵が運転し和也が助手席に乗って留萌に戻った。
「まゆりが妊娠したから今年はひとりで戻って来た」
と言ってエコー写真を常弥たち、札幌から来ていた民弥たちに見せる。
「また双子なんだ!」
「うん。来年の8月には男の子2人、または女の子2人が産まれる」
「ああ。一卵性なのね」
「うん。このエコー写真が一卵性の形」
「まゆりさん、双子ができやすい体質なのかな」
「そうみたいだね」
民弥は仕事があるのでいったん札幌に戻ったが、28日は常弥と和弥および睦美(民弥の妻)の手でP神社のお正月準備がおこなわれた。姫路の立花K神社では、まゆりや越智さんの手でお正月の準備が進められた。夜梨子も姫路に戻ってお手伝いをする。年末年始、夜梨子は社務所に泊めてもらう。
京都の南邸ではロビンとコリン・百合さんの手で、北邸では夜梨子の代理の夜詩子と香澄さんの手でお正月準備は進められた。留萌ではロゼが頑張っておせちを作ったり餅を飾ったりした。おせちはお互いに適当に融通しあっている。お餅は留萌でまとめて買って京都にも分けた。清香が丸餅より切り餅を好む。昆布巻きも留萌でまとめて作り配っている。伊達巻き・黒豆は南邸でまとめて作り配った。自己所有農園の丹波黒豆・鶏卵を使用している。伊達巻きの材料にするハンペンはエレガントで買ってきたもので舞鶴のメーカーの製品である。筑前煮は夜詩子がまとめて作り配った。材料はほとんどエレガントで買っている。
京丹後市の千鶴子さんの家では絹恵が中心になってお正月準備をした。黒豆や昆布巻きに筑前煮は千里から分けてもらった。ここは餅は小丸餅である。鏡餅はサトウの鏡餅を買ってきた。「便利なものができたもんだ」と千鶴子さんは言っていた。以前は大きな餅は持てあましていたし、カビを削るのも大変だったと言う。よく初美さんの娘さんにやってもらっていたらしい。
関東司令室(小岩)ではヴィクトリアとミッキーが、関西司令室(山崎)ではアイリーンと星子がお正月準備をした。
年末年始の御祈祷だが、留萌P神社では今年も常弥(宮司)と和弥(禰宜)が1日交替で務めた。笛は玲羅か翠花が、太鼓は善美が叩いた。夜遅くの客は千里が対応している。今年のおみくじ係は主として恵那(中2)で、恵那が休憩などで離席している時は翠花(中1)が代行する。今年も福引きをやって大好評だった。
姫路では、北町社ではまゆり(宮司)が、上町社では千里(出仕:但し神職課程在学中だからセミプロ)が御祈祷を担当した。北町社では特に男性を希望する客には越智さんが対応した。北町社では笛は弓佳と知帆が交替で、太鼓は越智または光貴。上町社では小郷に笛を吹かせ(バイトの中学生程度には見られる:夕方以降は星子が対応)、太鼓は美鈴さんや花凛さんにお願いした。北町社ではお正月限定で筒を使う本式のおみくじをしたら好評だった。
12月30日、東の千里は検査入院していた長野龍虎をお見舞いに行った。検査結果は良好で再発や転移などの兆候は見られないということだった。
京丹後市の千鶴子さんの所には、年末、息子の元妻の忍さんと、孫の穂花ちゃんが訪ねてきた。
「穂花ちゃん今度は高校だね。今勉強が大変でしょ?」
「ええ。でもうちの市の公立高校は事前調整が行われるから公立の枠内に入っている限りは行き先が無くなることは無いんですよ」
「へー」
事前調整というのは、公立の上位校の受験予定者が定員より多い場合に、成績下位の生徒に対して、ここ受けるのはやめなさいと勧告するシステムである。それで公立の最下位校以外は受験生が定員と同じ数になるため、願書を出せば落ちることはない、どこかの公立には入れる実力があるのに受ける高校の選択を誤って行き先が無くなる生徒を生まずに済む。
最下位校を受ける生徒だけが当日勝負である。
「でもここの絹織場、大きくしたんですか?」
「ああ。お友達が老人ホームに入ってもう絹織りをやめるというので、うちが引き継いだんだよ。うちは絹恵さんがやってくれるから」
「袖擦り合うも他生の縁ですけどね」
「元々は私が道路に倒れてたのを病院に運んでくれたのが縁だったからね」
「それで餌をやらないと蚕が死んでしまうというから、餌やりだけのつもりがどっぷりハマってしまって。結構楽しいですけどね」
「それまでは何なさってたんですか?」
「丹波の黒豆作ってたんですよ。そちらはお友達に委ねて、こちらに居着いてしまいました」
「へー」
黒豆の水煮をあげたら喜んでいた。穂花ちゃんにはお年玉もあげた。
忍さんのお兄さんが奧さんのお母さんの家に引っ越したと言っていた。いよいよ、忍さん自身の親に何かあったらそちらの世話をしなければならないだろう。千鶴子は
「こちらは気にしなくていいからね。そもそもあんた息子とは別れているんだし」
と言っていた。
それにしても息子はほんとに顔を出さない。
なお忍さんは離婚後復氏はしているが、姻族関係終了届は提出していないので、千鶴子に対する扶養義務は残っている。