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千里は9月に伏見区に四丁目工務店という会社を作ったのだが、12月には北区に洛北工務店という会社を作った。久々に姫路ハウジングのCMに出たのを機に同社の社長さんとお話しし、同社から橋口さんという建築士さんに5年間限定で出向してもらい、設計部長になってもらった。同社には出資もしてもらった。
一方千里は夏に京都市内の城北開発というデベロッパーを買収した。バブル崩壊後苦しい経営が続いていたところに建基法不況が来てどうにもならなくなり、この8月に不渡り手形を出したところで会社を買い取った。給料の不配が続いていたこともあり、社員はほとんど辞めて社長以外には2人しか残っていなかったが、その2人は千里を見て「面白そうだから残る」と言った。
千里はふたりにまず
「給与は毎月必ず払う」
と約束した。(なぜこんな当たり前のことを約束せねばならん?)
その上で
「借金があったら申告するように」
と言い、弁護士を付けてやり、サラ金などの借金を全部代理返済した。そしてカード類は全部取り上げた。
「この仕事は買収されると困るから借金禁止ね」
「前の社長からもそう言われてましたが、給料もらえないから仕方無く」
「これからはちゃんと払うから」
「ありがとうございます」
社長にはきーちゃんのコネで、京都市内の女装者で谷原さんという人に就任してもらった。この人は不動産会社に勤めていたので土地開発にも明るい。
「あのぉ、社長の性別は?」
「見ての通りの男だけど」
「でもスカート穿いてる」
「髪も長いしお化粧してるし」
「お化粧とか本人の任意だしスカート穿くのも自由だし」
「確かにそうですが」
「そうだ。君たちもスカート穿こう」
「え〜!?」
それで残っていた社員、田代と辻口はスカートを穿かせられたのである。
城北開発は北区に明星ニュータウンという団地を開発中のまま工事が中断していたが、千里は関西組を入れて半月で残りの工事を完了させた。
田代と辻口は上は作業服、下は黒タイツに生成り色の膝丈スカート、そしてヘルメットに安全靴という格好で現場に出て指揮をとっていた、作業に参加していた零風が訊く。
「あんたたち変態?」
「変態じゃないけど社長がスカート穿けと言うから」
「でも男子トイレ使うんだね」
「男だから」
「女子トイレが使える身体にしてくれる所紹介しようか?」
「いえ、結構です」
「女湯に入れるようになるのに」
「入りたくありません」
「女湯に入れば女の裸見放題だよ」
「別に見なくていいです」
明星ニュータウンは40区画で、そのうち半分の20区画に4丁目工務店を使って3LDK-4LDKの家を建てさせた。
内部の仕様はほぼ同じだが、外装は白壁・縦板使い・横板使い・煉瓦風などとバリエーションがある。この、家を建てた所は建て売り住宅とし、建ててないところは建築条件付き土地として売り出す。
明星ニュータウンの整備が終わったところで、すぐ近くにあけぼのニュータウン、少し離れた場所の道路反対側につばめニュータウンを同程度の規模で造成した。
雅の振袖作戦では、大量の増員もしたものの、増員だけでは足らず、また習熟度の問題もあるので、社員さんたちにかなりの時間外労働をしてもらっている。時間外手当はタイムカードに基づき、きちんと払っており、またタイムカードを押さないサービス残業は禁止している。
また従業員代表との間で次のような取り決めをした。
・時間外手当は2009年12月まで5割増しとする。
・製造部門の人の基本給を2010年3月まで2割アップする。特に技術力が高いとして“グリーンリボン”を付けている技師は“技術手当”を2009年いっぱいプラス2万円する。
・こんなに頑張ってもらうのは今年だけで来年は増員で対応する。
この結果これまで月18万もらっていた人の場合、月60時間の残業をすると給与は33万円くらいもらえることになる。また夏のボーナスは昨年冬のボーナスの倍額出した。
それでボーナスの後から車を新しく買う人、買い替える人が相次ぎ、駐車場に新車が増えた。
そして10月頃以降、マンションや一戸建ての家を買おうという人たちが出て来たのである。
ただし9月頃までは世間的には雅は注文をさばけず破綻・倒産するのではと思われており、銀行のローンが組めなかった。10月も中旬くらいから、どうも雅は注文を本当にさばきそうだという見方が広がり、ローンが通るようになった。逆に凄い給料が出ているらしいということで、むしろ銀行が住宅ローンの営業に来るようになった。
それと同時くらいに千里は許可を取って城北開発の営業も入れた。3LDKの建て売り住宅が900万円から、建築条件付き土地に指定工務店で家を建ててもやはり900万からというのは魅力的である。モデルハウス見学会も盛況だった。建築条件付き土地より建て売りのほうに人気が集まったので、千里はあけぼの・つばめにも建て売り住宅を建てた。
千里は雅・城北開発、それに雅の給与振り込みを扱っている平安銀行の三者会談をセッティングし、城北開発の住宅・土地を買う場合に平安銀行でローンが組めるようにした。これはパート社員や製造以外の部門(販売やシステム・経理など)の社員でも利用できる(試用期間中の人を除く)。銀行の人に建て売り住宅を見てもらったが
「これが900万円!?3900万円じゃなくて?」
と驚いていた。
「ユニット工法ですから」
「ユニットにしてはおしゃれだ」
こうして千里は雅に給与増額補助として注入した資金の中でかなりの部分を、城北開発を通して回収したのである。
雅の四条店だが、地下2階・地上8階のビルを建てる方針が、取締役会で決まった。下記は主として典恵さんと雅夫さんがプロットを出した。
●雅きもの会館(仮称)
B2 小ホール
B1 飲食店街またはフードコート
1F 浴衣・街着・小紋、絣(かすり)・紬(つむぎ)
2F 振袖・振袖21
3F 付下げ・訪問着・留袖・色無地など・男性用和服
4F フォトスタジオ、着付け室、茶室、畳の広間、喫茶室、具(そなえ)
5F 未定
6F 〃
7F 文化センター(着付け教室・和裁教室・料理教室・陶芸教室など)
8F 〃
5-6階はこの企画時点では未定だったが、専務さんの営業により、5階には平安文学資料館、6階には酒井ビジネス専門学校が入居することになった。また専務に会館長もお願いする。
“きもの会館”について千里は言った。
「ぜひうちの工務店に建てさせてください。1ヶ月で建てさせます」
「建築費はいくらくらいになります?」
「担当者を呼びますね」
それで千里は青池と万奈を呼んだ。2人は現地も見てきた上で青池が言った。
「工期ですが、基礎工事に2週間ください。その後は1フロア3日で30日で建てます」
「充分速いよ」
「建築費は1フロア1000万円で1億頂けたら」
「それも充分安いよ」
「PC工法?」
「そうです。うちは基本的にプレキャストです。現場でのコンクリート打ちはしません」
「北海道で育った会社なので現場打ちができなかったんですよ」
「ああ、北海道で現場打ちしようとすると凍結しちゃうよね」
それで大力工務店でここの建築をさせてもらうことになった。