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12月24日、森田朝日が勤務を終えると同僚の広中君が言った。
「ねえ、森田さん、クリスマスデートしない?」
「ぼく男だけど」
「いや、君くらい可愛ければ男でも構わん」
そんなこと言われても・・・・・
「難しく考えること無いよ。ドライブして食事するだけだよ」
「まあそのくらいならいいかな」
普通の男女のデートなら、その後ホテルになるんだろうけど、男同士ではホテルには行けないからなと思う。
「あ、でも私今日はひどい格好。全身ユニクロに980円のスニーカーだし」
「振袖を着て行けばいい」
「でも今着ているのはお店の服だから。あ、待って」
朝日は高島さんに展示品のプリンタ染め振袖を買えないかと尋ねてみた。この店がオープンした7月当初からずっとマネキンが著ていた振袖である。年明けにはそろそろ別のに交換しなきゃと言っていた。
「いいよ。定価22万円を展示品処分で半額の11万、それに社員割引きで8万8千円」
それで朝日はその振袖と9030円の草履をカードで買った。今月初めに凄い額のボーナスをもらったからこのくらいは平気だ。そして更衣室で勤務中に着ていた振袖から着替える。それで簡単にメイクを直し、広中君と一緒に出かけた。
彼の車、ホンダ・アコードの助手席に乗り込む。広中君が車を出す。
「取り敢えず一時間くらいドライブしよう」
「うん」
それで彼は車を福岡都市高速に乗せ、福重(ふくしげ)JCTから西九州自動車道に進む。
「どこ行くの?」
「取り敢えず唐津(からつ)」
「ふーん」(←実は“からつ”という地名を知らない)
「唐津への道は景観がきれいなんだけどね」
「夜じゃ分からないね」
「うん。帰りに見よう」
(↑翌朝まで一緒に居ようと言われていることに気付いてない)
「そうだ。森田さんのこと下の名前で呼んでもいい?」
「いいよー。朝日でもあっちゃんでも」
「あっちゃんにしようかな。じゃ、僕のことは和彦でもかずちゃんでも」
「分かった」
「そうだ。あっちゃん。誕生日は?」
「7月7日」
「たなばたかぁ!」
「ロマンティックな日だと言われることもあるんだけど、そうでもない。織姫と牽牛って物凄い遠距離恋愛だから」
「天の川をはさんでるもんね」
「ヴェガとアルタイルって15光年離れてるんだって。だから織姫が牽牛に電話掛けて『好き』って言ってもその声が牽牛に届くのは15年後」
「プロポーズしても返事がもらえるまで30年掛かる」
「物凄い忍耐が必要だね。そうだ、和ちゃんの誕生日は?」
「3月2日。ミニの日」
「へー」
「だからミニスカート穿いてBMWミニに乗らなくちゃ」
「ミニスカート穿いていいと思うよ。買ってあげようか」
「警察に捕まりそうだからやめとく」
「そうかなぁ」
彼はタイガースのファンらしく、その後は野球の話を熱心にしていたが、朝日はプロ野球に興味が無く、彼の話に出てくる固有名詞が分からない。そもそも野球のルールもよく分かってないので。適当に相槌を打っていた。こちらがあまり話に乗ってこないので訊かれる。
「あっちゃんはどこのチームのファン?」
「ごめーん。私あまり野球に詳しくなくて」
「あ、サッカーの方が好き?」
「サッカーもよく分からない」
「何か好きなスポーツは?」
「私いつも体育は通知表悪かったから」
「好きな歌手とかは?」
「うーん。リリックスかなあ」
彼はリリックス(Lilix) を知らなかったようで、結局こちらの反応は気にせず野球の話をひたすらしていた。朝日はいつしか眠っていた。
車が停まる音と感覚で目が覚める。
「御免。眠ってた」
「うん。いいよいいよ。ごはん食べよう」
「うん」
そこは何だか素敵な感じのホテルだったが、ここの1階のレストランが美味しいらしい。玄関の所に行くとドアボーイがドアを開けてくれたので、高そう〜などと思う。1階にレストラン街があり、そこのアルテアというお店に入った。アルテアはアルタイル(Altair)の英語読み。牽牛のことで牛肉のお店のようである。
「ここは佐賀牛が美味しいんだよ」
「へー」
それでリブロースの60gステーキにサラダ・パンのセットを頼んだ。彼は150gのロースカツを頼んでいた。こちらが振袖を着ているのを見てウェイトレスさんは紙のエプロンを持って来てくれたので、それを着けてから料理を頂いた。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
料理は美味しかった。
彼がワインを飲んでいる。
「え?飲酒運転はいけないよ」
「今夜はもう運転しないから」
「じゃ、私が運転しようか?」
とは言ったが実はあまり運転の自信が無い。
だが彼は言った。
「今夜はこのホテルに泊まろうよ」
「えっと・・・」
「何もしないから」
何かするって何するんだっけ?
それでデザートにケーキ(彼はモンブラン、朝日はミルフィーユ)を食べてからレストランを出て、ホテルのフロントに行く。彼がフロントの人に尋ねる。
「ツイン空いてます?」
「スペリアーツインでしたら。レギュラーツインは満室でございます」
「じゃそこで」
「宿泊カードをお願いします」
と言って紙を渡される。そこに彼は
広中和彦 26歳・男
広中朝日 23歳・女
と書いた。まあ苗字の異なる男女は同室には泊めてくれないよね。
って私女性扱いなの〜?
(何を今更)
彼は宿泊料38850円をカードで払った。やはり高いホテルだ。レストランもおごってもらったし、こんな高い宿泊料、申し訳無いな、と朝日は思った。
エレベータで8階に昇り816号室に入る。
「広いね」
「ツインだから各々のベッドに寝ればいいよ」
「そ、そうだね」
男女なら“何か”起きちゃうかも知れないけど、男同士なら何も起きることは無いよね?
「振袖脱いでシャワー浴びて寝るといいよ。僕は壁の方を向いてるから」
「うん」
彼は本当に片方のベッドに寝転がり壁の方を向いて携帯を見ている。それで朝日はもうひとつのベッドを使い、まず振袖を脱いだ。そしてバスルームに行き、メイクを落としてからシャワーを浴びた。
身体を拭き、バスタオルを身体に巻いてからバスルームを出る。実は振袖以外の服を持って来てないのである。何で持って来なかったんだろう?と思ったが、今更どうにもならない。だいたい泊まることになるとは思ってなかった。それで朝日はホテルのガウンだけを着てベッドに潜り込んだ。
「あがったよ。次どうぞ」
「ありがとう」
それで彼はバスルームに入ったようである。
朝日は少しうとうととしていたのだが、バスルームのドアが開く音で覚醒する。彼がバスルームを出てベッドのほうに来る。彼はこの時までほんとうに何もする気は無かったと思う。しかし朝日は彼を見て言った。
「和ちゃんのおちんちん、凄く大きいんだね」
彼のペニスはとても大きく、しかも上を向いていた。朝日はこういう男性のペニスを見たことが無かった。そもそも彼は他の男性のペニスを見たことが無い!男湯に入ったことも無いし。
「ごめん。ちょっと立っちゃっただけだよ」
「立つ?」
朝日は意味が(マジで)分からなかったので訊いた。広中はどうも朝日がマジで訊いているようなので困惑しながらも説明する。
「えっと男の子のペニスはHなこと考えたり感じたりすると大きく硬くなって上を向くんだよ。これを“立つ”と言うんだ」
あ、そういえば学校で保健の時間に習った気がする。レイキとか言うんだっけ?
(戦前ならまだしも平成の時代になって勃起(ぼっき)も知らない女の子なんて居ないぞ。って朝日は女の子だっけ??)
その時朝日はなぜそんなことを言ったか分からない。ただ車に乗せてもらって美味しいご飯をおごってもらって高いホテル代まで出してもらって、何かお返ししたい気持ちだけだった。
「舐めてあげる。こちらに来て」
と言うと、朝日は彼のペニスを握り、その先端を舐め始めた。
「うっ」
と声を出して彼が座り込む。
「ごめん。痛かった?」
「違う。足の力が抜けちゃった。ねえ、それベッドの上でしてくれない?」
「いいよ」
それで彼が向こうのベッドに寝るので朝日も向こうのベッドに行き、毛布の中に潜り込んで、彼のお股に顔を埋めるようにしてペニスを舐めてあげた。
「加減が分からないから痛かったら言ってね」
「ううん。凄く気持ちいい」
「良かった」
それで舐めていたら口の中に暖かい液体が入ってくる。まさかおしっこ? と思うが、彼は言った。
「ごめん。出ちゃった」
「おしっこ?」
「まさか。精液だよ」
「せいえきって?」
彼は思わぬことを訊かれて困惑しながらも説明する。
「ペニスを刺激していて気持ち良さが頂点に達すると、ペニスの先から精液というものが出てくるんだよ。これを女性のヴァギナの中で出すと赤ちゃんができる」
あ、そういえばそんな感じの話を保健の時間に聞いた気がする。でも赤ちゃん?私赤ちゃんできたらどうしよう?
でも私女性じゃないし、“バギナの中”とか言ってたから、口の中なら大丈夫かな?だけどこの口の中に入ってる液体どうしよう? と少し悩んだものの
おしっこじゃないなら飲み込んじゃえ、と思い、飲んじゃった。これきっと別に害は無いよね、人間の身体から出て来たものだもん。
それで朝日は精液を飲んでしまうと、広中のペニスを更に舐めてあげる。ところが
「ごめん。今は舐めないで。凄く敏感になってるから」
と彼は言う。
「ごめんね。手で触るのはいい?」
「うん。手なら」
それで彼のペニスを手で握り、ゆっくりと動かしてみた。気持ち良さそうである。よかった。しばらくそうしてたら彼が体をずらしてくる。どうも朝日と並行になろうとしているようである。そして彼は朝日の唇にキスしてくれた。そして「好きだよ」と言った。「あ、ちんちん舐めたお口なのに」「構わないよ」「かずちゃん、ちんちんと間接キスしちゃったね」「あはは」そして彼の手が朝日の身体を触る。あ、そこは・・・
「あれ、あっちゃん、おっぱいあるの?」
「ちょっとだけね」
「へー」
おっぱいを揉まれる!
何か気持ちいいかも。しばらくされるに任せていたら、彼は更に下のほうに手を伸ばしてきた。あ・・・・
「あれ、あっちゃん、ちんちんは?」
「えっと・・・忘れてきたかも」
彼は更に触る。
「あっちゃん、女の子の身体なんだっけ?」
「まさか」
しかし彼は朝日の性別に大いなる疑惑を持ったのである。
「ねえ、スマタでしていい?」
「すまた?」
朝日が知らないようなので彼は言った。
「足を閉じて」
「うん」
それで彼は何かをちんちんに装着してから朝日の足の付け根付近、足の間に入れて来た。そして腰を動かして出し入れしてる。なんか大変そう。これたぶんセックスの一種だよね。セックスで男の子ってこんなに大変なのか。私男の子じゃなくて良かった。あれ?私男の子だっけ??
彼は5分ほどで再度到達した。彼は脱力して自分の身体を朝日の身体の上に預けたまま1分ほど放心状態だったが、またキスしてくる。
「あっちゃん、女の子みたいな甘い香りがする」
「そう?」
「時々デートしない?」
「ドライブしたり食事したりする程度なら」
「うん。それでいいよ」
それで2人は交際することになったのである。取り敢えずその夜はそのまま寝た。
翌朝(12/25)、朝日は彼より先に起きて振袖を着た。
突然部屋の中に絣の服を着た小学生くらいの女の子が出現する。以前朝日の声を調整してくれた女の子である。どこから入ってきたんだ?
「おはよう、朝日ちゃん。ぼくは“男の娘の味方”魔女っ子千里ちゃんだよ」
「えっと」
「お腹空いたぁ。何か食べるもの無い?」
朝日はバッグの中を見てみた。
「こんなんしか無いけど」
と言って昨日のお昼に買ったヤマザキの北海道チーズ蒸しケーキをあげた。
「あ、これ好き」
と言って美味しそうに食べている。
「ありがとう。お礼に朝日ちゃんを女の子の身体に変えてあげようか」
「えっとそれより替えの下着を取ってきてもらえたりしないかなあ」
「ああ、そのくらい簡単」
と言って女の子は真新しいパンティ・ブラジャー、スリップにTシャツを持って来てくれたので、朝日はそれを着てから再度振袖を着た。
やがて彼が目を覚ますのでコーヒーの缶を渡す。
「おはよう。これ自販機で買ってきた」
「ありがとう」
その後、部屋のポットであらためてホットコーヒーを入れて2人で飲んだ。それからキスされて「好き」と言われたので朝日も「私も好き」と言った。ついでにお股に触られた。彼は満足そうだった。誤解されたかなぁ。(何を“誤解”すると?)
彼が服を着るのを待って6時頃出発する。今日もお仕事がある。コンビニでおにぎりと飲み物を買ってから車で福岡に戻るが、景観が素晴らしかった。
「平らな島があるね」
「神集島(かしわじま)というんだよ。昔そこに神様が集まって会議をしたんだって。だから“神集まる島”と書いて“かしわじま”」
「へー」
1時間ほどドライブして福岡に戻り、姪浜(めいのはま)のロイヤルホストで朝食を食べてからマンションまで送ってもらった。マンションは福岡に赴任した8人の分がまとめて確保されていて、朝日は高島さん・悦美ちゃんと同じマンションである。男性陣はまた別のところである。つまり朝日は女性扱いである!
お店が開くのは10時、出勤は9時半(振袖を着るのに30分掛かるため)で今はまだ8時だから一休みしてから出勤できる。
マンション前でちょうど篠崎君が悦美ちゃんを車(アクセラ)で送ってきたのと遭遇した。軽くお互いに会釈した。そして別れた。広中君は別れ際にキスしてくれた。
そういう訳でクリスマスイブは篠崎−悦美、広中−朝日という組合せでデートになったようである。高島さんも店長とデートしたらしい。来年は結婚式が3組あったりして?そして再来年には赤ちゃんが3人産まれたりして。って私赤ちゃん産めるんだっけ?
ちなみに春日君と坂口君は部屋で飲み明かしたらしい。結婚式は4組だったりして!?そして再来年には赤ちゃんが4人?春日君と坂口君はどちらが赤ちゃん産むのかな。