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■クロ子義経(6)

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明智ヒバリが登場して語りを入れる。
 
『それで三郎は弁慶の馬に同乗し険しい山道を進みました』
 
『ところでなぜ義経一行はこのように少ない人数で進んでいるのでしょうか』
 
『源氏方は7万騎ほどの勢力だったのですが、本隊6万騎を源範頼が率いて海岸線を進み、義経が率いる別働隊1万は丹波の山道を進んで平家の後方に回り込もうとしていました。義経たちは実は途中の三草山で平資盛・平有盛の軍と激突し、義経たちが勝って平家軍は敗走します。この平家軍を義経軍に同行していた頼朝の部下・土肥実平率いる7千騎が追送しました。これは後方に回り込もうとしていた別働隊の大半なので、平家はこの別働隊の全員が平資盛たちを追っていったものと思ったわけです』
 
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『しかし義経は残る3千騎ほどの部隊を甲斐源氏に所属する安田義定に預けて平家軍を側面から襲うことになる、夢野口に進めさせました。この夢野口の付近には平通盛・平教経らが陣取っていました』
 
『そして義経自身は腹心の精鋭わずか70騎ほどで、鵯越(ひよどりごえ)の難所を密かに進んでいたのです』

 

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『義経たちの別働隊と平資盛たちが三草山で激突したのが2月5日なのですが、2月6日、後白河法皇は藤原親信を平家方に派遣して和平交渉を申し入れています。このことは源氏方には知らされていませんでした。それで2月7日に起きたことは、平家にとっては“だまし討ち”になったのですが、源氏方もまさか和平交渉の話があるとは全く知らなかったのです』
 
『源氏方は最初から2月7日の昼頃に戦闘を開始するつもりで、範頼軍も義経軍もそれに向けて兵を進めていました』
 
『ところが、源氏方の中で、頼朝の家臣・熊谷直実(花咲ロンド)や平山季重(オーディション選出の生方さん)ら5騎が抜け駆けして7日早朝、平家の陣に突入してしまいました』
 
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背景に花咲ロンド・生方さんと乗馬のできる俳優さん3名が突撃していくシーンが映る。
 
『平家としては前日和平の話が来ており、襲ってきたのもわずか5騎なので、最初はほとんど放置していたのですが、盛んに攻撃してくるので仕方なく応戦します。しかしこの5騎がなかなか手強い。それで数十人で取り囲んで、何とか討ち取ろうとしていた所に、もう戦いが始まっているという報せに驚いて急行してきた土肥実平の7000の兵が到着し、一ノ谷の西側・塩屋口では本格的な戦闘が始まってしまいました』
 
『西側で戦闘が始まってしまったと聞いた範頼は『早すぎる!』と困惑するものの、向こうが戦いを始めてしまった以上こちらもやらなければならないので、午前6時頃、一ノ谷の東側・生田口で平家方に矢を射かけ、平家側も応戦して、こちらも本格的な戦闘が始まってしまいました』
 
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『平家は“和平交渉を始めると言っているのに、なんで源氏は攻撃してくるんだ?”と戸惑いながらも、一ノ谷の東西で戦い始めたところで、今度は午前7時頃、夢野口に安田義定たちが到着。彼らも“どうしてこんなに早く戦闘が起きているのだ?”と思いながらも平通盛たちの軍と戦い始めました』
 
『その頃、義経達はまだ鵯越の険しい道を進んでいました。そもそも戦闘は昼頃始める予定だったので、その頃までには目的地に到着する予定だったのです』
 

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『殿、どうも下では戦闘が始まってしまったようですぞ』
と千光坊七郎(スキ也)が言います。
 
『そんな馬鹿な。戦闘開始は昼頃の予定だったのに』
と佐藤継信(桜木ワルツ)。
 
『これでは我々が到着するころには戦闘は終わっているかも』
と佐藤忠信(今井葉月)
 
『それは困る。この戦いに義経が参加しなかったとあらば、鎌倉殿(頼朝)は怒るぞ』
と義経(アクア)。
 
『しかし目的地まで辿り着くにはまだ2刻(4時間)近く掛かりますよ』
 
義経は遙か山の下の方で起きている戦闘を見下ろしながら少し考えていた。
 
『三郎』
『はい』
『この崖をまっすぐ降りることはできないか?』
『この崖をですか?無茶ですよ』
『人が通ることはできぬか?』
『ここを降りていけるのは狐とか狸とか兎とかですよ』
『馬はどうだ?』
『馬にも無理だと思いますけどねぇ。たまに鹿が降りていくのを見ることはありますけど』
 
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『鹿が降りるとな?』
『はい』
『鹿が降りるなら、鹿も四つ足、馬も四つ足、きっと馬にも降りられる』
『そんな無茶な!』
『試してみよう。静!』
『はい』
 
後方を進んでいた静が義経の所に馬を寄せる。静はいわゆる御高祖頭巾(おこそずきん)のような頭巾をかぶっている。目だけ出ていて人相がよく分からない。
 
ネットが騒ぐ。
 
「やはりまだ出ていない姫路スピカあたりがアクアのボディダブルしているんだよ」
「結局アクアが静と義経の二役なんだろうね」
 

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義経は静に言った。
 
『すまんが、そちはここに留まれ』
『分かりました』
『そしてその馬を貸せ』
『はい』
 
それで静が馬を降り、アクア演じる義経はその馬を受け取ると、谷に突き落とした。
 
『え!?』
と静も驚いているが、静を載せていた馬は突き落とされると、何とか崖を駆け下りていく。転んだりしない。
 
『見よ。馬もちゃんとこの崖を降りられるぞ』
とアクア演じる義経は言うが、他の者はあっけにとられている。
 
『ちゃんと馬は降りられることが分かった。ここを駆け下りるぞ』
と義経。
 
『ほんとにここを降りるんですか?』
と佐藤継信(桜木ワルツ)が不安そうな顔で言う。
 
『私が先陣を切る。皆の者、付いてこられる者だけ続け』
 
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みんな顔を見合わせているが、義経は馬に跨がる。
 
『三郎。そなたは済まんが、静を連れて、本来の道を行ってくれ』
『分かりました。ここを降りようなんて、義経様は凄いです。家人になりたいくらいです』
と猟師の若者(木下宏紀@研修生)。
 
『私の家人になるか?』
『はい』
『だったら私の字を1文字やるから鷲尾三郎義久と名乗れ』
『ありがとうございます』
『義久、そちへの最初の命令だ。静を守って下まで降りてこい』
『御命、承ります』
 

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それで三郎と静を残し、まずは義経が自分の馬に乗って崖を駆け下りていく。それに弁慶(品川ありさ)が
 
『殿が行ったぞ。皆続け』
と言って、義経をガードするように急いで馬で駆け下りていく。これに佐藤継信(桜木ワルツ)・忠信(今井葉月)兄弟が続く。更に駿河清重、亀井重清、伊勢義盛、一条能成、源有綱、と続いたところで、まだ不安そうな顔をしている武士たちに掘景光(マツ也)が言った。
 
『俺はこの崖を降りるのが恐い。だから留まって、義久殿や静殿と一緒に普通の道を行く。恐い奴はみんな俺と行動を共にしろ。それで義経殿は怒ったりはせぬぞ』
 
それでホッとしたような顔の武士たちが多数いる。すると千光坊七郎(スキ也)が言う。
 
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『お前は降りぬか。俺は降りるぞ。こんなとんでもないことをやる殿には命賭けで付いていくよ。男ならこういうのに賭けようじゃないか』
と千光坊(スキ也)が言うと
 
『俺は女になってもいいから無茶はしない』
と景光(マツ也)。
 
『お前が女になったら俺の嫁にならんか?』
『おい、お前そういう趣味があるのか?』
『修行場では可愛い稚児は可愛い服着せて化粧もさせて愛でるものと決まっている』
『お前ら修行場で何やってんのさ?』
 
話の脱線に武士達は顔をしかめている。
 
『まあこの崖を無事に降りられる確率はたぶん半分だ。怪我したり死んだりしてもおかしくない。だからここで死んでもいいと思う奴だけが来い』
 
そう千光坊七郎は言うと、自分の馬に乗り、崖を駆け下りていった。残った武士たちは、なお、お互い顔を見合わせていたが、その内の数人が決意したように馬に乗ると千光坊七郎の後に続いた。結局その場に居た70騎ほどの内、50騎ほどが崖を駆け下り、20騎ほどが残った。彼らは掘景光(マツ也)と鷲尾三郎義久・静らと一緒にこちらも充分険しい山道を進んだ。三郎が徒歩で先頭を行き、静を同乗させた掘景光がそれに続いた。
 
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場面は塩屋口(一ノ谷の西側)付近の戦闘場面に変わる。平忠度らの平家方と、土肥実平らの源氏方が戦っていたが、戦況は膠着しかけていた。
 
ところがその平家方の後方に突然険しい崖を馬で駆け下りてきた武士たちがいた。先頭に立っているのが義経(アクア)、そして弁慶(品川ありさ)が続く。
 
『嘘だろ?あの崖を降りてきたのか!?』
と平家の武士たちが驚く。そこは険しい崖なので、安全な方角と思い、そこを背景に陣を敷いていたのである。
 
『次々と降りてくるぞ!』
 

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明智ヒバリが登場して語る。
 
『平家はあり得ない方角からの急襲に混乱しました。義経率いる部隊は次々と崖を駆け下りてきます。中には馬と一緒に転がって落ちてきて、下で動かなくなる者もありますが、無事駆け下りてきて、平家に向かって来る武士たちも大勢います。平家方は結果的に陣を直撃されることになりました』
 
『そして大将の平忠度(たいらのただのり*6)も源氏方の岡部忠澄に討ち取られてしまいます。大将がやられた平家方は総崩れになり、兵士たちは慌てて逃走しました』
 

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(*6)平忠度は名前が「ただのり」であることから、かなり古い時代から無賃乗車の代名詞的に使われてきた。彼が薩摩守(さつまのかみ)であったことから、「さつまただのり」あるいは「さつまのかみ」だけで無賃乗車を表す。
 
狂言『薩摩守』でも、忠度を名乗って船賃を踏み倒そうとする僧が登場する。
 

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ヒバリの語りは続く。
 
『西側で平忠度の軍が崩れたことから、それは夢野口、更には生田口にも伝染して、平家方は急速に戦意を喪失し、多くの兵士が逃げ出してしまいます。結果的にはわずか数十騎による義経率いる精鋭の奇襲が、戦いに決着をつけることとなったのです』
 
場面では混乱し平家の兵士たちが逃げ惑っている中、戦いの先陣を切った熊谷直実(花咲ロンド)が戦える相手を物色していた。そこに立派な甲冑をつけた武士が逃げて行くのを見る。
 
『待たれよ』
と声を掛ける。
 
『そなたは臆病にも逃げるのか?』
と熊谷直実が声を掛けると、その武士は振り返って名を名乗った。
 
『我は平経盛が三男、平敦盛(たいらのあつもり)なり。いざ尋常に勝負せよ』
 
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直実は相手が思わぬ大物であったこととまだ若かったことに驚いたものの、「尋常に勝負」と言われたら戦わぬは武士の恥である。直実(花咲ロンド)が刀を抜く。敦盛(東雲はるこ)も刀を抜く。しかし歴戦の戦士・熊谷直実と16歳の若武者・平敦盛では全く勝負にならなかった。あっという間に決着は付き、敦盛は熊谷直実の刀に倒れた。
 
直実は倒れた敦盛の目をそっと閉じてやる。
 
『女にしてもいいくらいの美人だ。それにうちの息子と同い年くらいではないか。哀れだ』
と直実は言った。
 
明智ヒバリが目を瞑ったまま画面左下隅の枠の中に現れ
 
『熊谷直実はこの後、世をはかなみ出家してしまうのでした』
と語った。
 

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「今の敦盛(あつもり)やった子、すっごいお得じゃない?」
と政子が言った。
 
「登場シーンは1分も無かったのに、今の場面で20-30万人はファンが出来たよね」
と私も言う。
 
「信濃町ガールズの子?」
「今年の第6回ロックギャル・コンテストの優勝者だよ」
「おぉ!」
 
「春くらいにデビュー予定。明日も歌うけどね」
「わぁ」
「この子にデビュー曲を書いてあげない?」
「私が書いていいの?」
「よろしく」
 
「張り切って可愛いの書くね」
と言って、政子はレターペーパーを1枚取ると、《青い清流》を使って詩を書き始めた。
 

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明智ヒバリが映っている枠が画面全体に広がり、解説をする。
 
『平家はこの戦いで大敗し、平忠度、平敦盛、平通盛、平業盛、平師盛といった清盛の息子・甥・孫などを含めて多数の有力武将が討死、あるいは捕らえられて殺されています。大将格の平重衡は捕らえられて鎌倉に護送されました。また平維盛はこの戦いの最中に陣から逃亡したものも、その後死亡したと言われますが死亡の経緯については諸説あります』
 
背景には平維盛役の篠原倉光(研修生)が、白い死装束を着て舟に乗って沖へと漕ぎ出していく様子が映った。
 
『寿永3年(*7)2月7日・一ノ谷の戦いの敗戦で、平家は都奪還を断念し、本拠地の屋島に退くこととなりました。この後1年ほど、もうひとつの本拠地である山口県の彦島に平知盛、屋島には安徳天皇と平宗盛がいるという体制が続きます』
 
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(*7)この時期、源氏と平氏が異なる元号を使用しているので、ひじょうに分かりにくい。諸事情はあるのだが、結果だけまとめると下記のようになる。
 

 

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■クロ子義経(6)

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