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■夏の日の想い出・いろはに金平糖(26)

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次に呼び出したのが島根県から来た長岡飛鳥(ながおか・あすか)ちゃんである。彼女は秋に信濃町ガールズに入ったばかりである。カウントダウンライブにも参加していたが、ちょっと目立つ子だなと思っていた。存在感の大きな子である。歌はそこそこだが、ダンスが物凄く上手い。演技や朗読もうまかったし、トークも面白い話を組み立ててくれた。機転のきく子だなと思った。
 
あけぼのテレビの運用中心に使いたいと考えていると言ったが、本人はぜひやりたいと言い、付いてきている両親も承諾した。それでサインした。
 
「そういえぱ“飛鳥(あすか)”という名前には何かいわれはあるんですか」
と私は何気なく訊いた。
 
お父さんが答える。
「私は視力が落ちて地上勤務になってしまいましたが、20年ほど航空自衛隊のパイロットをしていて、この子にもできたらパイロットになって欲しいなあと思って、大空を飛び回る鳥のように逞しい男になってほしいと思って飛鳥と付けたんですよ」
 
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「逞しい男?」
とコスモスが戸惑うように言う。
 
川崎ゆりこが噴き出している。
 
「でもこいつ運動がからきし苦手で。運動会はいつもビリだし。野球のグローブ買ってやっても全く使わないし。結局ダンスならと言うからダンス教室に通わせていたんですが、そのダンス注目してもらえるとは思わなかった」
 
私は頭を抱えた。
 
「あのお、飛鳥さんってお嬢さんですよね?」
「え?男ですけど。ああ、でもこいつよく女に間違われるんですよ。背が低いからだと思うんですけど」
 
「あのぉ、これは女の子のタレント候補生を選ぶオーディションなんですけど」
「え〜〜〜!?」
 

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私たちは、応募要項を示して、応募資格は小6から中3までの女子であったことを説明した。お父さんは気付かなかった!と言っていたが、どうも本人は確信犯(誤用)っぽい。それにカウントダウンの時はスカート穿いてたじゃん!今穿いてるボトムもキュロットに見えるんだけど!?
 
「そしたらどうしましょうか?性転換させる訳にもいかないし」
「うちは若干、男の子のタレント候補生もいますし、ダンスの上手さ、それにトークや演技の上手さは際立っています。もしよかったら、このまま男の子のタレント候補生ということにしましょうか」
と私は言った。
 
「ああ、男でもいいんでしたら、ぜひお願いします」
とお父さんが言うので、そのまま契約を活かすことにした。
 
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契約書に「結婚するまではできるだけ妊娠しないようにすること」「妊娠したらすぐ報せること」という文面があるけど・・・まあいいよね!
 
お母さんは少し考えていたようだったが、やがて言った。
 
「それともあんた性転換して女の子タレントを目指す?」
「性転換もいいなあ。ぼく小さい頃、よく男の子にするのもったいないとか言われてたし」
と本人。
 
ああ、やはりそちら系統の子か。
 
「女の子の友だちとばかり遊んでたしね」
「ぼくが好きな遊びが女の子の遊びだっただけだけどね」
 
「まあ、お前ならいっそ女になってもいいかも知れんな」
 
とお父さんも言っているので、どうもこの子は振袖着て成人式をあげることになりそうだなと私は思った。だいたい中学2年の3学期の時点で、まだ声変わりしてないというのは、女性ホルモンを飲んでいる疑いがある。東京に出て来て一人暮らし始めたら、きっとほぼ女装生活になるかも。
 
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飛鳥ちゃんたちが退出した後、私たちは話し合い、男の子が1人混じっていたので7位の子まで合格させることにした。
 
飛鳥ちゃんの次に呼び出したのは宮崎から来た藤真理奈ちゃんである。今回の合格者の中で唯一の中3である。中3ということは、4月からは高校生ということであり、教育時間がほとんど取れない。しかし彼女は総合力の高い即戦力タイプだった。
 
歌もお芝居もトークもうまい。ダンスがやや劣るものの、§§ミュージックではダンスは必ずしも重視しないので大きな問題は無い。彼女はパンツルックである。事前にスカートではなくパンツで参加したいという希望があり、私たちは事情を聞いて許可していた。
 
実は、小学生の時に交通事故に遭って足にわりと目立つ傷が残っているらしい。
 
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「でもアクアさんが堂々とお腹の手術跡を曝しているので勇気が持てました」
と言っていた。
 
川崎ゆりこは
「信濃町ガールズの制服にはスカートだけじゃなくてパンツもあるし、君は信濃町ガールズに入っても、ロングパンツ穿いてていいよ」
と言ったので、ホッとしているようだった。
 
(普通の芸能事務所だと適当な理由を付けて落とされるかも)
 
彼女も当面、あけぼのテレビ中心に使いたいと言い、それで契約した。
 

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4位の鳴田あゆなちゃんは特に大きな問題も無くスムーズに契約した。この子は歌自体はうまかったが、楽譜が読めないらしい。それで歌唱テストでは独自のメロディーで歌ったということだった。しかしその独自のメロディーで歌った歌がとても上手かったので彼女は合格とした。
 
楽譜の読み方については今後勉強しますと言っていた。
 
そして5位の杉本ひかりちゃん(小6)なのだが・・・
 
この子も男の子であったことが判明した!
 
「え!?君男の子なの!?」
「そうですけど」
「このオーディションの参加資格は小6から中3までの女子だったんだけど」
「え〜〜!?」
と本人も両親も驚いていた。
 
「夏のビデオガールコンテストは女子だけだけど、昇格試験は男子も応募できると思い込んでました」
と本人は言っている。
 
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川崎ゆりこが超楽しそうである。
 
「それに、信濃町ガールズ本部生には結構男子もいるし、立山煌君が先月デビューしたし」
と本人。
 
「そうだよね。もう今度から昇格試験は男の子でもいいことにしようよ」
と川崎ゆりこは、おかしさをこらえきれないように言っている。
 
むろん彼も男子のタレント候補生として受け入れることにした。
 
「でも今穿いてるの、それキュロットなのでは?」
「え?これショートパンツですけど」
 
そうか?ショートパンツにしては裙が広がりすぎてる気がするけど。
 
「それに君、8月のアクアライブに参加した時はスカートのユニフォーム着てなかったっけ?」
 
「あれみんなに乗せられちゃってスカート穿いたんですよね〜」
 
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ああ。その手の話は信濃町ガールズではよくある話だ!
 
「じゃふだんはスカート穿いたりしないの?」
「時々穿いてますよ」
「女の子になりたい男の子だっけ?」
「別に女の子になりたい気持ちは無いです」
「でもスカートは穿くんだ?」
 
「上が姉2人なんで、姉たちと同じような服装がしたくて、小さい頃からよくスカート穿いてました。だから今でもスカート穿くことには抵抗ないし、実際自分用のスカート何着か持ってますけど、ぼく自身としては、スカートは女の子だけのものという意識があまり無いんです。普通の普段着という感じですね。夏の間はわりと穿いてます。冬は寒いからパンツだけど。学校にスカートで行くこともあるけど、ぼくは普通の男の子のつもりです。友だちも男の子・女の子、半々くらいですね」
 
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「君恋愛対象は?」
「女の子が好きですよ。女の子からバレンタインもらっちゃったりするし」
 
この子なら、バレンタインたくさん来そうだ、と私は思った。
 
彼は
「応募要項ちゃんと読んでなくてごめんなさい」
と謝っていた。
 

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ひかりちゃんたちが退出した後で私たちは今回の合格人数について再度話し合ったが、さすがに8人合格させるのは多すぎるので7人までにしようということにした。
 
また、私たちは本気で、今後昇格試験では男の子でもいいことにしようかと少し話し合った(次回までの検討課題とする)。
 
そして残り2人を呼び出して合格を告げた。
 
6位の糸川穂美ちゃんと、7位の隅田可愛ちゃんである。糸川ちゃんは昨年のアクアライブで、バックダンサーのリーダーを務めた子である。彼女のダンスをジュン広多さんは絶賛していた。
 
隅田ちゃんは、上位に男子の合格者がいたことから繰り上げ合格となった形だが、こういう子が意外と伸びるかもよ、とジュン広多さんは言った。千里も頷いていたので、ひょっとするとひょっとするかも知れない。
 
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7位までの子と契約した後、残りの6人も呼び出して、残念ながら不合格であったことを伝えるとともに、どこに問題があったかを丁寧に説明して、再起を促し励ました。多くの子が泣いていたものの、「また頑張ります」と言ってくれた。恐らくこの子たちは夏のビデオガール・コンテストにも出てくるだろう。
 
そういう訳で今回合格者は下記9名であった(*は秋の昇格試験で見送りになっていた子)。
 
1.東海林椿希 山形県酒田市 中2
2.長岡飛鳥 島根県雲南市 中2
3.藤真理奈 宮崎県都城市 中3
4.鳴田あゆな 愛知県碧南市 中1
5.杉本ひかり 兵庫県丹波市 小6
6.糸川穂美 福井県越前町 中1
7.隅田可愛 東京都豊島区 小6
 
*小野寺雪 北海道北斗市 中1
*石田一絵 佐賀県有田町 中1
 
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彼女たちは原則として、今年度の3学期が終わった所で女子寮に引っ越して来てもらい学校も転校してもらうことになる。小6の2人は進学先の中学が変わるので、至急各々の学校と調整してもらうことになった。
 
制服をすぐにも注文しなければならないので、佐々木春夏に頼んで、2人とも即採寸し、足立区の公立中学の制服を作っている業者に特急で注文を入れた(2人とも卒業式で着たいだろうから)。他の7人の制服も4月には間に合うようにする。
 

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受け入れ先だが、男子の2人は男子寮に、残りの7人は女子寮のA棟3階に入れることにした。
 
11月の大移動でA棟の2-3Fは完全に空けてある。そして昇格試験の合格者のためにA3階の8部屋には既に机・本棚・洗濯機・冷蔵庫・テレビ・電子レンジといった大物の家具・家電品は入れてある。
 
合格者の中で、豊島区の隅田可愛ちゃんは、女子寮から現在の小学校に通学が可能なので、いつでも引っ越して来ていいよと言ったら
 
「今日引っ越してもいいですか?」
と本人が言うので、許可することにした。それで本人は今日、女子寮に入居することになった。コスモスは花ちゃんに連絡して部屋の準備をしてもらうことにした。花ちゃんは
 
「既にA3階は全部屋とも机や本棚に冷蔵庫・洗濯機なども入れてありますから、寝具とかだけ運び込ませますね」
 
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と答えた。ちょうどうまい具合に研修所に来ていたセレン・クロム・さくらの3人に、電気ケトル・オーブントースター・掃除機などに寝具も搬入してもらった。電源コードとアースもクロムが繋いでくれたので、もう即入れる状態になる。
 

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実際、隅田さんは夕方には両親および2人のお姉さんと一緒に女子寮に来て、着換えや食器・おやつ!に教科書・ノートなどの類いを部屋に入れた。
 
「きれいにしてるし、わりと広いですね」
とお父さんは感心していた。
 
「建ててから6年経ってるんですけどね。まあ女の子たちはあまり部屋を汚さないから」
と花ちゃんは言う。
 
「ああ、男の子だとわりと破壊されますよね」
「知り合いに男の子3人の家がありますけど、破壊力が凄いみたいです」
「何となく想像が付く」
 
それで、細かい雑貨とかを100円ショップやホームセンターで買ってこようと言って、家族と一緒に1階まで降りて車の方に行こうとしていたら、そこに太田芳絵と斎藤恵梨香が外から戻ってきた。
 
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「あら、隅田可愛ちゃんだったね」
と太田芳絵が声を掛ける
 
「おはようございます、太田先輩、斎藤先輩。本日の昇格試験に合格して信濃町ガールズ本部生に入れてもらうことになりました」
 
「おめでとう!よかったね!」
「はい。先輩にサイン書いて頂いたおかげです」
 

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恵梨香が首を傾げているので、芳絵は先日偶然路上で遭遇してサインを渡したということを説明した。恵梨香はそれを聞いて、芳絵が退団を思い留まったのは、この子のお陰かもと思った。
 
自分を応援してくれる人のメッセージは私たちの心の支えだ。
 
「でも可愛ちゃん、信濃町ガールズでは“先輩”とか“後輩”は無いんだよ。信濃町ガールズは1番・2番とは数えない。1人・2人と数える。だから入った順序とか年齢とか関係無く、全員“ちゃん”で呼び合う」
と恵梨香は言う。
 
「だから私たちも“可愛ちゃん”と呼ぶから、可愛ちゃんも私たちのことは、芳絵ちゃん・恵梨香ちゃん、あるいは本名の望美ちゃん・光子ちゃんで」
 
「分かりました!恵梨香先輩、じゃなくて恵梨香ちゃん」
「そうそう」
 
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恵梨香はこの子と話してて、1年後にはこの子に私も芳絵も抜かれそうだなあという気がした。でもまあ信濃町ガールズしてること自体が楽しいから、私は25歳くらいまでは続けたいけどね。
 

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夏の日の想い出・いろはに金平糖(26)

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