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■夏の日の想い出・いろはに金平糖(11)
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種を明かすと、ヴァイオリニストの4人は空っぽのステージの横で演奏していたのである。そしてアクア2人の演奏は、放送映像の上で合成されたものである。本当はアクアはMとFでこのミューズシアターの真下にあるリハーサル室で演奏していた。このリハーサル室は 2018.12.31 にはマリがここで座って歌唱し、それを3Dでステージ上に表示した場所である(あの時お腹の中に居たのが今日は猫の役をした、あやめ)。ただしあの時からはステージごと場所が移動している。
2人のアクアは早朝、§§ミュージック所有のヘリコプター・エキュレイユ2で小浜に連れて来た(飛行時間はHonda-Jetの倍で1時間20分ほど掛かるが、自宅から飛び立てるので結果的に熊谷まで行くより早い。帰りもテレビ局で夕方から仕事があるので、東京ヘリポートに直接降りた)。
だからアクアと葉月は年会にはミューズセンターの中からネット参加している。そして誰も使用しないリハーサル室に楽器を用意して、これを映像機器の扱いに慣れている山村マネージャー(*11)が撮影し、副調整室に居る丸山アイの腹心のミューズセンター技術者の手でステージ上の映像と合成し、あけぼのテレビに送出したのである。
東京に居る則竹さんには、アクア自身の“録画映像”とアクアのリアルタイム演奏を合成して更にステージ上の演奏と重ねるのでと説明しておいた。タイミング合わせが難しいが、ステージとリハーサル室の距離が近いので時差はほとんど出ない。アクアたちはヴァイオリニストさんたちの音を聴きながら演奏したし、ヴァイオリニストさんたちもアクアたちの音を聴きながら演奏している。
葉月を連れて来ているのは、例によってアリバイ作りが主たる目的である!
なお、今回、2人に同じ楽器で演奏してもらったのは、画像が合成であるかのように装うためでもあった。夏の段階で楽器を渡して慣れてもらっていた。ついでに葉月にも全く同じ楽器を渡して念のため練習してもらっていた。
『愛のデュエット』は過去にこのような組み合わせで演奏されている。
2014.04(PV収録) ヒロシ+フェイ
2018.09(PV収録) アクアM+F
2018.09(夏Fes) 風花/翼→心亜/翼→宮本/田中成美→酒向/レイア・(リレー方式)
2018.12(CountDown) アクア+レイア
2019.07(夏Fes) 葉月+レイア
2019.12(CountDown) アクア+葉月
2021.01(New Year) アクア+葉月
今回(2022.01)の演奏は、2018年9月の2人のアクアによる演奏の再現となった。ただ当時は、わりとあり合わせの楽器で合奏したし、2人が別の楽器を使ったりしている。たとえば、サクソフォンはYAS62 / YAS875 だったし、ギターは LS-56 / J-185 だった。リコーダーなんて小学校の時に使っていた学校教育用のリコーダーを使っていた。今回はMとFが全部同じ楽器を使ったし、そこそこ良い楽器を使用している。演奏の品質としては多分これまでで最高のものになったと思う。
でもさすがにアクアの演奏がほんとうに2人で演奏したものとは明かせない。
実際アクアはツイッターで
「あれは2回演奏して合成したんですよ。1回目はライブの1時間前に、青い服を着た葉月(ようげつ)と2人で演奏し、2度目はリアルタイムで1人で演奏して、葉月の映像とスーパーコンピュータを使ってリアルタイムに差し替えたんです」
と発信していた。
(*11) 山村は2人のアクアを見て
「お前たち、また分裂したのか!」
と仰天していた。
「再分裂したのは合体した日の翌日くらいかなあ」
「何〜〜!?」
「こうちゃんさん、すぐ気付くだろうと思って特に言ってなかったら、全然気付かないみたいだし」
「こうちゃんさんって、ほんとににぶいみたいねと社長やケイ会長と言ってた」
「社長や会長も知ってたのか!?」
「普通気付くもんだと思うけど」
「う・・・・・」
毎日接しているのに2年間も気付かないというのは、アクアたちも信じられない気分だった。緑川さんや高村さんだけでなく、最近マネージングチームに加わった山城さんだって、アクアが2人いることに1週間で気付いたのに!
そういう訳で、エキュレイユの操縦も山村にさせたのである。しかし山村だけでは大いに不安があるので、千里が同乗した。
ライブは後半に入る。
前半はアコスティック楽器中心の演奏だったが、後半は近藤さんがエレキギターに持ち替えて、ここからはPAを通した音で演奏する。満を持してPA担当・有咲の出番である。
緞帳があがってから、回り舞台でスターキッズが登場する。
そして私とマリが下手から登場すると大きな拍手がある。
最初は『君に届け』を演奏した。この曲の担当楽器はこのようになっている。
Vo.マリ,ケイ Gt.近藤 B.鷹野 ASax.七星 Fl.世梨奈 Pf.詩津紅 Vib.月丘 Dr.酒向 Tp.香月 Cla.美津穂 Horn.吉田
PAを通すのでボリュームの問題が出ない。それでギター・サックス・フルートは1本にして、久美子・青葉・宮本は外れた。山森さんもいったん外れる。
『振袖』と『門出』には和楽器をフィーチャーした。演奏してくれたのは下記である。
琵琶.若山鶴風 箏.若山鶴花 笙.若山鶴海 龍笛.青葉
和楽器を入れると、和音階と西洋音階の楽器が鳴ることで“うねり”が起きやすいのだが、ここで使用している和楽器は全て西洋音階に調律した特製品なので、その心配は無い。
この2曲には、セレンとクロムが振袖姿(**)で出てきてコーラスを入れてくれた。
(**)「わぁ振袖着ていいの?」と大喜びしていた。数秒で着られるワンタッチ振袖である。きっとこの2人は成人式では振袖を着るだろう。
通常編成に戻して『H教授』を演奏する。今回は教授役を宮本さん、女の役を風花に演じてもらった。今回風花の唯一の出番である。風花がステージに出ている間は、竜木マネージャーに舞台脇てのコントロールを代行してもらった。
(通常は舞台脇に風花、楽屋に鱒渕が居て、連絡を取りながら進行させる。舞台脇の管理者は演奏者から、とっさに相談されることがあるので、楽器のことが分かっている人でなければならない。それでギタリストである竜木に頼んだ)
『雪を割る鈴』を演奏する。
ここからまたヴァイオリンが入る。また、久美子・青葉がキーボードで入る。山森さんもエレクトーンで入る。
そして千里がバヤン、宮本さんがバラライカを演奏する。
バヤンは千里以外に弾ける人がいないので弾いてもらったが、彼女は熊のミーシャのかぶりものをかぶって演奏した。
最初サラファンを着て出てくるダンサーは山鹿クロムと三陸セレンに頼んだ。また鈴割り役は美崎ジョナにやってもらった。
前半のスローな演奏が一段落する所で美崎ジョナがRPGなどでありがちな感じの、女剣士の扮装で登場。
鈴を割ろうとしたが・・・空振りした!
距離は良かったが振った角度が悪く、鈴の横を通過してしまった。
この鈴は電動で開くので剣は当たりさえすれば良く、腕力を必要としない。また練習の時は(小鈴の入ってない鈴で)ジョナは、ちゃんと鈴に当てていた。本番であがってしまったのかも知れない。
想定外の事態に一瞬ヒヤリとしたが、サラファンで踊っていたセレンがパッと飛び出して「もう一度やるよ」とジョナにささやく。血の気が引いているものの頷くジョナ。
それでジョナとセレンの2人で剣を持って鈴をちゃんと割ることができた。
ハプニングが起きるのが生ライブの面白い所であるが、そういう時にどうやってリカバーするかというのも、出演者に問われる能力である。セレンは凄いと思った(バレエの舞台を何度も経験しているのもあったかも)。
自分が飛び出しかけた舞台脇の風花もホッと胸をなで下ろした。
鈴が割れると、多数の小さな鈴が飛び出してチャリンチャリンと凄い音がする。
セレンはクロムの隣に戻り、一緒にサラファンを脱ぐ。下にはテニスウェアを着ている(さすがに中学生をビキニ姿にはできない:着てと言ったら、本人たちは喜んでビキニを着そうだけど)。
後半のアップテンポの演奏になり、セレンとクロムも激しいダンスをする。ジョナもそのそばに寄って一緒に踊る。セレンの高速回転技やクロムのバク転技なども入り、物凄く元気の良い後半演奏になった。
演奏者を紹介する。
「バラライカ、宮本越雄」
「バヤン、熊のミーシャ」
ここで客席から拍手代わりに爆笑が返ってくる。
「熊さん、どこから来たの?」
などと観客席から質問が飛んでくると、本人(本熊?)はマイクを取って
「ウクライナのキエフ生まれでアゾフ海でチョウザメ食べて育ちました」
と答えていた!
気を取り直して紹介を続ける。
「ダンサー、三陸セレン・山鹿クロム」
「鈴割り、美崎ジョナ」
ここでジョナは
「失敗してごめんなさい」
と深く客席に向かってお辞儀をしたが、客席からは
「ジョナちゃん、どんまいどんまい」
「次は2個割ろう」
などという声が返ってきて、ジョナは暖かい声に涙ぐんで再度お辞儀をしていた。
『青い豚の伝説』、『コーンフレークの花』とダンスナンバーが続き、セレンとクロムはテニスウェアのままダンスを続ける。ジョナも女剣士の格好のまま一緒に踊る。むろんストリップはしない!中学生にストリップをさせたら私が逮捕される。
この曲が終わった所でいったんダンスしていた3人は退場する。
『フック船長』を演奏する。
ウェンディの扮装の鈴原さくら、ティンカーベルの扮装の薬王みなみが入ってくる。ウェンディは地面に落ちている“影”を拾って困惑している。曲の途中まで行った所でフックの扮装の山鹿クロムが入ってきてウェンディを脅すが、続けてピーターパンの扮装の三陸セレンが入ってきて、フックと戦う。クロムは右利きだが、ちゃんと左手で剣を持っている。戦いは1分近く続くが、そこに時計の音が響き、フックは慌てて逃げて行く。
目覚まし時計を手に持った宮本さんが入ってくる。カチッカチッという音がしている(実際にはメトロノームの音)。ピーターパン・ウェンディたちは静かに退場する。
宮本さんの持つ目覚ましのベルが鳴り出す。宮本さんは何とかベルを停めようとあちこち触るが停まらない。床に投げつけても停まらない。最後はお玉を取り出して叩くと、やっと停まる。
ここで曲も終わるが、宮本さんは手に持つお玉を見て首をひねっている。そこに観客から「ピンザンティン」という声。
それで『ピンザンティン』を演奏する。セレンとクロムが走り込んで来て、私とマリにお玉を渡す。セレンとクロム自身もお玉を持っている。モニターの向こうで多数のお玉が振られている。さくら・みなみ・ジョナもお玉を持って出て来て、一緒にお玉を振りながら踊る。
そしてライブは興奮の中クライマックスとなる。
ここでいったん緞帳が下りる。
客席の手拍子がゆっくりとしたリズムのものに変わる。「アンコール!」という声も響く。30秒ほど待って緞帳が再度上がる。
『影たちの夜』を演奏する。この曲は演奏するのは、Gt.近藤 B.鷹野 KB.詩津紅 Dr.酒向 ASax.七星 Mar.月丘 とスターキッズの基本構成のみだが、それ以外の出場者は全員黒い服を着ていて、みんな曲に合わせて踊る。“影たちの踊り”なのである。
興奮の中演奏が終わると、私とマリ以外は全員退場する。
PAのスイッチが切られる。自然音響の状態になる。
私は客席に向かってアンコールの御礼を言う。私はホールの時計の秒表示を見ながら語る。
「では本当に最後の曲です。『あの夏の日』」
私は、スタインウェイ&ソンのコンサートグランドの前に座り、マリもその隣に立つ。そして私の伴奏に合わせて2人で、ローズ+リリーの出発点になった曲『あの夏の日』を歌った。
歌唱が終わり、コーダの最後のピアノの音の余韻が消えた所で、大きな拍手が鳴り響く。
スピカが舞台下手端で「本日の演奏はこれを持ちまして終了しました。ありがとうございました」というアナウンスをした所で放送時間終了となった。
ライブ終了後、美崎ジョナが鈴割り失敗の件で私たちの所に謝りに来たが
「一度失敗というのを経験しておけば、次からは大胆になれるものだよ」
と言って、笑って励ましておいた。
「まあハプニングってあるよね」
とマリが言う。
「ヴァイリンやギターの弦が切れちゃうのとかはよくあるし」
「予定と違う曲の伴奏をされちゃうくらいも割とある事故」
「あ、それは私も経験あります」
とジョナ。
「演奏者が転んで楽器が壊れたというのもあったし」
「ヴァイオリンの弓が新品で松ヤニが塗られてなかったとか」
「それは酷い」
「ピアノの調律がずれてたとか」
「エレクトーンが壊れてて鳴らなかったとか」
「特定の鍵盤の音が出ないってのはわりとあるよね」
「1音や2音程度なら弾き方を工夫して何とかなる」
「わぁ・・・」
「観客の投げたテープがドラムスのタムの上に乗っちゃったとか昔はあったね」
「ひゃー」
「落雷で全部電源が落ちちゃったこともあったしね」
「ああ、松島でやった時は大変だったね」
とマリが言っているが、私はその前に苗場でもこれを経験している。
「停電でコンピュータ制御の照明のプログラムが蒸発しちゃったというのも昔はあった」
と八雲課長。
「昔はUSBメモリーなんて便利なものが無かったからね〜」
「そうそう。だから80年代頃は本番前に3時間くらい掛けて現場でプログラムを手入力してたのよ」
「大変だったんですね!」
「伴奏者が迷子になってて居ないとか」
「伴奏者が居ないという事故はわりとよくある」
「伴奏者が警察に逮捕されちゃったこともあったし」
「何したんですか!?」
(2016.12.24 アクアの博多ドームでのライブでキーボード奏者が実は爆弾犯で、本番前に逮捕されキーボードを弾く人がいなくなったという事故?があった。千里が初見に近い状態で弾いてくれた)
「ともかくも何とかして弾ける人を調達する」
「バスケットの試合で審判が来てないってのがあったよ。協会側の手配ミスで」
と千里が言うと
「うっそー!?」
とジョナが驚いている。
「観客の中で審判できる人いませんか?って募集してやってもらった」
「凄い」
「いやスポーツの試合をわざわざ会場まで見に来る人なら、自分でもやるという人は結構多いはず」
「なるほどー!」
「歌う本人が来てないというのも時々あるよね」
とマリが言う。
「どうするんですか?」
「それに関しては、わりと人には話せない話が多い」
「うーん・・・」
「メンバー同志でステージ上で喧嘩になって1人が帰っちゃったというのもあったね」
「ありゃあ」
「あのバンドはそれを翌年も同じ会場でやらかした」
「お客さん可哀想」
(某外国バンドの実話)
「観客がステージになだれ込んできて楽器とかも破壊されたこととか」
「きゃー」
「上から人形が落ちてきて楽器が壊れちゃったこともあったし」
「こわぁ」
「刃物で刺されそうになったり、銃で撃たれそうになったり」
「え〜〜!?」
「赤ちゃんが産まれちゃったってのもあったし」
「うっそー!?」
(コンサートではないが、某有名女優が若い頃に舞台でやらかした実話。無理しないでと周囲が言うのを「大丈夫。まだ出てこない」とか言って出演したら舞台でジャンプした拍子に、赤ちゃんが飛び出してしまった。飛び出したということは産道移動中だったはずで、凄まじい陣痛が来ていたと思うが、よくまあその状態で演技したものである。恐ろしい精神力だが・・・休めよ!)
「出演者が性転換しちゃったこともあったし」
とマリが言っている。
「ステージ上でですか!?」
と、ジョナはそういう事態は想像がつかないようであった。
「まあ何か起きても『この後どうするか』ということだけ考えればいい」
「そうそう。私たちは常に前を見て行動しなければならない。未来は変えられるけど過去は変えられないんだから。反省なんてライブが終わった後ですればいいんだよ」
「とにかくその場をうまくまとめることが大事」
と風花が言うので、ジョナも考えているようだった。
とにかくも彼女には良い勉強になったようである。
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