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■夏の日の想い出・いろはに金平糖(19)
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1月26日(水).
この日はアクアを代々木のマンションに訪ねた。女性アーティスト?なので◇◇テレビは女性のカメラマンを付けてくれた。今日は27-28歳くらいの人で赤原さんと言った。
マンションの前でアクアに連絡し、エントランスを開けてもらう。発行されたカードをエレベータでタッチするとゴンドラは18階まで行く(つまりロック解除した住人のフロア以外には行けない)。1803号の前に行く。部屋番号の所を白い紙で隠してから撮影スタート。高級マンシヨンだけあってドアからして凄い。普通のマンションのドアのイメージではない。両開きで、豪邸のドアという感じ。多分このドアだけで数百万する(放送時もさすが!と言われていた)。
ピンポンを鳴らすとアクア自身がドアを開けてくれた。
「どうぞどうぞ、お待ちしてました」
と言って笑顔で中に入れてくれる。
アクアはノーメイクで、紳士物のスーツを着ている・・・ように見えたが、よく見ると、カルバンクラインのマニッシュスーツである。つまりレディスである!(アクアの身体に合う紳士用スーツなど存在しない)
だいたい明らかに、おっぱいがあるし!
ズボンは身体にフィットするフォルムだが、お股には何も突起らしきものは無い!むろんこのズボンに前開きは無い。
それでも放送時には
「どうして女の子の服を着てないの〜?」
と非難する声が圧倒的だった。
しかし私たちは彼の服装には特に突っ込まず、
「お邪魔しまーす」
と言って、中に入る。LDKの低いテーブルのソファ(脚無し)に、アクア−青葉−朱美−はるこ−私、と5人で座った。ディレクターさんは少し離れた所の椅子に座り、カメラさんは床に座り込んで撮影している(腰より下を絶対映さないよう気をつける:このあたりは女性カメラマンでないと難しかった)。
竜崎由結が出て来て、みんなに紅茶を出す。ディレクターとカメラさんには、お盆に載せて出した。朱美はお砂糖とミルク、はるこはスリムシュガーとミルクを入れていた。
「こちらはボクの個人マネージャーの竜崎由結ちゃん。ボクはATMとかに行く時間が取れないから、ボクに代わってお金を下ろしてきたりとか、郵便物のチェックしてくれたり、車の給油や充電をしておいてくれたり、あと日常の買物をお願いしたりとかしてるんですよ」
とアクアは説明する。
「付き人に近いけど、彼女は業務には関わりません。家政婦にも似ているけど、むしろ家政婦は関わらないようなセキュアな作業が多いんですよね。たから個人マネージャーと呼んでいます」
「まあアクアがスーパーで買物してたらサイン求める大行列ができちゃうね」
と青葉が言う。
「ええ。だからそういうことはしないように言われてます。うかつにコンビニとかも行けないです」
「不便だね」
「竜崎さんはここに住んでるの?」
「住まいは八王子です。このマンションの鍵は持ってますけど、日中しか来ないから、実はアクアちゃんと1ヶ月くらい顔を合わせないことがあります。連絡はメールで」
「アクアが日中自宅に居るという事態が希(まれ)だよね!」
竜崎由結はお辞儀して下がる。彼女に関わる部分はカットしたので彼女の顔は放送には流れない。彼女の仕事内容から考えてもテレビで映すのはよくない。
「でもここ床が暖かい」
「ホットカーペットですから。食事している内にうっかり眠ってしまうこともあるんですけど、これのおかげで風邪を引かなくて済みます。ちなみに、ロー・ソファー使っているのは、脚のあるソファだと、うとうとした時に転げ落ちてしまうからです」
「なるほどー!」
「それ切実」
「家の中で骨折しかねない」
「それにアクアは、風邪引いてる暇も無いよね」
と朱美が言う。
「全く全く。スケジュール表がびっちり埋まってるから、とても休みなんて取れない。ボクが風邪引いたら、きっとセシルちゃんとかビーナちゃんとかが悲鳴をあげる」
「だよねー」
「でも同じ事務所の人にインタビューするのは何か変だ」
と朱美は言っている。
「ラピスラズリに取材する時は、アクアちゃんに代わってもらおうか」
「ああ、それでもいいですよー」
「ちなみに、うちの事務所では“先輩”とか“後輩”というのは無し。お互いに“ちゃん”付けで呼び合うというのがルールになってるんだよね」
とアクアがカメラを向いて視聴者向けに説明する。
これを説明しないと、朱美が事務所の大先輩に対してため口で話すなんてと思う人があってはいけない。
「私も最初入った頃は、“高崎ひろかさん”とか“品川ありささん”とか、つい言っちゃって、叱られた」
と朱美が言うので、離れていた席に座っていた長江ディレクターが
「叱られるんだ!?」
と声を挙げる。
「芸能界では“ちゃん”が一般社会での“さん”に相当する敬語だから、先輩後輩関係無く“ちゃん”で呼び合うんだと言われました」
と朱美は言う。
「アメリカでは会社でも“先輩”“後輩”というのは無くて、全員“同僚”なんだとコスモス社長が言ってました。やはり“先輩・後輩”って、年功序列社会の産物なのかも、さすがに他の事務所の年上や若くてもキャリアの長い人には“さん”で呼びかけますけどね」
「そしてボクだけはなぜかみんなから“アクア”と呼び捨てされる」
と言ってアクアは笑っている。
「なぜそうなったのかは分からないけど一説によると“アクア”ということば自体に敬称が含まれているんだとか。“社長”とか“部長”という言葉に敬意が含まれているのと同じだって」
と朱美。
「この後、イグニスとかテラとかアエルとか(*19)いう人が入ってきたら同様に呼び捨てされるかもね」
とアクアは言っていた。
(*19) アクア(Aqua)はラテン語で“水”の意味。ignis(火), terra(地), Aer(空気) と合わせて古典的な“4元素”(Quattuor elementa).
アクアの生い立ちや、子供の頃の病気については触れず、主としてオーディション以降のことを話す。
「元々オーディションは、友だちが応募して、その子が自分1人では不安だからと言って、ボクの分まで勝手に応募しちゃったんだよね。埼玉県予選はその子と一緒に合格したんだけど、本人は親の芸能活動許可証をもらえなくて関東予選を辞退しちゃって。え〜〜!?と思ったけどね」
「でも芸能人って、わりとそういう形で出て来た人多いですよね」
「そうそう。本人の妹とか友だちとか、中には通りがかりとか」
アクアの初期の出演作、ときめき病院物語、ねらわれた学園などのスティル写真を朱美が提示する。セーラー服姿が可愛い。
「ちょっと懐かしいなあ」
「どちらも1人2役することになったのは緊急事態への対処のためだったんでしたね?」
「そうなんだよ。『ときめき病院物語』は元々、神田ひとみちゃんがお姉さんで、ボクが弟を演じる予定だった。ところがひとみちゃんが突然結婚引退して、それでもう撮影スケジュールが迫ってて代役を確保できなかったんで、ボクに兄と妹の2役をやってくれという話になって」
「姉と弟から兄と妹になったんだ?」
「うん。神田ひとみちゃんの役は女子高生だったんだけど、さすがに当時のボクには女子高生を演じるのは無理だった」
「あれは女子小学生で通る感じだったよ」
と私はコメントした。
「『ねらわれた学園』も、本当は高見沢みちるは榊森メミカちゃんがする予定だったんだけど、メミカちゃんが急病(*20)で降板して、ボクに関耕児と高見沢みちるの2役をしてくれと言われて。当時は男の子みたいな声を出せなかったから、ボイスチェンジャー使って。でもお陰でクラス会での対決まで高見沢みちるを誰が演じているかを秘密にすることができたね。あれで演じてるのは誰かって凄い盛り上がったし」
(*20)実は“声変わり”という病気!
「今ならサプライズになりませんね」
「ボクのダブルロールが定着しちゃったからね」
「あの番組は横川れさとちゃんの降板もあったよね」
と私は言う。
「そうなんです。れさとちゃんが収録前夜にストーカーの男に刺されて重傷を負って、それで西沢響子を青山玲子役の予定だった馬仲敦美ちゃんがして、青山玲子は名も無い生徒役だった今井葉月がするという玉突きが起きたんです。セリフ覚えるのも大変だったけど、役作りに苦労したんで、初回では役のキャラがやや不安定になったんですよ」
「役作りまで辿り着かないよね!」
「それで1人で男女2役するのが2回続いたら、その後も男女2役の話ばかり来るようになっちゃって」
とアクアは言っている。
「まあそれでボディダブルの今井葉月(ようげつ)の重要性が出てくるんだよね」
と私は言う。
「葉月(ようげつ)とは背丈や体型が近いし、雰囲気も近いし、あの子、ボク以上に演技力があるから、代役として最高だったんですよね」
とアクア。
「でも今後はやはり女性役が中心になりますよね?」
と朱美。
「できたら男役がしたいんだけど」
「まあ若い内は男役もできるかも知れないですね」
朱美はワザと言ってるなとアクアは思ったもののスルーしておく。
今年7月に発売された写真集『鏡迷宮のアクア』の中の写真もいくつか提示する。アクアが眠り姫に扮した写真、白雪姫に扮した写真、シンデレラに扮した写真、人魚姫!に扮した写真。
わざとこういう写真を選んだなとアクアは思う。
特に人魚姫に扮した写真は、明確に豊かなバストが見える。
「大人の女になりかけの様子がすごくよく出てますよね」
などと朱美が言うので
「まあフェイクですけどね」
とアクアは言っておく。
現在公開中の映画『白雪物語』についても話す。
「もう白雪姫は母と戦って勝つものというイメージが定着しましたね」
「やはり今はそういう白雪が好まれるようになったんだと思います。王子様が全部してくれるという時代じゃないんですよ」
「やはり女は強くないといけないですよね」
「同感です」
ということで、ここでアクアと朱美は意気投合する。
「『ロミオとジュリエット』に続いて大作になりましたね」
「さすがにああいう大きな作品を年に2つ撮ると消耗も大きかったけどね」
「精神力使うでしょうね!今年の出演作の予定とかはまだ決まってないんですか?」
「私のスケジュール表の4月から7月が空いているんですよ。仕事の話が来ても全部舞音ちゃん、ラピス、リズム、セシル、ビーナに振り分けてるみたいで」
「こちらは4月から12月までのスケジュールが全部埋まりました」
「何を撮るのかはまだ聞いてないんですけどね」
「今度はぜひ女の子役オンリーで」
「そういう話はお断りします」
(この会話部分は放送時に「これは1月に取材したものです」というテロップが入った)
ある程度話したところで、LDKに隣接するピアノルームに移る。
「広いですね」
「このピアノを弾くには最低この広さが必要なんですよ」
とアクアが言うと、朱美もはるこも頷いている。
「ここは和室2つを改造したものですか?」
と朱美が部屋の真ん中に鴨居があるのを見て言う。
「そうです。襖で区切られていたんですが、その襖を取り外して、2部屋まとめて防音・音響工事をしました。畳も取り外して、床にも防音と音響の仕組みを造り込んでいます」
ここは元々6畳の和室と同じ広さ6畳のサービスルームがあったのだが、アクアが言ったように、間の襖を取り外し、2部屋を一体化した音響工事をしている。畳も取り外して代わりに防音板を敷いた上にOAフロアのブロックを置き、壁・天井も防音板から5cm空けて木製の壁板・天井板で覆っている。壁板・天井板は優しい響きを生み出すスプルースを使用している。
「いいピアノですね〜」
と言って、はるこが置かれているグランドピアノに触っている。ここに置かれているのはYamaha S3X である(*21).
東雲はるこがS3Xを弾いて伴奏し、アクアは『白雪物語』から『白い恋の物語』を歌った。その美しい歌唱に、私たちは笑顔で拍手を送った。
「ついでに『金銀ハート』とかも歌いません?」
「あれは北里ナナちゃんの歌だからね」
「今日は北里ナナちゃんは出てこないんですか?」
「ボクは男の子のアクアだからね」
と朱美とアクアは軽くジャブをかわした。
(*21) 2019年11月に代々木のマンション(10階のほう)を買った時に、田代母と話しあい、このピアノを買った。当時はLDK内に“置いた”ヤマハの“防音室”(屋内設置型防音ルーム)に入れておいた。1年後の2020年11月、彩佳たちが自分たちのマンションが崩れそうと言ってここに避難してきた時、彼女たちが生活するのに邪魔だろうと考え、同年8月に買っていた18階の部屋(今居る所)に防音室ごと移動した。その後、和室とその隣のサービスルームが空いてるしと思い、そこを改造してピアノルームにしたのである(衣類など大半の荷物は八王子に移動したので、ストックルームが不要になった)。
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