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■春牛(18)

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同じく4月1日。
 
吉田邦生(よしだ・ほうせい)は入社することになっていたH銀行の入社式に出るため、紺色のビジネススーツを着て富山市の入社式会場に向かった。
 
この銀行は金沢市で創業したが、支店は石川・富山両県にまたがっており、本部は現在、富山市におかれている。吉田は金沢支店に勤務する予定である。支店とはいっても、実はH銀行創業の地に立つ支店で、石川県本部のような地位の大きな支店である。
 
会場は富山市内のホールの予定だったのだが、帝国紡績工場跡に変更になりましたという通知が来ていた。そして車を運転してこれる人は車のまま集まって下さいということであった。吉田は母のミラココアを借りて、カーナビにその住所をセットし、出かけて行った。母はこの車を通勤に使っているのだが、一週間はバスで通うよと言ってくれた。
 
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会場入口で窓を開けて書類を見せると最初に体温計と紙を渡される。鼻をかんでくださいと言われたのでその紙で鼻をかんで差し出されたトレイに置いた。体温計は36.2度だった。
 
「それでは中に入って下さい。空いている駐車枠に前の方に詰めて駐めて下さい」
 
と言われたので進入して空いている所に駐めた。袋の中身を見ると、1つは様々な書類の類いと、もうひとつは制服のようである。制服があったんだっけ?普通のスーツでいいみたいに聞いていたけどなあと思う。書類入れの中にネックストラップのついた赤い縁取りの社員証があったので首に掛ける。タブレットが入っているので、吉田は(外光が少なく画面が見やすい)後部座席に移動して、タブレットのスイッチを入れた。
 
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吉田のミラココアの隣にはラパンが駐まった。が、運転してきた人は降りて行ってしまう。どうも車で乗り入れなかった人は適当な車に乗せて駐車場内に駐めるということのようである。とにかく多人数が同じ閉鎖空間を共有しないようにという方針のようである。
 
ラパンの後部座席には女子が2人乗っている。こちらも向こうも窓を開けているのであちらの会話が聞こえる。どうもスカートの裙の長さを気にしているようである。
 
「あんた、それ短かすぎない?」
「立って膝がギリギリ出るくらいと言われたんだけど、これ以上長いと膝が隠れてしまうんだよね」
 
女子はそんな面倒なことまで言われるのか。大変だなあ、などと思った。
 
タブレットのスイッチをまだ入れてない人は入れて下さいという場内アナウンスがある。やがてタブレットの画面に頭取さんが登場し、入社式が始まった。
 
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頭取の挨拶のあと、何とか部長とか課長とかが登場し、社会人としての心得、銀行員としての心の持ちようのような話が続き、H銀行の社歌が、伴奏の音に歌詞・楽譜まで表示されるので、それを歌って入社式は終了した。
 
その後、午後からは研修センターに移動して、このあと1週間新人研修と言われる。バスで移動するので、車はそのままここに駐めておいて下さいということだった。何台ものバスが来ている。車を降りて列に並ぶが、バスの乗り口の所で社員証をタッチする。すると時々連れ出されて何か言われている人がいる。どうもさっきの鼻かみ紙でウィルス検査をして陽性だった人を退去させているようだ。研修免除になるのだろう。実際にはインフルや普通の風邪が多いようだ。
 
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吉田は何も言われないままバスに乗り込む。そして南砺市にある研修センターまで行った。入口で社員証をタッチすると部屋割の印刷された紙が出てくる。部屋で制服に着替えてきてくださいと書かれているので、その紙を持って吉田は408号室に行った。部屋に入ると、まだ誰も来ていないようである。それで制服に着替えるのに吉田はスーツの上着とズボンを脱いだ。
 
そして紙袋の中にある制服を取り出して、困惑した。
 
「これ女子用じゃん。間違って入れられているよ」
と吉田はつぶやく。
 
最近は女子でもズボンの制服という企業は時々あるが、男子にスカートの制服を着せようという企業はたぶん日本には無いだろう。
 
それで、いったん服を着て係の人に言いに行こうとした。ところが吉田がまだ服を着ない内に、ドアを開けて“女性”が2名入って来た。
 
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そしてワイシャツと下は下着だけの姿の吉田を見るなり
「きゃー!」
と悲鳴をあげた。
 

同じく4月1日。
 
世梨奈は入社することになっている金沢市内のJ交易に向かった。初日なので女性用ビジネススーツを着て、新しく借りたアパートを出る。
 
バスに乗っていったん金沢駅まで出てから乗り換えて、会社のある所まで行く。もっと近くにアパートを確保できればよかったのだが、中心部にはあまり安いアパートが無かったのである。
 
会社はバスを降りてから5分ほどのビルの4階である。エントランスを入り、エレベータで4階まで上がる。J交易はエレベータを降りて右手に行った所にある・・・はずだった。
 
ところが、世梨奈がそちらに行ってもそれらしきオフィスが無い。
 
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「あれ〜?階を間違えたっけ?」
と思い、会社から送られてきていた書類を取り出して見る。
 
確かに「**ビル4F」と印刷されている。
 
実は就職の面談とかは駅近くの貸し会議室で行われたので、会社に来るのは今日が初めてなのである。
 
まさかビルを間違えた?と思い、いったん1Fまで降りてエントランスでビルの名前を見る。確かに**ビルと書かれている。
 
世梨奈はエントランス入ってすぐの所にあるテナントの一覧表を見てみた。確かに4Fの所にJ交易の名前がある。世梨奈は再度エレベータで4Fまであがった。しかしJ交易の事務所は見つからない。
 
困っていたら、近くの##信販という看板のある事務所から出て来た女性が世梨奈に声を掛けた。
 
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「何かお探しですか?」
「あのぉ、このビルにJ交易ってありませんか?」
「あなた債権者?」
「さいけん?」
 
「J交易は倒産したんだよ」
と女性は言った。
 
「え〜〜〜〜!?」
と世梨奈は驚いて声をあげた。
 

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仙台のクレール青葉通り店のビル“クレール青葉通りビル”は4月6日(月)に竣工して引き渡しが行われたのだが、その時期青葉は東京で日本選手権をやっている最中で行くことが出来ない予定だった(結局日本選手権は中止されたが、どっちみち遠距離の移動は自粛になった)。
 
和実からは竣工した時点で変なもの(幽霊や妖怪など)が入ってこないように結界を作って欲しいと頼まれていたのだが、これをどうしようと悩んだあげく、結局和実にセルフサービスでやってもらうことにした。
 
3月7-8日は復興支援イベント(おりしも流行中の新型コロナウィルスの感染拡大を避けるため“無観客”の宮城ハイパーアリーナからリアルタイム中継という変則的なイベントになった)で仙台に行き、翌9日にはまだ建築中のクレール青葉通り店ビルに行ったので、この時、基礎的な仕掛けを作っておいたのである。
 
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そして和実には遠刈田のこけしを4体とそれを入れるプラスチック製の筒に水晶玉を渡した。
 
「これを建物の引き渡しを受けてから、建物の最上階四隅に置いて欲しいんだよ。こけしは外側向きにして。その後でこの水晶玉を和実が建物の中心部分で握って「結果作動!」って心の中で言えば、それで作動するから」
 
「私がそれしていい訳?」
「和実だからできる。和実はまだ充分能力の高い巫女だからね」
「そうかな」
 
「置くって単に置けばいいの?固定しなくてもいい?」
「この人形は固定したらダメなんだよ」
「誰かが動かしたら?」
「できるだけ触られにくい場所に置いてほしいけど。そうだ。ムーラン建設さんに頼んでさ、追加料金は私が払っていいから、最上階の四隅に近い所にこれを載せられる籠みたいなのを取り付けてもらえないかな。普通の人の手が届かない高さに」
 
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「ああ、それはできると思う。それでそこに載せればいいのね」
「うん。ただし載せるのは和実自身でやって」
「頑張る」
 
そういう訳で、ここの結界は和実自身の手で作動させたのである。竣工式には千里も来てくれたのだが「おお、凄い結界が作動した」と言ってくれたので、うまく行ったのだろう。和実自身にも強い結界ができたこと自体は分かった。
 
こけしを置いた6階は、警備員が巡回する以外はほとんど人が通らないので、こけしを誰かが悪戯するような恐れもない。
 

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感染症対策だが、クレール青葉通り店のビル自体のエントランスの所にアルコール消毒器を置いている。感応式の水道蛇口みたいな仕組みで、手を差し出せばアルコールが噴出して手を消毒してくれる。またマスクをしていない客には無料でマスクを配布し、店内ではマスクを付けて過ごして欲しいということにした。実はマスク目的で来店している人も若干いるようだが、それは構わない。また入口に赤外線による体温チェックシステムを作り、熱のある人は入店拒否する(自動でゲートが閉まる)。このため、店の入口に警備員を立たせている。
 
クレールの店内には強制換気システムを作り込んでウィルスが室内に漂っている状態にならないようにしている。この仕組みは若林店にも作り込み、若林店でもマスクの無料配布をしている。飲食の際はマスクはつけられないが、飲食が終わって歓談したり、お勉強やお仕事などする人はマスク付けておいてねと案内している。
 
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クレールの店内は青葉通り店の場合、本来4人掛けのテーブル70個で定員280人なのだが、各テーブルは最大2名とし、3人以上が席に着くのを禁止した(幼児連れの客を除く)。そしてテーブルの周囲に透明ビニールで仕切りを作り、店内は強制換気でかなり強い空気の流れがある。排気はボイラーの中を通すようにし、ウィルスが絶対ビル外に出ないようにすることで、周囲のビルの理解も得ている。そしてこのクレールを絶対安全空間にすることで、他の店舗の安全性も確保する戦術を採ったのである。
 
美容室トワイライト、§§グッズのお店、に関しては各々の店内で客を待たせないようにし、予約制とした上で、予約より少し前に来た人はクレール店内で待ってもらうことにする。そしてスマホで順番が来たことが表示されてから店内に入ってもらうことにした。美容室はセット席の数(かず)分の人数しか中に入れないし、§§グッズのお店も1度に店内に入れるのは1人だけとし(友人や恋人・家族は2人まで可)、買物は5分以内に済ませて次の人に譲ってもらうことにした。待っている人には店内商品のカタログを渡して見ておいてもらう(カタログは返還不可:不要ならゴミ箱に捨ててもらう)。
 
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パン屋さんも店内に1度に入るのは1人だけとして外で待つ人も5人以内(列は“横向き”に並んでもらい2mの間隔をあける:床にテープで位置表示)。それ以上待ち行列ができる場合はクレール店内で待ってもらう。そのため整理券発行機を設置し、クレール店内に順番が来た人の番号を表示するようにした。パンは全て個包装で、ガラスケースの中におき、番号を伝票またはスマホで指定して店員に伝える。
 
クレールも、美容室・§§ショップも、パン屋さんも支払いは原則としてPayPay等のスマホ決済である。現金の受け渡しを無くすことで感染防止に努める。カードにしても客が自分で挿入あるいはタッチする方式で、店員は絶対にカードに触らない。
 
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またクレール自身、パン屋さん、ムーランルージュも予約して先に商品を袋詰めしておき、来たらすぐ受け取れるようにするパターンを設定。繁忙時間帯以外ではデリバリーも積極的におこなう。クレールもテイクアウト用のランチセット、ティータイムセットなどを作った。カフェラテ自体、ミルクの注ぎ口を使用して模様を作るものだけとし、コーヒースティックでお絵描きするタイプは当面の間、使用しないことにした。
 

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そしてメイドさんの衣装だが、和実がいうところの“プラスチックスタイル”に進化させた。
 
プラスチックスタイルというのは、元々永野護『ファイブスター物語』に出てくる“ファティマ”(巨大戦闘ロボット“モーターヘッド”の操縦補助をする人造人間。多くは女性)が着る服のスタイルである。物語当初に多くのファティマが着ていたのはデカダンスタイルと言って、女学生のような可愛い感じの衣装だったが、ある時点で、人間を惑わすような可愛い服は禁止という法律ができて、代わりにファティマが着るようになったのがこれである。無機質で未来的なデザイン。ファンにも不評だったが、魅力的でない衣装という設定だから仕方ない。
 
クレールで採用した“新メイド衣装”は、服の袖は、てのひらの途中までを覆い、シルクの手袋(実は内側はゴム)をしている。顔はフルフェイスヘルメット!だが、頭部はけっこうファッショナブルなデザインで、各メイドの好みで、王冠や動物・花・飛行機など様々な形が作られている。実は3Dプリンタで作ったものである。顔の部分は透明プラスチックになっており(それでプラスチックスタイルと称する)、普通のマスクよりはるかに感染防止効果が高い。外側と空気を遮断しても大丈夫なように実は服の中に空気ボンベが内蔵されている。いわば簡易宇宙服である!口元が見えるので、普通のマスクよりお客さんには好評だった。実は1着10万円製造費が掛かるのだが、若葉が「プレゼント」と言って、寄付してくれた。
 
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ボトムはスカートではなくパンツであり、とにかく一切肌が露出しないようになっている。ただしパンツの上に白いミニフレアースカートをオーバースカートしている(実はエプロンを兼ねていてこまめに交換・洗濯)。
 

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