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■春牛(15)
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2020年3月2日(月).
龍虎は3年間通ったC学園高校を卒業した。卒業式にはFが出席し、そのあと教室で担任の先生から卒業証書を受けとったのはMである。
この日の卒業式はコロナの影響で、卒業生と3年の担任、校長・教頭のみでおこない、来賓は無しで在校生も出ない。出席者はマスクが調達できる人はつけてと言われたが、だいたい8割くらいの子が着けていた(どうしても入手できない子が結構いたようである。実は彩佳と桐絵の分は龍虎があげた)。
また卒業生の名前を呼び上げるのもやめて卒業生総代(元生徒会長)が代表して卒業証書を校長先生から受けとった。また謝恩会の予定があったのも中止された。
龍虎は卒業式が終わった後、田代の両親と一緒にケンタッキーを買って帰り、自宅マンションで、クラスメイトであり、小学校以来の友人である彩佳・桐絵たちと“ネット祝賀会”をした。彩佳・桐絵はこの日は熊谷から出て来た両親と一緒にホテルに泊まっている。
「じゃ過労死しないようにね」
「コロナにも気をつけてね」
「自分を大事にしてね」
という温かい言葉と
「セックスしたくなったら、そのくらいさせてあげるからね」
などという大胆な言葉に
「性転換手術受ける時は付き添いしてあげるからね」
といった親切な?言葉までもらった。
2020年3月、大手自動車メーカーから“アクアのアクア”が発売された。
人気タレントアクア×人気車種アクア
というコラボ企画である。
(車)アクアのCrossoverタイプをベース車とし、カーナビ&オーディオ、ETC、バックモニター、イモビライザー、ドライブレコーダー、後部座席テレビにエアロパーツなど様々なオプションをフル装備した上で、(俳優)アクアのイメージカラーである水色の塗装に、波を表現したアクアマークのエンブレムをフロントグリルやアルミホイールにつけている。その他、側面や背面に貼り付ける天の川シール、左右黒と白の招き猫アクアシール!そして車内のステアリングやダッシュボードにもアクアマーク、座席カバーもアクアの水色でもちろんアクアマーク入りである。また(車)アクアでは珍しい前席ベンチシートが採用されている。
(エアロパーツの分、普通のクロスオーバーより少しサイズが大きくなるが、どっちみちクロスオーバーは元々3ナンバーである)
価格は300万円ジャストで、通常のAQUA Crossoverにフル装備のオプションを付けたものよりアクアのブランド料として10万円ほど高いとメーカーの人は言っていた(が、車情報誌が計算したのでは逆に20-30万円ほど安いという結果になった:雑誌によって計算結果が微妙に違う)。
アクアだらけであることを除けば中性的なデザインだったし機能的にフル装備で実用性も高かったことから、この車の実際の購入者男女比は、女7:男3であった。年齢層もアクアの幅広い人気を反映して20代から50代まで広い年齢層になっていた。気恥ずかしいのか招き猫アクアシールなどは貼らずに使用する人も(特に男性や40代以上の購入者には)結構居たようである。
この車のCMはもちろんアクアが行っている。富士スピードウェイ、石川県のなぎさドライブウェイ(普通の車で走れる砂浜)、北海道の稚内港北防波堤ドーム(アーチの連続が美しい)、そして東京のアクアラインで撮影した映像を使用しているが、全てアクア自身が運転している(実際に運転したのはF)。
この企画は昨年の夏頃から§§ミュージックと自動車メーカーの間で打ち合わせが進み、アクアが運転免許を取得して最低3ヶ月以上500km以上運転してから撮影するという条件であった。距離数に関しては実はポルシェを使っての中央道・新東名の往復で(藤野PA-八王子)745kmを運転して軽くクリアしている。更に気球の練習からの帰りで12日間で1400km走っているし、それ以外でも10-12月の3ヶ月ほどの間に、週3日くらい Honda CR-X, Volvo V40 PHV, そして Toyota AQUA Crossover(つまりCF撮影で使用するのと同型車)などで毎回5-10kmくらいずつ300km以上運転していて2400km程の運転歴を積み上げていた。
実際に撮影したのは、3月3-6日(火水木金)の4日間で、アクアは千里・コスモス・山村と一緒に、3日にアクアラインで撮影した上で、4-6日は静岡、石川、北海道に1日ずつ行ってきた。千里の運転する車に同乗して各々のコースを走った後で本人が運転している。撮影に使用したのは、東京と石川が1号車、静岡は2号車、北海道は3号車である。
アクア自身もこの“アクアのアクア”の3号車(北海道の撮影に使用したもの)をメーカーから頂いた(経理的にはギャラの一部)。これはこの後、アクアの日常の足として活躍することになる(但し運転は主として河合や高村などがする)が、そのままだと目立ち過ぎるので、外装のシール類はCF撮影後剥がしている。フロントグリルやホイールも普通の(車)アクアのものに交換している。室内のパネル・座席などのアクア仕様だけである。また実は特別仕様(VIP仕様)で通常より少し厚い板金で製作されており、窓やフロントガラスも防弾仕様のものになっている。その分重たくなっているので、実は燃費も悪化している。
アクアの送迎車は2015年のデビューから2018.9までアクアを使用していたものの、事故があった後、Volvo V40 に交換されていたのだが、1年半ぶりにアクアに戻されることになった。V40は姫路スピカが使用することになる。
このVIP仕様の“アクアのアクア”は10台だけ制作され、No.1はキャンペーンなどに使用、No.2の車体はメーカーの博物館に納められ、No.3をアクアがもらった。その他の車体の購入者(設定価格400万円)は下記である。No.1, 2, 5-10はダッシュボードにアクアの直筆サイン入りである。
No.4 (欠番)
No.5 松浦紗雪(ファンクラブ会長)
No.6 某やんごとなきお方(ファンクラブ番号6番)
No.7 マリ(ファンクラブ番号2番)
No.8 初期の頃からの支援者である江藤愛来(ファンクラブ番号36番)
No.9 このCMのプロデューサーである雨宮三森(ファンクラブ番号91番)
No.10 歌手兼レーサーの小野寺イルザ(ファンクラブ番号10番)
No.11 §§ミュージック(送迎の“目くらまし”に使用)
事実上のトップナンバーである5番を、かねてから希望を表明しておられた某やんごとなきお方にと予定していたのだが
「私、会員番号6番だから、車体も6番のがいいな」
とおっしゃるので、5番はファンクラブ会長の松浦紗雪が取ることになった。
マリは2015年以来リーフに乗っていたのだが、そのリーフは高校以来の友人である詩津紅が個人的に100円!で買い取り(備忘価額)、マリはアクアに乗り換えることになった。頻繁にあちこちぶつけているので、丈夫な車に乗り換えてくれてケイは少しだけ安心したようである。
雨宮三森が購入した車体は半年後に千里の浦和の自宅前に放置されていたので、以降千里が管理することになった(主として“千里1”が使用する)。
この車のCM中流れる曲はアクア自身が歌った『ぼくのアクア』で加糖珈琲作詞・琴沢幸穂(実際には千里2)作曲である。CDは、後述の映画の挿入曲『風まかせ』(岡崎天音作詞・大宮万葉作曲)と両A面で3月4日(水)に発売された。
青葉は2月も3月も時間の許す限り、ずっと津幡のプライベートプールで日本代表候補のメンバー(青葉・ジャネ・南野・竹下)で練習していたのだが、その日、ジャネが青い宝石ケースを持っているのに気づいた。
「もしかして婚約指輪?」
と尋ねると、ジャネは少し恥ずかしがるような顔をした。
「あの馬鹿がさ」
馬鹿って・・・・
「筒石さんですか?」
「JISSに入ろうとして検温に引っかかってさ」
「まさか、あれですか?」
「そうそう。COVID-19に感染していた。すぐマラに私の姉を装って車で迎えに行かせて、引き取ってきて、尾久のマンションに寝せて絶対外出禁止を言い渡して、それでマラが食事とかの世話をずっとしてたんだよ」
マソは水泳一筋だし、片足が使えないので免許取得にはハンドコントロールという手だけでアクセルやブレーキが操作できる装置を取り付けた車を用意して教習所や試験場に持ち込むなど、面倒な手続きが必要でもあり、現時点では免許を取っていないが、マラはオカマバーの経営者だったしバンドもやっていたので、車の運転ができる(当時はノアを運転していた。現在は既に死亡しているので!免許証は無いはずだが?)。筒石が車(Volvo XC90 T8 PHEV)を所有しているので、それを使ったのだろう。
「大変でしたね!」
「マラは今更コロナとか感染しないから」
「まあ幽霊さんには感染しないでしょうね」
「そうそう。でも私も念のためと言われて感染検査されたし、しばらく筒石との接触禁止を言われたし、JISSのプールや選手村の食堂、あいつが泊まっていた部屋とかも徹底消毒して、かなり緊張が走ったみたい。選手全員検査したけど幸い他には感染者は無かった」
「良かった」
日本水泳代表候補は、断続的に合宿をおこなっていたが、コロナ対策もあり、場所を分散していた。
女子長距離陣は津幡のプライベートプール(金堂や永井は各々自分のクラブ)、女子短距離陣が熊谷の郷愁プール(若葉が急遽選手のための宿舎を1週間で建設し、外部と接触が生じないようにした)、そして男子は短距離陣がJISS。長距離陣がNTC-Eでと分散ししている(食事も原則デリバリーにしていたが筒石の騒ぎで結局食堂は閉鎖されたらしい)。分散合宿は人間の密度を下げるのが目的だが、結果的にはみんなたくさん練習できるというので好評のようである。
3月24日、東京オリンピックの延期が決まり、翌日25日には水泳日本選手権の中止が決まった。
JISS,NTCおよび郷愁プールでの合宿は中止になり選手は各々の地元に戻った。
3月30日には、東京オリンピックは2021年の7月開幕とすることが発表された。
4月8日にはJISSなどのあるHPSCそのものが閉鎖された。しかし津幡組は自主的な練習を続けた。ただし水連からの要請にもとづき、練習時間をコントロールし、1度に3人以上はプールに入らないようコントロールすることになった。
「まあそれで元々丈夫な奴だから1週間で治ったけど、水連から言われて2週間は外出禁止を言い渡されて、日曜日にやっと外出許可が出たんだよ。
「仕方ないでしょうね」
「千里さんが深川のサブプールを開けてくれて、あそこをあの馬鹿専用にしてもらっている」
「ああ、そんなことしてましたか」
「25mプール4コースだけど、独占して24時間泳げるというので喜んでいる」
「郷愁村の方も24時間泳げるのが喜ばれていたみたいです」
「まあそれでさ。外出許可が取れたので、これを買ってきてくれた」
「そういうことでしたか」
「2週間にわたってずっと世話してもらって感激したとか言ってたらしい」
「つまりプロポーズされたのはマラさんですか?」
「そうそう。だから結果的に戸籍上は私があいつと結婚することになる」
「あのぉ、マソさんは?」
「私は来年の東京も目指すし4年後のパリも目指すよ。結婚なんかしてられない」
「でも指輪はマソさんが持っているんですか」
「うちの親に見せたからね。写真とか撮られた時にマラだと写らないから私が代役をした」
「こちらに来られたんですか」
「練習があるからといってトンボ帰りだけどね。マラの運転するボルボで往復」
「あのぉ免許は?」
「警察に見つからなきゃ平気。君康は運転が絶望的に下手だから、やらせられないんだよ」
「ああ」
でも大丈夫か?バレたらオリンピック出場停止くらうぞ。
「それでマラは指輪忘れてった」
「大事な指輪を忘れていくなんて、マラさんらしい」
「まあ、それで来年の東京オリンピックの後で結婚式をあげることになった」
「随分先ですね。でも、おめでとうございます」
「写真に写らないと困るから結婚式にも私が出てと言われたけど、初夜とか新婚旅行はマラに任せた」
「結局マソさんはバージンのままですか?」
「別に恋愛しなくても、私には水泳があるし」
「まあ水泳と結婚しているようなものかな?」
「それは君康もだけどね。まあ気が向いたら人工授精で赤ちゃんくらい産んでやってもいいよ。パリ五輪の後で」
「もしかしてヴァージン・マザーになる?」
「マリア様以来、2000年ぶりの奇跡かな」
ひたすら分裂し続けるバンド“ラビット4”。
2016年にメジャーデビューした彼らは2017年春に2つに分裂(いちご組・さくら組)、2018年春にはさくら組が2つに分裂して、めろん組が出来、2019年春にはいちご組が2つに分裂して、ばなな組が出来た。
そろそろ分裂の時期だよな、今年は5個になるか、あるいは一気に8個になるか、と多くの人が期待?していたのだが、今年は6つになってしまった。
いちご組が2つ(男峰・女峰)に別れ、さくら組も2つ(山桜・川桜)に別れたのである。
もっともこの○○組というのは、##放送の高柳あつみアナウンサーが命名したもので、正式には6組とも単に“ラビット4”である。
そろそろ“ラビット4”という音楽のジャンルが必要ではという声も出てきはじめている。
名前の権利はどうなってるのか、ひとりの記者がオリジナル・メンバーの四屋さん(現在は山桜組)に尋ねてみたのだが
「その内日本中のアーティストがラビット4になるかもね」
と言って笑っていたので、きっと誰がラビット4を名乗っても許容するつもりなのだろう。
「ここまで増えてきたら最後は性転換だな」
と四屋さんは発言したが、誰が性転換するのかについては触れなかった。
ネットでは
「ひょっとして四屋さんが性転換して女になって、因幡さん(もうひとりのオリジナルメンバーで現在は男峰組)と結婚するのでは?」
「そしたら全てのラビット4が合体して30人くらいのバンドになったりして」
などという大胆な予想まで出ていた。
「まああの2人が結婚するなら四屋さんが奥さんだよな?」
「因幡さんの性転換はあり得なさすぎる」
「四屋さんは超絶情報局で女装して白雪姫してたけど美人だった」
「ああ。あれ見た。凄く自然だったから、この人、その気(け)あるのかもと思った」
「いや、そもそもあの2人ホモではという噂あったよ」
「四屋と因幡の2人だけでやってた頃は同じアパートに住んでたし」
と古くから彼らを知る数人のミュージシャンが発言したが、それについて四屋さんも因幡さんも、何もコメントしなかった。
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