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■春牛(16)
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“性転換して結婚”というキーワードが4月4日オカマの日に突如話題になった。元は男2人の漫才だった男女漫才“ハルラノ”の鉄也と桜(元:慎也)が4月4日に婚姻届けを提出したことを発表したのである。これでふたりは夫婦漫才になることになる。
「抱いてみたら結構気持ち良かったから結婚してみることにした」
と鉄也の弁。
「実はずっと好きだったから、結婚しようと言われた時は涙が出た」
と桜の弁。
2人とも結婚指輪を付け、桜は更にダイヤのエンゲージリングも左手薬指につけたのを見せて会見していたが、鉄也は
「こいつの方が俺より号数大きいんだぜ」
と言って笑いを取っていた。
「妊娠していますか?」
という記者の質問には桜が
「鉄也が妊娠しています。妊娠4ヶ月のお腹を見せてあげて」
と言うので鉄也がその美事な腹を見せると
「かなり大きくなってますね」
という声も飛んでいた。
ネットでは
「本人たちが良ければ良いのでは」
「まあおめでとさん」
「鉄也はもう4−5年前から妊娠中だな」
などといったテキトーな雰囲気のお祝いメッセージがあふれていた。
トライアル&エラーが再結成を発表した。
この再結成に参加したのは、ベースでリーダーだった四島光平、ギターの作音洋介、ドラムスの伍代竜矢の3人で、ピアノの杏堂真一は参加していない。
その件について四島は「誘ったが遠慮すると言われた」と述べた。実は杏堂はオリジナルメンバーではなく、デビュー前に解雇された香田という人に代わって事務所が加入させたメンバーだったのである。元々「トライアル&エラー」は、四島・香田・作音・伍代の4人の頭文字をならべると「しこうさくご」になる所から来ている。デビュー時にはそれを「四島光平」で「しこう」にして杏堂を「&」にしてこじつけたのである。
杏堂の所にも記者がインタビューに行ったのだが、杏堂真一が女性になっていたので驚いていた。杏堂は堂々と女性になった姿をカメラに曝し、もう既に7年ほど前から女性として暮らしていることも語った。名前も「真一」から「真子」に改名したらしい。そして現在は萌枝茜音の名前で作曲家活動をしていることも語り、萌枝茜音の正体が杏堂だったことも大きく驚かれた。萌枝茜音は現在中堅の作曲家のひとりである。多数の女性アイドルが萌枝茜音の歌を歌っている。
「実は中高生の頃から、自分の生徒手帳の「真一」の「一」の上に「了」と書き加えて「真子」にしていたんですよね。厳密にいうと公文書偽造だけど」
「ずっと女性になりたかったんですか?」
「物心ついた頃からぞうでしたよ」
と杏堂は語る。
「失礼ですが、現在の戸籍上の性別は?」
「女ですよ」
と言って彼女はマイナンバーカードを提示した。性別女と印刷されている。戸籍上の性別を変更したということは、既に性転換手術も終わっているのであろう。
結果的に翌日のニュースは「萌枝茜音は元・杏堂真一だった。7年前に女になる」というのが大きく取り上げられてしまい「トライアル&エラー再結成」の方は小さくなってしまった。これについてはその日の内に「四島君たちに悪い」と杏堂本人がツイートしていた。
3月20日(金祝)の深夜に石川・富山両県で放送された『金沢ドイルの北陸霊界探訪・幻のワゴン車を追え』は大きな反響を呼んだ。多くの人が指摘したのが
「今回は話がシナリオっぽい」
という点である。それについては、
「多分特定の事故から生じたものということにすると、その事故の関係者に批判が集まるので、わざと曖昧にしたのでは」
という意見が多数あった。視聴者もだいたい裏事情をよく分かっているようだ。
しかしどうもこの事件は解決したようだというのは多くの人の認識となる。実際ここしばらく幻のワゴン車関連の書き込みが見られず、確かに出没していないようなのである。
またデファイユ津幡の様子もレポートされた。年末に完成した体育館で、女形ズとレディ加賀が親善試合(1月に撮影)をしている所、体育館にテニス用カーペットを敷いて、中学生が練習している所なども放送された。実際この冬はテニスでの利用申し込みもひじょうに多かったのである。春には大会があるのに、冬季は屋外のコートではほとんど練習ができない。臨時プールでの日本代表候補の練習の様子も放送された。
ジョギングコースも放送され、この放送以降、ここでジョギングする人が急増した。一般の道路と違い、自動車の心配をしなくて済むのが良い。しかも雨雪に関係無く使えるし、コロナ対策で空気の通りをよくしているし、クマ侵入対策までしていたドアは結局全て開放した。またスマホによる予約制にして、ジョギングコースに一定以上の人数が入らないようにした。このため、全てのドアにゲートを設置してQRコード認証で入るようにした(ゲートを飛び越えれば中に入れるがそこは良識に任せる)。
体育館の利用料は6-9h/9-12h/12-15h/15-18h/18-21h/21-24h/0-3h/3-6hの各時間帯ごとに個人は220円・グループなら1100円(いづれも中学生以下半額)だが、意外に会社が終わってから21-24hの時間帯に練習に来る人や、朝練で6時から来る人も結構あった。こんな時間帯に使える体育館は他には無いのである。
ただし当面は5人以上の団体の利用は不可とし、あくまで個人の利用限定とした。
なお体育館地下のスポーツクラブは4月営業開始予定であったが、コロナの影響で開業延期(時期未定)となった。(最終的には出店中止になった)
2020年3月22日(日).
青葉はK大学を卒業した。卒業式はおりからのコロナ騒動で大幅に縮小され、各学部の総代1名のみが出席。来賓などもなくなり、各総代が学長から卒業証書をもらうところをライブ中継した。
桃香・千里も金沢まで来ると言っていたのだが、結局高岡の家で、朋子・青葉・桃香・早月・千里・由美の6人でささやかな祝いの膳を囲んだ。
思えば、大船渡時代、幼稚園の卒業式、小学校の入学式・卒業式、中学の入学式には親は来てくれなかった。中学の時なんて制服も用意してもらえなかった。
「あんた、お母さん来てないの?」
とか言われて、早紀のお母さんが親切にしてくれたなあ、などと思い出す。しかし高岡に来てからは、朋子母さんが、中学の卒業式・高校の入学式・卒業式と出てくれて、参観とかにも来てくれたし、大学の入学式では、朋子母さんだけでなく、桃姉・ちー姉まで来てくれた。
青葉は高岡に来てはじめて“家族”というものを得たと思っている。
千里が氷見で買ってきてくれた鰤の刺身を食べながら青葉は、桃香と千里が漫才のようなやりとりをしているのを見て、桃姉はちー姉と結婚しないのかなあ?などと考えて、ちー姉は細川さんがいるから、あくまで桃姉は浮気相手なのかな?などと考える。この2人の関係はいまひとつよく分からない。
(青葉は季里子の存在を知らない)
しかし京平君はとうとうちー姉と一緒に暮らすよになったし、今年は何か色々な人間関係が動きそうな気がするよ、と青葉は考えていた。
卒業式の翌日23日(月)、青葉は〒〒テレビに行き、4月1日から自分の上司になる砂原アナウンサー室長、そして漆野報道部長にあらためて挨拶をした。
漆野さんと話していたら、そこに石崎制作部長が顔を出す。
「この子は川上青葉としては漆野君の物だけど、金沢ドイルとしては僕の物だからよろしくね」
などと青葉の肩を抱いて(セクハラだと思う。それに濃厚接触!)言っている。
「まあ2人分働いてもらえばいいよね」
「それお給料は2人分頂けるんでしょうか?」
「そこはバーチャル・コアということで」
そんなことを言っていた時、局のADさんが飛び込んで来た。
「すみません。11:40の北國新聞ニュースを読む予定の田代アナウンサーが見当たらないのですが、どうしましょう?」
「今日お休み?」
「いえ、朝は見ました」
「どこに行ったんだろう?」
「だったら僕が読むよ」
と砂原室長が言ったのだが、漆野部長が止めた。
「アナウンサーならここに1人いるじゃん。この子に読ませてみよう」
「え?でも入社前ですけど」
「研修ということで」
「できる?」
と砂原が心配そうに訊く。
「はい、読ませて下さい」
と青葉はハッタリの笑顔で答え、スタジオに出て行った。
それで原稿を渡されたが、何じゃこの酷い字は?と思わず言いたくなった。でも負けないぞ。
もう前読みする時間は無い。ぶっつけ本番だ。
キューが来る。カメラに向かって笑顔をつくる。
「北國新聞ニュースです」
と言ってから、原稿を読む。
「兼六園の桜がそろそろ満開です。今年の春は気温が高めであったことから、例年より早めの開花となっております。今週末は見頃となるでしょうとのことです。早くも兼六園を訪れた観光客たちの中には、徽軫灯籠(ことじとうろう)と桜を両方入れて記念写真を撮る人なども見受けられました。なお新型コロナ感染予防の観点から、座り込んでの飲食、長時間立ち止まっての鑑賞はお控えくださいますようお願いします。ご来園なさる方はマスクを着用し、前の方との距離を2m程度以上空けて散策してくださいますようお願いします」
「次のニュースです」
と言って次の原稿を読む。
「石川ミリオンスターズの選手が白山市の老人ホームを慰問しました。慰問で訪問したのは、山出(やまで)コーチ、矢鋪(やしき)選手、金山(かなやま)選手、荒谷(あらたに)選手、の4人。感染予防の観点からステージと観覧席の間にビニールのシートを垂らし、また席の間隔を広く空け換気を充分した上でのものとなりました。トークショーのほか、キャッチボール、更には女装して水原勇気のものまねパフォーマンスまであり、コロナで外出禁止になっている中、お年寄りたちの歓声や笑い声があがっていました」
野球選手も大変ね〜。次はテニス大会の話題か・・・今日はマジでニュースが無いんだなと思ったら、ここでADさんが新たな原稿を青葉の前に起き「代わりにこれ読んで」と小声で言われる。
「次のニュースです」
と言ってから、瞬間的に原稿の内容を見て
「事故のニュースです」
と言う。
「今朝10時頃、JR西日本動橋(いぶりはし)駅近くの交差点で、軽貨物車とワゴン車が出会い頭衝突する事故がありました。軽貨物車に乗っていた70代の女性が病院に運ばれましたが、意識などはしっかりしているとのことです」
ここまで読んだ所でまだ8秒ある。無言は許されない。
「皆様もお出かけの際は安全運転にお心がけください。北國新聞ニュース。川上がお伝え致しました」
とアドリブで言ったところで時間ジャストになった。
砂原さんが拍手してくれた。
「難読駅名とか読み方を迷うような氏名とか、よく読んだね。最後の時間調整もうまかった」
「徽軫灯籠(ことじとうろう)は兼六園の名物ですし、北陸3県の全駅名、石川ミリオンスターズとツエーゲン金沢の選手の名前は全部頭に叩き込んでおきました」
「おお、偉い偉い」
と砂原さんは褒めてくれた。
そういう訳で青葉の“初鳴き”は入社前に行われたのであった。
(もっともその前に『作曲家アルバム』の取材をたくさんしているのだが!)
デファイユ津幡のアクアゾーンは、アリーナの改造が割り込んだので予定より半月遅れの4月17日に竣工。検査も合格して同日ムーラン建設からムーランに引き渡されたが、若葉はコロナの状況が厳しいのでオープンを無期限延期にしている。地下のスパ・リラックスゾーン、2階のショッピングゾーンや宿泊施設もオープンを保留する。ただしここには水泳日本代表候補のメンツが宿泊しているので、そのお世話をするのに最小限のスタッフだけは勤務する。
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