広告:まりあ†ほりっく 第4巻 [DVD]
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■春気(18)

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「あなた、なんで逃げてたの?」
と少し落ち着いたところで、カオリが尋ねる。
 
「ありがとうございます。助かりました。私、流しの歌手なんですけど」
と少女が言った所で、カオルが悩む。
 
「“流しの歌手”って英語ではなんだろう?」
と自問するように言ったら、少女が
「strolling singerかも」
と言ったので
「あ、それうまいね」
と言って通訳を続ける。
 
(strollはあちこち訪問するくらいの意味。巡業もstrollという。一方カオリはヨゼフに伝えるのに“巡業”は付けずに単にcantoraと訳した!)
 
少女は説明を続ける。
 
「この付近の温泉街に演奏に来ていたんですけど、ヤクザに欺されて危うく客を取らされそうになったんで、隙を見て逃げ出したんです」
 
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カオルは微妙な表現の翻訳に悩んだが、フランツがだいたい察してくれた。カオリは「客を取る」の意味が解らず「mostrada para o publico(観客に見せる)と訳してしまったのでヨゼフは首をひねっていたが、察したフランツがドイツ語で伝えてくれて、やっと意味が解ったようである。
 

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「それは大変だったね」
などと言っていた時、少女は今気づいたようで
 
「あ!渡辺薫ちゃんだ!握手してもらっていいですか?」
などと嬉しそうに言う。
 
「いいよ、いいよ」
と言ってカオルは少女と握手をした。少女はサクラ・ナミキという名前だった。
 
彼女が持っていた弦楽器は三味線であった(ギターケースから三味線が出てくる)。開けてみると穴が空いている。ケースにも穴があいている。
 
「さっきのヤクザが撃った弾が当たったんだね」
「穴を塞ごう」
と言ってヨゼフがセロテープとガムテープで三味線の皮と胴の穴を塞ぐ。
 
「そんなんでいいんだっけ?」
とヨゼフは言うが
「空気が漏れなければ音は正しく出るはず」
とカオルは言う。
 
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少女はフランツの求めに応じてその三味線を弾きながら『関の五本松』を歌った。日本の民謡の調べに、フランツもヨゼフも感心していた。
 
(田中エルゼは元々三味線が弾けたが、今回の映画の話があってからすぐ来日し、島根県の民謡の先生について、この曲を1ヶ月ほど掛けてマスターした。なお穴が空いた三味線は、合成樹脂皮の三味線を空気銃で撃ち抜いて作ったが、演奏の音は穴の空いてない天然皮の三味線に差し替えている)
 

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「ところで君、おうちは?」
「津和野なんですけど」
 
カオリがGPSを見ると、現在地から15kmほど北東に行けば津和野に辿り着くことが分かる。
 
「よし、そこに行こう」
とヨゼフ。
 
「進行方向調整できるの?」
とカオルが尋ねる。
「気球は風まかせだけど、風の向きって高度によって違うんだよ。だから北東に行く風のある高度に気球を持って行けばいいんだ」
「へー」
 
気球はバラストは積んでいないものの、バーナーの火加減だけでも高度調整ができる。それでヨゼフはうまく北東へ向かう風を見つけて、そちらに進んでいった。30分ほどの飛行で津和野の町が見えてくる。
 

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「シェーン(美しい)!」
とフランツが声を挙げた。
 
津和野は山陰の小京都ともよばれる美しい町である。ヨゼフたちは気球をサクラのガイドに従って町内の公園に降ろした。
 
「気球の穴の空いたところ修復しないといけないなあ」
「どういう材料があればいいですか?」
「ビニールのシートと接着剤があれば」
「うちで用意しますよ」
とサクラは言った。
 
それでフランツがお留守番をして、カオル・カオリ・ヨーゼフ・サクラの4人でサクラの家まで行く。
 
サクラの父(演:ゲオルク・オーフェルヴェック)はドイツ人だった。
 
お父さんがドイツ人だったのを見てカオルが
「しまった、フランツを連れてきてボクが留守番すればよかった」
と言うが
 
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「大丈夫、僕、日本語分かるよ。日本に帰化してるし」
とサクラの父が言うので安心する。父はカオルたちとは日本語で、ヨーゼフとはドイツ語で会話することができた。
 
なおオーフェルヴェックは『ドレスデン・ドール』でエルゼの父を演じた俳優で、エルゼと2人そろってのカメオ出演になっているのである。
 

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父はサクラがヤクザに追われている所を助けてもらったと聞くと感激して御礼と言って、金の延べ棒をヨゼフに渡す。
 
「多すぎ!」
とヨゼフは驚いて言うが
「うちにはいっぱいあるから大丈夫」
と奥の部屋を開けてみせると、金の延べ棒が山と積み上げてあるのでヨゼフは仰天する。
 
「日本って本当に黄金の国だったのか!」
などと言っている。
 

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サクラの父は「気球の番なら、うちの若いもんにさせるよ」
と言い、和服を着て腰に日本刀を差した!30歳くらいの男性2人に命じて公園に行かせた。1人がフランツを伴って戻ってくる。
 
それでサクラの父はお礼にといってスキヤキをごちそうしてくれた。
 
「でも美人のお嬢さんですね」
などとヨゼフが言うと
 
「小さい頃は木登りしたり熊と相撲したりして元気な男の子かと思ってたんだけど、いつの間にか美人の娘になって」
などと父。
「お父ちゃん、それだと私がまるで性転換でもしたみたいじゃん」
とサクラは文句を言う。
 
これはサクラが『ドレスデン・ドール』では、息子役をしたことに掛けたお遊びのセリフである。
 
“熊と相撲”というセリフの背景には、金太郎のような格好をした小さな男の子が熊と相撲しているシーンが映る。
 
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「ところでお父ちゃん、気球の修復をしないといけないのよ」
とサクラが言った。
 
それでサクラの父は一緒に気球を留めた公園まで行き、実際の穴を見て
「ああ、これなら大丈夫」
と言い、気球の皮とわりと似たような感じの50cm四方の厚手のナイロンシートを持ってきて“気球の内側から”瞬間接着剤を使って貼り付け、きれいに穴を塞いでくれた。
 
「隙間無いね。しっかりしてる」
「お父ちゃんは工務店経営しているから、この手の作業はうまいよ」
とサクラは言う。
 
「いい人にいい所で会えた。助かりました」
「いや、こちらこそ娘を助けて頂いて、本当にありがとうございました」
 

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その日はサクラの家に泊めてもらい、翌日、朝御飯を食べてから気球は出発することになった。サクラを助けた時に投げ捨てたバラストの分、土嚢を作ってもらい、ゴンドラに積み込む。サクラの父からもらった金の延べ棒も積み込む。それで気球は飛び立つ。
 
気球は津和野から東南東の風に乗って飛び、やがて広島付近で瀬戸内海上空に出た。
 
「この付近、気流が難しいな」
「陸側に戻る?」
 
それでヨゼフが高度を調整していた時、突然バーナーの火が消えた。
 
「どうしたの?」
「あかん。ガス欠だ」
「予備のボンベは?」
「それが積んでないんだよねー」
「え〜〜!?」
 
それで気球はどんどん降下していく。
「やばいじゃん」
「どうするの?」
「バラスト捨てて」
「分かった」
 
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それでカオルとフランツで、せっかく今朝作ってもらったバラストをどんどん投げ捨てる。
 
「全部捨てちゃったけど」
「まだ下がってるよ」
「あそこに島がある。あそこまで辿り着ければいいんだけど」
「どうする?捨てるものがない」
「フランツ、その金の延べ棒がある」
「え〜〜?これ捨てるの?」
「こんなところで海に落ちたらやばいもん」
「分かった」
 
それでフランツとカオルは協力してその重たい金の延べ棒を持ち上げると海に向かって投下した。
 
「これ誰かが見つけたら海賊の隠し財宝だと思うかも」
 

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しかし重たい金の延べ棒を捨てたおかげで、何とか気球は見えていた島の浜辺に着陸することができたのである。
 
このシーンは実際に隣の島から飛びたちこの島の浜辺に着陸する所を撮影している。体重40kgと軽い、第3カメラマンの矢本かえでがゴンドラに乗り込み、中の様子やゴンドラから見た地上の風景も撮影した。河村助監督は島の近くに浮かべた小船から撮影している。第4カメラマンの田崎潤也は島の浜辺にいて着陸するシーンを陸側から撮影した(河村が同じシーンを海側から撮影)。高い技術を持つバルーンニストであるリョーマはこの気球を海からほんの1mの波打ち際にきれいに着陸させた。
 
「助かったぁ!」
「ここはどこだろう?」
「生口島(いくちじま)だね」
とカオリがGPSを見て言う。
 
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「プロパンガス屋さんあるかな?」
「そのくらいあると思うよ」
 
それでフランツに留守番をさせて、日本語の分かるカオル、必要なガスの仕様が分かるヨゼフ、ふたりの通訳役でカオリの3人で歩いてガス屋さんを探す。空のボンベ(10kg)をヨゼフが抱えて行く。
 

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3人は途中で通り掛かった軽トラのおばちゃん(演:橋口須真子)に荷台に乗せてもらい、島のプロパンガス屋さんまで連れていってもらった。
 
ところがガス屋さん(演:田口善太)はボンベへの充填はできないと言う。
 
何でもガスを充填した場合、そのボンベについてガス屋さんには責任が生じるので、ガス屋さんの近所で使うのならいいが、気球に乗せて何百キロも飛ぶというのでは、何かあった時に駆け付けることができないからというのである。
 
「充填済みのボンベを買うというのでもダメですか?」
とカオルは食い下がるが、それでもダメだという。
 
「このボンベに関しては全ての責任を持つという誓約書を書くから何とか」
などと言っていた時、ガス屋さんの高校生の娘・ナツミさん(演:中村昭恵)が帰宅する。そしてカオルを見るなり
 
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「きゃー!渡辺薫ちゃん!」
と黄色い声をあげる。
 
「あのぉ、握手してもらっていいですか?」
「いいよ、いいよ」
それでカオルは彼女と握手し、更にサインもねだられたので、渡辺薫のサインを色紙に書いて渡した。
 

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「でもどうしたんですか?」
と訊かれるので、気球で移動していたが、ガス欠になってしまい、プロパンガスを充填して欲しいのだが、責任上、近所の人にしか売れないと言われていると説明する。
 
「お父ちゃん、そんな堅いこと言わないで売ってあげなよ。人気アイドルの渡辺薫に協力するのは誰も悪く言わないよ」
とナツミが言うので
 
「そうか?そんなに言うのなら」
と言って、ガス屋さんはボンベにガスを充填してくれて
 
「あんたら、予備が無いとまたガス欠した時困るだろ?これレンタルするから持って行きなよ」
と言って、同じサイズの充填済みボンベを1個貸してくれたのである。
 
「助かります!ありがとうございます」
 
それでカオルたちは旅を続けられることになったのである。
 
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なお代金だが、ヨゼフもフランツもカードしか持っておらず、このガス屋さんではカードが使えなかったが
「口座番号教えて下さい」
とカオルが言い、スマホから代金を振り込んだので、ちゃんと支払うことができた。
 
「日本はクレジットカード使えないお店が多いのよね」
とカオリも言っていた。
 
「なんでそうなってんの?」
「日本ではクレジット会社の審査が厳しくて、小さなお店は契約してもらえないのよ。それに決済手数料も高いからも嫌がるお店も多い」
 
「不思議だね。こんな先進国でカードが使えないなんて」
とフランツは言っていた。
 

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帰りはガス屋の主人が車で3人を送ってくれた。そして新しいボンベをセットしてちゃんとバーナーが燃焼することを確認する。
 
「そうだ。あんたたち、旅行中なら西日光・耕三寺を見ていきなよ」
「それどういうのですか?」
「行けば分かる」
 
それでガス屋の主人はお店から奥さんを呼び寄せて気球の番をしててくれるように頼み、娘のナツミさんを案内役にして、4人を耕三寺に連れていったのである。
 
「何これ?」
と、ここのことを知らなかったカオリが声をあげる。
 
「なんだか派手なテンペルだね」
などとフランツは言っているが
 
「これは江戸幕府を設立した徳川家康を祀る日光東照宮のコピーだね」
とカオルは自分でも驚きながら教えてあげた。
 
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「へー!」
「ここは初代住職さんが、全国あちこちの有名寺社を真似て作ったんですよ」
とナツミは日本語と英語で説明した。
 
(日本語が分かるのはカオルとカオリ、英語が分かるのはカオルとフランツ。ヨゼフにはカオリが通訳する)
 

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それで一行は耕三寺の中にある、日光東照宮の陽明門、宇治平等院の鳳凰堂(十円玉の絵!)、京都御所・紫宸殿の門、法隆寺の西院伽藍楼門、清水寺西門、室生寺の五重塔、新薬師寺の鐘楼、四天王寺の金堂などなど、日本全国の有名寺院等の建物のコピーが立ち並ぶ中を、半ばあきれながら見てまわった。
 
「でもこれで日本中のテンポラを旅した気分になるよ。日本人凄いね」
などとヨゼフはむしろ感心していたようである。
 
一行はここを見て回った後、ナツミが父に連絡すると、母がやってくる。
 
「お昼おごりますよ。ドイツやブラジルからのお客様にぜひ瀬戸内海の味を味わってもらってと夫から言われました」
 
と言って、一行を耕三寺のそばにある食堂に連れて行った。
 
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「外国の方は鍋物とかには抵抗があるでしょうし」
と言って、瀬戸内海の幸をふんだんに使った御膳をおごってもらった。ついでで美味しい御飯を食べられることになったナツミが喜んでいる。
 
御膳の内容はたこ飯・味噌汁・天麩羅・刺身・じゃこ天・蛸わさ+コーヒーとデザートといったものである。フランツが(演技抜きで)蛸わさを気味悪がっていたが、カオリ(実際には葉月Fが演じている)が「美味しいよ」と笑顔で言うと、おそるおそる食べてみて「ほんと美味しい。でも辛い!」と言っていた。
 
それで一行はガス屋さん親子によくよく御礼を言って、生口島から旅立ったのである。
 
なおこれらの撮影は全てアクア(実はM)がカオル、葉月(実はF)がカオリを演じて撮影している。
 
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