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■春気(5)

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(C) Eriki Kawaguchi 2020-03-03/改2020-04-18
 
「2階のリハーサル室はいいんだけど、この3階の練習室群って無駄な気がする」
と千里が言う。
「本店建てた時も話が出て結局やってないけど貸しスタジオでも運営する?」
「楽器たくさん用意するし、それもいいと思うよ。でもこんなには必要ないかも。そうだ、私に少しくれない?お菓子ショップを出してもいいかな」
 
「若葉は神田店でやってた頃も、お菓子作るのひときわ上手かったね」
 
「お店は1階に出すのが鉄則だけど、隣にクレールの客席があるのなら成り立つかもね」
と千里。
 
「そのお菓子を買ってクレールの座席で食べてもいい?」
「1ドリンク制で」
などと言っていたら千里が
「お店を出すなら3階よりは2階」
と言う。
「だったらこの2階と3階を交換しよう」
「嘘!?」
 
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「そうだ、ついでにスポーツ用品店出してもいい?靴下とかシューズとかの消耗品が買えると便利なんだよ。スペインのスポーツ用品店とコネがあるから」
と千里が言い出す。
 
「もうご自由に」
と和実、
 
「税関はちゃんと通してね」
と若葉が釘を刺す。
 
「こんなにバルコニー階に空きがあるのなら、若葉もう1フロア建設しなくてもここに本部とセントラルキッチン置いたら?」
「それでもいい気がしてきた」
 
それでできあがったのがこのレイアウトである。
↓2T・3Tのレイアウト(改訂版)


 
地下2階については様々な競技のコートが取れるサイズとして算出した。44x23でコートは取れるので残りは階段・エレベータと用具倉庫/観戦席である。
 
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「じゃ各々の専有面積を計算してみよう」
と若葉は言って、算式を書き出した。
 
(詳細計算略)
 
Clair 1221.5m2Moulin 203m2Phoenix 1336m2
面積比 Clair 44.2 Moulin 7.4 Phoenix 48.4
 

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「大雑把に Clair:Moulin:Phoenix = 4:1:5 ということでいいと思う」
と千里が言う。
 
「まあ端数はいいよね」
と若葉も追認した。
 
しかし和実は
「私がメイン出資者になりたいから私が半分出したい」
と言った。
「だったら和実5:若葉1:私4で」
と千里。
「じゃそうしようか」
と若葉も言い、和実も了承した。
 
「私の負担分が少なくなる代わりに、私の費用で屋根に太陽光パネルを乗っけるよ」
と千里は言った。
 
「それいくら掛かる?」
「さあ。でも多分大したことないよ」
 
(建て面積が31.5x31なので、1.58x0.812の太陽光パネルが最大722枚並べられる。余裕を見て600枚並べた場合で、定価176,500円で計算すると1億590万円である。むろんこの枚数であれば結構なディスカウントが期待できる。この量のパネルが生み出す電力量は(仙台の日射で)年間18万kwhになり、このビルで使用する電気をほぼカバーできるものと思われる。つまり電気代がほとんど不要になる)
 
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「それでその比率で出資して作った会社から土地の所有者である和実に毎月借地料を払うということで」
と千里が言うと
「そんなのもらえるの?」
と和実が驚く。
 
「土地を借りて建物を建てる以上、借地料を払うのは当然」
と若葉も言う。
 
「ここ固定資産税はいくらだろう?」
と千里が言うが、和実は分からないようだ。
 
「正確な所は市が決めるけど、大雑把に実勢価格の1%なんだよ。都市計画税はその4分の1くらい。だからだいたい1.25%と思えばいい。土地を4億8000万、仮に建築費を3億として合計7億8000万円の1.25%なら975万円。約1000万円かな」
と若葉は言った。
 
「そんなにするんだっけ?」
と和実は驚く。クレールの今の土地建物の固定資産税は年間30万円である。
「都心は高いよ」
と千里が言う。
 
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「固定資産税が1000万円なら借地料はその6倍として年間6000万円かな」
 

「ところで実際建築費はいくらだろう?」
 
「訊いてみる」
と千里は言うと、播磨工務店の青池に電話した。
 
青池は図面を送ってくれと言ったので3人で書いた図面に天井高のことなどいくつかのコメントを書いて送った。
 
「普通なら平米単価30万円でできるんですが、地下を深く掘るのと天井が高いので少し割高にさせてもらって、1億1千万円+解体工事費1千万円で合計1億2千万円ですね」
と青池は30分後に回答してきた。
 
(この費用には実は木材の材料費が入っていない。それは津幡で10月に伐採した樹木を転用する魂胆である。あの木は若林ツインアリーナにも使う)
 
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「ありがとう」
と言って千里は電話を切る。若葉は頷いているが和実は驚いた。。
 
「異様に安い気がするけど」
と和実。
「播磨工務店さんはこんなものでしょ」
と若葉。
「ということで工事費負担は和実6000万、若葉1200万、私が4800万」
「OKOK」
 

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そこまで言った所で千里が別の提案をする。
「いっそこの3人で出資した会社でこの土地自体所有したら?」
「ああ、それなら借地料とか考えなくてもいい」
 
と若葉。和実はこの2人とならいいかもという気がした。若葉は元メイドだし、千里も元ウェイトレスだし。千里のファミレスの制服はまるでメイドさんみたいに可愛かった。千里と出会って間もない頃、その制服姿を恥ずかしがっていたのが懐かしい。そんなことを思い出しながら、和実も
 
「それでもいいよ」
と言った。
 
「だったら和実50% 私10% 千里40% のペーパーカンパニーを設立して、そこが取り敢えず和実から5億1200万円で土地を買い取り、1億2000万で建物を建てる。それで毎年の固定資産税や光熱費などもその割合で負担というのでは?」
と若葉。
「うん。それでいいよ」
と和実は言う。固定資産税を月100万としてその半額の50万なら充分払えると思った。
 
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「そしたら6億3200万円を5:1:4に分割して和実が3億1600万円、私が6320万、千里が2億5280万円負担」
と若葉が言うと
「ああ、わりと安いね」
などと千里は言っている。この子たちの金銭感覚すげー!と和実は思う。
 
「だったら今5億1200万円を私が立て替えている状態だから差引計算すると和実が私に3億1600万円払って、千里も私に1億3280万円払って、千里はそれ以外に1億2000万円を播磨工務店さんに払えばいい」
と若葉は紙に計算表を書いて言った。
 
「確かにそうなるね。私が若葉に払うのってなんか不思議」
と千里は言っている。和実も変な感じがしたが、自分でもexcelに入れて計算してみると確かにそうなるので、この計算で合っているようだ。
 
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「じゃ若葉に送金するね」
と言って千里はその場でスマホを操作している。
 
「確かに1億3280万円受けとった」
と若葉は自分のスマホで口座を確認して言った。
 
なんか「1万円送ったよ」「受けとったよ」みたいな感じだ。
 
「じゃ私は宝くじの当選金が入ってからでいい?入ったらすぐ3億1600万円若葉に振り込むから」
と和実は言ったのだが
 
「宝くじが当たったの!?」
と2人とも驚いたように言う。
 
「言わなかったっけ?」
「聞いてない」
「資金源とか疑問に思わなかった?」
「クレールが儲かっているんだろうと思った」
「ボニアート・アサドのライブ収入とか凄そうだもん」
「会場の取り分は大したことないよ」
 
「でも宝くじのことは誰にも言わないようにしたほうがいいよ」
「うん。言えば絶対お金を無心されるから、親しい人、大事な人ほど言ってはいけない」
 
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「淳にも言わない方がいいかも」
「淳には言っちゃったけど」
「離婚にならないよう気をつけてね」
「お金貸してと言われても絶対渡したらダメだよ」
とふたりが本当に心配そうに言うので、和実はやはりいい友だちを持ったなあ、と思った。
 

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和実がこの人たちには言おうと思っている、あるいは既に言ったとして
 
★月山和実、★月山淳、★伊藤春洋、★山吹若葉、唐本冬子、★村山千里、川上青葉と7人の名前をあげた。★は既に言った人である。
 
伊藤君には受け取りの時に付いてきてもらったので結果的に話を聞くことになったと説明したが、伊藤君の性格を知っている若葉は「あの子は大丈夫。こういう問題では最良の相談相手かも」と言った。
 
「青葉には言う必要無い」
と千里は言った。
「そうかな」
「言わなければ困るような問題が何も無い。それにあの子は新店の結界造りとか頼んでも、資金源とかは詮索しないよ。顧客の秘密は守るけど、それ以前に秘密をできるだけ聞かないようにする習慣が身についているんだよ」
 
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「なるほど。だったら言わないでもいいか」
 
「冬子にも言う必要無い」
と若葉は言った。
 
「でも突然お金を返すといったら変に思わない?」
 
「あの子もその手の詮索はしない子だけど、単に余裕ができたからと言えばいいよ。ついでに新しい店舗の建物はムーランの事務所兼セントラルキッチンとバスケットコートを作るから、私と千里と和実の3人で出資すると言うといい。そしたら返済の資金も私や千里が出したのかもと想像するよ」
と若葉。
 
「どっちみち銀行強盗とかで得たお金とかは思わないから大丈夫だよ」
と千里。
 
「銀行強盗なんて絶対失敗するけどね」
と和実も言った。
 
そういう訳で宝くじ当選の件はこの5人以外には話さないことにしたのである。そして和実は宝くじの中で、1億5千万円を借金の返済に、そしてクレール新店の土地代・建築費に3億4千万ほど使い、内装工事費や設備費に3000万円程度使ったとしても3億円以上残ることになり、これは国債か投信にしようかなと考えた。
 
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「ちなみに政子とかに言ったら自分も出資するから地下3階に男の娘改造工場を作ろうとか言い出すね」
「それ男の娘に改造するの?男の娘を改造するの?」
「どちらもいいかもね」
 
「でもあの子は現実と空想の境界が曖昧だから本当にやりそうで危ないね」
「むしろ100%空想の世界で生きているよね」
「冬子が付いてなかったら自分でも気づかない内に遠い夢の世界に逝っちゃう」
「食べ物とぽえむの国の永遠の住人になるんだな」
 

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クレール新店舗建設に関しては、そのような話が進んでいることをTKRの山崎さんに話したら
「若林本店ができた時もその話があったが、楽器をたくさん所有しているから貸しスタジオを作れませんか。TKRのアーティストで練習場所を欲しがっている人は多いんですよ」
と相談があった。
 
この件は若葉の顧問弁護士のひとりで営業担当の人がTKR本社の松前社長と交渉して、このようなことを決めた。
 
・クレール青葉通り店の4階に貸しスタジオを作り“TKRミュージックスタジオ”という名前を使用する(ネーミングライツ)。
・商業的な音源制作もできる部屋を8個、練習のみの部屋を20個くらい作る。
・音響技術者等はCMP側で雇用する。
・全部屋の8割までTKRが使用優先権を持つ。
・借り賃として年間2億円払う。
 
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2億円も払うなら自分でスタジオを建てた方がいいのでは?と若葉でさえ心配したのだが、音楽スタジオは一般の貸しビルへの入居が困難なので、自前で仙台駅近くに土地を買い、防音・遮音に考慮したビルを建て、楽器などまで用意すると20億円以上の投資になってしまうので年間2億円払ってもTKRとしては得らしい。CMPとしては大きな収入になるが、その半分くらいは音響技術者の雇用費用(給与+保険等)で消費されるものと予測される。
 
ちなみにTKRアーティストの約4割が実は東北・北関東に住んでいる。これはやはりここ3年間のクレールでのTKRアーティスト・ライブの成果でもある。
 
そういう訳で“4階”が復活したので建設費が3000万円上がることになり、これを和実1500万、若葉300万、千里1200万追加で負担することにしたが、TKRが払ってくれる使用料(+名称使用料)で固定資産税は充分払えそうで、和実としては大いに助かったのである。
 
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播磨工務店の青池がムーラン建設の技師と(ミューズ3を使用して計算して)設計図や構造計算書などを作成し、最終的に大手ゼネコンのベテラン設計士が監修した書類を元に、播磨工務店は建築確認を申請。例によって半月ほどで建築の認可は下りた。すると播磨工務店のメンバーがその日のうちに工事現場に目隠しを設置。翌朝までに古いビルは撤去された。これには和実も驚いた。
 

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