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■春気(8)

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前橋はまだ麻酔で眠っている環和を連れて母親が待機している病室まで行った。
 
「手術は無事終わりましたよ」
「それで間違いとかは起きてませんよね?」
「はい。間違い無く間違ってますから、ご安心ください」
「よかった」
 
「残った睾丸は陰嚢に固定されていますので、もし邪魔になるようだったら体内に収納できるよう、固定を解除することは可能ですが」
 
「ぜひそうして欲しいです」
「それではまた秋頃に」
「分かりました」
 
「例によってこれは治験なので代金は不要ですから」
「助かります」
 
それで前橋は手術着を脱がせ、環和が着てきていた可愛い下着を着せ、ワンピースを着せてあげた。
 
「きっと可愛いお嬢さんになりますよ。目覚めたら帰宅していいですので、お大事に。帰ってから痛がったら、この痛み止めを飲ませて下さい」
 
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「分かりました。ありがとうございます」
 

青葉は1月下旬、和実からクレールの支店を作るので結界をしてくれないかと頼まれ驚いた。なんか経営大変そうだったのに、よくお金があるなと思ったものの詮索はしない。それで1月25日(土)に新幹線乗り継ぎで仙台まで行った。現場は仙台駅から歩いて5分ちょっとという便利な場所だったので驚く。
 
「ここ地価高かったでしょ?」
「そうでも無かったよ。4億8千万で買ったから。相場の半値以下」
 
高いじゃん! でもそのくらい払えるほどクレールも基本的には好調なのかななどと考える。しかし青葉は“ムーラン建設”の名前で工事内容の看板が出ているので脱力した。
 
「ムーラン建設に頼んだんだ?」
「発注したのは播磨工務店。ムーラン建設はそのお手伝い。ただ手続き上はムーラン建設が工事主体になったみたい」
 
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津幡でもそうしていたなと青葉は思った。津幡の体育館が年内に竣工したので、播磨工務店は主力をこちらに回すのかなという気がした(アクアゾーンの方はムーラン建設が作っている)。
 
「工事の発注者の株式会社CMPというのは?」
「クレール(clair)、ムーラン(Moulin)、フェニックストライン(Phoenix Trine)の3社で設立したペーパーカンパニー」
「若葉と千里姉が関わっているのか!」
「土地建物を所有して運用するためだけの会社。1階にクレール、2〜3階にムーランのお菓子ショップとセントラルキッチンやスポーツ用品店、地下2階に小型の体育館ができる」
「地下1階は?」
「駐車場」
と言って、和実は設計図を見せてくれた。
 
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「こんな町中に体育館作って何するの?」
「とにかく作りたいみたいよ。採算が取れるとは思えないけど」
 
千里姉らしいなと思った。しかし若葉と千里姉が絡んでいるなら、そのあたりから資金とかは出ているんだろなと想像した。和実は家賃を払っていけばいいわけだ。それもかなり安価な家賃設定なのだろう。
 
「ちなみにこの道路側が玄関だよね?」
「そうそう。千里は私の吉方位だと言ってた」
「そうなる。和実は1991年生まれの女だから本命卦は乾で、西は生気になり大吉」
「それ私が男だったら凶になってたんでしょ?」
「そうそう。風水では男女で吉方位が逆転するから。和実が万一男なら本命卦が離になって西は五鬼の大凶になる」
と青葉は解説する。
 
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「あ、そうそう。住み着いていた妖怪や地縛霊は千里が処理しとくねと言って何かしてた」
「ああ、これは妖怪とかの跡か。何かあるなとは思ったけど、千里姉が処理したのなら問題無い」
 
青葉は更地になっている土地の周囲を歩き結界を作った。
 
「何かを埋めたりはしないのね?」
「あれは千里姉のやり方だね。私もやることはあるけど、どっちみちここはこのあと地下室造りのために堀り返されるから、千里姉でもこの時点ではあの手法は採れないと思うよ」
「なるほど。手法は色々あるわけだ、でも結界ができたのは私にも分かったよ」
「取り敢えず工事中は変なのは入って来られないと思う。工事が進んだらまた調整するよ」
「よろしく」
 
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毎年春に、某テレビ局が制作していた「アクアちゃんの性別を確認する」という番組だが今年は制作されないことなり、1月にその旨、事務所の方に連絡があった。
 
「だって、どう考えてもアクアちゃんが男の子のはずが無いから、番組作ってもどうせヤラセでしょとしか視聴者には思われないんですよ」
という、昨年の番組司会者の弁であった。
 
ファンの間でも
「アクア様に、ちんちんとか付いているはずがない」
「アクア様は女の子だけど“設定”男の子なのよ」
などといった意見が大半で、アクアが本当に男の子だと信じているファンは少数のようであった。宝塚の男役に準じた存在と思っているファンも結構いる。
 

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「面倒くさい。アクアを温泉か銭湯の男湯に放り込んで、大勢の一般人に、確かに付いているというのを確認させればいいじゃん」
と雨宮先生は言った。
 
「それはBPOから叱られますよ。性別の暴露なんて、物凄くデリケートな問題だもん。医師に診せるというのがギリギリの線なんですよ」
と冬子は言う。
 
「男が男湯に入るのが何か問題になるとは思えんけど」
とこの日“アルコールの調達”に来ていた鷹野さんが言うが、
 
「銭湯に放り込んだら、アクアは確かに女の子だということが確認される気がするから、そしたらBPOがクレーム入れてくるかもね」
などと政子は言っている。
 
「アクアって、多分男湯に入った経験がほぼ無いと思うよ」
と千里は言う。
 
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「女湯には入っているよね?」
と政子が確認する。
 
「むしろほぼ女湯にしか入ったことが無いと思う」
と千里。
 
「だったら、やはり女の子なんじゃないの?」
と鷹野さん。
 
「それでも男の子なんだよね。私、青葉、コスモス、高崎ひろか、品川ありさ、丸山アイ、それからアクアのお姉さん代わりの佐々木川南と白浜夏恋とかは、アクアのちんちんを見ている。確かについている」
 
と千里は言いながら、高崎ひろかと品川ありさは微妙だよなと思った。この2人はアクアのちんちんがとても小さくて、女の子並みのサイズであるのを見ている。アクアのちんちんはあの後、青葉のヒーリングにより小学生程度の長さまで発達したのである。もっともNの消滅で、そのちんちんも消滅しちゃったけどね。こないだ青葉が『ヒーリングのターゲットが消えた』って言ってたし。
 
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「もしかして女性にしか見られたことないとか?」
「アクアは女湯にしか入っていないから、女湯に入れる男性がいたら、目撃しているかもね」
 
と言いながら、それ丸山アイのことでは?という気もする。
 
「だよね。アクアが男湯に入ろうとしても確実にスタッフさんに追い出されるだろうし」
と政子は言っていた。(それは多分事実だ)
 

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「でもアクアも高校卒業しちゃうし、アクアの次世代のタレントを作り出そうよ」
などと雨宮先生は言っている。
 
「ロックギャルコンテストは毎年有望なタレントを出していると思いますよ」
 
「やはり男の娘がいいと思うな」
「男の子じゃなくて男の娘なんですか?」
 
「その曖昧な性別が魅力的なんだよ。城みちる、川崎麻世、初期の郷ひろみ、IZAM, マリスミゼル時代のGackt、若い頃の 坂東玉三郎、この子たちは女の娘ではなく男の娘系統だから人気が出た。丸山明宏やピーター・松原留美子とは明らかに方向性が違うんだ」
 
「先生、また変なこと考えてますね」
「女の娘って何ですか?」
「だから、男の娘養成学校を作ろうよ」
「何です?それ」
 
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「小学3-4年生の可愛い男の子を入学させてさ、心の女性化教育を施して、男の娘として育てる」
「3-4年生がいいんですか?」
「その年代で性別意識がハッキリしてくるからね」
「それはあるでしょうね。男になりたくないと明確に意識するのもその付近ですよ」
 
「入学したら女名前をつけ、完全女装させて生活。女子トイレを使わせて、授業は女性らしい話し方、歩き方のレッスン、秘書の格好でお茶を出したり、ナースの格好で看護したり、フライトアテンダントの格好でアテンション・プリーズ、男の子とデートする練習、女の子向けジュブナイルや少女漫画の鑑賞」
 
「最後のが結構利きそうな気がする」
「あと、男性的発達を遅らせるためにオナ禁だな。女性化させる訳ではないから、女性ホルモンは使わない」
「禁止してもやめられないんですけどね」
「貞操帯をつけて射精管理するのよ」
「そろそろこの話、やめませんか?」
と冬子が言うが、政子はワクワクした目で見ている。政子はこういう話が大好きだ。
 
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「月に1回だけ射精を許可する。それも自分の手でしてはいけない」
「手でせずにどうやって射精させるんです」
「自動射精機を取り付けてローラーとかで刺激して射精させる。精液は冷凍保存」
「その程度で性的な満足が得られるんですかね?あれ自分でするから気持ちいいのでは?」
「さあ。私も射精なんてもう長いこと経験していないからよく分からないなあ」
 
と雨宮先生は言っている。先生は2007年に睾丸を除去しており、既に12年以上経っている。それなのに“立つ”し女遊びをやめないのが先生の非常識な所である。
 
「玉が無いのに立つって信じられない」
と鷹野さんも言っている。
 
「繁子ちゃんもそろそろ女装が好きですとカムアウトしようよ」
「僕はノーマルですよー」
「でもスカート持ってるでしょ?」
「3枚だけですよ」
 
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きれいに誘導尋問に引っかかっている!
 
「鷹野さん、次のツアーの衣装はドレスとか用意しようか?」
「僕はローズクォーツのタカ(星居隆明)とは違いますから」
「彼は完全に女装趣味だと思われているよなあ」
「タカも子供3人も産んだんだから、ちんちんは用済みでしょ。そろそろ去勢してもいいよね」
「タカさんが産んだ訳ではないと思いますけど」
 
「そうだ。男の娘養成学校の生徒が自動射精機を使用する時、100分の1の確率で、男性器は射精後切断されるようにしよう」
と雨宮先生は言い出した。
 
「何のために?」
「めでたく男の子を卒業できるじゃん」
「男性器を喪失したら、それもう男の娘ではない気がする」
「女の子にしか見えないのに、ちんちん付いてるのが男の娘の魅力では?」
「さっき先生、女性化させる訳ではないとか言いませんでした?」
 
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「ひょっとしたら男性器を失うかも知れないという不安が強い興奮を生み出すのよあんたたち子供の頃、自分のちんちんに刃物を当てて性的に興奮してなかった?」
「なるほど雨宮先生は、ちんちんに包丁を当てて切り落とす真似をしてオナニーしてたんですね」
「やってるでしょ?あんたたちも」
 
「それにしても100分の1というのは確率が高すぎる気もしますが」
などと冬子が言っていたら、千里がひとこと言った。
 
「その機械ができたら、まっさきに雨宮先生に取り付けてテストしてみましょう」
「やめてよ。切れちゃったらどうするのよ!?」
「雨宮先生もそろそろ男を卒業する、年貢の納め時だと思いますけどね」
 
と千里が言ったので、冬子も
 
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「賛成!」
と言った。
 

しかし雨宮先生のアイデアは、この年、実現されてしまうことになるのである。
 
(男の娘養成学校ではなく、アクアを銭湯に入れるというもの)
 
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