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■春気(11)
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千里が仙台のクレール若林店に隣接した土地を買った件だが、千里はこの約12haの土地を1月4日に買っている(代金支払い及び登記移転日。書類上は12月31日付の売買)。ところが、その後、この付近の土地を買うのならうちも売りたいという希望を地元の複数の不動産屋さんを通して言ってきた人たちが随分いた。
千里は冬子・若葉とも相談の上、その土地をSMP(Summergirls-Moulin-Phoenix)で購入することにし、結果的に当初買ったのと同じくらいの面積の土地を購入。買収した土地は合計25haになり、その内“ほぼ”四角形になる450m×510m(南西側が県道で三角形に切り取られるので約22.2ha)を“仮称・若林植物公園”として整備することにした。
今回の開発では道路の形状を変えるし、盛り土などもするので開発許可を取る必要があった。それで千里は弁護士さん及びムーラン建設の鳥越常務(設計部長。以前大手ゼネコンに居た人で、ムーラン建設の設計書は最終的に当時の先輩にあたる人に監修してもらっている)と一緒に必要な書類も添えて仙台市の土木課を訪れた所、若林区でそういう巨大開発をするというのに驚いた当局から、少し話がしたいと言われ、最初は土木課長さん、その内助役さん、最後は市長さんとお話しすることになった。
それで(冬子は多忙なので)あらためて千里・若葉は各々の顧問弁護士を伴い。鳥越さんも連れて市役所を訪れ、市長さんと会談した。
「体育館を2個並べて建てるんですか?面白いことしますね」
「それで両者の壁を取り払うと2万人入る巨大ライブ会場が出現するという仕組みなんですよ。ローズ+リリーの公演で使う予定ですし、ひょっとすると夏休みのアクアのツアーでも使うかも知れません」
「アクアちゃんが来てくれると凄いですね!」
と市長さんは大いに良い印象を持ったようである。
「でも体育館2つも作るならプールとかも作らないんですか?」
「プールですか?特に考えてなかったですけど、そのくらいは作ってもいいですよ」
「あ、ついでにテニスコートもあるといいなあ。東北は冬季の間はテニスの練習ができないんですよ」
「その話は昨年石川県で体育館建てた時も言われました。だったら、公園の東端にテニスコートとプールを並べましょうか」
「あ、どうせなら屋内陸上競技場とかはダメですか?インフィールドではサッカーとかラグビーができるようにして」
「天然芝は難しいですけど、人工芝でもよければ、この南側の駐車場予定地に建てちゃう手はありますね」
屋根付きで天然芝にするには、札幌ドームがやっているように隣接する同面積の場所で養生しておいて、公式戦の時だけ屋内に移動させるような仕組みが必要で面積が倍必要だし、移動のシステムを作るのにもお金が掛かる。
「人工芝でいいです。国際大会とかは 弘進ゴムアスリートパーク仙台を使えばいいと思うのですが、やはり陸上も冬季の練習が課題なんですよ」
「駐車場は1400台駐められるようにするつもりだったんですが、ここを陸上競技場にしてしまうと400台くらいしか駐められなくなりますが」
「そのくらい駐められたら充分でしょう」
「市長さんがおっしゃるなら」
そういう訳で、ここにはテニスコート、プール、陸上競技場(いづれも屋内)も建設されることになったのである。
「でもこの右側(東側)の緑色の部分は何ですか?」
「ああ、それは友人が『スキーしたい!』というもんで、ゲレンデでも作ろうかと思ったんですが」
「ゲレンデですか?」
「小さい山を作って500mの斜面を滑り降りるんですよ。町中で500mも滑られるといったら絶対需要があるといわれて」
この説明に対して市長さんは
「それはいいですね!面白い」
と言ったのだが、土木課長さんが懸念を表明した。
「待ってください。こんな細いエリアに造山したら崩壊の危険があると思います」
ここは造山するというより、堅い地盤を“持って来て置く”つもりだったのだが、“人間”には無理な作業だ。
「うちの技術なら万が一にも崩壊することはありえませんよ」
と鳥越さんは言うが、土木課長は絶対危険だと主張した。
すると市長さんは唐突に言った。
「それならですよ。ここに天井が斜めのビルを建ててですね、その斜面を滑り降りるというのはどうですかね?」
「ほぉ!」
「面白い」
「行けるかも」
そういう訳で、市長さんの思いつきの妥協案で、ここには山ではなくビルが建てられ、その天井を斜めに作成して、そこに土を敷き、雪が降ったらゲレンデにするという案が採用されることになった。
「ここにビルを建てるのなら、テニスコートやプールはその内部に作ればいいですよね?」
「そうすればお花畑の面積が圧迫されない」
それで千里や若葉、市長さんに、スポーツ課の人も入ってもらって検討している内に、この斜めの“ゲレンデビル”にはこのような施設を作り込むことになった。
1F プール(50m, 25m, 飛び込み用)
2F テニスコート
3F スケート場(フィギュア仕様 60m×30m)
4F グラウンド・ゴルフ
5F 剣道(板張り)・柔道(畳)・空手・レスリング
プールを1階に置くのは、水を溜めるためにその下を3m掘る必要があるからである。2階以上にプール(特に50mプール)を作る場合は、その分の床の厚さが必要になるし、ビル本体も丈夫さが求められ建築費がかさむ。柱も多くする必要があり、設計上のネックになる。
リンクはスピードスケート用のも欲しい所だが、面積が足りない(スピードスケートのリンクは陸上競技の400mトラックと同じ広さが必要)ので諦めることにした。
「ここまで施設があったら合宿が出来ますね」
「そうだ、選手が泊まれるような宿舎を作りませんか?」
「若葉?」
「いいよ。そのくらい」
それでこの施設はスポーツ施設部分は千里、宿舎部分は若葉が担当して建設を進めることにした。
「でもこれどのくらい掛かる?」
と千里は鳥越さんに尋ねる。
「800億円くらいだと思いますが」
「そんなに!?」
「ドーム球場が建つじゃん」
「この面積はドーム球場並みですよ。高さもこれ80mくらいになるから、ドーム球場より高いです」
「建設費を圧縮しましょう。あるいは仙台市さんも出資します?」
「そういえば球場がありませんでしたね」
「もう土地がありません」
「ここに隣接するあるいは近くの土地を市で買って球場建てる?」
と市長さんが助役さんを見て言うが
「私に訊かれても困ります」
と助役さん。本当にそうだ。球場1個建てるとなると、ドーム球場でなくても軽く100億円くらいは飛ぶ。簡単に返事ができる問題では無い。
「でも球場はまた後で考えることにして、うちも出資してもいいんじゃない?」
「それは充分検討に値すると思います。その分、市民の入場料を安くさせてもらうことにして」
とスポーツ課長さんは言っている。
それで建設費を圧縮するのに検討していたのだが、根本的な問題として例えば500mにテニスコートを並べると23個設置できるが、こんなに要らないのではということになる。それでビルの面積は半分にして、北側の約半分はビルとか建てずに、代わりに地面を掘ろうということになる。盛り土は崩れやすいが、地下はしっかり山留めしておけばそう簡単に崩れるものではない。半地下にすることでビルの高さも抑えられ、面積も半分(実際には長さを半分にすると床面積は3分の1になる)にすることで、鳥越さんの見立てて200億円くらいで行けるというところまで行ったのである。↓がその概略設計図である。
宿舎は延べ床面積11837m
2で、単純計算すると4人部屋が300個くらい設置でき、1200人程度が泊まれることになって、合宿所としては充分な広さである(実際には廊下・エレベータなどの面積も必要なのでたぶん1000人程度)。
この数は床面積を単純に1部屋40m
2として割り算したものだが、窓のある部屋だけで構成する場合は、東西方向総延長236.75m、南側(50m-20m)×4なので1部屋3.6m×10mとした場合で、約100室、400人程度の宿泊ということになる。中央の空間はサロンやトレーニングルームなどとして使うしかない。
(ここが旅館・ホテルの類いと考えると窓は必要だが、単なる事務所でそこに勝手に寝るだけとみなせば換気扇を設ける条件で窓は不要。この件は市側の判断に委ねることにした:津幡の場合はフォーク状の構造にして全客室に窓を設置しているが、ここは天井がゲレンデで塞がるのでそれも不可能)
なお、ゲレンデを南側から北へ向かって滑るようにするのは、南向きだと太陽が目に入ってまぶしく危険であるのと、雪が融けにくいようにするためである。
「200億円なら若葉のおやつ代程度だよね?」
「私はマリちゃんじゃないよ!でも200億円なら、私と千里と冬で70億円ずつ。負担感の無い金額だね」
「それに市も一口のせてもらうということで」
「どのくらい出資なさいます?」
「10億円くらいでもいい?」
「いいですよ。公園全体の整備費が300億円くらいだと思うので、でしたらその3%程度の株主ということで」
陸上競技場と2つの体育館が各20億円くらい、公園全体の整備費で40-50億円程度という鳥越さんの概略見積もりであった。
「じゃその線で議会にかけるから」
「はい。よろしくお願いします」
(実際には三角館は150億円でできたので全体の整備費も250億円で済んだ。それで仙台市は4%の出資者となった。千里・冬子・若葉の出資額は80億円(32%)ずつである。市は少数株主の権利が生じる3%以上にしたかったらしいので、ちょうどよかった)
しかし少額であっても市が出資したお陰で(形式的には第三セクターになる)、色々便宜を諮ってもらえることになったし、固定資産税も掛からないことになる。
使用料は格安になったが!
(収入は維持費程度になるが、千里も若葉も元々儲けるつもりはない。千里は体育館を作りたいだけだし、冬子は大会場が欲しいだけだし、若葉はお金を減らしたい!だけである)
ゲレンデを除いては24時間営業するというのに市は驚いていたが、実際にはけっこう深夜の利用者があり、それがこの“七夕スポーツセンター”(と市長が勝手に命名した!)の売りにもなっていくことになる。
そういう訳で公園の全体図はこのようになった。駐車場は450台まで減っていたのだが、購入したもののデコボコになってしまい公園としては使えない“端切れ”の土地の一部を駐車場として整備し、最終的に1050台の駐車を可能にした。
体育館の名前はヴェガ・アルタイルで考えていたのだが
「漢字の方が格好良いですよ」
と市長さんが言うので、織姫・牽牛になった。でもオープン後“牽牛”が読めずに“とんぎゅう”とか“いんぎゅう”などと誤読する人が大量発生した!
「牽引(けんいん)ならみんな読めると思うのに」
「最近はみんな漢字を書かずにカナ変換だからね〜」
第2駐車場のそばに“第2研修所”を建てることにした。建物の構造としてはクレール女子寮とほぼ同じ仕様である。織姫・牽牛は夏頃までにできるのに、ゲレンデ下の“三角館”は播磨工務店の力をもってしても、どうしても冬直前の完成になるので『夏休みに合宿したい』という要望があったからである。
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