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■春気(15)

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「気球に乗って5日間ですか?」
とアクアは驚くように声をあげた。
 
「ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の初期の作品に『気球に乗って5週間(Cinq Semaines en ballon)』というのがあるんだよ。実はこの作品でヴェルヌはブレイクしたんだけどね」
「へー」
 
「それを5週間もやってられないから5日間にしようという訳」
「それで熱気球の免許を取ってということだったんですね」
 
「実際の熱気球の操作は世界的にも有名なブラジルのバルーンニストであるリョーマ・ケルナーさんがするんだけど、上空で万一トラブルがあって、ケルナーさんが操作できなくなった時に他に操作できる人がいないとまずいから免許を取ってもらったんだよ」
 
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「そういうことなんですか。済みません、ケルナーさんって有名な方なんですか?」
「気球でアマゾン横断に始まって、大西洋横断、サハラ砂漠横断とかも成功させているよ」
「凄い人なんですね!」
「基本的には彼があっての企画。それで彼と、アクアちゃんと、ドイツ人俳優のミハエル・クラインシュミット君の3人がトリプル主演になる。ミハエル・クラインシュミットは知ってる?」
 

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「こないだ写真集撮影でドイツに行った時、彼と偶然遭遇しました!」
「ホント?それは凄い!」
「並んで写真も撮ったんですよ」
「おお!」
 
「あの写真、どこかにありましたっけ?」
とアクアはコスモス社長を振り返って尋ねる。
 
「あるよ」
と言ってコスモスはパソコンを取り出すと、その中に保存している、ノイシュヴァンシュタイン城前で、騎士姿のミハエルとお姫様姿のアクアが並んでいる写真を大曽根部長に見せた。
 
「・・・・・」
 
「あのぉ、何か?」
「なんでアクアちゃん、お姫様の格好なの?」
「私、不本意なんですけど、騎士の格好とお姫様の格好の両方させられて撮影したんですよ」
などとアクアは言っているが、コスモスは“不本意”は嘘だろ?お姫様の衣装つけて嬉しそうにしてた癖にと思っている。
 
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「ああ、確かに君が女の子の格好している所の写真を入れないとファンが文句言いそうだ」
と大曽根部長は言ってから、ふと思いついたように
「ちょっと待ってて」
と言って、どこかに電話を入れる。
 
ドイツ語で話しているようだ。アクアには内容が分からないが、コスモスは大曽根さんの言葉を聞きながら頷いているので、内容が分かるのだろう。11月のドイツ遠征の時も、コスモスは結構ドイツ語で現地スタッフさんと話していた。
 
10分ほどの会話で電話を終える。
 
「企画変更」
と部長は言う。
 
「あのぉ、まさか私、女の子役をしろとか?」
 
「安心して。男の子役だから」
「良かった」
「でも女の子役もして」
 
「え〜〜〜!?」
 
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ここでまず『気球に乗って5週間』の原作のあらすじを紹介するが、その前に前提となるナイルの源流論争について説明しておく。
 
この作品は1863年に発表されたのだが、当時実はナイル川の水源について論争が行われていた。イギリスの探検家 ジョン・ハニング・スピークはナイルの水源を探索していて1858年8月3日に巨大な湖(ニアンザ湖)を“発見”し、ヴィクトリア女王(在位1837-1901)にちなんでヴィクトリア湖と“命名”した。
 
(現地の住人に教えてもらって到達したのを“発見”というのなら、私だって琵琶湖の“発見者”になれる)
 
彼はこれがナイル(正確には白ナイル)の水源だと考えたが、彼はこの時、この湖から流出する川を確認できなかった。一方彼と途中まで行動を共にしていた、リチャード・フランシス・バートンは、ふたりがニアンザ湖(ヴィクトリア湖)より先に同年2月13日に一緒に“発見”していたタンガニーカ湖(現地名ではウジジ湖)の方を水源だと考え、ふたりの間で論争が起きた。
 
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論争に決着をつけるべく、スピークは再度アフリカに赴き、1862年7月28日に“ヴィクトリア湖”の北に大きな滝があり、そこから川が北に向かって流れているのを確認。これで決着がついたと考えたのだが、彼はその川が本当にナイルにつながっているのを確認した訳ではなかったので、まだ論争は続くことになる。
 
このジュール・ヴェルヌの小説はそういう時期に発表されたのである。
 
(ニアンザ湖(ヴィクトリア湖)がナイルにつながっていることが確認されたのは1875年で、アメリカ人のヘンリー・モートン・スタンリーによる。実はウジジ湖(タンガニーカ湖)はナイルとは無関係で西に流れてコンゴ川につながっている。なお、青ナイルは、エチオピアのタナ湖が水源である)
 
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さて『気球に乗って五週間』のあらすじである。
 
イギリス人のサミュエル・ファーガソンは、スピークが果たせなかった、ナイルの水源確認を気球を使って行おうと考えた。アフリカ東岸ザンジバル島から出発して“ニアンザ・ヴィクトリア”に到達し、そこからスピークが発見していた北側から流れ出す川に沿って北上し、確かにナイルであることが確認できる場所まで行った上で、アフリカ西岸のセネガルまで行こうという計画である。ここは貿易風が吹く緯度帯なので、偏西風が吹く日本の緯度帯とは逆に気球は東から西へ流されていく。
 
この気球“ヴィクトリア号”に乗るのは、気球制作者のファーガソンと彼の従者で肉体能力の高い(007並みの驚異的な体力!)ジョー、そしてファーガソンの友人で銃の名手でもあるディック・ケネディの3人である。
 
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彼らが使用したのは水素気球で、当時このタイプの気球では、上昇する時は重りにしている土嚢(バラスト)を投げ捨て、下降する時はガスを抜くことが必要であった。そのため長時間の飛行は困難だった。しかしファーガソンは気球内の水素をバーナーで温めたりまたバーナーを停めて冷ましたりすることで(*3)土嚢を捨てなくても、自由に上昇・下降できる気球を開発したのである。これで彼は何十日にも及ぶ気球旅行ができると考えた。
 
(*3)現代人の感覚からすると水素の傍で火を焚くなんてのは、爆発させたいとしか思えない。しかし当時の読者には新鮮なアイデアと思われたであろう。
 
実はこのタイプの気球はヴェルヌより80年も前に、ピラートル・ド・ロジェ(Jean-Francois Pilatre de Rozier)というフランス人が考案しており現在では“ロジェ気球”と呼ばれている。そして現代人なら容易に想像できるように、ロジェの気球は1785年ドーバー海峡横断飛行中に爆発してロジェは同乗者とともに死亡した。
 
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現代ではロジェ気球はガスを不燃性のヘリウムに変更してまた制作されるようになっている。ただしヘリウムは水素のように飛行中に生成することはできない。
 

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さて、「五週間」の物語の方であるが、ファーガソンたち3人はザンジバル(*4)から西へ飛行し、無事“ニアンザ・ヴィクトリア”に到達する。
 
(*4)ザンジバルはアフリカ東岸の国でザンジバル島と対岸の地域から成る。クィーンのフレディ・マーキュリーの出身地。現在の“タンザニア”という国名は、タンガニーカとザンジバルの鞄語。
 

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一行はニアンザ湖を南西から北へ縦断し、スピークが発見した川を再発見する。そしてこの川に沿って北上し、ナイル上流を探索した探検家が残した石碑を発見。確かにこの川がナイルであることを確認できた。
 
彼らは更に西へと飛行を続けるが、途中様々な事件に出逢う。
 
現地人に捕らえられ処刑されそうになっていた宣教師を助けるが、彼はあまりにも衰弱していてすぐに死亡してしまった。
 
金鉱石がゴロゴロ転がっている場所に着地し、埋葬した宣教師の身体の重さに釣り合う分の金鉱石を気球に積むも、緊急浮上の必要が出た時に全て投げ下ろしてしまう。
 
途中で水が尽きてしまい(水は飲料水のほか、水素を発生させるのに必要)、砂漠に不時着して万事休すという所で嵐が来てギリギリで救われたり、チャド湖上空で墜落の危機に瀕した時、
「もう捨てる物がない」
と言っていたら、ジョーが
「まだあります」
と言って、自ら気球から飛び降りたり(湖の上なのでジョーは助かり、数日後に幸いにも合流する)、高い山を越える時、あと数m上昇しないと山にぶつかると言っていた時、“気球から降りて山の尾根を歩いて越え”たりする。
 
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(山の気流というものを考えてない!とツッコみたい)
 

最後はあと少しでゴール地点なのに浮上できないという話になり、全ての荷物を捨てた上でとうとう水素発生装置やゴンドラまで捨て、気球に直接ぶら下がるなどということをするが、それでももう浮かべない!ということになる。すぐ近くまで“野蛮人”の集団が彼らを襲撃しようと迫ってくる。
 
ゴンドラまで捨てているので、もう万事休すと思われたのだが、ここでファーガソンは近くに生えている草を集めて、それに火を点け、空気を暖めて浮上するということをして、何とかセネガル川を越えることができた。
 
水素がなくても空気を暖めれば浮上できる、というのも当時の読者には驚きだったであろう。これは大どんでん返しなのである。
 
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気球は川岸の少し手前で落下してしまい、乗員3人は徒歩で岸まで辿り着くものの気球は川に流されて行ってしまう。ジョーは
 
「可哀想なヴィクトリア号!(Pauvre Victoria !)」
 
と悲痛な声をあげたが、3人はセネガル駐留のフランス軍部隊に保護してもらい、無事帰国することになる。
 

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さて今回のプロットは、アクアが演じる“人気日本人歌手”カオル・ワタナベとミハエル演じる“人気ドイツ人歌手”フランツ・ケーニヒが、ふたりとも福岡で公演をした後から始まる。翌週(2人とも)東京で公演をするのに飛行機で移動しようとしていたら、どちらもオーバーブッキングで乗れず、新幹線で移動しようとしたら大きな事故があって運休し復旧の目処が立たないというので困っていたら、リョーマ・ケルナー演じる飛行家タロウ・ベッカーが「僕のエアシップに乗ってかない?」と誘い、てっきり自家用機かと思ったカオルとフランツが同意して乗せてもらうことにすると、タロウのエアシップというのは実は気球だった!というものである。
 
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それで3人は5日間かけて東京まで気球の旅をすることになる。途中ストーカーに追われていた少女歌手を助け、彼女のお父さんから御礼にともらった金の延べ棒は緊急浮上のため泣く泣く投げ捨て、バーナーが落下して不時着するが、温泉宿の主人がミハエルのファンで調理用のプロパンガスのコンロを気球用に改造して渡してくれたり、などしてなんとか東京まで辿り着く。そして何とか公演に間に合ったぁ・・・と思っていたら!
 
というものである。
 
ここで重要な設定は、カオルは日本語と英語(と中国語)が話せて、フランツは英語とドイツ語(とフランス語)が話せて、タロウはドイツ語と日本語(とポルトガル語)が話せるというものである(ブラジルには実はドイツ系の人も多い)。
 
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要するに3人全員が理解できる言葉が無い!
 
それで3人がお互いの意思を伝え合うのに苦労するというのが味付けになっている。
 

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