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■春気(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2020-03-05/改2020-04-18
 
立花晴安は2019年10月に妻・ユナと離婚。2人の間の3人の子供・賢太(2014), 一美(2016), 功児(2018)は、晴安が引き取ることになった。
 
元々晴安があまり女性に関心が無いことから彼の父親が心配してやや強引に話をまとめて結婚したものだったこともあり、最初から2人の間にはあまり愛情が無かった。子供を作ったのも“跡取り”が欲しかったためであり、2人目の男の子・功児が生まれた時点で離婚はもう時間の問題になっていた。
 
更にユナは元々子供嫌いだし、別の男性と結婚する予定もあったので“身軽”になりたかった。そういう事情で子供は晴安が引き取ったのである。子供たちも実の母親からネグレクトされていたこともあって、父親の元に残りたがった。
 
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離婚してすぐ結婚というのは節操がないので3ヶ月待つことにして阿倍子と晴安は2020年2月に結婚することで、双方の親も同意してくれた。ちなみに元々女性に興味がない晴安が阿倍子とは恋愛できるのは、阿倍子が晴安を“女友達”として受け入れてくれるからである。阿倍子は晴安が女装している時でも一緒にお散歩とかしてくれるし、“入れて”くれたりもするので、晴安は阿倍子との交際にとても満足していた。一方ユナには晴安は何度か女物の服を全部捨てられてしまったことがある。
 

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そういう訳で2019年の年末頃から、晴安と阿倍子はほとんど夫婦同然の状態になっていた。また阿倍子が許してくれたので、晴安は11月から2月まで掛けて足や顔の脱毛をしたし、12月には喉仏の切削をして、2月にはシリコンを入れておっぱいを大きくしてしまった(まだ性交能力を失いたくないので、当面女性ホルモンは飲まないし、去勢などもしない約束)。
 
それで晴安は仕事に行く時以外は、ほぼ女性の格好で過ごしていたし、阿倍子と一緒にスーパー銭湯に行ったりもしていた。バストが大きくなったことで女湯に入れるようになったのである。むしろ男湯には入れなくなった。ちなみに晴安は元々女性に興味が無いので女性の裸を見ても何も感じない。実はこれまで男湯に入るのはとても怖かったし恥ずかしかった。
 
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なお結婚式は、親の手前、“世間体”もあるので晴安がタキシードを着て男女型で挙げる予定であるものの、2人だけで双方ウェディングドレスを着た記念写真も撮ることにしている。
 
ともかくもそれで結婚に向けて順調に進んでいたものの、ここでひとつ大きな問題が発生していた。それは阿倍子が京平も連れて晴安の家に遊びに行くと、毎回京平と賢太が喧嘩するのである。
 
悩んだ末に阿倍子は京平を“遺伝子上の母”である千里に委ねることを考え、1月18日(土)に東京まで来て千里と会い、打診してみた。むろん千里は大歓迎である。それで来月上旬に阿倍子は京平を連れて東京に来て京平を千里に委ね、その後、阿倍子はひとりで晴安の許(もと)に行き再婚しようということにしたのである。
 
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千里が京平を引き取る場合、早月・由美、そして桃香とも一緒に暮らすことになる。
 
それで千里はこの件について桃香と話し合うため、桃香が12月の“大掃除”以来、ずっと居座っている高岡に行って桃香と話し合うことにしたのである。
 
阿倍子と会った日の夕方、千里4は高岡まで行き、この件を桃香と話した。桃香は驚いたものの、京平君と会って一度一緒に遊んでみたいと言う。そこで千里は阿倍子に連絡し、翌19日に阿倍子と京平がサンダーバードで金沢まで来ることになったのである。
 

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「だけどずっと寂しかったよぉ。今晩はHしようよ」
と1月18日の夜、桃香は言った。
 
「いいよ。先に部屋で休んでて」
「OKOK」
それで桃香は11時頃嬉しそうな顔をして自分の部屋に入ったが、千里(千里4)は青葉と、音楽業界の話や、差し迫ってきたオリンピックの件、更に松本花子のことやアクアの制作の件、津幡火牛スポーツセンターの運営などで話し合っていた。
 
桃香が寝室に行ってから30分もした頃、青葉は心配して言った。
「桃姉が待っているのでは?」
「仕方ないなあ。じゃ1番、桃香のところに行きなよ」
「1番?」
と青葉が戸惑うように言うと、唐突に千里が2人に分離した。
 
ギョッとする。
 
「じゃ桃香と遊んでくるね」
と言って、髪の短い千里がトイレに行ってから2階に上っていった。
 
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「じゃ青葉、続けようか」
と髪の長い千里は言った。青葉は呆気にとられていた。
 

その夜龍虎Mは放送局でドラマの撮影をしていたのだが、早めにあがったFはコンビニでチロルチョコの27個入りパックを買って帰り、その内“8個”をMのために残し、自分で11個取って8個をスヌーピーのお皿に載せて陰膳としてNの部屋に置いてこようと思い、Nの部屋に入った。するとベッドに人がいるので驚く。
 
「まさかN?」
「うん」
「どうしたの?」
「よく分からない。突然具現化した」
 
「Nちゃん会いたかったよぉ」
と言ってFはNに抱きついた。
 
「ちょっとちょっと」
「そうだ。セックスしてあげようか?」
「しない、しない。そんなのMに言いなよ。ボクは性欲無いもん」
 
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「だってMはバージン大事にしなよと言ってしてくれないし、触ってもくれないんだよ」
 
「でもどうして具現化したんだろう?」
「あるいは一種の脈動みたいなものかもね」
「そんな気もする。きっと基本的には2人に戻ったんだけど、たまにこういうふうに3人になることもあるんじゃないかな」
 
「そうだ。ちんちん触ってあげようか」
「やめようよ。そんなことされたら変な気分になりそうで」
「変な気分になったら、私の触ってもいいよ」
「触らない触らない」
 
「じゃ、これ陰膳でNのベッドにお供えしようと思ってたんだけど食べる?」
「食べる。ありがとう」
と言って、Nはチロルを食べた。その後、Fはピザの宅配を頼み、シーフードピザをFとNでシェアして食べた。
 
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Nは2時間ほど具現化していたが、Mが帰宅する前にまた姿を消してFの中に戻った。
「ああん、消えちゃった」
と言って、Fがお茶を入れて自分の分のチロルチョコを食べようとしていたらFの中に居るNが指摘する。
 
『Fの取り分が多い気がする』
「しまった、バレたか。Nのベッドに1個置いておくよ」
『いいよ。この状態では食べられないから、Fにあげる』
「さんきゅー。Nは優しいなあ」
と言って食べている内に、ふと思いついて訊いた。
 
「ね、ボクがHなことしてる時、Nはそれ見てる?」
 
『目を瞑っているよ、なんか見ちゃいけない気がして』
「同じ自分だから見てもいいのに。NはHなことしたくなることないの?やはりさっき具現化している内にちんちん、もんだり舐めたりしてあげれば良かったね」
『舐めるとかやめて!』
 
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「一度試してみたいのに。だったら今度具現化している時睾丸返してもらったらどうかな?こうちゃんさんは取り敢えず保管しておくと言ってたし、万葉先生も約束通り20歳になるまで睾丸の強化してあげると言ってたし」
 
『ボクあまり睾丸入れられたくない』
「そうか。女の子になりたいんだっけ?具現化している時性転換手術してもらう?」
『そこまでしなくてもいいかな。Fの身体の中にいるだけでかなり安らぐ気分。どうもボク、MとFに半々入ったんじゃなくて、Fに7割くらい入ってる気がする』
 
「やはり女の子になりたい部分が大きいのね」
『そんな気がする』
 

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一方、西湖(M)は、その日22時であがらせてもらい、桜木ワルツが忙しそうにしていたので
「私、電車で帰ります」
と言って、東急で用賀駅まで帰った。学校が終わってからそのままアパートに戻っていたFから
『ごはん作ってるよ』
と直信が来ているのでセブンイレブンでシュークリームを2個買ってからアパートに帰る。
 
「ただいまあ」
と言って、お土産のシュークリームを出して2人で1個ずつ食べる。更にFが作ってくれていたボルシチを食べていた時、ドアがトントンとされる。
 
こんな時間に誰だろう?と思ったら
「俺。近くまで来たから寄った」
という父の声である。
 
西湖は焦った。
 
どうしよう?2人でいる所見られちゃう。
 
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と思ったら唐突に西湖は1人になってしまった。
 
Fが消えたのかMが消えたのか、自分でも分からない。ともかくも残った西湖がドアを開けて父を入れた。
 
「おお、ちゃんと御飯作って食べてたのか、偉い偉い」
と父は言ったものの、
「なんで茶碗が2セット出てるの?」
と訊く。
「ごめーん。昨夜(ゆうべ)の茶碗をまだ片付けてなかった」
 
「ああ。一人暮らしだと、そういうの適当になるよな。まああまり溜めない内に片付けておけよ」
「うん」
 
父は横浜に行った帰り、西湖の所に寄ろうと、わざわざこちら経由で来たらしい。1時間ほど話した後、焼売をお土産に置いて終電(用賀00:34-00:46渋谷)で帰っていった(今夜は都心で泊まるらしい)が、西湖はちょっと脱力する思いだった。
 
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「ところでボク男の子かな?女の子かな?」
と確かめようと思った時、西湖はまた2人に分かれてしまった。各々お股を確認して1人が男の子で1人が女の子であることを認識する。
 
「じゃお風呂入って寝ようよ」
「うん。仕事で疲れたろうし、Mが先に入ったら?」
「じゃ先に入るね」
 
と言ってMは着替えを持って来て脱衣室に入った。ちなみにFはもちろん女の子下着を使うが、Mも女の子下着を使っている。もう西湖は女の子の服を着るのが習慣になってしまって男の子の服を着ることに抵抗感を感じる。
 
Mがお風呂からあがるとFは布団を2組敷いてくれていた。西湖は行儀がいいので布団を敷きっぱなしにしたりしない。ちゃんと畳む。それでさっき父が来た時は、布団が2つあることに気づかれずに済んだ。Mと交替でFがお風呂に入る。
 
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「覗かないでね」
「覗かないよ!」
「覗きたい時は声掛けてからにしてね。心の準備が必要だから」
「だから覗かないって!」
 
「でも最近Fちゃん少し大胆じゃない?」
「私たちが大人になるためのステップなのかもね。セックスしたくなった時も言ってね。無理矢理じゃなかったら応じてあげるから。避妊具はMが買ってね」
「しないよー」
 
「それとも和紗ちゃん(桜木ワルツ)とセックスしたい?」
「ノーコメント」
「ふーん」
 

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翌1月19日(日)、阿倍子と京平はサンダーバードで金沢まで来てくれた。日曜日なので早月と由美を母に見ててもらい、まずは千里と桃香で青葉のマーチを借りて金沢駅まで行き、時計台駐車場に駐めて、金沢駅で阿倍子・京平の親子を迎えた。
 
8番ラーメンで軽くお昼を食べてから、駅構内の“こどもらんど”で遊ぶ。ラーメンを食べている間は、お互い少し遠慮があったものの、こどもらんどの中に入ると京平は楽しそうに様々な遊具で遊ぶし、桃香も童心に返って京平と一緒に楽しく遊んでいた。京平がマジックテープでくっつけてある野菜をプラスチックの包丁で切ったりするのをしてると、桃香がその包丁を取り上げて「お姉ちゃんに貸してごらん」などといって夢中になっている。
 
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「もうどちらが子供でどちらが保護者か分からないな」
と千里。
「でも仲良いみたい」
「デートは成功かな」
 

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