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■春気(2)

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「ここでは換金できないんですか?」
「売場では5万円までの当選金しかお支払いできません」
 
和実は面倒くさいなと思った。
 
「でもいくら当たったんですか?」
と和実が訊くと、おばちゃんは指で1という数字を示した。
 
1万円?
 
いや、5万円まではここで換金できるとおばちゃんは言った。だったら10万円?それにしてもわざわざみずほ銀行まで行くとか面倒だ。
 
「みずほ銀行ってどこにありましたっけ?」
「ここを右手に行って、青葉通りをまっすぐ行ってください。東二番丁通りとの交差点の所にありますから。昔は富士銀行だったんですけどね」
 
「富士銀行がみずほ銀行になったんでしたっけ?」
「なんかどんどん合併して訳分からなくなりましたよね。富士銀行と第一勧銀が合併してみずほ銀行になったんです(*1)」
 
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(*1)本当は富士銀行・第一勧業銀行・日本興業銀行の三行が合併して、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行になり、その2行が更に合併して(新)みずほ銀行となった。
 

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「こないだ私、こんがらがって、三菱USJ住友銀行とか言って、そんな銀行は無いって言われましたよ」
と和実。
「それついでにUSJじゃなくてUFJね」
「そうなんですよ。USJは大阪の遊園地だって」
 
「でもお客さん、できたら男の人と一緒にみずほ銀行に行かれた方がいいです。彼氏か、居ないならお父さんか、あるいは会社の上司か」
 
男性と一緒?なんでだろうと和実は思ったが
「分かりました。ありがとうございます」
と売場のおばちゃんに言い、宝くじを受けとってバッグに戻し、まずはクレールに電話した。マキコが出るので、
「打ち合わせ終わったらすぐ帰るつもりだったけど、宝くじが当たってるとかいうからさ、みずほ銀行に寄って帰るから少し遅くなるかも」
と伝える。
 
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「みずほ銀行って、もしかして高額当選ですか?」
「そうらしい。宝くじ売場では換金できないと言われた」
「幾ら当たったんです?1000万円くらい?」
「まさか。でも100万円かも。誰か男の人と一緒に行ったほうがいいと言われたんだけど、今日は倉本君まだ来てない?」
「そういうことなら、会長(伊藤君)がいいですよ。私から連絡しますから、みずほ銀行、入口入った中で待ち合わせにしましょう」
 
「中で?迷惑じゃない?外で待っているよ」
「それでスリとかに遭ったら危険ですよ。中で待っててください」
「分かった」
 
そこまで用心する必要あるかなと思ったものの、和実はいつも冷静なマキコに言われみずほ銀行まで行って店内で待つことにする。
 
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それで青葉通りまで北上し、そこを西に向かって歩く。東五番丁通りを越える。途中に三菱UFJ銀行がある。ここじゃダメなんだろな?とか考える。同じ銀行なんだからどこでも換金できればいいのになどと和実は考えるが無茶である。
 
和実がみずほ銀行に辿り着いてから、ほんの10分ほどで伊藤君は来てくれた。偶然にも市街地に打ち合わせに来て会社に戻ろうとしていた所だったらしい。
 
「悪いね。仕事中に」
「平気平気。うちの会社は適当だから」
 
それで番号札を取り、その番号が表示された所で窓口に行く。
 
「宝くじの換金をしたいんですが」
と言ってくじ券を出す。
 
「今お調べしますね」
と言って窓口の人が機械に掛けている。大きく驚いた表情。係員は「少しお待ちください」と言って、奥から貫禄のある50代くらいの男性行員を連れて来た。支店長の名刺を出す。
 
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「いくら当たってるんですか?」
と伊藤君が尋ねる。
 
「1等と前後賞の片方です」
と言って、支店長はくじ券と当選番号の一覧表を提示し、39-153893が一等7億円、そのひとつ前の39-153892が前後賞1.5億円で合計8億5千万円当選していると説明した。
 

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「8億!?嘘。高額当選というから100万円くらいかと思ったのに」
と和実は言った。
 
「だから売場のおばちゃんは男の人と一緒に銀行に行けと言ったんだな」
と伊藤君は納得するように言った。
 
「どうしよう?そんな高額もらって帰り道に落としたら」
と和実が言うが
「それ現金じゃなくて振込ですよね?」
と伊藤君は確認する。
 
「はい、現金でもご用意できますが、8億5000円の現金は1万円札でも85kg, 1億5千万円入るジュラルミンケースが6個必要で、ケースの重さまで入れると100kgを越えますし、ガードマンも付けないと怖いですし、自宅に置いておくには巨大な金庫や警報装置が必要ですから、多くの方が振込を選択なさいます。取り敢えず別室で色々ご説明しますので、ちょっとこちらにおいでください」
と支店長は和実と伊藤君を別室に案内した。
 
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調度が豪華である。どうもVIPルームっぽい。普段は上級の得意客との商談とかに使うのかなと思った。コーヒーとケーキが出てくる。コーヒーがブルマンだ、さすが美味しいなどと和実は考えていた。支店長は2人に『「その日」から読む本』という小冊子を1冊ずつ渡した。
 
この本は宝くじの高額当選者だけに配られる本で一切市販されていないらしい。
 
「失礼ですが、ご夫婦でしょうか?」
「いえ。高校時代の親友で、今も私が経営するお店の手伝いをしてもらっているんです」
と和実は説明したが、支店長は恋人なのだろうと思った気配もある。以下の話はふたりが親密な関係であることを前提とした話になった。
 
「まず大事なことを数点お話しします。第一に高額当選したことを無闇に他人に言わないことです。誰に話すかおふたりでよくよく話して決めて下さい。概して親兄弟などはとても危険です。身内の気安さで借金を頼まれ、断ると人間関係も悪化します。最初から話さないことがお勧めです。会社の同僚とか友人とかも同様です。嬉しくてSNSとかに書いたりインスタに上げたくなるかも知れませんが、それは最悪の結果をもたらします」
 
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「私どうしよう?さっきマキコに高額当選したと言ったから、もうお店中に伝わってるよ」
と和実が言うと伊藤君は言った。
 
「マキコちゃんは言いふらさないと思うよ。でも100万円当たったことにしようよ。焼肉か何かで当選お祝いパーティーして、それでおしまい」
 
「そういうのがよろしいでしょうね」
と支店長も言う。
 
「お金の使い道ですが、最初に借金とかローンの残高、未納の税金や年金などがあったら、まずはそれを払ってください。それを第1優先にしないと8億なんて使い出すとあっという間です。無くなってから『借金返してなかった』となるととても辛いです」
 
「じゃさ、お店建てる時に陸前銀行と政子さんから借りたお金をまず返済しようよ」
「うん。そうしよう」
「他にクレカとかサラ金とかに借金があったら返そう」
「その手の借金は無いよ」
「分割払いで買ったものとかは?」
「分割払いとかリボとか嫌い」
「国民年金とか国民健康保険は滞納無い?」
「きちんと払ってるよ」
「お前、優秀だな」
 
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支店長は説明を続ける。
 
「お金を分与する場合ですが、これを数人でシェアする場合は受け取りの際に受取人の名簿を提出してください。それで当選証明書をお作りします。これが1人で受けとった後で分与した場合は贈与税がかかり、高額の贈与は税金で半分取られてしまいます」
 
「宝くじ自体の所得税・住民税も必要でしたっけ?」
「それは掛かりません。無税です」
「贈与する場合も110万円以下なら贈与税かかりませんよね?」
「はい、かかかりません」
 
「だったらハルちゃんに100万円あげるからそれで車のローンを返しなよ」
と和実は言ったが
 
「お前、もう気が大きくなってる。そう安易に人にお金あげるとか発想するのは危険な兆候だぞ」
とたちまち伊藤君から注意される。
 
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「そうです、そうです。お金を恋人や友人・家族などにあげる場合も、慎重に計画を立ててからにしましょう」
と支店長さんも言う。
 
「そのあげる人には8億円当たったことを言うことになりますから、結果的にお金を無心されるようになり人間関係を壊すことになりかねません。だから大事な人にこそ黙っていて、お金も渡さないのがよいのです」
 
「お前さ、誰かお金をどうしてもあげたいという人がいたら名簿作って俺に相談しろ。俺が一緒に考えてやるから」
 
「そうしようかな」
と言いつつ、和実は伊藤君に来てもらってよかったと考えていた。
 
「お金の使い道はゆっくり考えましょう。今はおふたりとも若いですからイメージが湧かないでしょうが、仕事を引退した後、老後の資金としては1億円くらい無いと苦労します。300万円を33年間で1億円ですよ。仕事を引退したあと生きる年数を考えたら贅沢しなくてもそのくらい掛かるんです。それ以前に子供が大きくなると大学にやるにも私立の医大なら4000-5000万円かかります。普通の学部でも私立なら入学金まで入れて500-600万円します。せっかく8億円当たったのに、子供がいざ大学に行きたいということになった時、既にお金が無くなっていたら悔しいですよ。だから老後資金や教育資金はまず最初に確保して、これには手を付けないことをお勧めします」
 
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「その手の資金は自分でも容易に取り崩せない所に置いた方が良いですよね?」
と伊藤君。
 
「そうです。国債とかあるいはリスクの比較的少ない投信とかに入れておきましょう。そのあたりもこの本に書いていますのでよくよく読んで下さい。危ない投資話には絶対に乗らないことです。着実に儲かるなんて話は絶対詐欺です。投信でさえババ抜きみたいな危険な投信もあります。とにかく時間を置いても、使わない限りお金は減りませんから、ゆっくり落ち着いて数ヶ月掛けて使い道は考えましょう。そして取っておくべきお金と使ってもいいお金を分けましょう。その間は取り敢えず当座預金か無利息型普通預金に入れましょう。これだとその金融機関が万一破綻しても全額保護されます。定期預金やふつうの総合口座などの普通預金だと1000万円までしか保護されません」
 
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「8億円口座にあったのに1000万円しか引き出せないって酷いですね」
「はい。そうならないためにも無利子型普通預金に入れたほうがいいのです」
 
「ちなみに当選金は今頼めばすぐ振り込んでもらえるんですか?」
と伊藤君が尋ねる。
 
「すみません。それを最初に言うべきでした。1等の場合は手続きに少しお時間がかかりますので、だいたい2週間後くらいの振込になると思います」
 
「それを無利子型普通預金口座を作って、そこに振り込んでもらえばいいですね」
「はい、そういう口座をご指定頂きました場合は」
 
「だったら申し込みますから、口座を作ってください」
「分かりました。書類をご用意します」
 
それで支店長は行員を呼んで書類を持ってこさせる。和実がそれに記入し、ここに当選金は振り込んでもらうことにした。
 
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その後も支店長の話は続き、主として伊藤君がいろいろ質問してそれに丁寧に支店長は答えていった。
 
途中で伊藤君は1度席を立ち、会社に連絡を入れ、友人が面倒なことに巻き込まれて相談に乗っているから今日は早引きしたいと伝えた。和実は伊藤君から部屋の外で言われて、東京に居る淳にメールし“内容は告げないまま”緊急に相談したいことがあるので会社を早退してこちらに来て欲しいと伝えた(内容まで書くと淳がそのことを他人にうっかり言ってしまう危険があるので)。淳は18時半頃着くと思うということだった。
 
ふたりが銀行を出たのはもう15時前だった。結局は銀行に2時間ほど居たことになる。
 

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