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■春気(17)
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(C) Eriki Kawaguchi 2020-03-07/改2020-04-18
設定:−
1992 イザベルとペーターが結婚
1993 ヨゼフ誕生
母:イザベル・プレステス(伯)
父:ペーター・ケーニヒ(独)
1995 イザベルとペーターが離婚。ペーターはジューンと結婚。
1996 フランツ誕生
母:ジューン・フォークス(英)
父:ペーター・ケーニヒ(独)
1999 ジューンとペーターが離婚。ジューンはカズシと結婚。
2000 カオル誕生
母:ジューン・フォークス(英)
父:カズシ・ワタナベ(日)
2002 ジューンとカズシが離婚。カズシはイザベルと結婚。
2003 カオリ誕生
母:イザベル・プレステス(伯)
父:カズシ・ワタナベ(日)
それで各自が話せる言語は下記である。各々自分の両親が話す言語を話せるのである。
フランツ ドイツ語・英語
カオル 日本語・英語
カオリ 日本語・ポルトガル語
ヨゼフ ポルトガル語・ドイツ語
「あれ?フランツがいる。お久」
とヨゼフはドイツ語で話しかける。
ここでカオルはヨゼフのことは話には聞いていたものの会うのは初めてである。
「なんだ。新幹線止まっているのか。だったら俺のエアシップで移動する?」
とフランツにはドイツ語で、カオリにはポルトガル語で話しかける。
(アクアと葉月は一週間の集中ポルトガル講座を受講して簡単なポルトガル語会話ならできるようになっているが、台詞の半分くらいは音で丸覚えしての会話である)
定員が4人というのでマネージャーとは別行動にすることになる。マネージャーたちもヨゼフが凄くしっかりした雰囲気だし、兄弟なら大丈夫だろうという所である。それで4人だけでヨゼフの“エアシップ”を駐めている“海の中道空港”(という設定の広場)へタクシーで移動する。助手席に女の子であるカオリを乗せてヨゼフ・フランツ・カオルの男3人が後部座席に座る。ここでカオリを演じているのが葉月なので、この座席配置は後で差し替えやすい。
なお、オーストラリアは日本と同様に左側通行・右ハンドル車なので特別な車を用意する必要は無い。(現地当局の許可を取って)“博多交通”という行灯を取り付けただけである。オーストラリアは日本の免許証でそのまま運転できる(但し免許証の英訳を携行する必要がある)。日本と違うのはイギリスなどと同様、ラウンドアバウト方式の交差点が多いことである。タクシーの運転手役はアクアのマネージャー山村が務めたが彼女(?)は海外でもたくさん運転経験があるのでラウンドアバウトは平気である。
(山村は男のパスポートを使用しているが、スタッフや出演者からは普通に女と思われている。この程度のおばちゃんは普通に居る)
そして“空港”に到着したのだが、空港っぽくない。ただの広場である。
「空港はどこ?」
「ここだよ。あれが俺たちが乗るエアシップね」
「兄貴のエアシップって飛行機じゃなかったのぉ!?」
とフランツ。
「こないだ買ったばかりのキャメロン(*5)の新製品で7万レアル(約170万円)もしたんだぜ」
(*5)Cameron Balloonsはイギリスの熱気球メーカー。実はウルトラマンの巨大風船人形なんてのも制作している。
「兄貴、以前乗ってたビーチクラフトの軽飛行機は?」
「ああ。あれこないだインド洋で落っことしちゃってさ。パラシュートで脱出して海に浮かんでたら偶然通り掛かった中国のタンカーに助けてもらったけど、中国人親切だね。でも俺中国語はさっぱり分からないから苦労したよ」
とヨゼフはドイツ語で説明する。
「これで東京まで行けるの?」
とカオリが不安そうな顔で兄にポルトガル語で尋ねる。
「まだ博多から東京ってのはやったことないから、成功したらまた本を書くよ」
とヨゼフ。
それでともかくも4人が乗り込み、気球は浮上して偏西風に流され東京を目指すのである。
カオルはヨゼフとは初対面で、この中で唯一、彼と直接話せないが、カオリに翻訳してもらって尋ねる。
「この熱気球の動力は?」
「ベント」
とヨゼフ。
「お弁当?」
「風だって」
とカオリ。
「もしかして風まかせ?」
「シム、シム」(そう、そう)
「本当に東京に辿り着けるの?」
「大丈夫、この緯度帯は偏西風が吹いているから東へ飛ぶはず」
とポルトガル語で言ってから、彼は扇風機を取り出す。
「最後はこれで方角調整ね。これ日本の三菱製の扇風機。日本製品優秀だよ」
「風には抵抗できない気がする」
とフランツが不安そうにドイツ語で言った。
この気球で上昇・下降する所、鳥に襲われて気球に穴が空いたという設定で急下降する所、アイドル少女(田中エルゼ)も乗せて定員オーバー(という設定)でバラストを全部捨てて何とか上昇する所、ガス欠で海に落ちそうになったという設定で、金の延べ棒を捨ててなんとか島まで辿り着く所、バーナーを落として自然下降する所、などを撮影する。
(鳥に襲われる場面などは結局使用しなかった)
そして調理用のバーナーを改造した(という設定の)バーナーを搭載して浮上に成功する所。そしてラストで描かれる扇風機を動かしての移動などのシーンを1月24日までに順調に撮影終えることができた。
このほかいくつかのシーンを撮影しているのだが、これについては後述する。
天候次第の撮影なので余裕を見ていたのだが、幸いにも天気が良く、早めに撮影終了したので、1月24日を休養日として、1月25日にライブの撮影をした後、一行は26日日本に移動した。
日本では各地で撮影してからチャーターしたバスで一同移動する。撮影予定はこのようになっている。
1.27(設定8.10)博多 出発点。
1.28(設定8.11)湯田温泉・津和野 120/160km
1.29(設定8.12)生口島 120km
1.30(設定8.13)小浜 270km
1.31(設定8.14)下呂温泉 140km
2.01(設定8.15)東京・所沢 220km 2.02-03予備
日本に移動した一行は、まず新幹線で博多に移動し、国際センターとマリンメッセの前での撮影、福岡空港での撮影、博多駅周辺(黒田武士を含む)での撮影をしてから博多湾の砂州“海の中道”に移動し、海の中道海浜公園の広場で、気球が飛び立つシーンを改めて撮影した。
オーストラリアでは飛び立った後、実際にしばらく飛行したのだが、ここでは福岡空港が近くにあることもあり、事前の空港側との話し合いに基づき、浮上したらすぐ降下させた、なお河村助監督は今回の飛び立つシーンでは、アクアにカオリを演じさせ、葉月にカオルを演じさせた。オーストラリアで撮影したものと繋ぎ合わせて編集するときれいに、カオル・カオリが加わった映像になるという仕組みである。
「アクアちゃんって女の子の格好すると本当に女の子にしか見えないね」
とミハエル。
「こんな可愛い子が歩いてたら、拉致してベッドに連れ込んでやっちゃうよ」
とリョーマ(きっとラテン的褒め言葉)。
「でもアクアちゃんも演技うまいなと思ったけど、ハヅキちゃんも演技上手いね。充分トップクラスの女優になれると思う」
とミハエルはお世辞抜きという感じで言っている。
「そのくらい上手い女優でないと、アクアの代役はできないんだよ」
と河村さんが言うと
「アッソー(なるほど)!」
とミハエルは納得していた。
「でもなんで女の子を男の子のアクアの代役に使うわけ?」
「アクアはまだ声変わりしてないから」
「そういうことか!」
「ボクは小さい頃大きな病気で3年くらい闘病して治ってからも5年くらい化学療法を受けていたので、成長が遅れているんですよ」
「それは大変だったね」
「だから5年前にデビューしたての頃は、ちんちんが赤ちゃん並みに小さくて、まるで付いてないかのように見えたという話」
と河村さんが言うと、さすがにアクアは恥ずかしがっている。
「今は?」
「小学生並みらしいよ。4日後に見れば分かるけど」
「それではまだ声変わりしない訳だ」
福岡での撮影を終えた一行は、大型バスに分乗して、次のロケ地・山口県の湯田温泉に向かった。
海の中道を夜10時頃に出発して湯田温泉のホテルに夜中0時に到着する。それで出演者はみんな割り当ててもらった部屋に入って休んだ。ここでアクアと葉月は話し合い、アクアの部屋でアクアMと葉月M、葉月の部屋でアクアFと葉月Fが寝た。ここはホテルなので大浴場もあるがお風呂は各部屋にも付いている。
この夜、別働隊の撮影班(美高鏡子カメラマン)が関門海峡を飛ぶ飛行機の中から関門橋の美しい姿を撮影している。これを夜間飛行中の気球から見た風景ということにして映画に取り込むことになっている。
1月28日(設定8.11)は午前中は湯田温泉で、午後からは津和野で撮影をする。
4人が気球で飛んでいると、飛行方向にある山道で弦楽器のケースを持った和服の少女が走っていて、その後ろから背広を着た男が2人追いかけているのを見る。男のひとりが拳銃を手に取り、少女に向けて撃つ。ダーン!という大きな音がするが、幸いにも少女には当たらなかったようだ。
「襲われている!」
「助けよう!」
「どうやって?」
「気球にすくい上げるんだよ。カオリ、扇風機回して方角調整して」
とヨゼフがポルトガル語でカオリに言う。
「俺が気球の高度を下げるから、あの女の子のそばまで降りたらフランツ、あの子を引き上げて」
とヨゼフはフランツにドイツ語で言う。
「ボクは何する?」
とカオルが英語で訊くので、フランツは
「カオルは僕があの女の子を掬い上げたところで、バラストを捨てろ」
と英語で答える。
「OK」
それでヨゼフが気球の高度を下げていき、カオリが扇風機で進路を微調整する。そして少女があと少しで男たちに追いつかれるという時、気球が地面近くまで降りてきて、少女と男たちの間に割り込む。
フランツが
「Take my hands!」
と言って少女(演:田中エルゼ)に手を伸ばす。少女がフランツの手を掴む。フランツがしっかり彼女を抱き上げてゴンドラの中に自分が内側に倒れ込むようにして掬い上げる。
(このシーンは実際にはフランツのボディダブルのラグビー選手ダニエル・ペヒシュタインさんがしている。田中エルゼは39kgだが、ミハエルの腕力では彼女を持ち上げるのは厳しい)
「Kaoru! Ballasts!」
とミハエルが叫ぶので、カオルがゴンドラ内のバラストを放り投げる。ついでに追いかけてきていた男たち(演:佐々木圭助・田代雅弘)に向けて投げる。結構な重さのものがぶつかって男たちがひるむ。その間にヨゼフがバーナーを焚き、カオルがどんどんバラストを投げ捨てることで気球は上昇する。
男の1人が気球に向かって銃を撃つ。気球に当たる!
「当たっちゃったよ」
「ピストルの弾の穴くらい平気。バラスト全部捨てて」
「OK」
(“OK”はポルトガル語でもそのまま通じる)
それでカオルにフランツとカオリまで手伝ってバラストを投げ捨て、ヨゼフもバーナーの火を最大にし、気球は上昇していった。また男が拳銃を撃つが、弾は当たらない。
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