広告:僕がナースになった理由
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■春茎(19)

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4月4日のお昼に、青葉はジャネと偶然場内で遭遇したので、まあお昼でも一緒にといって会場から少し離れたレストランに行った。それで
 
「夕方の決勝では私が1位になるからよろしくね」
「そうですね。来年の大会は譲ってもいいですよ」
などとジャブをかわしたりしながらも他の選手の噂話やK大水泳部の様子など話していた。
 
「そうだ。筒石さんも世界選手権代表確定、おめでとうございます」
「ああ、あいつも確定したみたいね」
「いつ結婚するんですか?」
「その予定は当面無いな」
「やはり東京オリンピックの後ですか?」
「永久に結婚する気は無いな」
「そうなんですか〜〜〜?」
 
「その件では水連の事務局からも呼び出されて状況を聞かれたよ」
「へー」
 
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「去年バドミントンで男子代表選手と女子代表選手がナショナルトレーニングセンター内でデートしていたのが見つかって厳重注意くらったろ?」
 
「あれは、まずいですね」
「君たちは交際しているようだが、デートする場合は外でやるようにと個別に注意されたけど、お互い交際してないよね?と言い合った」
「交際してないんですか?」
 
だいたい同じ場所に住んでいるのに!?と思う。但しジャネの見解ではただのルームシェアである。
 
「まあセックスはするけどね。そう言ったら、とにかくNTCを含めて合宿中はセックスしないようにと言われたけど、私も合宿中はさすがにそんなのしないし」
 
「筒石さんも水泳以外には興味無いでしょ?」
「そそ。あいつは女を抱くよりプールで泳ぐ方が好きな男だよ」
とジャネは言うが、その視線が楽しそうである。結局好きなんだろうな、と青葉は思った。
 
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まあ取り殺そうとしたくらい!なんだから、嫌いということはないだろう。
 

そんな話をしていた時、見た顔の女性がこちらにやってくる。
 
「舞耶さん?」
「青葉ちゃんも久しぶり〜」
 
それは桃香の従兄・高園春彦の息子・芳彦(桃香の従甥)の奥さんで舞耶さんである。芳彦さんと舞耶さんは岐阜に住んでいる。そして舞耶さんの会社がジャネの機能性義足を制作している。
 
「調子が微妙だというからスペアを持って来たけど」
とジャネに言う。
「助かります。万一青葉に負けた時に調子の悪い義足で疲れたせいとかは思いたくないから交換したかった」
 
ジャネが義足を外して舞耶に見せているので近くのテーブルに居た女性客が思わず悲鳴をあげた。
 
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「すみませーん。これ義足なんです」
「びっくりしたぁ!」
 

「うーん。テスターでは特に断線を確認出来ないけど、やはり交換しましょう。ラボに持ち帰って再度検査しますよ」
「よろしく〜」
 
「そうだ。桃香ちゃんから聞いたけど、青葉ちゃんって元は男の子だったんだって?」
と舞耶は訊いた。
「まあ、そんな時代もありましたね」
と青葉は答える。
 
「そのおっぱいは本物?」
「本物ですけど」
「じゃダメか」
「何か?」
 
「機能性のブレストフォームを開発中なんだけどさ、誰か適当なテスターがいないかなと思って」
 
「機能性のブレストフォーム?」
「普通のブレストフォームなら、ただの作り物だから乳首とか触られても何も感じないでしょ?それを感じるようにしたもの」
「へー!」
 
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「外側も普通のならビニールかせいぜい疑似皮膚だけど、これはちゃんと医療用の本格的な人工皮膚を使っているから、触った感じが本当に本物のおっぱいそのもの」
 
「それは凄いですね」
 
「乳癌の手術で乳房を失った人の日常生活・性生活のQOLをあげるために開発したんだけど、テスターとしてはむしろ女の子になりたい男の子の方が使えるんじゃなかろうかという意見も出てね」
 
「それはそんな気がします。その方がおっぱいの使用率も高いでしょうし」
「それで適当な人がいないかなと思ったんだけど、青葉ちゃんは既に本物を持っているなら使えないな」
 
その時青葉は唐突に“彼女”のことを思い出したのである。
 
「使えそうな人がいます。彼氏とかは居ないので、性生活までは確認できないんですけど、いいですか?」
 
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「何歳?」
「18歳です」
 
「素晴らしい。それなら性生活なんてこれからだよね。そのおっぱいで女子としての日常を送ってもらったら、すごくいいテストになる気がする」
 
「じゃ連絡しますよ」
 
それで青葉は夏野明恵に連絡し、翌日東京に出てきてもらうことにしたのである。採寸や装着指導は、東京人形町にある、舞耶の会社の製品の販売店で行うことにした。
 

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夕方の決勝では交換した義足の調子がよくて気を良くしたのかジャネが物凄く頑張り青葉は2位に終わった。レースを終えてから青葉は東京駅に行き、明恵と落ち合った。タクシーで義肢の販売店に行く。上半身裸になってもらうが
 
「ああ、ホルモンとかはまだやってないのね」
と言われている。
 
「まだ高校出たばかりだから」
と青葉は言っておく。
 
それで胸のサイズ・形を上向き・下向き・立位で測定、肌の色も多数の箇所で測定した。
 
「夏になったら日焼けとかする方?」
「私、太陽に当たってもあまり日焼けしないみたいです」
 
「でしたら今の肌の色で制作しますが、夏になって日焼けして境目の所に違和感が出たら言って下さい。再制作しますから」
 
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「はい」
 
明恵には開発中の商品のモニターだというのは伝えたのだが、今一ちゃんと伝わっていない感じもあり、少し不安を感じた。ただ使用感のレポートは毎週書いてくれるということであった。また女性ホルモンを飲むようになったら、そのこともレポートに書き加えて欲しいと言い、了承してもらった。
 

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翌日は午前中大田ラボに行き、松本花子関係で2A17,イリヤ,空帆,千里3と打合せした。千里3は3月3日でWリーグも終わり、今オフシーズンである。日本代表の活動は4月下旬から始まるらしい。千里2の方は今LFBがプレイオフに入る所のようでその後はWBCBLも始まるから忙しい状態が続いている。
 
夕方近くになって、義肢販売店の前で明恵と待ち合わせる。
 
ブレストフォームは昨日測定した数値を元に今日の午前中に岐阜のラボで制作。技師の人が新幹線に乗り自分で東京に持って来てくれた。装着状態を自分の目で見ておきたいのだろう。
 
それで明恵にブレストフォームを装着してもらうが、さすがピッタリとフィットしている。明恵がお風呂に入っても大丈夫ですか?と訊くので、技師さんは
「家庭のお風呂に入るのは構わないが、公衆浴場や温泉の女湯に入ると痴漢で捕まるおそれがある」と一応建前を話していた。
 
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しかし明恵はきっと積極的にそういう所に入って行くだろうと青葉は思った。制作側でもそういう所で“バレなかった”というレポートは嬉しい。乳癌手術で乳房を失った人の場合、MTFの子以上に“お風呂パス”を気にするだろう。
 
それにそもそも明恵を見て男かもなんて思う人がいる訳無い。男湯に入ろうとしてもまず追い出される。
 
モニター契約書にサインしてもらい、毎週のレポート提出を約束して販売店を出る。そのあと一緒に夕食を取ってから別れた。青葉は深川アリーナに戻り、夜中まで練習を続けた。
 

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4月6日は11時半頃に女子800m自由形の予選があり、無難に通過する。そして決勝は翌日4月7日の17時頃である。
 
1人ずつ名前を呼ばれて入場し、各々のレーンの前に立つ。青葉・ジャネの他、南野、永井、金堂、そしてこの種目で初めて決勝に進出した竹下リルもいる。金堂は昨年のジャパンオープンでは“幻の日本記録”8:23.50を出しているが、直前に飲んだ風邪薬にドーピングに引っかかる成分が含まれていたため失格してしまった。今年はリベンジして今度こそ新記録を出したい気分だろう。
 
但し現在の日本記録はあの後ジャネが出した8:09.37になっており、青葉もその時0.01秒差の8:09.38を出している。ちなみに派遣記録は8:25.22である。
 
号砲とともに飛び込む。レースは1500mには出ずにこちらに絞ってきた金堂さんが積極的に飛ばすのを、ジャネと青葉、それに少し遅れて竹下が追う形で始まった。かなりのハイペースである。南野・永井はそんなペースではとても最後までもたないという感じで、敢えて速度を抑えていたようだが、上位4人のペースは全く落ちない。結局金堂さんがトップ、青葉・ジャネ・竹下がそれに続き、かなりの差が付いた状態で南野・永井が続く形で最後の方まで行く。
 
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最後の8往復目に入った所でジャネが仕掛ける。青葉もそれに付いて行くが竹下さんは置いて行かれる。ジャネと青葉が金堂さんを抜く。そして・・・最後のターンの後で青葉はそれまでキープしていた全体力を泳ぎに注ぎ込む。ジャネに迫っていき、あと10mくらいの所でジャネを捉えたと思った。
 
ゴール。
 
時計を見る。
 
1.KAWAKAMI 8:14.51
2.HATAYAMA 8:14.53
3.KANADO__ 8:14.74
4.TAKESHITA 8:15.33
 
ジャネとの差は0.02秒でこれは約3cmの差である。但し身体が小さく腕も短い青葉が長身のジャネを3cm上回るには実際には10cmくらい早く到着している必要がある。昨年まではそれに更にタッチ技術の差が出ていた。青葉はようやくジャネと“同じ土俵”で争うことができる状態になったのである。
 
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青葉とジャネは激しく息をしながら見つめ合っていたが、金堂さんが例によって
 
「あぁん!派遣Iも突破しているのに3位だ!」
 
と嘆くように言う(I=8:18.55 II=8:25.22)。しかし実際昨年までの青葉のタッチ技術だったら、金堂さんが2位に入って青葉は3位だったであろう。
 
その金堂さんが最初に青葉に「おめでとうございます」と言って握手し、その後ジャネとも握手したので、青葉とジャネもようやく笑顔になって握手した。その3人が日本選手権初出場で大健闘した竹下さんとも握手。更に5,6位に入った南野・永井とも握手した。3,4位の金堂・竹下が高校生なので、南野・永井がユニバ代表だろう。
 

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そういう訳で、青葉とジャネは400mでは1位を分け合い、1500mではジャネが1位で青葉が2位、800mでは青葉が1位でジャネが2位となった。この3種目は2人が代表を分け合うことになる。
 
大会7日目の4月8日。この日は午前中に女子400m個人メドレーの予選がある。青葉はもちろん決勝に進出するが、ジャネはメドレーには参加しない。
 
同日17:40から行われた決勝では、青葉と金堂・竹下・南野・永井の5人による争いとなった(竹下は400m Freeでは10位で決勝進出できなかったが400mIMでは8位で決勝進出した)。
 
この競技が今年の日本選手権最後の競技である。
 

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名前を1人1人呼ばれては手を振って歓声に応えスタート台の前に並ぶ。
 
個人メドレーはバタフライからスタートする。号砲と共に飛び込むが、金堂が勢いよく飛び出してそれを青葉・竹下、更に南野・永井が追う形で始まった。
 
バタフライで1往復してから、背泳ぎに変わる。背泳ぎが比較的得意な永井が浮上してきて青葉たちと並ぶが金堂は青葉より半身先にいる。永井もなかなかそこまでは追いつけないようである。
 
1往復してから平泳ぎに変わる。ここで平泳ぎが得意な青葉が金堂との差を詰めほとんど並ぶ。永井は青葉に置いていかれる。竹下は青葉に付いていった。つまり金堂から僅差で青葉、僅差で竹下、それに永井が続き、その後が南野という展開である。
 
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そして最後は自由形になる。ここで青葉と竹下が一気に金堂を抜き、また南野が5位から浮上してきて、永井を抜き、金堂にも迫ってくる。金堂も抜かれまいと必死である。ターンをうまく利用して金堂が必死の泳ぎで青葉と竹下に迫る。青葉も竹下も頑張って引き離しに掛かるが金堂のスピードが凄い。3人がほぼ並ぶが“ほぼ並ぶ”状態は腕の長さの分だけ金堂が先に居ることになる。
 
青葉が身長161cm、竹下は175cm、金堂は183cmで身長は青葉と金堂で22cmの差があり、腕の長さでは9-10cm程度の差があることになる。10cmはタイムにして0.06秒もある。
 
青葉は必死で抜き返す。竹下も限界を超える泳ぎをする。
 
3人がほとんど同時にゴール。感覚的に僅かに負けたかなと思った。
 
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時計を見る。
 
1.KANADO__ 4:31.49
2.KAWAKAMI 4:31.50
3.TAKESHITA 4:31.52
4.MINAMINO 4:33.47
5.NAGAI___ 4:34.98
 
やはり0.01秒負けていた。距離なら2cm程度だが、タッチの上手さの差を考えると同着に近かったかも知れない。しかし竹下とも0.02秒差である。“特訓”前の青葉なら彼女にも負けていた所だ。
 
しかしこれで金堂さんも世界選手権の代表決定である。
 
「やった!」
という声とともに笑顔で青葉と握手する。そのあと上位5人でお互いに握手しあった。
 
この上位5人が派遣記録(I=4:32.52 II=4:36.35)を突破するハイレベルな戦いとなった。
 
むろん南野・永井もユニバ代表決定である。結局、南野・永井は長距離4種目全てでユニバ代表となった。
 
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なおゴールの際、身体の位置では青葉>竹下>金堂に見えたという意見が多かったことから、念のためビデオをチェックされたが、やはり腕の長さの差で金堂が2人より先にゴールに到着していることが確認された。
 
金堂さんの長身はそれ自体が武器である。
 
「背が高いから、よくお前男だろ?と言われていたんだけど、スポーツの世界ではこれ凄く有利なんですよね」
と金堂は言っていた。
「金堂さん羨ましい。私ももっと身長欲しい」
と竹下リルが言う。
 
「竹下さんはまだ身長伸びると思うよ。牛乳飲んで牛肉食べて頑張ろう」
と金堂さん。
「よし。毎日晩御飯は牛肉にしてと言おう」
「お母さんが悲鳴をあげそうだ」
「むしろお財布が悲鳴かな」
 
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これで日本選手権は終了し、青葉は400m,800m自由形で金メダル、400mメドレーと1500m自由形で銀メダル、ジャネは400m,1500mの自由形で金メダル、800mで銀メダルという結果となった。
 
代表に確定した人の壮行会も行われた。世界選手権(7月光州)の代表は
 
400m自由形 青葉・ジャネ
800m自由形 青葉・ジャネ
1500m自由形 ジャネ・青葉
400m個人メドレー 金堂・青葉
 
となった。その他の競技では、派遣標準を突破出来た人が2人まで居ない競技もあり、それは5月のジャパンオープンで補充される。しかし女子平泳ぎでは50m,100m,200mの3種ともに、誰も派遣記録を突破出来ず(100mではもっと遅いメドレーリレーの100m派遣標準さえも突破できなかった)、代表内定ゼロの異常事態となり水連幹部を青くさせた。(平泳ぎ上位陣の特別合宿が行われることになったようである)
 
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春茎(19)

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