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■春茎(12)

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足元に気をつけながら洞窟を歩いて出て、洞門の駐車場の所まで戻る。
 
「さて、みんな準備体操しようか?」
 
それで機材を置いてみんなでラジオ体操をし、足の屈伸運動やアキレス腱を延ばす運動などをしてから登山!である。
 
車に気をつけて道路を横断(この付近は信じがたい速度で走る暴走車がいるし、トンネル内を無灯火で走る車も見受けられる)、駐車場の向かい側の登山口から登り始めた。機材は明恵と青葉が分担して持ち、神谷内さんはカメラだけにする。幸花に荷物を持たせないのは彼女は登るだけで精一杯だからである!
 
「この付近は凝灰岩地形なんだけど、それが長い年月の間に雨や流水による浸食を受けて、一見お地蔵様が多数並んでいるかのように見えるんだよ」
と神谷内さんが説明する。
 
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「それってお地蔵様を彫ったのが並んでいるんではなくて自然の風景なんですか?」
と明恵が言う。
 
「そうそう。自然の造形」
 
それで登っていくのだが、これはなかなか素人には大変な道だと思った。
 
「これは・・・なかなか・・・大変な道ですね」
と幸花も言っているが、完全に息が上がっている。彼女を手ブラにしたのは正解であった。
 
ちなみに「手ブラ」とは「手でブラジャー」ではなく「手がブラブラ」の意味である!
 
「これはやはり登山ですね」
と予備のバッテリーやライトなどを持っている明恵も言っているが、彼女はこのくらいの道は平気そうである。何かスポーツしてた?と尋ねたが、彼女は「男子としては非常識なほど非力」なので、運動部には全く無縁だったらしい。
 
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「でも曾祖叔母から小学3年以降毎日2kmのジョギング、中学生で4km、高校で8kmのジョギングを課されていました」
 
多分明恵は魔に憑かれやすい体質だから、それに対抗するため身体を鍛えることを慈眼芳子が課していたのだろう。
 
「毎日8km!?」
と幸花が驚いているが
 
「そのくらい普通ですよね?」
「私も中高生時代そのくらい走っていた」
と明恵と青葉は言っている。
 
道の状態はかなり悪い。倒木などもある。軽登山の装備(トレッキングシューズ、軍手・杖など)がないと通行困難な道である。それでも何とか青葉たちは40分近く掛けて展望台まで辿り着いた。途中何度も幸花が「休ませて〜!」と言い、非常食のチョコを食べて休んでいた。
 
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(↑垂水滝の所の案内板から(*4))
 
「凄い道だった」
「でもこの景色は凄い」
「ほんとうにお地蔵様が並んでいるみたいに見えますね」
 
「この登山道が整備されてなかったら、一般人は拝めなかったでしょうね」
「登山の訓練受けている人しか無理だと思いますよ」
 
「ここは冬の間は雪があって危険だし、春先を過ぎると登山道に草が生い茂ってどこが道か分からなくなる。4月の前後だけが到達可能らしい」
 
「確かにここは草が生えてきたら入れないでしょうね」
 
結局現地で30分くらい休んでから下に降りた。下に降りるのは登ってきた時の半分の20分ほどで済んだ。
 
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(*4)千体地蔵の写真を撮ってこようと思ったのですが、私が行った6月17日には既に登山道は草で完全に覆われていて、どこが道か判別できない状態でした。遭難したら人に迷惑を掛けるので素直に諦めて帰ってきました。↓は八世乃洞門の駐車場から撮影した恐らく千体地蔵の近くの同様の地形ではないかと思われるショットです。ひょっとしたら千体地蔵の一部なのかも知れません。
 

 
なお2018年5月に行った人のブログを発見したので少なくとも昨年の春までは到達可能であったものと思われます。その人もかなり苦労したようです。
 
今回実地撮影をギブアップしたのはこの千体地蔵と羅漢山の2つです。
 
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窓岩の駐車場まで戻り、車に乗って“八世乃洞門新トンネル”を抜けた所に、垂水の滝がある。
 

(2019.6.23撮影)
 
「この垂水の滝は直接海に落ちているでしょ?こういう滝はひじょうに珍しいらしいです」
「へー!そんなもんですかね」
「やはり隆起地形ならではのものなんでしょうね」
「うん。たぶんそのせいだろうね」
 

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垂水の滝の後、そこから少し先にある帆立岩に行った。
 


(2019.6.23撮影)
 
「これは知らないと見過ごす」
「まさか山側にあるとは思いませんよね」
 
逆三角形の形が、帆立舟に似ていることから帆立岩と言われる。元々は海岸にあったのだが、倒壊のおそれがあるということで、海岸線から30mほど内側、道路より山側に公園を作り、そこに移設したのである。自然のままでないのが残念だが、これが海岸線にあったら確かに波の浸食でいづれ倒壊していただろう。
 
帆立舟を思わせる岩は大小2個あり、幸花は「大帆立岩・小帆立岩」と勝手に命名して解説していた。
 
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「もしかして蛙岩って、この帆立岩と同種の造形じゃないですか?」
と明恵が言った。
 
「ああ、そうだと思う。どちらも波の浸食で岩の下の方がえぐれてしまったんだろうね」
 

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今日はこのまま垂水滝近くの旅館で宿泊する。
 
「あれ?僕、うっかり2人部屋を2つ予約してしまったけど、まずかったかな?」
と神谷内さんが言った。
 
多分最初の段階では明恵を男子としてカウントしていたのだろう。
 
「たぶん2人部屋って布団3つ敷けるんじゃないかな」
と幸花が言った。
 
「まあ女子高生をテレビ局の男性ディレクターと同じ部屋に泊めたら全国ニュースで報道されそうですね」
と青葉。
 
「霊界探訪じゃなくて、猥褻探訪と書かれたりして」
と幸花は言っている。
 
「でも・・・私、おふたりと一緒の部屋でいいんですか?」
と明恵の方が不安そうに言う。
 
「だってねぇ」
と青葉と幸花は顔を見合わせる。
 
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「今日1日一緒に過ごしていて、明恵ちゃんが普通の女の子であることが分かったしね」
「性別について何も疑いは無いね」
 
神谷内さんも頷いている。神谷内さんの頭の中でも明恵の扱いは朝の段階では“女装男子”だったのが、既に普通の“女の子”に変化したのだろう。
 
それで旅館の人に言ったら、部屋に余裕があるから女性は4人部屋にお泊めしますよ、と言われた。料金もそのままでよいらしい。
 

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部屋に入って“女3人”でおしゃべりしていたら、仲居さんが来て
 
「お食事までまだ少し時間がありますから、先にお風呂に入って下さい」
と言われた。
 
青葉は尋ねた。
「今日、私たち以外のお客さんは?」
 
「花火職人の団体さんが入っているんですよ。少し騒がしいかも知れませんけど、あんまり酷かったら帳場に言って下さいね」
と仲居さんは言っている。
 
「花火職人の団体さんというと男の人ばかり?」
「はい」
 
「女は私たちだけ?」
「ええそうです」
「男湯と女湯って別ですよね?」
「もちろんです!」
 
青葉と幸花は意味ありげに顔を見合わせた。
 

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それで仲居さんが出て行った後、幸花は言った。
 
「さて、明恵ちゃん、一緒にお風呂行こう」
「え〜〜〜!? すみません。私特殊事情があるので、後から・・・夜中にでも入ろうかな」
「ここお風呂は23時までと言ってたよ」
「じゃその頃に」
 
「きっと遅い時間は従業員の人たちが入るよ。私たちはさっさと入った方が迷惑掛けないよ」
「で、でも・・・」
「大丈夫、他にお客さんは居ないし、私も青葉ちゃんも、明恵ちゃんが女の子であることは理解しているから」
 
などと言って幸花はほとんど明恵を連行するように連れてお風呂に行った。完璧なセクハラだが、本人がセクハラされたがっている感もあるので、まあいっかと思った。実際この3人だけなら問題はなかろう。
 
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明恵は脱衣場に入るまでは、おどおどしていたが、中に入ってしまうと開き直ってしまったようである。
 
「普通に女の子下着つけてるね」
「男物下着はアパートには一切持って来ませんでした。実家に放置です」
「まあ使わないよね」
 
ブラジャーを外すと真っ平らな胸が露出する。
 
「おっぱい無いね」
「それが問題なんですよね〜」
と本人は言いつつもその点は開き直っている。
 
パンティを脱ぐと何も無い股間が顕わになる。
 
「あれ?ちんちん取っちゃったの?」
「隠しているだけです」
「隠せるもんなんだ!?」
「あまり深く追及しないで下さい」
 
青葉は明恵のタックを見て、これはかなり慣れているなと思った。初心者の内は“綴じ目”が、まっすぐにならなかったり、途中に穴が空いてしまったりしやすい。明恵のはほんとうに割れ目ちゃんに見えるようにきれいになっている。
 
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ともかくもそれでお風呂に入る。各自身体を洗ってから湯船に入る。洗い場も4つしか無いし、湯船も3人入るとけっこう狭い。
 
「たぶん古い宿だから、女湯は狭いんじゃないの?」
「うん。ありそー」
 
湯船の中ではあまり“セクハラ”も無く、普通にガールズトークしている。このガールズトークに違和感が無い。それで幸花に言われる。
 
「明恵ちゃん、元々女の子の友だちが多かったでしょ?」
「私、男の子の友だちなんてできたことないです」
「やはり」
 
「女子たちからは純粋な意味で安全パイと思われていたから、ライブとかのペアチケットが当たった時の相手役とか、男の子に渡すラブレターの仲介とかよく頼まれていました」
 
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「なるほどー」
 
「でも私がラブレターを渡すと、私自身が書いたラブレターかと思われて『悪いけど俺そっちの趣味無くて』と言われたり」
 
「ありがちありがち」
 

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ところがそれで30分近く入っていて、そろそろあがろうかという話をしていた時、脱衣場との引き戸がガラッと開いて50代くらいの裸の女性が2人入ってくるからギョッとする。続けて青葉たちの部屋に来た仲居さんも(着衣のまま)入って来て、
 
「ごめん、お客さん。こちら予約入っていなかったんだけど、観光案内所からの紹介で今到着なさったお客さんなんですよ。一緒に入ってもらえます?」
と言う。
 
「あ、はい。いいですよー」
と幸花は答えた。
 
新しい客があった所ですぐあがってしまうのも感じが悪いので、ここは少し話をしてから「長湯しちゃったからそろそろあがりますね」と言ってあがる一手である。
 
しかし・・・・
 
明恵は念のため湯船の縁にタオルを置いていたので、それをさりげなく胸の所に当てて胸を隠した。しかしあまりよく見られると胸が無いことがバレそうだ。
 
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2人の女性は「お邪魔しまーす」と言って入って来て、身体を洗ってから湯船に入る。5人入るとかなり狭い。明恵の身体が青葉と接触するが、明恵もまさかそれであそこが立ったりはしないだろう。実際身体が接触しても明恵は変に緊張はしていないようだ。女の子との身体的接触にも慣れているのかも!?中高生くらいだとそういうセクハラ?を同級生女子から受けてたりしがちだ。
 
明恵を幸花と青葉で挟む形にして、新たに入って来た女性たちと向かい合う形になった。
 
「どちらからいらしたんですか?」
「私たち五箇山(ごかやま)なんだけど知ってる?」
「南砺(なんと)市ですね。最初高速ラジオで『ごかやま』と言っているのが岡山に聞こえて、なんでこんな場所で中国地方の道路状況を放送しているんだろう?と思いましたよ」
と青葉が言う。
 
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「そうそう。岡山との聞き違いはよくある。あんたは言葉が東北の方(ほう)みたい」
 
「ええ。岩手で育ったんで。でももう8年富山に住んでいるんですよ。だから北陸弁は分かるけど、発音がなかなか東北のが抜けないんですよね」
 
「ああ、小さい頃身についた発音は変わらないよね」
「一応3人、金沢の会社の仕事でこちらにきてて」
「へー、仕事なんだ!」
 
ここで放送局の仕事だなんて言ったら引き留められそうなので適当に誤魔化してあがろうとしたのだが、それでもおばちゃんたちの話は停まらない。能登の鰤が美味しかったとか、今朝は輪島の朝市を見てきたとか、話がマシンガンのように連続して出てくる。なかなか離脱のタイミングが見つけられず、明恵の性別がバレないか青葉も幸花もヒヤヒヤである。
 
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その内、幸花が
「あんたおっぱい大きいね」
と言われる。
 
まずい。まずい。その話題は無茶苦茶まずい。
 
 
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