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■春茎(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-06-23
 
2019年3月23日(土).
 
夏野明恵がG大学に入学する10日ほど前。
 
青葉は『金沢ドイルの北陸霊界探訪』の撮影(取材)のため、朝から金沢の〒〒テレビに出かけた。
 
今回は昨年11月に「H高校七不思議」を取材した時に青葉が口をすべらせた“能登七不思議”の取材なのである。もっとも今回はオカルト的なものは何もなく、ひたすら自然の造形を楽しむ旅になりそうである。取材する場所は結局12ヶ所となった。
 
1.宝達志水町 モーゼの墓
2.なぎさドライブウェイ
3.羽咋のUFO
4.ワープした駅
5.曽々木海岸
6.曲木丘
7.日本の中心
8.倒さ杉
9.見附島・恋路海岸
10.ヒデッ坂・羅漢山
11.関野鼻・ヤセの断崖・義経の舟隠し
12.能登二見、巌門、鷹の巣岩
 
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今回の取材に参加するのは、神谷内ディレクター、ADの幸花、青葉(金沢ドイル)、カメラマンの森下の4人である。秋の取材にまで参加していた助手の青山さんは大学を卒業して、一般企業に就職したため離脱した。代わりのスタッフについては検討中ということである。いつもドライバーをしている城山さんはこの日どうしても外せない娘さんの用事で大阪に行っているので今回は神谷内さんが自分で運転することにした。しかし青葉の日程がこの週末しか空いておらず、日程をずらせなかった。4人なので、使用する車もいつものエスティマではなくヴィッツである。
 
青葉が自分のアクアで集合場所のイオン・杜の里店に行き、駐車場に駐めて北國銀行前の入口に行くと、神谷内さんが居て
 
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「何度見ても派手な車だねぇ」
と言う。
 
「私らしくないとよく言われます」
「でも目立つよね!」
「広い駐車場に駐めた時にどこに自分が駐めたか分からなくなることだけはないです」
「それはいいかも!」
 
すぐに幸花が来る。
「遅くなって済みませーん」
と言ってきたが、
 
「何あの異様に可愛い車は?」
と神谷内さん。
 
「先週、中古車屋さんで見掛けて衝動買いしました」
と幸花。
「なんかお姫様っぽい仕様」
と青葉。
「これ20代の内しか乗れないね」
「あははは。60歳になってもこれ乗っていたら、石ぶつけられるかも」
 
そういう訳で幸花が乗っているのはゼストスパークのAスタイルパッケージという特別限定車である。物凄いガーリッシュなデザインである。
 
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それで残るはカメラマンの森下だけなので、3人で雑談しながら待っているとそこに18歳前後の若い女性が買物を終えたのかエコバッグを2つ持って店内から出てきた。こちらの3人と一瞬目が合う。彼女は会釈した。そしてそのまま通り過ぎようとしたのだが、幸花が彼女に飛びついた。
 
本当に首の所に抱きつくようにして飛びついたのである!
 
「待ったぁ!」
「やめてください!」
 
「君、夏野君だよね?」
「どうもその節はお世話になりました」
 
青葉はびっくりした。それはH高校七不思議の時に取材に協力してくれた夏野明宏だったのである。
 
その後、封印の旅をした時は女物の和服を着ていた。彼の曾祖叔母(曾祖母の妹)の慈眼芳子が亡くなった時は中性的な格好で青葉の所に来た(葬儀中は学校の(男子)制服を着ていた)。しかし今見る彼は、普通に女の子にしか見えない。垢抜けたブラウスとカーディガンを着て、白地に花柄のスカートを穿いている。青葉は彼に高校卒業したのを機に女装生活・女装通学を唆そうかと思っていたのだが、どうも今更その必要はないようである。
 
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「性転換したの?」
「まだしてませんけど、高校も卒業したし、男の子から卒業して大学はこんな感じで通学しようかと思って」
 
「いいと思うよ!」
と幸花は言った。青葉も頷く。
 
「そうだ。君ついでにさ、これから私たちの取材に同行しない?」
「え?」
「女の子になった記念に女性アシスタント体験」
「えっと・・・」
「ディレクター、車にもうひとり乗りますよね?」
「うん。乗るけど、その格好では厳しい」
 
神谷内さんが許容的なのは、やはり慈眼芳子の親族だからだろう。
 
「どこに行くんですか?」
 
それで神谷内さんが説明すると彼(彼女?)はびっくりしていた。
 
「それスカートじゃ絶対無理。登山靴も要りません?」
「一部必要な所もある」
「いったん自宅に戻って着換えていいですか?買物した食糧も置いてきたいし」
「確かに食糧は置いて来た方がいいね。だけど登山靴持ってる?」
「持ってます。でもウォーキングシューズの方がいい所もありそう」
 
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「君のおうちはどこ?」
「S町なんですが」
「ここから10分くらいで行けるね!」
「それで買い出しに来てたんですよ」
 
一方森下カメラマンだが、金沢市内で事件が発生してそちらの取材に急行したという連絡が入った(*1)。民放、特に地方局は少ない人数で運用しているので急があればジャンルに関わらず動員される。
 
「仕方ない。僕が自分で撮影しよう。いったん局に戻ってカメラ取ってくる」
と神谷内さん。
 
「でしたら、私が夏野さんを乗せてアパートまで行ってきます」
と青葉。
 
「だったら高松SAで落ち合わない?」
「そうしましょうか」
 
「私はどちらに付いて行けば?」
と幸花が迷っている。
 
「神谷内さんに付いていったら?荷物あるかも知れないし」
「そうしようかな」
 
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それで神谷内さんと幸花は各々自分の車で〒〒テレビに向かい、青葉は明宏、いや明恵と呼ぶべきだろう。明恵を乗せて彼女のアパートまで行った。幸花をテレビ局の方にやったのは明恵のアパートを幸花に見せないためである。
 
「実はまだ完全には引っ越してないんですけど、洋服の大半と登山装備はもうアパートの方に持って行ってしまっていたんですよ」
「いつ引っ越すの?」
「入学式の前日です。それまでは親の金で御飯を食べておこうと」
「ああ、その考え方は正しい」
 
アパートはコンビニから近く、このコンビニは駐車場が広いのでその隅に駐めさせてもらい、アパートまで行く。階段を登る。
 
「ドイルさん、4階まで上がるのに息が乱れませんね」
「まあ水泳の日本代表だし」
「マジですか!?」
 
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明恵はアパートに入るとまずメイクを全部落とした。山の中に入っていく所が多いので、香料があるとその香りに誘われて蜂が寄ってくる危険がある。山に入る時はノーメイク、整髪剤などもNGである。
 
その後、Tシャツ、白い長袖シャツ、青いジーンズのパンツに着換え、その他に着換用の服もたくさんバッグに詰めていた。
 
「これ多分何度も着換えますよね」
「そうなる気がする」
「アイゼン要ると思います?」
「もう大丈夫だと思うよ。それほど高い山には行かないし」
 
それで登山靴と登山用ステッキを持ち、ウォーキングシューズを履いて一緒に出た。
 
コンビニで飲物やおやつ、Lチキなどを買った。車に乗って山環(金沢外環状道路・山側)まで降りて行く。これをそのまま東へ進むと今町JCTから津幡バイパスに入る。舟橋JCTを過ぎると右車線に入っておく。やがて、のと里山海道(旧:能登有料道路)の分岐があるのでそちらに移行する。
 
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津幡バイパス→のと里山海道へ進行するのは右分岐なので、あらかじめ右車線に入っておかなければならない。ただしその前の舟橋JCTでは左側が能登方面、右側が(富山県)高岡方面なので、舟橋までは左側に居なければならない。県外ドライバーには厳しい進行である。
 
やがて車は高松SAに入る。青葉は施設からできるだけ遠い場所に駐めた。降りてSAの施設の中も見るが、まだ神谷内さんたちは来ていないようである。
 
「トイレに行って来ます」
「私も行こうかな」
 
それでトイレに行くが、むろん2人とも女子トイレに入った。
 
「女子トイレ慣れしてる」
と青葉はトイレを出てから言った。
 
「これって開き直りという気がします」
「うんうん」
「高校卒業するまでは中途半端なことしてたけど、もう男子トイレに入ることは無いと思います」
「明恵ちゃん、男子トイレに入ったら注意されてたでしょ?」
「男子制服着てても、君こちらは男子トイレ!って言われてました」
「やはりねぇ」
 
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やがて神谷内さんと幸花が乗ったヴィッツが来る。2人もトイレに行ってきてから、そのヴィッツに4人で乗って出発することにする。青葉の車はここに放置して取材終了後に回収する。
 
高松SAのすぐ先の米出(こめだし)ICで降りて、10分ほど行った所に
「←モーゼパーク」という看板がある。しかし気をつけていないと見落としそうな看板だし、ここに至るまで何も案内が無かった。実際神谷内さんは通り過ぎそうになったのだが、明恵が「そこに看板が」と言ったので気付いたのである。幸花から「おお、役立ってる、役立ってる」と言われていた。
 
そこの細い道を入って行くと黄色い目立つ建物があるので、モーゼパークの施設かと思ったら違った!どうも一般の住宅っぽい。その少し先に公衆トイレのようなものがある。緑色の看板があり「→モーゼ森林浴コース」と書かれている。降りてよく見るとそのそばに「→駐車場・伝説の森モーゼパーク」という薄くなった木の看板もある。それで念のためトイレに行った上で、その坂を登っていくと駐車場があったので駐める(トイレがある場所はバス用の駐車場のようである)。
 
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「でもドイルさん、一度来たことあるって言ってなかった?」
と幸花が訊く。
「ごめーん。友だちとおしゃべりに夢中で、経路はよく見てなかった」
「ああ、ありがち」
 
「でも何でしょう?これは」
「お墓が3つあるから柱を3本立てたのかも?」
 

(2019.6.18撮影)
 
取り敢えず、青葉・幸花・明恵が各々の柱の所に立ったり、そばにあるストーン・サークル?のようなものに座ったりして撮影する。
 
「でもここ何かエネルギーは感じませんか?」
と明恵が言う。
 
ふーん。やはりそういう感覚が発達しているみたいねと青葉は思った。
 
「うん。ここはエネルギースポットだと思うよ」
と青葉も答えた。
 
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その柱が3本立っている所の左手に登り口がある。
 
《注意・熊出没》
などという看板が立っている。
 

 
「熊は恐いね」
「ドイルさん、熊が出た時の対処は?」
と幸花が訊く。
 
「遭遇してしまった場合、逃げれば動物の習性として追いかけてくるから、まずは笑顔で手を挙げて挨拶して、こちらは相手とやり合う意志は無いことを示す。こちらが戦闘態勢なら向こうも戦わざるを得ないと思う」
 
「まずは友好条約ですね」
 
「そうそう。悲鳴あげたりしてこちらが怖がっていたら、向こうは何だ弱い奴かと思って襲ってくるから、対等な相手だけど今は喧嘩したくないという意志を伝えることが大事です。それで背中を見せたらいけないから、後ずさりで熊との距離を取る」
 
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「ああ、それは聞いたことあります。死んだふりとか木に登るとかはNGですよね?」
 
「熊は別に死んだ動物でも食べます。横になったら、どうぞ食べて下さいと言わんばかりです。熊は木登りは得意です」
「そのあたりの昔話はやはり間違いですね。向こうが寄ってきた場合は?」
 
「万一向かってこられたら逃げるしかないですけど、その時、わざと荷物を少しずつ落としていくんです。おにぎりとかパンとか持っていたらそれを1個ずつ落としていくと、熊がそれを食べてる間に逃げられます。最後は帽子とかリュックとかを落とす」
 
「昔話の《三枚の御札》だ!」
「あれは実際、熊から逃げきった話だと思いますよ」
「ありそうですね」
 
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「でも基本的にはそもそも熊と遭遇しないように、大勢で行く。熊も多人数を相手にしたくない。ひとりで行く場合はラジオとかをつけていく」
「なるほど」
 
「ラジオが無い場合は熊鈴とかをつけていく。できるだけ音を立てて熊の方から逃げて頂く」
「それで熊鈴な訳ですか」
 
「ただこれは一種の賭けなんです。人間を食べたことのない熊なら、何か大きな動物が来た。恐そうだから逃げよう、と思ってくれます。しかし人間の味を覚えてしまった熊なら、美味しい御飯が来た!と思って寄ってくるんです」
 
「人間を食べたことのある熊に会う確率は?」
「低いと思いますよ。人間が食べられたような被害が出た場合はたいてい山狩りしてその個体を退治していますからね」
 
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「熊に襲いかかられた場合は?」
「イチかバチかで熊に抱きつく手もあります。熊は手が短いから、抱きつかれると対処しにくいんですよ」
 
「抱きついた後は?」
 
「南無阿弥陀仏なり南無妙法蓮華経なりアーメンなり、自分の信じる宗教の言葉を」
「私信心とか無いんですけど」
「その場で好きな宗教に入信を」
 

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