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■春茎(8)

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和食の店を予約しているということで一緒に出かけることにする。
 
この時、ムラーノの後部座席にベビーシートとチャイルドシートをセットして運転席に千里、助手席に優子が乗った。ソリオの方に優子のご両親と康子が乗った。姉妹のお母さん同士でという配慮である。
 
ムラーノの助手席で優子が
「懐かしい!」
と言った。
 
「あ、この車でデートした?」
と千里が訊く。
 
「というより、私の足代わりになってくれたのよ。当時うちの父ちゃんが保証かぶりしてお金が無かったから、私買ったばかりの車を即売っちゃったんだよね。でも車が無いと、買物とかも困るんだよ。うっかり車が無いこと忘れてスーパーで大きな荷物抱えて困っていたら、信次が『送っていくよ』と言ってくれて、それが馴れそめだった」
 
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「それ純粋な善意だろうね」
と千里は言った。
 
「だと思う。信次にとって女性は同性に近い感覚だから、私が困っているのを見て純粋に助けてくれたんだと思う」
と優子も言った。
 
「お父さんの保証かぶりと同時期に勤めていた会社が倒産したって言ってたね」
 
「そうなのよ。あれは参った。結局退職金も最後の給料ももらえなかったんだよ。会社の資産が全くなくて管財人さんにもどうにもならなかったらしい。社長個人も銀行・サラ金とかから借りれるだけ借りまくっていたらしいし」
 
「社長さん頑張っていたのかもしれないけど、もう少し早く投げ出していれば多少とも補償ができたんだろうけどね」
 
「それって難しいね」
 

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3月31日、§§プロダクションはこの日をもって閉鎖され、§§プロダクション所属のタレントさんの多くは∞∞プロ内に新設される《§§プロダクション》という名前の“部門”に移籍された。
 
但し§§プロ所属の研修生・練習生は全員§§ミュージックに移籍になる。
 
当日は§§プロ・§§ミュージックのほぼ全てのタレントさんが集まり、§§プロの紅川社長・日野ソナタ副社長・新宿信濃子取締役が挨拶。また§§ミュージックのケイ副会長(オーナー)、秋風コスモス社長、川崎ゆりこ副社長もそれぞれスピーチをした。アクア・高崎ひろか・品川ありさの古株(になってしまった)3人も各々短いスピーチをした。
 

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2019年4月.
 
青葉は大学4年生になった。
 
3月下旬に再度石崎部長や社長とも面談して来年春から〒〒テレビのアナウンサーに採用してもらえることが内々定したのでもう就活は必要ない。今年は卒論を書きながら、水泳選手・作曲家・金沢ドイル!、そして松本花子の運用をしていく生活になりそうである。現在ふつうの霊能者としての仕事は、あまりにも多忙すぎるので、ほぼ全てお断りしている現状である。
 
この4月、龍虎(アクア)は高校3年生、西湖(今井葉月)は高校2年生になった。
 
龍虎としては高校生最後の年で、あと1年でとうとう上島さんが設定してくれた「学業絶対優先」の契約条項が切れてしまう。来年からのことを考えると恐ろしい感じだが、まあひとつひとつの仕事をこなしていくしかない。
 
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西湖は取り敢えず1年間女子高生としての生活を送って、すっかり自分が女として適応していることに我ながら驚いていた。少なくとも1年前の自分は自分のことを男の子だと思っていたので、女子高生を演じるなんてできだろうかと不安があったが、破綻せずにうまくやっている。途中で本当に女の子の身体になっちゃったし!?
 
千里さんからは「1年経ったら男の子の身体に戻せる」と言われている。しかし今年の9月になった時、自分が男に戻りたいと思うか、それとも女のままでいいと思うか、自分でも分からない気がしている。
 

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4月1日(月)、龍虎と西湖は自動車学校の卒業試験に合格した。そのあと実際に運転免許試験場に行くのは仕事の都合でずれて、龍虎は4月2日、西湖は4月3日に緑の帯の自動二輪免許を取得した。
 
ふたりは免許は取ったものの、普段は免許証を事務所で預かり、必要な時だけ渡すことになった。ただ練習していないと、いざという時に運転できないので定期的に先生について練習することになり、早速4月4日から練習を開始した。先生は結城さんというプロのライダーで、何でも醍醐春海先生の古い知人でもあるらしい。
 

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2019年4月2日(火).
 
金沢市内のG大学で入学式が行われた。式は大学構内ではなく、市内中心部にある金沢森林ホールで行われた。
 
明恵は大学生だから親の同伴は不要と言っておいた。
 
昨日から住み始めたS町のマンションで朝8時に起きると、朝御飯を作ってのんびりと食べる。しばらくネットを見ていた。10時すぎにお着替えして身支度を調え、マンションを出る。G高校前まで行ってローソンでお昼ごはん用にサンドイッチとおーいお茶のペットボトルを買った。
 
バスに乗って町に出て出羽町で降りる。雨が降っているので傘を差す。昨日フォーラスで買った可愛い花柄の傘が早速役に立った。人の流れに付いていく。公園を横断した所に警備員さんが立っている。そこから表側に回る人と、ホールの通用口のような所を行く人があったが、警備員さんが
 
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「これどちらからも行けますよ」
と言ったので、明恵はお礼を言ってから、通用口のような所を歩いて行った。
 
そのままホールの玄関に到達する。中に入って自分の学科の所に行き「おはようございます。新入生です」と言って、学校から来ていた書類を見せた。
 
「入学おめでとうございます」
と言われて書類の入った袋をもらった。赤い薔薇を胸につけてもらった。
 
明恵は自分の服装で何か言われるかな?と少し不安だったのだが、何も言われなかったので、この格好をしてきたことに少しだけ自信が付いた。
 
受付は11時半から始まっていたのだが、実際の入学式は13:00からである。
 
自販機が並んでいるロビーに椅子が空いていたので、明恵はペットボトルのロイヤルミルクティーを買い、椅子に座った。この会場の近くには御飯を食べられるような場所がないのを知っていたので、御飯を用意していた。サンドイッチを食べながらもらった書類を見る。
 
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学生証が入っている。
 
そこに転写された顔写真を見て、明恵は微笑んだ。
 
入学手続きの書類を郵送する時、母が振込票の控えを書類に貼り付けた時までは“別の写真”が封筒には入っていたのだが、封をする直前、この写真にすりかえておいたのである。
 

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御飯を食べてしまっても、まだ始まるまでには1時間ほどある。
 
取り敢えずトイレに行っておこうと思ったが、ホールエントランスそばのトイレは長蛇の列が出来ている。他にトイレ無いんだっけ?と思い、県の公共展示?みたいなものがある所に入っていく。廊下があるので進んでいったら、結婚式場のようなものがあり、結婚式の出席者らしき人たちがたくさんたむろしている。
 
ありゃー、こんな所まで来て良かったんだろうか?と思ったが、トイレが空いていたので普通に“女子トイレ”に入って、用を済ませた。
 

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トイレを出て元の場所に戻ろうとした時、明恵はその子に気付いた。
 
その子はこちらを見ていたのだが、明恵と目が合いそうになったのを慌てて視線をそらした。
 
中学生くらいだろうか?
 
身長は165cmくらいか。黒いトレーナーに青いジーンズのパンツを穿いている。靴は白いスニーカーだが学校指定の靴かな?と思った。結婚式の関係者では無さそうだ。県の施設に用事があって来ていたのだろうか。
 
いったん通り過ぎてから振り返って見ると、何だかもじもじして、女子トイレの入口付近を何度も見ている。明恵はその子に近づいて行って声を掛けた。
 
「私が付いていってあげるからさ、こっち入ろうよ」
 
彼女は最初驚いたような顔をし、一瞬逃げようとした気もした。しかし口の所に手を当てて恥ずかしそうな顔をしてから、コクリと頷いた。
 
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明恵はその子の手を握ってあげた。「わぁ、女の子みたいな手」と思った。そのまま連行するかのようにして、再度女子トイレに入った。その子は迷いもせずに1番手前の個室のドアを開け中に入る。その様子を見ていて、この子、女子トイレには過去に何度か入っているな、と確信した。でも多分まだ初心者だ。
 
明恵はしばらく待ちながら鏡を見て少しメイクを直す。彼女が出てくるので手を洗うのを待って、一緒に外に出た。
 
「君さ、普通に見たら女の子にしか見えないから、たぶん男子トイレ使うと『君こちらは男トイレだよ』と注意されるよ」
と明恵は彼女に小声で言った。
 
「実はいつもそれ言われるんです」
と話す声は男の子の声ではあるのだが、低い倍音があまり出ないような息の使い方をしているし、抑揚の付け方は女の子っぽい。この子を女の子だと思い込んでいたら、きっと会話していても性別に気付かない。
 
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「勇気を出して女子トイレ使いなよ。誰も咎(とが)めないよ」
「そうしようかな」
「頑張ってね」
「はい」
と言って彼女は恥ずかしそうに頷いた。
 
その顔を見て、この子は5年くらい前の自分みたいだと思った。
 

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12:30くらいからホール内に案内される。新入生の座席は全て指定されているので、明恵はもらった座席番号カードに印刷されている席に行って座った。
 
少し待つと左側の席に少し派手目な格好をした女子が来る。軽く会釈すると向こうも会釈した。それに続いて右側の席に、セーターとまるで高校の制服かと思うようなチェックのプリーツスカートを穿いた女子が来た。そちらも会釈すると会釈を返してくれた。その2人の向こう側はどちらも男子だった。
 
「どちら出身?」
と派手な格好の女子が訊く。
 
「市内なんですけど、距離があるので大学の近くにアパート借りたんですよ」
「へー。寮には入らないの?」
「それダメだったみたい。定員がいっぱいですという手紙が来て」
と明恵は答えた。
 
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実はG大学の1〜2年生の女子は原則として寮に入らなければならないのである。でも当然明恵には女子寮の案内など来ていない。それで定員からあふれたことにしておこうと思ったのである。するとその派手目女子は
 
「あんたも?実は私はもあぶれちゃって、先週慌ててアパート探したんだよ」
などと言っている。
 
「今年は女子の入学者が多かったのかな?」
「そうかもね。そちらの彼女は寮に入れた?」
「あ、いえ、私も定員オーバーと言われて入れなかったので、取り敢えず自宅から頑張って通学することにしました」
とセーターにチェックのスカートの女子が言う。
 
「どこから通学するの?」
「かほく市なんですけど」
「遠いじゃん!」
「それ1時間半くらい掛からない?」
と明恵も言った。
 
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取り敢えずお互いに自己紹介した。
「竹本初海」
と派手な女子。
「夏野明恵」
と明恵。
「笹川雪代」
とチェックのスカートの子。
 
「でも、かほく市からの通学はマジで辛いと思うよ」
「うん。アパート借りた方がいいよ」
 
「それが入学金とか授業料とかでお金使い果たしてしまって。とてもアパート借りる資金が無いんですよ。寮に期待していたんですけど。寮費は問い合わせたら親の保証があれば分割払いできるという話だったし」
 
「だったら2〜3ヶ月経ってからアパート借りたら?」
「はい。父も夏のボーナスまでには何とかすると言っています」
 
「大変ね〜」
 

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入学式は大学合唱団主導による国歌斉唱で始まる。
 
明恵もしっかり声を出して歌った。
 
やはり会話より歌の方がしっかり女声になるよなあと思う。まだまだたくさん練習しなくちゃ。
 
学長や同窓会会長などの挨拶が続き、式は30分ほどで終了したが、続いて、新入生向けの説明会が行われる。その中で明日試験をしますというのが発表され、隣の竹本初海は「うっそー!?」と声を挙げていた。明恵も声までもあげないものの、内心結構焦っていた。
 

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そういう訳で翌4月3日は午前中英語と数学の試験を受けた。午後は学生生活や就職活動に関するオリエンテーションが行われた。11-12日は宿泊研修があるという伝達もあった。
 
「宿泊か・・・」
 
と明恵は少し不安を感じた。
 
 
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