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■春茎(11)

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「ところで、ここから穴水までぜひ、のと鉄道に乗って下さいと言われたのですが」
と幸花が言ったところでいったんカメラを停める。
 
「どうしようか?車内を森下君に撮影してもらって僕は車を穴水駅まで回送するつもりでいたんだけど」
と神谷内さんが言う。
 
「私が回送しますから3人でのと鉄道に乗って下さい」
と青葉が言う。
 
「でもドイルさんを入れない訳にはいかないし」
と神谷内さん。
 
「あのぉ、もしよかったら私が運転しましょうか?」
と明恵が言った。
 
「君、免許持ってるの?」
「先週取ったばかりです」
と言って運転免許証を見せる。
 
「ん?ちゃんと女の子の格好で写ってる!」
と幸花が嬉しそうに声をあげる。
 
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「ディレクター、この免許証撮しましょう」
「ダメダメ。個人情報保護法」
と神谷内さんが言う。
 
「でも取ったばかりで運転大丈夫?」
と幸花は言うが
 
「いや取ったばかりならまだ身体が運転を覚えているはず」
と青葉は言う。
 
「じゃちょっと運転してみてよ。僕が同乗するから」
と言って実際にその付近を少し運転して戻ってきた。
 
「どうでした?」
「合格合格。免許取り立てとは思えない上手さ」
「ほほぉ。実は以前から運転していたとかは?」
「すみません。それも個人情報で」
「ふむふむ」
 
「じゃ夏野さんに車を回送してもらって、残り3人で穴水まで行こうか」
 
それで13:39の下り列車に乗ることにし、明恵がヴィッツを運転して穴水駅に向かった。
 
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やがて列車が来るが、その『花咲くいろは』のラッピング列車である。
 
「わあこれ撮りたい」
 
と幸花が声をあげるが
「撮影してたら時間が掛かって迷惑だから降りてから」
 
と神谷内さんが言い、そのまま整理券を取って乗車した。「下り6・西岸」と印刷されている。それも神谷内さんは撮影していた。
 
「タイミングがわりと難しいので、次の能登鹿島を出たらずっとカメラは回し続けていてください、と事前リサーチメモには書かれている」
と神谷内さんは言い、実際鹿島を出るとずっと回していた。
 
「なんか今回の取材は霊界探訪ではなくて能登観光という感じてすね」
などと幸花が言っているが
「まあちょっとマニアックな観光かも知れないですね」
と青葉も答えておいた。
 
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やがてトンネルに入る。
 
「ここかな?」
と言ってスタンバイしているが、このトンネルではなかった。それで油断していたらすぐまたトンネルがある。慌ててカメラを外に向ける。
 
「きれーい!」
と幸花が声をあげた。
 
トンネルの中で星が光っているようなイルミネーションがあったのである。
 
(乙ヶ崎トンネルというトンネル。イルミネーションは冬季限定らしいが、私が行った2019.6.7には実施されていた。突然だったので私は撮影できなかった)
 

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穴水駅に到着してから、青葉と幸花がラッピング列車の前に並んで記念撮影した。
 
駅を出ると駐車場にヴィッツが駐まっている。明恵が車を降りて会釈した。
 
「どこもぶつけなかった?」
「大丈夫ですよー。カーブが多くて面白かった」
「面白かったのならOKだね」
 
トイレに寄ってから先へ行く。今度は青葉が運転した。駅の出口を出て左に行く。県道1号に出て此木(くのぎ)交差点でカーナビは直進を示しているが青葉は無視して右折した。ここから“地図に名前が載っていない高規格道路”珠洲道路が始まるのである。
 
「ああ、言い忘れていたけど、ちゃんと右折したね」
「左折でもいいんですよね」
「そうそう。それも書いてある。直進すると酷い目に遭う」
 
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「カーナビが間違っているんですか?」
「カーナビは各地域の事情まで知らないから」
 
右を行くと珠洲道路の本線、左に行くと能越自動車道に入り、その終点で珠洲道路に合流する。しかしまっすぐ行くと急カーブが連続する県道1号・国道249号を行くハメになる。
 
「カーナビというのはしばしば快適なバイパスを走っているのを強引に降ろして曲がりくねって細い国道を走らせようとする」
と青葉は言っている。
 
「カーナビは、高速道路、国道、県道の順に良い道と思っているけど、特に田舎ではそうではないんだよね」
 
「この珠洲道路のことは、ローズ+リリーのケイさんが楽しそうに話してくれてました」
 
地元では“大規模”という俗称もある。多分“大規模農道”の略かと思われるが、実際には多数の県道・町道・市道・国道・農道の集合体である。
 
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そういう訳で車は珠洲道路をひたすら30分ほど走るが
「この道、まるで高速道路みたい!」
と幸花が言っていた。
 
「夜中になると高速道路と間違ったかのように時速120kmくらいで走る車を結構見掛けるらしいですよ。どうせ警察は取り締まりなんかやってないだろうと思って」
 
「それは恐い」
「でも割とパトカーも走っているんですよね〜」
「それは恐い」
「点数12点で90日免停ですが、罰金10万円程度かな。前科一犯になります」
「前科というのがいちばん恐い」
「そうですよ〜。罰金の10万円は頑張って払っても前科は消えませんから」
 

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やがて神和住という町名表示を見てすぐの所にドライブインのような所がある。今日はどうもお客さんが多いようでたくさん車が駐まっている。
 
「そこの丼屋さん美味しいんですけどね〜。今日は素通りします」
と言って、青葉はそのドライブインの手前の道を左手に入った。
 
それで少し走って行くのだが、何だか大量に車が縦列駐車している。
 
「何だろう?お祭りでもあるのかな?」
などと言っていたら、見慣れた顔がある。青葉は彼の近くで車を一時停止させた。
 
助手席の神谷内ディレクターが窓を開けて彼に声を掛けた。森下カメラマンなのである。
 
「どうしたの?」
「あれ?神谷内さんもこちらの取材ですか?」
「え?何か事件?」
「金沢で飲食店経営の女性が殺害された事件、この付近に死体が埋められたらしいんですよ」
「え〜〜〜!?」
「今、警察と消防団まで入って捜索しています」
「なんでこんな所に」
「あまり人が通らないだろうと思ったんでしょうね。実際にはかなり交通量の多い道らしいですよ」
 
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この道は町道か農道と思われるが、柳田の中心部付近に住む人が能登空港や七尾・金沢方面に出るのに便利なので1日に推定300台前後通行するらしい。
 

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結局森下さんを置いたまま、車は道を進む。県道26号との交点に出るので右折して柳田の中心部まで行く。県道6号との交差点に出るので左折して進む。15分ほど走ると県道6号の終点に到達する。右折して少し行った所に窓岩ポケットパークがあった。車をできるだけ邪魔にならない付近に駐めて降りる。
 
「ああ。これは面白い」
と幸花が声を挙げた。
 
大きな岩の真ん中に穴が空いているのである。
 
「これは海食洞が隆起したものかな?」
「だと思いますよ。能登半島はおおむね隆起地形なんです」
「月曜日に行く予定の能登金剛には海食洞が多いけど、この付近にもあったんだね」
「たぶん最後まで残ったもののひとつでしょうね」
 

(2019.6.17撮影)
 
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「この窓岩の穴に夕日が沈む日があるらしいんですけどね」
「それはきれいでしょうね」
「撮影のチャンスは年に数回しか無いだろうから撮れたら奇跡の1枚ですね」
 

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そのまま海岸線に沿って歩いて行く。遊歩道のような所の終端から堤防がある。
 
「あそこの岩、ちょっと変わった形してますね」
と明恵が言った。すると
「あの岩の見え方に注意していてね」
と神谷内さんが言った。
 
「何かあるんですか?」
 
それで少し歩いて行ったら幸花が
「あれ?アザラシみたいに見える」
と言った。
 
「まあ蛙岩というんだけどね」
「蛙ですか!確かにそれにも見える」
「私はカラスに見える」
「確かにカラス岩でもいいかも!」
 

(2019.6.23撮影)
 
「ずっと注目しててね」
 
「あれ、ここからは向こう側の岩も蛙に見える」
「そうそう。だから夫婦蛙岩、方言で夫婦ガット岩という」
「なるほど、ガットですか」
 
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それで歩いて行く内に角度の問題で手前の岩はもう蛙には見えなくなった。ところが更に歩いて行くと
 
「あれ?蛙岩の位置が変な気がする」
「位置が変なんじゃなくて、別の岩が蛙に見えるようになったんだな」
「なるほどー!」
 
堤防が終端まで行くので道路に戻り、トンネル(八世乃洞門新トンネル)の前に駐車場があるが、ここで明恵が
「あ、蛙が増えてる」
と言う。
 

(2019.6.17撮影)
 
「大岩の手前に蛙が2匹並んでいるね!」
と幸花も嬉しそうな声をあげた。
 
 
神谷内さんが説明した。
 
「ここは最大2匹の蛙が見えるけど、見る場所によって、どの岩とどの岩が蛙に見えるかが変わるんだな」
 
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(窓岩の駐車場から遊歩道が始まりその終端から堤防が続く。堤防の終端に案内所があり、案内所の向こうが八世乃洞門の駐車場である。遊歩道と堤防の境界付近では大岩は変な形の岩に見える(蛙と思えば蛙にも見える)が中岩の前くらいまで来ると明確に左向きの蛙に見えるようになる。この付近からはAの岩も左向きの蛙に見えるので2匹の蛙が見える。大岩の前付近まで来ると大岩は蛙には見えなくなり、Aの岩だけが蛙に見える。堤防の端付近まで来るとAは蛙には見えず代わってBの岩が蛙に見える。八世乃洞門の駐車場からはAとBが右向きの蛙に見える)
 
「面白いですね」
「年配の人を連れてくると、東京のオバケ煙突みたいだと言ったりする」
「それ何ですか?」
 
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「もう無くなったけど、そこの発電所の煙突は、見る方角によって、2本だったり3本だったり4本だったりしたんだな」
「それってお互いに影に隠れてですか?」
「そうそう。実際には4本の煙突は菱形に配置されていた」
「なるほどー」
 

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「福ヶ穴から上り梯子へ↑」という案内板があるのでそちらに向かう。洞門の入口が見えている。
 
この曽々木海岸と向こう側の垂水の滝の間は、古くは「能登の親不知」と言われた難所で毎年海に落ちて命を落とす者があったが、1780年に海蔵寺八世の麒山瑞麟が「座るも禅だが道を作るのも禅」と言い、加越能3国を托鉢してまわって浄財を集め13年掛けて1792年に両者を結ぶ道を作った。
 
明治20年(1887)になってこの麒山道を大改修し、曽々木側に手掘りのトンネルを通した。これが現在は「接吻トンネル」と呼ばれている部分である。昭和38年にそれより内側に曽々木隧道と八世乃洞門が建設され、両者を車で行き来できるようになった。
 
ところが2007年3月25日の能登半島地震で八世乃洞門の一部が崩壊。通行不能になってしまった。応急処置の工事で片側交互通行・夜間通行止めで暫定復旧したが、事実上迂回路が存在しない(迂回するには数十km走る必要がある)のでひじょうに困っていた。それが2009年11月1日、被災から2年半以上掛けて、山側に新トンネルが開通。やっと完全復旧したのであった。以前は2本の連続するトンネルで通行していたが、この新トンネルは1本で向こう側に出られるようになっている。
 
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駐車場から左手に見えているのは曽々木トンネル側の入口である。トンネルは入口付近20-30mだけが通行可能になっており、その先にゲートがあって「ここを通る人は自己責任でお願いします」という掲示がある。
 
「ここは通ってはいけないよね」
「うん。危険だからこういうゲートが設けてあるんだから」
「通行中にほんとに壁面が崩れてきたりしたら、遺体を発掘するだけでもたいへんな作業だよ」
 
と青葉たちは言い合った。
 
テレビで通って見せたら、真似して通る人がたくさん出ることが安易に予測される。それでここは『通らない』という姿勢を見せておく。
 
いったんトンネルの入口まで戻り、左手にある旧道(明治時代に作られたもの)に入る。
 
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(2019.6.23撮影)
 
これは50mほど行った所で通行止めになっている。以前はこの先、海沿いの遊歩道(波の花遊歩道)を歩いて垂水の滝まで行けたのだが(*3)、2007年の能登半島地震による岩石崩落で危険な状態になっているため通行止めになっている。復旧の目処は立っていない。
 
(*3)筆者も1993年に行った時はこの遊歩道を往復している。
 
この旧道の途中に福ヶ穴と呼ばれる大きな海食洞?があり、その入口の所にこのような岩がある。
 

 
自然石なのか彫ったものなのかは判然としない。現場で見た時はただの細長い岩に見えたのだが、宿に帰ってから写真をあらためてパソコンで見てみると観音様か何かのようにも見えた。
 
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特に説明書きのようなものもない。福ヶ穴と不動などという看板があったので、これがお不動さんかと思ったのだが、どうもここの洞穴の奥に不動はあるようである。そこで懐中電灯を点けて!中に入っていく。リサーチャーさんの事前調査報告が無かったら、ここで懐中電灯が必要というのに思いも寄らなかった。
 
(お不動さんの近くだけは自動でライトがつくのだが、その途中が暗く、洞窟の床面の状態もよくないので懐中電灯無しでは危険である)
 
それで懐中電灯で足元を確認しながら10mほど進むと「不動明王・御縁之泉」という説明板があった。その奥に石仏のお不動様が鎮座していた。取り敢えずお賽銭を入れてお参りする。
 

 
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撮影用のライトを明恵に持ってもらい、それで神谷内さんが撮影した。これもその場では分からなかったが、あとでこの動画のスティルをPhotoshopで増感してみるとレリーフ状の石仏が大きいの(これが不動か?)と右側に小さいのが並んでいるのが分かった。これは結局、画像処理はせずに、暗い中でお不動さんにお参りした、という図だけを放送することにした。
 
お不動さんの左手奥に「御縁之泉」という掲示がある(上の写真で明るい部分)ので、そこまで入ってみる。洞窟はそこで行き止まりになっているのだが、終端の所に小さな泉?があったが、泥水のようなものがあるだけで、水が湧いているのかどうかは不明であった。あるいは満潮の時に来れば水があるのかも知れない。
 
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