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■春封(16)

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そういう訳で、胡桃の提案で、まだスタッフも雇っていない状態で営業許可だけ取っておこうと準備を進めていたのが、即役立つことになったのである。
 
雇用する予定だった6人のメイドに連絡した所、全員12月31日までの期間限定のバイトとして勤務してくれることになった。彼女たちには12月29日から3日間来てもらうことにする。
 
但し、6人の内、マキコとライムの2人は「明日からでもいいですよ」と言ってくれたので、検討した結果、飲食店営業許可が取れた後の27日から来てもらうようにお願いした。特にこの2人は面接した時も、料理は得意ですと言っていたので、かなり戦力になるのではと見たのである。
 

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「僕も、そのイベントに同行した方がいいよね?」
と紺野君が言うので
 
「お願い!」
と和実が言い、紺野君は25日夜に東京に戻り26-28日に仕事をしたら、28日夕方にこちらにまた来てくれることになった。
 
和実は若葉・紺野君と3人でメニューについて検討した結果、メニューはコーヒーとオムライスのみに限定することにして、氷川さんに連絡した。準備期間も無く、不慣れなスタッフで乗り切る必要があるので、様々な意味で事故が起きにくいようにする。
 
コーヒーについては、その場で抽出ということで3人の意見は一致する。あらかじめ作っておいたコーヒーを保温しておいて提供するのでは美味しいコーヒーを出すことができない。味に関しては妥協してはいけない。今回の出店は半分はお店の宣伝である。このイベントで飲んだ“クレールのコーヒー”が美味しくなかったら、人は「クレールってコーヒーが不味いからなあ」などと言うだろう。
 
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オムライスについては、予め整形して冷凍しておき、現場でチンするのも考えたのだが、それでは提供速度が間に合わないという判断になり、調理済みのケチャップライスをジャーに入れて持ち込み、現場で型に填めて皿にのせ、そこに焼き卵を乗せる方法で行くことにした。
 
なおこういう場で提供する場合、卵を半熟にすることは許されないのでこちらは味が落ちることを覚悟で完熟にせざるを得ない。若葉は
 
「出店規定により、本来半熟で乗せる卵を完熟にさせて頂いております」
 
というお断りの紙を貼っておこうと提案。氷川さんに確認した所、そういう掲示は問題無いということだったので実行することにした。
 

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提供できる食数を計算する。
 
イベントは15:00に開場し、夜中の0:20に終了するが、出店は23:00のライブ後半が始まった所で撤退を始める。それで販売時間帯は15:00-23:00の8時間だが、実際にはライブ本番演奏中(21:45-22:45)はほとんど客は来ないであろう。実質販売時間は7時間である。
 
※当日のスケジュール(予定)
15:00 開場
17:45-18:45 前座1.ボニアート・アサド
19:00-20:00 前座2.金華山金管合奏団
20:15-21:15 前座トリ.姫路スピカ
21:45-22:45 ローズ+リリー前半
22:45-23:00 幕間
23:00-23:59 ローズ+リリー後半
23:59-24:00 カウントダウン
24:00-24:15 クライマックス&アンコール
24:20 場内スピーカーOFF
25:00 客・スタッフ退場完了
 
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この7時間の間にひたすら売り続けた場合、どれだけ提供できるかを計算する。
 
コーヒーは一番美味しくなる3杯立ての器具を使用する。大型の器具の方が効率は良いが抽出時間が長くなって味が落ちる。
 
3杯立ての器具を使った場合、お湯をドリップし終わるのに2分掛かる。2人のスタッフが各々並行して5個の器具で立てるとだいたい3分間に30杯提供できることになる。すると7時間に4200杯という計算になるが、念のため6000杯分の紙コップ・コーヒーフレッシュを用意したい。ただ和実はこの3割も売れたら上出来かなと考えた。
 
オムライスはケチャップライスをジャーに入れて会場に持ち込み、その場で型に入れて皿にあけ、そこに焼いた卵を乗せる。言うまでもなく卵を焼いて乗せる作業がいちばん手間が掛かる。できる人も限られる。和実と若葉が実際にやってみてストップウォッチで計ってみたが、ふたりとも油を敷いてから御飯の上に乗せるまで75-77秒で出来た。余裕を見て100秒で計算することにする。卵焼き担当を3人設定した場合、7時間で756食作ることができる計算になる。
 
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ケチャップライスを現場に持ち込む場合、発泡スチロールの保温容器に入れて運搬し、現場ではジャーに入れて対応することになるだろう。手近にあった発泡スチロール容器のサイズを確認してみたら内寸35x42x16であった。容量は23520ccであるが、これはちょうど5升炊きのジャーの容量(29L)に近い。1食のオムライスに使用するケチャップライスの量は約180g=300ccなので、23520ccは78食分に相当する。これを10箱持ち込めば780食になるので、それだけ用意することにした。
 
余ったらお正月はしばらくオムライスだ!
 

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ここまでの実験を含む考察から、必要なスタッフ人数を数えてみる。
 
コーヒーチーム
 フィルターのセット係、抽出係×2、渡す係×2。
 
オムライスチーム
 卵溶き係、卵焼き係×3、御飯型填め係、ハート描き&渡し係
 
会計、トイレ交代要員、予備要員。
 
これで14人である。現在確保できている人数は、身重の若葉を除けば、和実、淳、メイド6人、紺野君で9人。5人足りない。
 
和実は少し考えて伊藤君に電話してみた。この作業にはどうしても男手が必要というのも考えたのである。多分紺野君1人では足りない。
 
「ローズ+リリーのカウントダウンライブの出店?ということはライブが聴けるんだよね?」
 
「まあ聴いている暇があるかどうかは分からないけど、運が良ければ聞こえてくるかもね」
 
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「やるやるやる!」
 
ということで彼が来てくれることになった。
 
「ちなみにメイド服着る?それとも作業服とかにする?」
「作業服でお願いします」
 
足りない人数に関して、和実は若葉とも相談の上、麻衣に連絡してみた。
 
するとそういうことであれば協力してもいいということで、エヴォンのメイドさん3人を連れて4人で来てくれることになった。
 
「紺野君はメイド服着たい?作業服にする?」
と和実は彼に尋ねてみた。
 
「作業服で。僕がメイド服を着たら、絶対、性的な傾向を誤解される」
と言って笑っている。
 
確かに伊藤君がメイド服を着たらジョークにしか見えないが、紺野君なら女に見えてしまうかも知れない。
 
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「ちなみに私のメイド服を着せてみたことあるけど、可愛かったよ」
 
と若葉が言うが、どうもその言い方が単純な「可愛い」ではないようである。
 
「その話はやめてよ〜」
 
と言って紺野君が照れるのを見て和実は微笑んだ。
 
それちょっと見てみたいなあ。でも若葉は元陸上選手だけあって体格あるし、紺野君は細身だから、確かに若葉の服が着られたのかもね、と和実は考えた。
 
「そうそう。若葉はメイド服着てよね。ちゃんとマタニティ用のも作ってもらっているから」
と和実は言う。
 
「そんなのあるの〜!?」
と若葉は驚いていた。
 

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24日から、準備に取りかかることにする。
 
26日に保健所の検査があり、それに合格する前提で日程を入れてしまうが、その検査以前には「調理作業」はすることができない。しかし食材を用意したり作業の準備などはできる。
 
偶然にもコーヒー豆は大量に手に入っているが、コーヒーフレッシュ、ペットシュガーが必要である。紙のコップや皿、プラスチックのフォーク、マドラーなども必要である。その他、卵、ケチャップ、米、タマネギ、ウィンナー、塩、ブラックペッパー、サラダオイル、コンソメなども必要である。お肉は本当は鶏肉を使いたいところだが、万が一のリスクを避けるにはウィンナーの方が良い。
 

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紙コップに関しては、ボランティア関係で関わりのあったその手のものを製造している業者さんに連絡して、250cc入りの紙コップを5000個くらい入手できないかと照会したら、そのくらいの量ならすぐ納品できますよと言われてホッとする。
 
「ちなみに無地でいいんですか?それとも何か印刷します?」
と尋ねられた。
 
「印刷した場合、どのくらいお時間が掛かります?」
「5000個なら30分くらいですね」
「わりと速いんですね!」
 
デザイン画は .ai または .eps のデータ形式で送ってくれればいいということだったので、若葉がデザイン画を描いてくれて、それを .ai 形式で送信した。ここには同数のプラスチック蓋とプラスチック製マドラー、また同じ絵を印刷した紙皿を2000個、紙の手提げ袋を大小1500個ずつ注文した。さすがにこんなに使わないとは思ったものの、足りなくなるより余った方が良い。
 
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余ったら、また何かのイベントで使えるかも知れないし、お店の普段の営業でもテイクアウト用に使える可能性が高い。
 
このやりとりをしたのが12月24日だが、業者さんは25日の午前中にはできたという連絡があったので、紺野君がハイエースを使って取りに行ってくれた。
 

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24-25日は食材の確保に奔走した。売ってくれそう所に片っ端から電話をして問い合わせる。24日は和実はひたすら電話を掛けまくったが、お陰でほとんどの食材を確保できた。実際には多くの業者さんが年末に現金が入るのは助かると言ってくれた。
 
配送してもらうのは困難なのでこちらが車で取りに行く。母と若葉に留守番をしてもらっておいて、和実と淳と紺野君に、事前準備も手伝うよと言って出てきてくれた伊藤君の4人で、ハイエース、プリウス、RX-8、伊藤君の車フリードで走り回る。
 
食材は取り敢えず自宅の2階A室(ここに入れておいたメイド服は店舗の倉庫に移動済み)に入れ、エアコンの冷房をがんがん掛けた状態で保存しておく。むろんウィンナーなどはちゃんと店舗の冷蔵庫に入れている。
 
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25日の夜はいったん作業を中断して、店舗をきれいに掃除する。紺野君はRX-8を運転して東京に戻る。
 
12月26日の朝、保健所の人が来たが、所定の検査ポイントで全て合格し、営業許可が降りた。
 
氷川さんに営業許可が取れたことを連絡し、所定の出店料をすぐに振り込んだ。保健所の営業許可証は発行までに普通は数日掛かるらしいのだが、年末ということで、翌日に許可証を発行してもらったので、即氷川さんにFAXした。
 

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飲食店営業許可が取れたので、27日から仕込み作業を始める。
 
現場では物を切る行為は禁止である。また直前に加熱して客に提供する形でなければならない(かき氷・ところてん・清涼飲料水などを除く)。
 
和実ひとりでは手が足りないので、メイドさんの中で料理が得意と言っていたマキコとライムに今日から来てもらうことにしておいた。それで、その3人で作業を進める。
 
タマネギをみじん切りにして、塩こしょうしながら、細切りにしたウィンナーと一緒に炒める。再利用可能な保存容器(直前に洗浄したもの)に入れ、冷めたところで冷凍する。これは直前に暖かい御飯と混ぜることになる。
 
みじん切りはちゃんと手作業でする。スピードカッターを使ってしまうと、細胞を潰してしまうので味が落ちるのである。このみじん切りの作業は若葉も手伝ってくれた。
 
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なお、マキコとライムに卵を焼かせてみたら、ふたりとも上手に鉄のフライパンで焼くことができたので、この2人と和実の3人を卵焼き担当にすることにした。マキコは平均82秒、ライムは90秒で卵を完熟になるまで焼いた。ただライムは鉄のフライパンよりテフロン加工のフライパンの方が好きなんですけどと言った。マキコは逆に鉄のフライパンの方が火の通りが速くて好きだと言った。それでテフロン加工のフライパンも2個用意して、現場に持ち込むことにした。
 

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この日、高校の友人の照葉から和実の所に電話があった。
 
「お正月に高校の同窓会するんだけど、和実来られるよね?」
「それが特大な仕事が入っちゃって」
と言って、ローズ+リリーのカウントダウンライブに出店をすることを言うと
 
「何〜?ローズ+リリー?ね、ね、手伝いは足りてる?」
などと言う。
 
「足りない」
「だったら手伝わせてくれない?」
「いいよ!助かる」
 
それで結局、照葉と梓の2人が手伝いに来てくれることになった。
 
「あんたたちメイドさんの衣装を着るよね?」
「一度着てみたかった」
 

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和実と若葉は実際の作業のシミュレーションもした上で、現場での担当をこのように決めた。最終的には若干の担当変えが起きる可能性もある。
 
オムライスチーム(8人)
 
卵溶き 淳
卵焼き 和実・ライム・マキコ
御飯の型押し 照葉
ハート描き エルム@Aevon
渡し リズ・コリン
 
コーヒーチーム(6人)
ペーパーフィルターのセット 伊藤
抽出 さくら@Aevon・クロミ
注ぎ 梓
渡し ルシア・アヤメ@Aevon
 
バックアップ 麻衣
会計 紺野
 
誰かがトイレに行く時はどの作業でもできる麻衣が代わるが現場はトイレも混み合うことが予測されるので、もう1人トイレに行きたくなった場合は、若葉が一時的に対応する。
 
そういうわけでこのイベントには16(+1)人で参加することになったのである。
 
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労賃が売上げを上回ったりして!?
 
なお。この中で和実と淳は報酬不要。若葉と紺野君、伊藤君、梓と照葉も不要と言っていたので好意に甘えることにする。つまり報酬を払わないといけないのはクレールのメイド6人とエヴォンからの応援4人である。エヴォンの4人は交通費も必要である。報酬以外に宿泊場所も必要なのだが、そもそも正月だし、イベント主宰者側で近隣の宿泊施設はほぼ買い占められている。そこで和実の家にレンタルの寝具を持ち込んで泊まってもらうことにした。
 
「ところでこの16人って、男女は何人ずつになるんだっけ?」
「うーん。。。それは数え方によるなあ」
「とりあえず外見で分類すると?」
「外見的に男なのは、伊藤君、紺野君、うちのお父ちゃんの3人かな」
と和実。
「その3人は2階A室かな」
 
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「私と和実、お母さんとお姉ちゃんと希望美が1階の洋室かなあ」
と淳が言う。
 
「若葉もその部屋に」
と和実。
 
妊婦は何かあった時に対応できそうな母の居る場所が良い、と和実は考えた。
 
「残りは12人?」
「4人くらいずつ3部屋かな」
 
 
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