広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■春封(8)

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「今月中に実行してください。そしたら回復する可能性はあります」
 
「何をすればいい?」
 
「この家の四隅にコンクリート製の柱がありますよね」
「あ、はい?」
 
「その中の、玄武に当たる、北側の柱が折れているんですよ。玄武って男性の性的能力にもリンクしているんです。これをきちんと直せば、少なくともこの怪異は収まります」
 
「え〜〜〜!?」
「それだけの問題?」
 
「男性の象徴が壊れていることから、男性の能力を奪う方向に力が働いているのだと思います。お父さんの身体の異変もそれでしょうし、息子さんがやたらと女装させられて、去勢までされそうになったのもそれでしょうね」
と青葉は言う。
 
「なるほど、それは考えられるなあ」
と裕夢は言っている。
 
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「あの柱は誰が作ったものですか?」
 
「この家に以前住んでいた叔父が作らせたものだと思います。その叔父が亡くなった後、私たちはここに入ったんですよ」
とお母さんが言っている。
 
「だったらその叔父さんが仕掛けたものでしょうね。この4本の柱はこの家の結界を作っていたんです。ところがそれが折れて現在結界が無効になっています。それで雑多な霊が侵入して、怪異が起きているんですよ」
 
「実は夏頃から、しばしばポルターガイストも起きているんだけど」
「まあ今の状態なら起きても不思議ではないです。人の声とかしませんか?」
「するする」
「玄関のピンポンが鳴って出て行くと誰もいなかったり、電話が鳴ったんで取ったら発信音が聞こえたりというのもあった」
「階段を降りてくる音がしたのに誰もいなかったというのもあったね」
 
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「その柱って新しいのを作って交換していいの?それとも、今ある奴を何とかして修復した方がいい?」
と裕夢が訊く。
 
「そうですね。どちらでも大丈夫ですから、費用の掛からない方でいいですよ」
と青葉は答えた。
 

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ここでお父さんが質問した。
 
「済みません。川上さんって、どういう方でしょう?」
 
すると青葉が言う前に裕夢が答えた。
 
「この人は日本で五指に入る霊能者」
 
「え〜〜〜!?」
と両親が驚愕している。
 
「ああ、バレてましたか」
と青葉は照れるように言う。
 
「ほら、こないだ金沢で若い女性が死んだ後で赤ちゃんを出産したって事件があったじゃん」
 
「ああ、うん」
 
「あの生き延びている赤ちゃんを見つけて、その父親を見つけて、ついでに車ではねた犯人まで見つけたのがこの人だよ」
 
「うっそー!?」
 
「確かに赤ちゃんは発見しましたが、父親は別の人が気付いて通報して分かったもので、事故の加害者は警察への匿名の電話で逮捕されたみたいですけどね」
 
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「それどちらも、あまり名前を出したくないから、知人とかに代わって通報してもらったものだろうと、うちの学校の心霊研究会では言ってましたよ」
 
「そんな研究会があるんですか!?」
と青葉はマジで驚いた。
 

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「これが実力は無いくせに売名したがる似非(えせ)霊能者なら、盛んに自分を表に出すんだろうけど、本物の霊能者はみんなできるだけ自分の名前を出さないようにするんですよ。でないと依頼が処理できるキャパを越えてしまうから」
と裕夢は言っている。
 
青葉もその意見には同意した。
 
「だから川上瞬葉さんにしても、札幌の海藤昇陽(天津子)さんにしても、東京の中村晃湖(晃子)さんにしても、高知の高井厨人(山園菊枝)さんにしても、長崎の鳴滝桜空さんにしても、みんなマスコミに極力出ないようにしている」
 
と裕夢は言うが、青葉は凄いなと思った。みんな実際本気の実力者ばかりで、しかも一般にはほとんど知られていない名前だ。鳴滝さんなどは菊枝から何度か話を聞いたことはあるものの、青葉も会ったことがない。こんなラインナップを彼らはどうやって知ったのだろうか。
 
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父親は言う。
 
「コンクリート同士の接着は鉄筋とかを打ち込めば何かなりますが、耐久性がどうしても弱くなるので、今のを撤去して、新しく木の枠を立てて、その中にコンクリートを流し込んで新しい柱を作った方がいいと思うのですが、それで大丈夫ですか?」
 
「その工事をなさる時に私を呼んでいただけませんか? 必要な処置をしますので」
 
「だったら今日の午後からやっていいですか?」
 
青葉は内心は驚いたものの顔色ひとつ変えずに言った。
 
「いいですよ」
 

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それでお父さんは車で出かけていくと、知人の所から電動ハンマーを借りてきた。そして自らその折れたコンクリートの下の部分を壊していく。約30分ほどで崩してしまった。
 
そしてコンパネというコンクリート打設用の板を4枚立てて桟木で固定する。念のため内側から丸セパという金属の棒でも固定する。この棒はコンクリートの中に埋まり、芯として柱を強化してくれる。ここで青葉は形の確認を求められたので、寸法を測って他の3つと同じサイズであることを確認する。他のと同じ高さになる場所にマジックで印をつける。それでお父さんは出かけると今度は小型のミキサー車を運転して戻って来て、その型枠の中に生コンを流し込んだ。
 
青葉はチラッと後ろにおられる《姫様》に視線をやる。
 
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《姫様》は笑顔でOKサインをすると、このコンクリートが固まったら発動するように結界の仕掛けを作ってくれた。
 
青葉は古い結界の仕組みを修復してもいいと思っていたのだが、姫様は多分他人が作った結界に触るのは不愉快なので、自分で新たに結界を作ってくれたのだろう。青葉は如何にも「何かしている」かのように見せる演出で数珠を持って短いお経を唱えた。《姫様》が笑っているが気にしない。
 
「ではこのコンクリートが固まったら、結界は再起動します」
と青葉は言った。
 
「ありがとうございます!」
 
「でもこういうコンクリートの工事をDIYでやっちゃうって凄いですね!」
と青葉は言う。
 
「え?このくらいは誰でもやるでしょ?」
とお父さん。
 
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「そうなんですか? うちは男の家族が居ないから、どうもそういう方面には疎くて」
 
「ああ、お父さん亡くなられた?」
「ええ。それに仕事が忙しくて、ほとんど家に帰ってこない父だったんですよ」
 
「ああ、昔風のジャパニーズ・ビジネスマンだな」
とお父さんは言っている。
 
「あなたは、もう少し出世とか頑張ってもいいと思うけどね」
とお母さんは言っている。
 

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「ところでこのお代は?」
とお父さんは少し心配そうに言った。
 
「それは布恋さんとの間で既に話がついていますから」
と青葉は笑顔で答えた。
 

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和実の方のカフェおよび自宅新築工事だが、10月下旬に基礎工事が完了。11月上旬から「躯体工事」が始まった。建物の鉄骨を組み立てていき、そこに壁などのパネルをはめ込んでいく、家造りの中で中核になる作業である。
 
人員の手配効率の問題で、自宅と店舗を同時進行で作っているのだが、あっという間に鉄骨の組み立ては終わり、作り付けのドアや窓なども填め、内部の配管工事なども進んでいく。壁や屋根のパネルもどんどん取り付けていく。ここまでの作業が、自宅の方は一週間でできてしまい、店舗の方も3週間ほどで組み上がる。それで11月末までには、自宅も店舗もその外観部分ができあがってしまった。
 
このあたりがユニット工法の凄さである。
 
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ここで中間検査が行われ、その結果を見て和実は中間金4000万円を支払った。
 
工事はこの後、内装部分に入ることになる。
 

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和実は一方で政子に貸してもらった資金の中で工事の中間金として払わなければならない分以外を使い、停まっていた設備・用品の準備を始めることにした。
 
エヴォンやショコラとも取引がある、輸入家具の取扱店を通して、フランスの家具製作所にアールヌーヴォー風のテーブルや椅子、時計や灯り、窓枠などの家具調度を発注した。また同様のスタイルの食器も注文する。
 
また女性キャストの制服も試作品を作ってもらい、それを姉の美容室に勤めているアシスタントさんに頼んで試着してもらった。
 
「可愛い!」
「私美容師の資格を取れなかったら、メイドさんになっちゃおうかな」
などと本人は言っている。
 
「でもあんまりメイドメイドしてないんですね」
「うん。やはり純粋なメイド風より、アンミラみたいな方向性の方がいいと思うんだよね。その方が働く人も抵抗が少ないし、お客さんも、特に女性のお客さんが入りやすいでしょ?」
 
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「確かに。メイド喫茶と言うと、なんかいかがわしい店を想像しちゃう」
 
「うん。最近いかがわしい店が増えて、そういう所と混同する客もいるから、昔からやっている正統派のお店はみんな困ってるんだよね〜」
 

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お店に居た男性の美容師・広瀬さんまでなんか見とれているので、和実は声を掛けてみる。
 
「広瀬さんも着てみます?」
「え?どうしよう?」
などと言っているので、みんなでうまく乗せて着せてしまった。
 
「可愛いじゃん!」
「ヒサちゃん、充分それでメイドさんで通るよ」
とみんなおだてる。
 
彼は細身だし、眉も細くしているし、髪も肩に掛かるくらいの長さがあって軽くウェーブを掛けているので、こういう服が様になる。
 
「僕人生考え直そうかなあぁ」
「そういうのもいいと思うよぉ」
「ふだんスカートとか穿かないの?」
「穿きませんよぉ」
「それにしては何かこういう服を着慣れている感じがする」
「だいたい足の毛は剃ってるみたいだし」
「お化粧もうまいもんね」
「それはお客様のお化粧しないといけないから頑張って練習しましたよ」
 
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「ヒサちゃん、アーデンの口紅持ってるし」
「マックスファクターのコンパクト持ってるし」
「だから練習用ですよぉ」
「スカート本当に持ってないの?」
「えっと・・・3着あるかな」
「やはり持ってるんだ!」
「明日からスカート穿いて出ておいでよ」
「恥ずかしいです!」
 

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11月21-26日。バスケットのインカレ本戦が東京都内(一部埼玉県)の複数の会場に分散して行われた。
 
W大学に所属している寺島奈々美は、最初補欠と言われていたものの、1人直前に怪我したため、急遽その選手に代わってベンチに入ることになった。
 
1回戦は実力差のある相手だったので、前半で勝負は決してしまい、おかげで中核選手を休ませるため、奈々美は後半に出してもらった。ところがこの後半の20分の間に奈々美はスリー4本を含む20点もひとりで取りまくり
 
「お前凄いな。次の試合はスターターで使うぞ」
と監督から言われて
「はい!」
と嬉しそうに答えた。
 
もっとも監督の意図としては、下位の試合ではあまり中核選手を疲れさせたくないので、下位試合要員としては使えるのでは、という線である。
 
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1日置いて行われた2回戦で、奈々美は一昨日言われた通り、スターターで使ってもらう。そして結局1,2,4ピリオドに出てひとりで30点取り、チーム得点84点の実に3分の1以上を叩きだしてしまった。先日は浮かれていた中心選手たちの顔が、この日は逆に厳しい表情になっていた。
 
翌日の準々決勝では1,3ピリオドに使ってもらい、この日も関西の強豪相手に25点をもぎ取る。総得点の3割を越える数値である。奈々美は敵の中心選手相手に結構良い勝負をしていて、次第にチームメイトの信頼が高まってきているのを感じた。難しい場面でしばしばパスをもらい、それをきっちり決めたのである。
 
25日の準決勝・東京MH大戦は、さすがにベンチスタートになる。ところがこの試合では相手チームが試合序盤に猛攻を掛け、これに対してW大学のスターター間で連携が乱れていきなり10点差を付けられる展開になる。そこで第2ピリオドに「10点取ってこい」と言われて出て行ったが、奈々美はこのピリオドだけでスリー3本とフリースローで11点取り、逆転に成功する。
 
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第3ピリオドにそのまま出してもらうが、向こうは何と奈々美に相手キャプテンが張り付く。それでも何とか頑張ってこのピリオドでもスリーとツーポイントを1本ずつ入れて5点を取る。しかしこのピリオドは双方同点になり、1点リードのままである。第4ピリオド、こちらはベストメンバーで突き放しに掛かった。(奈々美はベンチである)ところがここで相手チームは今まで全く出場していなかった1年生・馳倉さんがひとりで12点取る活躍で、こちらが突き放されてしまった。途中から奈々美が出て行き、奈々美は彼女とお互いにマーカーになり、彼女の得点ペースをかなり落とすことに成功する。自らもスリーを1本入れたものの、最終的には2点差で敗れてしまった。
 
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試合が終わった時、馳倉さんが奈々美に握手を求めてきた。奈々美も握手に応じ
 
「次は私が勝つ」
と言った。彼女も笑顔で
 
「それまでに私も最初から出られるように体力付ける」
と言っていた。
 
それで奈々美は彼女が最後だけ出てきたのは体力問題だったことを知ることになる。
 
「私も・・・体力付けなきゃ」
と奈々美はひとりごとのように言った。
 
W大学は最終日11月26日の3位決定戦で大阪HS大学にも敗れて4位に終わるが、お正月のオールジャパンの出場権は獲得した。
 
そして奈々美はチーム内での、来年のスターター枠をほぼ手中にした。
 
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