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■春封(2)
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最後に行ったのは、若林区で名取市にも近い場所である。海岸からは2-3kmほど離れている。
「なんでこういう場所を選ぶの〜?」
と青葉は羅盤も出す前から言う。
「最悪でしょ?」
と和実が言う。
「うん。絶対に勧めない。周囲になーんにも無いし、それにここたくさん霊が迷ってるじゃん」
「だからやろうかと思ったんだよ」
と和実は言った。
青葉は和実の趣旨は理解したものの、ため息をつき、車から降りてしばらく眺めていた。
「なんか空いてる土地がたくさんあるみたい」
「どんどん売りが出ている状態。今売りに出ている土地が全部で16区画ある」
「地図で見れる?」
「うん。マークしてきた」
それで地図を見ると、旅館が2軒、お寺が1つ、駐車場が3つある以外は、いくつか民家がぽつぽつとあるが、3〜4割の区画が売りに出ているようだ。つまり周囲にほとんど何も無い。
青葉はしばらく見ていたが、1つの場所に指を差して
「ここ行ってみよう」
と言った。そこで車で移動する。
「あっ」
と和実が言った。
「この区域の中では割といい場所だと思う」
と青葉は言う。
「なんか暖かい感じがするね」
と胡桃も言っている。
青葉は羅盤を持って再確認している。
「地図見た時に、ここは方位がいいなと思ったんだよ。それでも点数としては30点かなあ。ここ利益が貯めにくいし」
と青葉は難しい顔をして言う。
その時、胡桃が言った。
「風水って言ったら、例の東に青龍棲む清流あり、西に白虎棲む大道あり、北に玄武棲む丘陵あり、南に朱雀棲む平野あり、とかいう奴でしょ?」
「そうそう」
「だったらこの中にその玄武・青龍・朱雀・白虎を作り込んでしまうとかはできないの?」
「風水の強制改造か!」
「和実なんて男の子だったはずが、強引に女子の身体に作り変えちゃってるし。人間が性転換できるなら、土地も特性転換して」
などと胡桃は言っている。
「まあ身体改造よりは土地改造の方が楽そうだ」
と和実は開き直って言っている。
「そのあたりは予算さえ掛ければある程度できますけど、この狭い区画の中では無理がありますよ」
と青葉は言う。
和実は腕を組んでいたが
「ここ2つ空き区画が並んでいるし、2区画買っちゃおうか」
などと言い出す。
「そちら側の区画に池とか作ればいい?」
青葉は思わぬ提案にしばらく考えていたが、やがて言う。
「だったら、こうしようか。北に玄武になる小高い場所を造成して、南に朱雀になる池を造成する。幸いここは東に大きな川があるから、それを青龍として使わせてもらう。西側にある道路は白虎として利用可能。この道路は仙台中心部につながっているしね」
「うん。ここは仙台駅から20分で来るんだよ」
「それなら行けるかな?都市計画上の指定は?」
と青葉は訊く。
「無指定。不動産屋さんに確認したけど、住宅も店舗もOKだって。学校が近くにあるから、風俗店はNGだけど、うちは飲食店営業だからね」
と和実。
「そうか。自宅も一緒に建てちゃうのか」
「ここだとそれができるんだよね」
「ここの売値は?」
「この区画は70坪で250万円。隣の区画は80坪で230万円」
「なんか凄く安い気がする」
「誰も買おうとしないから。ここ放置していると、もっと寂れるかも。土地価格は年々低下している。幽霊もたくさんいるし。でもこの幽霊は問題無いでしょ?」
と和実。
「うん。単に迷っているだけで何も害をなさないよ。ただの迷子さん。何か言ってきたら成仏させちゃえばいい。その程度は和実にもできるよね?」
「うん。実はこないだ来た時も2人上げた」
などと青葉と和実が話しているので胡桃が嫌そうな顔をしている。
「でもそれなら2区画買っちゃってもいいかも」
「ただ利益を溜められるようになったとしても、問題はお客が来るかということなんだけど」
と青葉は悩むような表情で言う。
「地図にはここに海水浴場って書いてあるけど、これ営業してるの?」
「震災でやられて、まだ鋭意復旧作業中」
「やはりお客さん来ないだろうね」
と青葉は言った。
「じゃ経営的には厳しいか」
「住宅地ならいいけどね。霊的な処理をした上で」
「なるほど〜」
その日、裕夢は自宅で百合花と一緒に勉強をしていた。
彼女との関係は一応お互いの両親には(暗黙の)了解を得ている。百合花の自宅に行き、ご両親と話をしたこともある。裕夢自身の母は「高校生の内は変なことはしないように」などと言っていたが、百合花は母から「する時はちゃんと避妊しなさいね」と言われたなどと言っていた。
その日は1時間くらい一緒に勉強していたものの、お互いの身体が触れあってしまったことから、つい見つめ合う展開になり、キスしてしまった。
キスするのは実はまだ3回目である。しかし今日のキスでは百合花がなかなか離してくれず、結局10分近くキスを続けることになった。そのまま倒れこむように身体を横にしてしまう。百合花は物凄く積極的である。裕夢のズボンの中に手を入れて触っている。裕夢は完全に鏨(たがね)が外れてしまった。百合花の頬に首にキスする。手が迷っていたら百合花が左手で裕夢の手を掴まえてスカートの中に入れ、あの付近に触らせた。
裕夢は完全に理性が吹き飛ぶ。
「あれ?持ってるよね?」
と百合花が確認する。
「うん。お母ちゃんが買ってくれた」
「だったらしてもいいよ」
と百合花は言った。裕夢はごくりと唾を飲み込む。
ところが裕夢のパンツの上からさんざん触っていた百合花が言う。
「これどんなパンツ穿いてるの?」
「ごめーん。それ百合花が置いてった百合花のパンティ」
「へー!自分で穿くんだ」
「ごめん。いつも百合花と一緒にいたい気分で」
と言いつつ、裕夢は我ながらうまい言い訳だと思った。
「うん。いいよ。私もひろちゃんのパンツ持ち帰って穿いちゃおうかな」
「ゆりちゃん、それ体育の時に困るよ」
「ひろちゃんは困らないの?」
「体育のある日は気をつけている」
「じゃ、私またパンティ何枚か置いてってあげるね。ブラも欲しい?」
「ごめん。こないだちょっと着けて遊んでた」
「ふふふ」
それでふたりはまたキスをしあい、お互いの「雰囲気」で、次の段階に進んでもいいかなという感じになってしまう。
お互いの服を外していく。やがてふたりとも下半身裸になってしまう。さすがに百合花は少し恥じらうような顔をしている。しかしそんな百合花の方が積極的だった。裕夢は少し身体を離して机の所に行き、引出しから避妊具の箱を取り出し、開封する。そして1個取り出して、装着した。
実を言うと、この母が買ってくれた避妊具の箱とは別に自分で100円ショップで3個入りの小箱を買ってきて練習してみていた。そうでないと、着ける時に戸惑っていたと思う。最初はホントに使い方が分からなかったし、裏表も判別できず、逆につけようとして途中までしか入らなかったこともある。
その装着する所を百合花が興味深そうに見ていた。
裕夢は百合花のそばに寄り、キスする。そして彼女が目を瞑った。裕夢はドキドキしていたが、思い切ると彼女のその部分に触り、“目標”を確認。指で導きながら、とうとう最後の突撃をしようとした。
その時である。
「こらっ!」
という大きな音が響いた。
裕夢はびっくりして百合花から離れる。
そしてキョロキョロ周囲を見回す。百合花も身体を起こしている。裕夢は部屋の襖を開けて廊下を見てみたが、特に誰も居ない。
「何今の?」
と百合花が言った。
「分からない。でも声が聞こえたよね?」
「うん」
そしてこの日は結局この騒ぎでお互い冷めてしまったので、
「また今度にしようよ」
と裕夢が提案し、百合花も同意した。装着した避妊具は記念に欲しいと言われたのでビニール袋に入れて渡した。ついでに未使用のも2個一緒にあげた。
「万一お母ちゃんに見つかったら、ひろとしたって言おう」
などと言っている。
「僕はそれでいいよ。今日僕はもうゆりのバージンはもらったつもりだから」
「んー。じゃ私もあげたつもり」
と言って2人はキスした。もうキスにはお互い抵抗が無くなってしまった。
百合花は今日穿いていたパンティ、更には着けてきたブラジャーまで裕夢の部屋に置いて帰宅した。百合花はわざわざ裕夢の前で上半身の服を脱いで、ブラを外して裕夢に手渡した。
「パンツ無しでもいいの?」
「平気平気。ノーパンって、涼しくていいんだよ」
「ああ、確かに夏はいいかもね」
「ひろちゃんもやってみない?」
「男はパンツ無しだと、ポジションが定まらないし、毛をファスナーに巻き込んでしまうと思う」
「ああ。男の子って大変ね。いっそ女になる?」
「女になったら、ゆりと結婚できないからならない」
「私と結婚できなくならないのだったら女の子になってもいいの?」
「いや、そういう訳ではないけど」
「私、レスビアンでもいいよ。レスビアンなら避妊せずにいくらでもセックスできるよ」
と百合花は言って再度裕夢にキスした。
その時、机の上に置いていた避妊具の箱がいきなり宙を飛んでお布団の上に落ちた。
「何今の?」
「ただのポルターガイストだよ。気にすることないよ」
「ひろが気にしないなら、私も気にしないことにしよう」
と言って、百合花はもう一度裕夢にキスした。
また避妊具の箱が飛んだので、百合花は面白がっていた。
この日ふたりは別れ際に10回以上キスしたのである。
裕夢の母・加根子はその日会社を終えると、夕飯の買い物をして、クーラーバッグにサービスの氷と一緒に入れてから電車の駅に行った。定期券で改札を通り、いつものように1番ホームに行く。
跨線橋を渡っていたら、何だか素敵なカラーリングの列車が停まっている。へー。あれ初めて見たなあなどと思った。
加根子はハッとして目が覚めた。見ると列車の座席に座っているようだ。窓の外は真っ暗だ。しかし何よりも戸惑ったのが、これがどうも遠距離を走る特急列車か何かのようだということである。
今どこ?
と思ってスマホのスイッチを入れる。地図を表示させる。
長岡〜!?
実際に車内アナウンスがあり、あと3分ほどで長岡に到着するなどと言っている。加根子は列車が停まると、慌てて列車から降りた。
その日加根子が帰宅すると、入れていた氷は完全に融けていた。
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