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■春封(14)
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12月4日、YS大賞の授賞式の様子がテレビ放映されたが、小野寺イルザの席の隣に、ドレスを着たマネキン人形が座っていた。
「こちらのお方はどなたでしょう?」
と司会の女性タレントが訊くと
「鴨乃清見先生です」
とイルザは笑顔で答えた。鴨乃のメッセージは同席した鈴木一郎社長(女装ではなくタキシード姿)が代読したものの、これで年齢性別不明と言われていた鴨乃清見が、とりあえず女性であることが判明した(年齢は過去の大西典香の発言で彼女より若いことが知られている)。
12月7日。今年のWリーグ・オールスターの出場選手が発表された。花園亜津子はむろんファン投票で選出されたが、千里もギリギリでファン投票選出となった。
西軍
ファン投票 PG.武藤博美(EW) SG.花園亜津子(EW) SF.佐伯伶美(BR) PF.中塚翼沙(SS) C.馬田恵子(EW)
リーグ推薦 PG.比嘉優雨花(BM) PF.大野百合絵(FM) PF.日吉紀美鹿(BM) PF.加藤絵理(EW) PF.鈴木志麻子(BM) C.金子良美(FM) C.石川美樹(SS) C.富田路子(BB)
東軍
ファン投票 PG.田宮寛香(SB) SG.村山千里(RI) SF.広川妙子(RI) PF.平田徳香(SB) C.夢原円(SB)
リーグ推薦 PG.松前乃々羽(HP) SF.湧見絵津子(SB) SF.渡辺純子(RI) SF.翡翠史帆(SB) PF.鞠原江美子(RI) C.吉住杏子(FR)
開催地推薦 SF.中井翔子(CS)
ファン投票はPG/SG/SF(GF)部門とPF/C部門に分けて実施され、実はWリーグが開幕した10月初めに開始されたので、当初東軍のガード部門では、田宮・広川とサンドベージュの翡翠史帆の3人に票が集まっていた。ところがリーグが開幕した後、千里が亜津子と激しいスリーポイント女王争いをするので千里への注目が高まり、投票終盤に激しく得票を伸ばす。最終的に僅差で翡翠史帆の得票を上回ったのである。むろん翡翠史帆はリーグ推薦で出場する。
なお今回、Wリーグに3年ぶりに復帰したバタフライズからは選手がひとりも選出されなかった。
12月7日。
女子のオールスターが発表されたのと同日、男子の日本代表50名が発表された。これは特定の大会を視野に入れたものではなく、重点強化選手ということだった。貴司も選ばれているのだが、今回は人数があまりに多いので、合宿は11-13, 18-20日と、2回に分けて行われることになった。
貴司は若手組の方に入れられて大学生の選手たちと一緒に18-20日の3日間、東京北区の合宿所で汗を流した。年齢的には今更若手でもないのだが、協会としては次世代の中核選手として考えているんだろうね、と電話では千里と話した。
今回千里は18日に九州の大牟田で試合をやっていて、19日は現地で小中学生の指導などをし、20日からは出羽の山中に籠もって特訓をしたので東京に来ておらず貴司とは1度も会えなかった。
12月12日(月)。
和実の所に、輸入業者を通してフランス・リモージュの磁器製作所に発注していたアール・ヌーボー風の磁器の食器(コーヒーカップ・皿など)が入荷した。
「どこに配送すればいいですか?」
と訊かれたものの、建物はまだ引き渡しを受けていないので、向こうに置く訳にはいかない。といって胡桃のアパートには入りきれない!
おそるおそるTKR仙台支店の山崎さんに電話してみた。
「あのぉ、楽器ではないのですが・・・」
と言って話してみたのだが
「ああ。そのくらい大丈夫ですよ。確か『楽器類』ということで上の許可は取っていたはずですから、持って来てください」
と快諾してもらった。
それでこれを取り敢えず仙台支店の倉庫に一時的に置かせてもらった。
12月18日。エヴォンの永井オーナーが和実に電話をして来た。
「は〜るかちゃん、元気〜?」
「忙しくて目が回りそうです」
「ね、ね、ね、ね、そちらいつから営業開始するの?」
「最初夏くらいの営業開始を想定していたんですけど、開店準備資金を友人が融通してくれたおかげで早めに色々なものが発注できているんですよ。ですから今の所3月下旬という線が濃厚です。使用するテーブル・椅子とか、壁板とかが、早めに到着したらもう少し早くなる可能性もあります」
「なるほどね〜」
「それで先日お話ししていた、メイドさんたちの研修ですが、ひょっとして少し早めに設定させてもらってもいいですか?」
「いいよ、いいよ。こちらは枠に余裕があるから、5〜6人増えても大きな問題は無いから」
「助かります」
「まそれで話は相談なんだけどね」
と永井は言った。
「はい?」
「いやぁ、参っちゃってね〜」
「どうかしたんですか?」
「先日、モカブレンドのミディアム・グラウンド(*1)を30袋頼むつもりが、間違って30箱注文しちゃってさあ」
(*1)グラウンド(ground)は挽き豆(ground coffee beans)のこと。「挽く」はgrind. groundはgrindの過去分詞。これに対して挽いてない丸ごとの豆は whole beans 略して whole(ホール) ともいう。生豆と焙煎した物を区別する場合は、green beans , roasted beans などともいう。
モカは主としてエチオピア産のモカ・ハタリとイエメン産のモカ・マタリに分けられるが2008年にモカ・ハタリから高濃度の農薬が検出され、輸入禁止になってしまった。モカ・マタリは無関係なのだが巻き添えで実質輸入できなくなっている。2016年現在、日本国内でモカを生豆の状態で確保するのはひじょうに困難なので、アメリカなどでブレンドして挽いて「モカブレンド」の挽き豆にして間接輸入した物を多くの人が利用している状態である。
高濃度の農薬が検出された原因は、日本に運んで来た時に使用した袋に農薬が掛かっていたためという説が有力であり、豆自体に問題は無い。現地でコーヒーの栽培(というより自生ものも多い)に農薬は使用されていない。また日本以外で輸入禁止をしている国は無いらしい。それでいまだに輸入禁止が解除されないのはどうも理由がよく分からない。
和実は天を仰いだ。
「モカフェアやろうかと思ったけど、それでも消費しきれない気がして。はるかちゃん要らない?」
「安くして頂けるのでしたら買います」
と和実は言った。
お店のオープンまでには時間があるが、冷凍庫で保管しておけば風味は落ちない。むしろ冷凍によって熟成され?かえって美味しくなる場合もあることが昔から愛飲家の間では知られている。
「じゃさ。15箱=150袋=150kgで8万円とかでどう?」
コーヒーは10gで1杯分なので、これは1.5万杯分である。通常の価格なら15万円くらいするので、ほぼ半額ということだろう。
「もう一声!」
「じゃクレールの開店祝いのご祝儀価格で5万円」
「買った!」
2016年12月19日(月)。
メーカーの検査部門による検査も完了して、住宅および店舗が和実に引き渡された。
細かいことを言うと15日の昼の時点で引き渡せる状態になったという連絡があり、こちらも最終的な仕上がりの確認をしたので、すぐ銀行に連絡した。銀行の検査チームが現地に入って銀行側の目でも確認。すぐに抵当権を設定してくれた。
それで19日の昼頃、融資が実行されたので、それで工務店に支払いを済ませ、同日夕方、引き渡しを受けたのであった。
なお、この時点で電気・都市ガス・上下水道・NTTはすぐ使用できる状態になっている。電話交換機とビジネスホンも使える状態になっている。厨房のシンクや食器棚、コンロなどは設置済みである。これらは建築費とは別に500万円でやってもらっていた。厨房と客席に関しては消防署の検査も既に完了している。
なお、消防署には客の収容人数は最大490人で認可を取った。実は客席が壁との隙間を除いて35坪=115平米あるので、消防関係の法令通りに計算すると575人まで入れることができる計算になる。しかし何かあった場合の誘導などのことを考え、中央にも十字型の通路を開けて4区画に分け7坪=23平米×2と8坪=26平米×2とすると、各々に115人・130人入る計算になるので合計490人という数字が出てきたのである。
「でも実際ここ、東京の大手ライブハウス並みの広さがありますよ」
と様子を見に来たTKRの山崎さんは言っていた。
山崎さんには、TKRのアーティスト(★★レコード所属アーティストのTKR委託分も含む)の仙台ライブなどをする時に使わせてもらえないかとも訊かれ、とりあえず3月まではいつでもいいですよ〜と答えておいた。
この日以降、無茶苦茶忙しくなりそうだったので、昨日の段階で盛岡から母を呼んでいた。希望美のお世話係である! 昨夜は胡桃のアパートに一緒に泊まったのだが、和実が希望美に乳房から授乳しているのを見て
「なんであんた、おっぱいが出るのよ?」
などと言っていた。
「お母ちゃん、それは今更だよ」
と胡桃。
「この子たち、和実も淳さんもおっぱいが出るから、ふたりとも希望美に授乳しているし」
「え〜〜!?和実はまだいいとして、なんで淳さんまでおっぱいが出る訳!?」
「うーん。。。話すと長くなるし」
と和実は言っていた。
「淳さんは、もう性転換手術したんだっけ?」
「まだ。手術は受けたいんだけど、仕事がなかなか休めないんだよ」
「じゃ男の身体なのに、おっぱいが出るの?」
「まあ実際問題として、淳はもう男性能力は消失しているけどね」
と和実。
「そりゃそうだろうね」
と胡桃も言っていた。
話が面倒になるので「男性能力」は消失しているものの「生殖能力」はまだあることは言わなかった。青葉がひじょうに微妙なコントロールを掛けてくれているおかげで、立たないので男性としてのセックスは不可能ではあるものの射精は可能で、精液の中にはちゃんと精子もあるのである。
和実は工務店に建設工事分の残金を支払った上で、この工務店が仲介して厨房工事・電気工事・防音工事などをしてくれた業者さん、事務用のテーブルや椅子、スタッフ用のロッカーなどの備品を納入してくれた業者さんへの支払い分も、別途この工務店に支払った。そして、20日朝一番に、政子の口座に2000万円を送金した。
10月の段階で、開店準備を早めるために政子から6000万円借りていたのだが、実はその後冬子から改めて少し話し合いたいと言われて連絡があり、彼女と話し合った結果、開業当初は思わぬ費用が掛かったりするから、落ち着くまで待ってから返してもらった方がいいと言われ、結局2018年末以降毎年500万円ずつ8年間で返済するということにしたのである。
それで実は12月19日の段階で銀行から借りる金額を1.5億ではなく1.2億に圧縮した。それでも1000万円の資金余力が出たので、和実は1月以降にする予定だった厨房工事や防音工事などを前倒して年内に行うことができた。
なお、銀行借入額を圧縮したことから、銀行への返済額は毎月約47万円から毎月約36万円と11万円少なくなったが、実は政子に返却するための積み立てを毎月40万しなければならない!
むろん本来は今返還すべきだったお金である。
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