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12月に入った頃からローズ+リリーのアルバム『やまと』(12月7日発売)のPVがテレビにCFとして流れ始めたのだが、その中で『祇園祭の夜』のPVについてネットで話題になった。このPVに出演しているのが、西宮ネオンは分かるのだが、そのお相手役として可愛い浴衣を着て出ているのが姫路スピカ(12月14日デビューシングル発売予定)ではないかというものである。
なぜ話題になったかというと、映っている映像は傘鉾や曳山の完成具合から、今年7月15日のものと思われるのだが、姫路スピカが今年のロックギャルコンテスト本戦で優勝したのは8月7日なのである。
それでネットでは幾つかの説が出ていた。
・今年のロックギャルコンテストは実は出来レースで最初から姫路スピカの優勝が決まっており、7月15日の時点でスピカは既に活動開始していた。
・この映像は今年の祇園祭の映像に、西宮ネオンと姫路スピカをクロマキー合成したものである。
・京都祇園祭のように見えるが、実は別の祗園祭、ひょっとして8月中旬に行われた埼玉県の上鹿山祗園祭か、青森県の野辺地祗園祭とかでは? それに京都祗園祭の映像も混ぜている?
・これはスピカに似ているが別人である。では誰かという問題で、§§ミュージックの研修生・南田容子ではないかという説も出ていた。
唐突に話題になった南田容子はびっくりして「私スピカちゃんと似てる??」と言ってスピカ本人と並んだ写真をインスタで公開したが
「うん、似てる!」
「そっくりという訳ではないけど、同系統の顔という気はする」
「メイクを工夫すれば替え玉が務まるかも」
などという意見も出ていた。
§§ミュージックは南田容子の投稿の1時間後に、この件に付いて明日記者会見を開いて説明します、という発表を、報道各社へのFAX、そしてコスモス社長のツイッター投稿でおこなった。オーディションの不正疑惑まで出ては放置できないという判断であろう。
(実はコスモスとスピカが直接対談して記者会見を開くことを決めてから南田容子のインスタが投稿され、その1時間後に報道各社にFAXが送られた。コスモスはだいたい用意周到である)
翌日、新宿のホテル会議場に設けられた記者会見の席には、姫路スピカ、秋風コスモス、ケイの3人が並んで座ったのだが、スピカの隣にもう1人座れるように席があるのが、意味ありげである。
最初にスピカが
「まずは私の従姉、竹中花絵ちゃんを紹介します」
と言うと、カーテンの影から、1人の少女が出てきてスピカと握手して隣に座った。
スピカとよく似ている!
大勢のカメラマンが会見席の傍まで寄り、たくさんフラッシュが焚かれる。
「実は彼女の母と私の母は双子の姉妹でして、それで私たちも似ているんです。しかも同い年ですし。親戚の集まりでよく並んで写真を撮られていました」
とスピカは説明する。記者たちの間から歓声のようなものまで出る。
「肩を組んで下さい」
というリクエストがあるので、立ち上がってスピカと肩を組む。
落ち着いた所で記者の代表が質問する。
「それでは『祗園祭の夜』に出演したのは、その従姉さんだったのでしょうか?」
それに対してスピカは答えた。
「違います」
「え〜〜!?」
「それでは出演したのは?」
「私、本人です」
とスピカは答えた。
ここでケイが「前提を説明したい」と言って、スピカからマイクをもらう。
「このPVは7月上旬に★★レコードの映像部門に発注しまして、その時、男の子の方は、去年『門出』のPVに女装で出演してもらって申し訳無かったというのもあり、西宮ネオン君に男装でお願いできたらと、秋風コスモス社長に言いました。でも相手役の女の子は特に指定していませんでした。★★レコードでは、現地のモデル事務所に調達を依頼したらしいのですが、夜間の撮影になるので高校生で16歳以上、しかし男の子が高校2年の西宮ネオン君なので、できたら高校1年生ということで発注したそうです」
「それでモデル事務所では、撮影当日の7月16日にスケジュールが空いており、誕生日の過ぎている高校1年の女子で浴衣の似合う子ということで検索したら、竹中花絵ちゃんが該当したらしいです。もうひとり候補者があって、その子は男の子だけど和服姿が充分女の子に見えるというので、実質女子のモデルとして結構CMや公告などに出ているらしいですが、竹中さんの方が単価が安かったので、彼女になったらしいです」
とケイが説明すると、記者たちの間に一部失笑が漏れていた。
その後の説明をスピカが引き継いだ。
「それで花絵が撮影に行く予定だったのですが、実は当日、本人が風邪を引いてしまいまして。私はちょうど京都祗園祭を見に京都に行っていて、前日15日には一緒に見て回っていたのですが、彼女から撮影を代わってくれないかと言われまして」
とスピカが説明すると、記者席がどよめいている。
「それでモデル会社に電話したら、私も誕生日を過ぎた高校1年生であること、少なくともその時点ではどこの芸能事務所とも契約していなかったこと、そして花絵が私のことを“美人ですから”とモデル会社の社長さんに言ってくれたので、取り敢えず来てみてと言われて出ていきました。モデル会社に行ったら、私を見た瞬間頼むと言われて、浴衣を着付けしてもらって撮影現場に行ったのですが、相手役が西宮ネオン君でローズ+リリーの曲のPVとは知らなかったので、びっくりしました」
とスピカは説明する。
「それで実はこの子がロックギャルコンテストで優勝した後、先輩たちに引き合わせたら、今度はネオンがびっくりしていました」
とコスモスが補足した。
「モデル代はどうなさったんですか?」
という質問がある。
「花絵が全部もらってというので私が全部頂きました」
とスピカ。
「でもお見舞いにと言って桃缶を頂きました」
と花絵。
「安いお見舞いで済みません」
とスピカがいうと、記者の間には笑いも出ていた。
竹中花絵は、当時モデル会社から送られてきた仕事依頼のメールを自分のスマホを開いて記者たちに見せ、撮影していいですよということだったので撮影している記者が多数居た。スマホのメールであれば日付偽装は困難である。
「ローズ+リリーのアルバム『やまと』の『コスモスの園』に出演しているのはスピカさんでしょうか?」
「はい、そうです。そちらはコスモスの季節で、契約した後のお仕事です。確認しておきましたが、10月17日でした。場所は生駒高原です」
「苗場ロックフェスティバルの時に、アクアちゃんのステージ脱出の身代わりを務めたのはどなたでしょうか?」
という質問に対してはケイが答えた。
「すみません。私はてっきりスピカちゃんだった気がしていたのですが、後でちゃんと確認したら、あれは南田容子ちゃんでした。勘違いしていました」
話はだいたいそのあたりでまとまってしまったので、後はスピカの今後の予定などについても、質問が出てコスモスが答えていた。また竹中花絵について、芸能活動の予定はあるか?という質問も出ていたが、学業のほうを中心に考えたいので、普通のモデル以外までの活動をする予定は無いと本人は答えていた。
しかしこの騒動のおかげで、12月14日に発売されたスピカのデビューシングル『わりと隣にいる女学生/スクールガール悪(ワル)さ』は初日に6万枚売れ、年明けには10万枚を超えていきなりゴールドディスクになってしまった。
また竹中花絵を使いたいという照会がモデル会社には殺到し、彼女のギャラは大幅に引き上げてもらったらしい。
12月4日(日)。今年のYS大賞が発表された。
大賞を受賞したのは小野寺イルザ『マジックスクエア』である。この作曲者は鴨乃清見、つまり千里なのだが、この日はレッドインパルスの試合とぶつかっていたので授賞式を欠席させてもらった。会場では、ドレスを着た人形が、イルザと鈴木社長と同じテーブルの所に座らせてあり、アナウンサーの
「これはどなたでしょう?」
という質問に、イルザが
「鴨乃清見先生です」
と答えていた。そして欠席を詫びる鴨乃清見のメッセージを鈴木社長が代読した。
最優秀新人賞はCats Five。山森水絵や西宮ネオンも新人賞を受賞した。
優秀賞は、アクアの『エメラルドの太陽』、ステラジオの『ぷかぷかゴーゴー』のほか、ローズ+リリー、松原珠妃、ゴールデンシックス、丸山アイなどが受賞した。
12月7日(水).
ローズ+リリーのアルバム『やまと』が発売された。千里はこの発売記者会見での生演奏に参加し、『かぐや姫と手鞠』と『寒椿』で龍笛を吹いた。
12月10日(土).
龍虎はこの日までに東京の私立高校へ進学する方針を、両親・担任の先生・そしてコスモス社長とも数回にわたって話し合った末に決めたのだが、私立の高校といってもどこにするか、判断基準に困ったので、冬子に電話して訊いてみた。
§§ミュージックにもたくさん女子高生もいる中で、龍虎がわざわざ多忙な冬子に電話したのは、何といっても性別問題がある。龍虎は別に性同一性障害という訳ではないが、あまり“男子”を強制されそうな学校(私立はその付近が公立よりきついイメージがあった)は避けたいので、その辺りが緩い学校を選びたいと思い、たぶん高校進学の際に悩んだのではと考えた冬子に尋ねてみたのである。
龍虎は事前に下調べした段階で、古くから有名芸能人が在籍していた渋谷区のK学園、最近芸能人が多い品川区のD高校、他に世田谷区のJ高校、北区のC学園、多摩市のF学園という5つの候補が浮かんでいるというのを冬子に説明した。
冬子はまずK学園は校則が厳しいから、龍虎には合わないかも知れないと言った。
「たぶんあそこでは女子制服を着て通学してきたら咎められると思うよ」
「ボク、別に女子制服を着て通学するつもりはありませんけど」
「そうだっけ?女子制服で通学したいんじゃないんだっけ?」
えーっと・・・・
冬子は最近多くの芸能人が入っているD高校のほうが自由な校風で龍虎には合うかも知れないと言った。
またJ高校は確かに芸能人の生徒が結構いるが、芸能活動を許容してくれるだけで、芸能人だからといって何も特別扱いしないので、多忙でどうしても欠席が多くなりがちな龍虎には無理かもということだった。C学園とF学園はJ高校よりは緩いと冬子はコメントした。
「C学園は音楽教育に力を入れているから、鍛えられていいかも知れない」
「それは結構惹かれますね」
それでしばらく話していて、龍虎は考えをまとめるように
「だったら第1候補C学園、第2候補F学園、第3候補D高校、という感じでしょうかね」
と言う。
「うん、そのあたりがいいかもね」
と冬子も言っていたのだが、ここで冬子は重大な問題に気が付く。
「龍ちゃんって、女子高生になりたいんだよね?」
「ボクは男の子ですー」
「C学園もF学園も女子高なんだけど」
「え!?」
「でも龍ちゃんなら女子高でも受験したら合格するかも」
「その場合は?」
「女子と同じスカートの制服を着て3年間女子高生生活を送ることになる」
と冬子から言われて(冬子はジョークで言っている)、龍虎は「うーん・・・」と声をあげて悩んでしまったのだが、冬子は『なぜ悩む〜〜?』と突っ込みたい気分だ。
「あのさ、高校進学前に性転換したいなら、病院紹介しようか?」
「すみません。その件ももう少し考えてみます」
考えることなのか!?