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(C) Eriki Kawaguchi 2019-09-30
2016年5月17日(火)に崩壊した毛利五郎のアパートであるが、連絡を受けたケイと雨宮は、雨宮の弟子で女子(?)大生である奥原沙妃の友人の男子大学生4人にバイト代を払って来てもらうことにし、雨があがった翌日、瓦礫の中から毛利の荷物を掘りだした。
「割れた茶碗とか、コップとかは?」
「ゴミだな」
「布団らしき布きれは?」
「ゴミだな」
「ずぶ濡れの本とかの類いは?」
「廃棄してよいと思う」
ということで、掘りだしたほとんどのものがゴミに分類される。
結局回収したのは、パソコンとハードディスク類、CD/DVDの類い(但し大半を占めたアダルトビデオの類いは雨宮の指示で廃棄された:実際には掘り出し作業をした男子大学生たちが“お持ち帰り”した)、電子キーボード3台、MIDIキーボード(いづれも専門家に洗浄依頼することにする)、ケースに入っていたので無事だったエレキギター2本・トロンボーン、中高生時代に使用していたものと思われるリコーダー2本、奇跡的に無事だった常滑焼の黒い招き猫の貯金箱(中味は1円玉が13枚!)、などといったものであった。
衣類は泥まみれになっていることもあり、全廃棄とした。また本棚・こたつ・カラーボックスなどの類いは崩壊の際にかなり壊れていたのでやはり廃棄とした。
回収したものはいったん雨宮の自宅の空き部屋に置いておき、マンションが再建されたら運び込むことにする。
「あれ?雨宮先生、毛利さんに連絡しました?」
「してない」
「じゃ、私の方から電話しましょうか?」
「しなくていい。ちょっと面白いこと思いついた」
ケイは顔をしかめた。雨宮先生が“面白いこと”などというのは、ろくでもないことに違いない!
そして雨宮先生は、名古尾プロデューサーに電話する。
「名古尾さん、誤テロップの件の罰で、あそこ切られちゃったんだって?うん。奥さんに何か言われた?ああ、喜んでいたのならいいね。時代はレスビアンだよ」
などと言っているので、この話をまだ聞いていなかったケイは、どこを切ったんだ〜?と思っていた(名古尾の“あそこ切断”の様子が放送されるのは翌日の5月19日)。この件の詳細は↓
http://femine.net/j.pl/memories11/02/_hr018
そして雨宮は
「それでさ、ちょっといけないことしない?」
と言って、“悪だくみ”の相談を始めた。
このアパート跡は一週間で瓦礫撤去が終了し、すぐにマンション建設の基礎工事が始まる。6月中に完了して、そのあとPC工法による建設が始まった。約3週間で8階まで到達したので、7月下旬に連絡を受けた雨宮が建設業者を手配し、茨城県に建てたセットから螺旋階段を取り外して(結果的にセットをほぼ破壊する)、こちらの建設現場まで大型トレーラーで運んできた。それをこちらの建設業者がクレーンで8階まで揚げ、支柱をしっかり建物本体に取り付けてくれた。この後、8階の天井・屋上の床まで作った所で最後に階段室・エレベータの屋上部分とペントハウスを造ればマンションは完成となる。
8月上旬、雨宮と名古尾プロデューサー、それに不本意ながらも巻き込まれてしまったケイは大家さんの自宅を訪問し“どっきり企画”を打ち明けた。
大家さんは驚き、最初、家賃の支払い問題を危惧したが、雨宮が「取り敢えず2年分の家賃相当の保証金」と言って、480万円を大家さんの口座にその場で振り込むと、俄然乗り気になった。雨宮は「実際の家賃は口座引落しにしよう」と言って、勝手に!持って来た毛利の通帳と届印を使って口座振替依頼書を書いてしまった。ケイは“婚約者”として署名と押印を代行した(120%詐欺行為)。
それで名古尾が待機させていた2名のAD、佐藤と吉永を呼び、シナリオに添ってこういう演技をする。
「俺のアパートが無い!」
と毛利役の吉永ADが言った所に大家さんが出て行く。
「あれ?毛利さん、あんた生きてたの?」
「俺・・・たぶん生きてるよね?足はあるかな?」
と言って吉永は自分の足を見る。
「もう長いこと帰宅してないんで、おそらく亡くなったのだろうと思って、あのアパートは崩して、新しくマンションを建てたんだよ」
と大家さんは台本を見ながら言う。
「そんなぁ。だったら、俺どうすればいいんですか?」
「まだ空いてる部屋はあるけど、そこに入る?」
「入れてください!」
「じゃ契約書を書いて」
と言って、大家さんは書類を渡す。
「家賃は月20万円ね。このマンションの8階で4LDK」
「ちょっと待って、20万ですか?俺払えるかな?」
「敷金は余分にもらっていた家賃と前のアパートの敷金を振り替えるから1ヶ月分追加で入れてもらえたらいいよ。礼金も要らないし」
「えぇ?どうしよう?」
ここでもうひとりの佐藤ADがカバンの中から札束を取り出して大家さんに渡す。
「それではこれ敷金と12月までの家賃で100万円です」
「ありがとう。じゃ契約成立ね」
この演技の練習はこの日3回やり、実際の撮影の前日にも再度練習して完璧を期した!
マンションは8月8日に竣工して引き渡しが行われた。
8階の部屋にはアイランド・キッチンとIH調理システム、調光機能付きのシーリングライト、エアコン、遮光カーテン、防炎加工された絨毯などが設置され、お風呂は大人が2人入れる余裕のサイズの浴槽を設置している。光ファイバーが配線されているが、この光ファイバーはセキュリティの問題で、他の住民のものとは別系統で引いてもらった。
壁・床・天井は全て防音仕様。8階の床と7階の天井の間には吸音材も入っており、8階でバスケットをしても7階にはほとんど響かない。ペントハウスのフランス窓も二重になっていて、中で少々楽器を鳴らしても、他の住人・近隣の住人には迷惑が掛からないようになっている。この防音のための追加工事費(約1000万円)は最初から雨宮が出している。これは彼の音楽活動には必要と考えた雨宮からの事実上のプレゼントである。
雨宮先生は奥原沙妃と、友人の男子大学生・松浦君(回収作業をしてくれた人の1人)に依頼して、毛利五郎の“新居”に必要な家具・食器などの類いの買い出しをしてもらった。松浦君は沙妃のクラスメイトで、むろん彼女の性別も知っているし、お互い恋愛感情などもないが、まるで結婚予定のカップルででもあるかのように装ってニトリに行き、タンス、本棚、食器棚、ダブルベッド、応接セット、ドレッサー!?、ワーキングデスク、カラーボックス、電動ドライバー、また包丁・果物ナイフ・まな板・鍋を数種類・フライパン・中華鍋・卵焼き器、などを毛利の名前で!買った。鍋類は全てIH仕様である。このマンションはガスの使用不可である。
更にビックカメラを訪れて、大型テレビ、BS/CS受信設備、冷蔵庫、ドラム式の洗濯乾燥機、空気清浄機、掃除機、炊飯器、電子レンジ、オーブントースター、ケトル、スピードカッター、パン焼き器、食器洗浄機、ドライヤー、布団乾燥機、電話機、FAX、パソコン、ハードディスク、スタンドライト、無線LANの機器・配線用品などといったものを買う。いづれも大型のものは配送を頼み、細々としたものは沙妃の車で持ち帰って部屋に置く。
更にしまむらに行って、毛利の身体に合う下着類、靴下などを買い、アオキでスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、靴なども買いそろえた。沙妃は
「ごめん。私、紳士服店には心理的に入れない」
と言って、アオキでの買い出しは松浦君1人でやってもらった。
「男が婦人服店には入りにくいのと似たようなもの?」
「それ半分と、男の子だった頃のことを思い出してしまうからかな」
「ああ、大変ネ」
またドラッグストアと100円ショップで、洗剤・シャンプーとコンディショナー、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、大量の食器類、箸・スプーン・フォーク、バターナイフ、チーズナイフ、しゃもじ、お玉、フライ返し、ピーラー、冷蔵庫用脱臭剤、たっぱ、米びつ、味噌入れ、鍋敷き、コースター、ストロー、割り箸、紙皿、プラスチックスプーン、ボウル、砂糖入れ・塩入れ、ゴミ箱、ほうき・ちりとり、傘、キッチンタイマー、入浴剤、台所用洗剤、お風呂用洗剤、歯磨き・歯ブラシなどを買う。
ついでに化粧水・乳液・ファンデーション、マスカラ・アイライナー・アイブロウ・アイカラー・ビューラー、チーク、化粧ブラシ、口紅、マニキュア、除光液と買う。
「なんでそんなものを買うの?」
「雨宮先生の指示」
と言ってメモ用紙を見せる。
「悪趣味ですね〜」
「全くね〜」
家具・電化製品が配送されてくる日にまた2人で行って受け取る。そして電気系統・信号系統の配線、パソコンの基本設定とオフィス、テキストエディタ、Cubaseなどのインストールと基本設定を松浦君がしてくれた。
更に雨宮の家に置いていた、元からの毛利の所持品も全部ここに運び込んだ。
8月13日に金沢で2.5万枚が売れたので翌日の福岡で全部売れるのは確実という情報が入った段階で、2人にまた来てもらい、スーパーで砂糖・塩・酢・醤油・味噌、みりん、マーガリン、ジャム、胡椒・大蒜・生姜・カレー粉などの様々な調味料、コシヒカリ10kg×3袋と米びつ、小麦粉・片栗粉・唐揚げ粉などと買い、更には鶏肉・豚肉・牛肉を適当な量買って冷凍室に放り込んだ。
そういう訳で、8月14日に毛利がここに来た時、マンションの部屋はすぐにも生活開始可能・音楽制作活動開始可能な状態になっていたのである。
「松浦君、色々ありがとうね。助かったよ」
と奥原沙妃は、一週間ほどにわたり買い出しと設置・配線作業をしてくれた彼に御礼を言った。
「いや、こちらはバイト代を充分もらったから」
「御礼にセックスさせてあげようか?」
「えっと・・・ふつうのセックスが可能なんだっけ?」
「できると思うけど」
彼は20-30秒考えてから言った。
「セックスしたら好きになってしまいそうだから、やめておく」
「好きになってもいいのに。別に結婚してとかは言わないよ」
「普通の友だちのままでいたいから」
「OKOK」
と言って「このくらいはいいよね?」と言って、彼の額にキスをした。彼は嬉しそうな顔をして、沙妃の額にお返しのキスをしてくれた。
8月14日の午前中、三つ葉の3人が福岡に出かけて博多ドーム前で販売会をし、CDを完売して「メジャーデビュー」と「性転換手術はキャンセル」が確定。お昼の飛行機で東京に戻って来る。午後、名古尾・毛利・金墨などと一緒に馬佳祥先生の御自宅を訪問して、“大先生”の正体を明かすと同時に、実はそれが影武者であったことも明らかにし、名古尾プロデューサーが視聴者に謝罪した。
その後、福岡まで往復して来た三つ葉の3人は
「お疲れ様でした。男の子になれなくて残念だったね」
などと言って開放し、金墨・デンチューと名古尾だけで、“視聴者を欺して大先生なるものをでっちあげた罰”と称して、名古尾に昔の映画とかにあったような縞々の囚人服を着せ、手品で使用する大根ギロチン?の大きな物に、大根・名古尾の首・名古尾の“大事な物”を入れてスイッチを押すという演出をする。
大根は切れて、名古尾の首と“大事な物”は切れなかった。
この件の詳細は↓
http://femine.net/j.pl/memories11/20/_hr036
“処刑”終了後、これで8月25日の放送分は終わりです、と高平ADが告げる。名古尾も
「これで一段落ですね。軽く祝杯をあげましょう」
と呼びかけ、サイダーで乾杯する。
参加したのは、名古尾、金墨、毛利、高平ADの4人である。デンチューの2人は明日大阪で仕事があるのでということで帰った。
実はこの場面を隠し撮りしていたのだが、そのことを知っているのは名古尾だけで、この時点では金墨も知らなかった。
この隠し撮りの中で、名古尾がうまく誘導して、番組の内情をかなり明かし、また金墨の本音もだいぶ引き出して、この番組では悪役に徹していた彼女に好感を持つ人が増える。そして毛利が実は4月下旬以来、全く帰宅していないことが語られた。
その後、毛利は3ヶ月半ぶりに帰宅する(雨宮の指示でこの日と翌日は毛利の予定が入らないようにしていた)。彼は長期間自宅に帰らず、着換えも適宜買っていたため、荷物が凄い。それで毛利の自宅と同じ区に住んでいる佐藤ADが荷物持ちを買って出た(そして隠し撮りをする!)。