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■娘たちの誕生日(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-10-04
 
2016年8月14日(日).
 
3ヶ月ぶりに自宅に戻った毛利五郎は、住み慣れたボロアパートが消滅しているのに衝撃を受けた。そのアパートがあった場所には真新しいマンションが建っており、本人がよく分からない内に賃貸契約が成立して、毛利はそこの8階の広々としたペントハウス付きの部屋に住むことになってしまったのである。
 
荷物を運んでくれたテレビ局のADさんが帰った後、毛利は取り敢えずソファーに座ってぼーっとしていたのだが、その内
 
「腹減った」
と思って、冷蔵庫を開けてみるが、そこにあるのは“食材”ばかりで、そのままチンして、あるいはお湯を掛けて3分後に食べられるようなものは無い。
 
「俺料理とかできないよー」
と思いながら取り敢えずトイレに行ってくる。するとチン!という音がした。
 
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ん?と思い電子レンジを開けてみると、美味しそうな山盛りのスパゲティ・ミートソースが大皿に載っている。
 
「おぉ、美味そう!」
と言って、毛利はその皿をテーブルに持って来て、食器棚からスプーンを出すと食べ始めたのであった。
 

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翌朝、ふかふかしたベッドではどうしても眠れなかったので結局、絨毯(これも以前住んでいたアパートの敷き布団より柔らかい)の上で毛布をかぶって寝た毛利は、目を覚ますと健全な男の儀式をした後、更に一眠りしてからトイレに行く。ぼーっとして排出物を出してから、部屋に戻り、朝御飯はどうしようかな?と思っていたら、何かいい匂いがする。ふとテーブルを見ると、湯気の立っている御飯、味噌汁、ハムエッグが載っている。昨夜テーブルの上に放置していた大皿は無くなっている(寝ている内に無くなっていた気がする)。
 
「これ・・・食べていいのかな? 誰かいるんだっけ?」
とキョロキョロしながら言葉に出すが返事などは無い。
 
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「ま、いっか」
と思って、毛利はそれを食べると、ワーキングデスクに移動し、パソコンを開いた。パソコンのそばにコーヒーメーカー(できたて)とコーヒーカップ、細かく切られたするめが載っているので「分かっているねえ。これかじりながら作業するのが、発想が浮かんでいいのよ」と言って、2本口の中に放り込んでからコーヒーをカップに注いだ。コーヒーカップは有田系だけど有田じゃないなと思った(実は有田の隣の波佐見焼である)。
 
「ハードディスクにシールが貼ってある」
 
デスクの横に棚があり、たくさんハードディスクが並んでいるが、“すいか”とか“りんご”とか“もも”と書かれたシールが貼られている。
 
「あ、これ前のアパートにあった奴か。この字は沙妃ちゃんの字っぽい気がする。沙妃ちゃんが整理してくれたのかな?」
 
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ちなみにここに書かれている名前は果物の名前ではなく、毛利のお気に入りのAV女優の名前である!実は“ことり”というハードディスクもあったのだが、“すずめ”(改名しました)というシールが貼られているのがそれのようだ。多分、三つ葉のコトリちゃんをプロデュースすることになったので、こちらを強制改名したのだろう。きっと雨宮先生の指示だ。そういえば大量にあったAVのDVDは割れちゃったのかなあ、などと考えていた。
 

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パソコンを起動すると、最新のOS, Office, Adobe Creative Suiteに Cubase, それに毛利がよく使っていた楽器音源ライブラリも入っている。すぐにも音楽制作ができるようになっているようだ。
 
「ここまで整備してくれたら、やりやすい。助かるよ」
 
と言って、毛利は三つ葉のライブツアーに向けた楽曲の整理作業を進めた。
 

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お昼はまた毛利がトイレに行った間にテーブルに載っていた。
 
「誰?どこかに隠れているの?」
と声を掛けるが返事は無い。
 
「まあいいや。誰かが親切に食事の用意をしてくれているみたいだし」
それで毛利は気にしないことにして、お昼に用意されていたカツ丼とサラダを食べた。
 
そんな感じで、その日は1日楽曲の調整作業をしていたのだが、夕食はお風呂に入って居る間に用意されていた。この日の夕食はビーフシチューだった。パン焼き器が鳴るので見たら焼きたてのパンが入っていた。それで毛利はその焼きたてのパンとビーフシチューを食べることができた。
 
「ここ、いいな。次帰宅した時は、今度はすき焼きが食べたいな」
と声に出して言った。
 
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すると1週間後に帰宅した時は、ちゃんとすき焼きが用意されていた。また14日に帰宅した時に放置していた大量の洗濯物が全部洗濯乾燥されて、タンスに収納されていた。
 
ちなみに毛利が「ウィスキーが欲しいな。角瓶でいいから」と言ったのに対しては《これで我慢して》という可愛い女の子っぽい字で書かれたメモとともにコーラが置かれていた。それで料理を作ったりしてくれているのは女の子のようだと毛利は認識した。
 

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2016年9月。
 
千里は9月3日に秋田で40 minutesの試合に立ち会った後、4日は桃川春美の結婚式に出て、5日は東京でフェイの妊娠問題の打合せ、その後桃香から“受胎告知”を聞いた後、9月6-7日には沖縄に飛んだ。
 
明智ヒバリや木ノ下大吉と一緒にローズ+リリーの『その角を曲がればニルヤカナヤ』『青い炎』の制作に参加した。最初はケイと一緒に札幌から直接沖縄に移動する予定だったのだが、フェイの件を処理しなければならなかったので、5日は東京に寄ったのである。
 
制作が終わった後、7日の夕方、最終便で東京に戻ることにして、恩納村(おんなそん)の木の下先生の家をケイたちと一緒に出た千里は、レオパルダでコーチをしていた Paquito Elora Serna から電話を受けた。
 
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ケイたちに先に空港に行っててと言って電話を受ける。
 
「コラちゃん、オリンピックお疲れ様。惜しかったね」
「ありがとうございます!フォローして下さっていたんですか?」
「いや、実はアメリカの試合は全部見たんだけど、日本が防戦一方な中で、君ともうひとり、性転換して女になったとかいうプリンスとかいう子だっけ?その2人だけがアメリカの選手たちと互角に戦っていたから、さすがと思ったんだけどね」
 
千里は最初「性転換して女になった」というのは自分のことを言われたのかと思ったが、どうも高梁王子(たかはし・きみこ)のことのようである。彼女はWNBAの登録名が Prince Takahashi になっている。まああの子の外見を見ると元男というより、現時点で「男じゃねえのか?」と思うかもね。顔も男顔だし頭も刈り上げているし。
 
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(王子はWNBAのドラフトに掛けられる前にあらためて性別の精密検査を受けさせられたが、女性性器が揃っていて、男性性器は存在せず、女性ホルモンも男性ホルモンも女性の正常値という検査結果が出ている)
 

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「君、今どこかに所属しているの?」
とエロラ・セルナ元コーチは言った。
 
(スペイン人の名前は、名+父姓+母姓で構成されるので、彼の父の苗字がエロラ、母の苗字がセルナであることを示す−稀に母姓を先に書く人もある)
 
「日本のチームには元々籍があるんですけど、ヨーロッパのチームはこれから探そうかと思っていたんですよ。結果的には来シーズンからになってしまうかもしれませんが。今期は日本代表のオリンピック前の合宿が忙しくて、とても探せなくて」
 
「ああ、サンドラなんかもそれでオリンピックまでは移籍先探しができなかったと言ってた。あの子はCDバレンシアへの移籍がやっと先週決まったんだよ」
 
「それは良かった!」
 
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CDバレンシアは以前、横山温美が3年間在籍したチームでもある。
 
「それでね。僕は今、バスケット雑誌《cielo de baloncesto》の編集をしているんだけど、先月翻訳担当の女性が妊娠を機会に退職しちゃって」
 
「はい」
 
《cielo de baloncesto》はグラナダを中心にスペイン南部で販売されているバスケット雑誌である。ヨーロッパでは珍しい定期購読者に支えられた雑誌である。そのため小規模ながらも経営は安定している。
 
「後任を探している所なんだけど、辞めた子は20ヶ国語くらいできていたから、なかなかすぐ代わりになる子がいなくて」
 
「何人か雇って分担するとかは?」
「予算が無いのよ」
「なるほどー!」
 
「それでさ、ふとオリンピックの映像見てて、コラって、たくさん外国語できたよなあと思って」
 
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「私の外国語は、子供の頃、友人の外国人の子供たちから習ったものだから、だいたい怪しいのが多いです」
 
「外国人が多い町で育ったの?」
「日本の北海道という島の留萠という港町だったんですけど、私の小さい頃は漁業が盛んで外国人の船員さんが多かったんですよ」
 
「なるほどー!」
「だからだいたい上品じゃない言葉覚えてます。私の話すことばはだいたい下層階級の言葉と思われがちです」
 
「でもそもそもバスケット選手にはそういう子が多いよね」
「そうなんですよ。だからスペインでも多くの選手から親近感を持ってもらえてちょうど良かったんです。もっとも私は子供の頃、ペルー人の子からスペイン語習ったから、日系ペルー人かと思われちゃいましたけど」
 
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「ああ、そんなこと言ってたね!ベルーと日本の二重国籍だったけど、日本国籍を選択したんだったっけ?」
 
なんか誤解されているみたいだけど、まあいいやと千里は思った。
 
「それでさ、単刀直入に。君の移籍先が見つかるまででもいいから、外国語の文献とかインタビューとかのスペイン語への翻訳を頼めないかと思って。今、住所はまだグラナダ?」
 
「はい。町からはちょっと外れた所に引っ越したんですが、ぎりぎりグラナダ市内です」
「じゃ今度スペインに戻った時、こちらに出てきてくれたりしない?住所は・・・」
 
と言ってエロラ・セルナさんはグラナダ市内の住所と電話番号を伝えてきた。千里もWリーグ開幕までまだ1ヶ月あることもあり、一度行ってみることにした。
 
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「今日ちょうどグラナダに来ていたんですよ。今から行きますね」
 

千里は、沖縄から東京への移動を《てんちゃん》に代行してもらい、自分自身は《くうちゃん》に頼んでグラナダに転送してもらった。グラナダの自宅庭に駐めているイビサを運転して、教えてもらった場所へカーナビ頼りで到達する。
 
手作りのログハウスっぽい“シエロ・デ・バロンチェスト”の編集部で、千里はパキト・エロラ・セルナと社長(Presidente)のマルコ・セルナ・グラシア (Marco Serna Gracia) と会った。エロラ・セルナは編集長 (Jefe de Redaccion) らしかった。
 
千里はJugadora de Baloncesto(女子バスケットボール選手)という肩書きだけで所属名の無い Chisato "Cola" Murayama という名刺を渡す。
 
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「あなたのそのColaという名前の由来、あなたを見てすぐ分かった」
と社長さんが言うので
「私はだいたいこの長い髪で識別されていることが多くて、長い髪の女性は全部私に見えるようです」
と千里も笑顔で言った。
 
「ありそう!!」
 

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「実際問題として、会話程度ができる外国語は?」
 
「私も数えてみたことないんですけどねー。スペイン語を除くと、フランス語、英語、ドイツ語、スウェーデン語、トスカーナ語、ギリシャ語、ロシア語、ウクライナ語、リトアニア語、ポルトガル語、タミール語、ヒンズー語、韓国語、北京語、タイ語、タガログ語・・・、それに日本語くらいかな」
 
「充分だ!」
「ぜひ、試合後のインタビューの翻訳とか、外国から来た手紙の翻訳とか、やってもらえません?」
「いいですけど、私のスペイン語はあまり上品じゃないかも」
 
「その方がいいよ。貴族出身のプレイヤーなんて少数だし。低賃金労働者の息子・娘が話す言葉を王侯貴族の使うようなスペイン語に訳したら、それ自体が誤訳だよ」
 
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「そうかも知れないですね。分量的にはどのくらいですか?」
「たぶん週に7〜8本程度だと思うんです」
「その程度なら、やれると思います」
 
「でしたら報酬は、本当は従量計算すべきなんでしょうが、事務スタッフが少ないので、1ヶ月500ユーロくらいの定額制で、どうでしょう?。分量が多い場合は少し加算するということで」
 
「私計算苦手だから、そちらに全部お任せします。でもこれ私の就労ビザでできますかね?」
 
「今スポーツ選手として許可されてますよね?」
「そうです」
「スポーツ雑誌のスタッフもスポーツ選手の一部ということで」
「いいんですか〜?」
「私が警察署に話しておきますよ」
「じゃよろしくお願いします」
 
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それで編集長と社長は各々の名刺をくれたので、千里も編集長に渡した名刺に現在のグラナダ市内の住所と携帯の番号を書きこんで再度渡した。この電話番号は千里が日本で使用している携帯(Toshiba T-008)ではなく、スペイン用で確保しているBq製スマホ "Aquaris 5" であるが、もちろん電話が掛かってきた場合は日本に居ても通話できる。
 
Bqはスペインの中堅電話機メーカー(7人の大学生によって創業された)である。スペイン国内で最も売れているスマホはSamsungで、サムスン・アップル・ファーウェイの3社でスペイン国内シェアの7割を占めているが、Bq は低価格路線で2013年以降急速にシェアを伸ばしつつある。現在ではスペインのみならずヨーロッパ全土で売られていて、韓国や中国・台湾などの格安スマホと結構良い勝負をしている。レオパルダの親会社が Bq の代理店になっていた関係で、レオパルダの選手には Bq製スマホを持っている子が多かった。
 
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しかしスペインは失業率が高いこともあり、新規に就労ビザを取るのはなかなか大変なのだが、どうもいったん取ってしまった後は、スペイン人の「てきとー」な気質の関係で意外に何とかなるっぽいなと千里は思った。
 
(多分滞在していて犯罪などはおかさず、税金をきちんと払っているのが重要かも?)
 

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千里が雑誌社との打合せを終えてグラナダ市内の“自宅”に帰宅したのはもう夕方くらいで、日本では9月8日の早朝である。千里の代理の《てんちゃん》は結局ケイのマンションで泊まっており、ケイのマンションには今日(8日)、青葉が来ることになっている。千里は《きーちゃん》に『青葉が来たら、てんちゃんと位置交換して』と言って、ベッドに潜り込むとすやすやと眠った。
 
11時(スペインで朝4時)頃、青葉がマンションに来るが実はフルートを買いたいので相談に乗ってくれないかということだった。この場には、マリ・ケイに千里、風花、七星さんとフルートを吹く人ばかり集まっていた。それでぞろぞろと楽器店に出かける。結局青葉は、
 
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ヤマハ“イデアル”ドローン YFL-897D インライン・Eメカ付き・総銀
 
というタイプを選んだ。
 

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