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(C) Eriki Kawaguchi 2019-10-06
2016-17年・年末年始のアクアのツアーは次のような日程で実施されることが10月上旬に発表された。
12.24 博多ドーム
12.25 関西ドーム
12.27 愛知ドーム
12.29 埼玉ドーム
1.02 北海ドーム
1.4-5 関東ドーム
6ヶ所・7公演である。
12月31日から1月1日のアクアの予定だが、31日は東京パティオの24時間カウントダウン&ニューイヤーライブの初めの方で登場した後、NHKホールに移動。紅白歌合戦では中学生なので序盤に登場してすぐに退出。その後、1月1日の朝までは昨年と同様に都内のホテルのスイートルームで田代の両親と一緒に過ごし、1日朝から、お正月の生放送の番組いくつかに出演することになっている。
しかし年末年始をのんびり過ごせるのは今年が最後かも知れないなとアクアは思った。中学を卒業したら、どう考えてももっと忙しくなる。今年の夏は自身1度ステージ上で倒れたが、キャロル前田ちゃんは入院している。ボクも入院する羽目になったらどうしよう?とアクアは不安だった。
今回、桜野みちる・品川ありさが紅白に出場するが、みちるはずっと後の方の出演で最後まで会場にいるし、ありさは高校生なので22時までに退出だが、様々な演出に参加して大変なようである。
今回のツアーの伴奏陣は、エレメントガードの4人の他に次の5人とした。
・フルート奏者(クラリネットも吹く)
・ギター奏者
・キーボード奏者(ヴァイオリンパートもキーボードで弾く)
・サックス奏者
・トランペット奏者(トロンボーンも吹く)
ギター奏者とキーボード奏者は、一部の曲ではエレメントガードのヤコ・ハルのパートを代行して、その間ヤコとハルは楽屋に下がって休憩する。また一部の曲ではドラムスを研修生の秋田利美、ベースをハナちゃんが演奏して、やはりレイとエミを休ませる。
今回パックダンサーを務める信濃町ガールズは、A班とB班を編制して交替で務めるのだが、利美とハナちゃんは全公演に帯同する。
12.24 博多ドーム A
12.25 関西ドーム B
12.27 愛知ドーム A
12.29 埼玉ドーム B
1.02 北海ドーム B
1.4-5 関東ドーム AB
班を分けるのは移動距離が大きいので移動による疲れを防ぐためだが、剣道少女のハナちゃんとサッカー少年!の利美は男子並みの体力があるので、全行程に付き合ってもらうことになった。
そして実は追加伴奏者もA組・B組と2つ構成し、インペグ屋さんを通して手配した10人の女性ミュージシャンにお願いしている。これも体力の負荷を考慮してのことである。アクアの公演ではあまり男性ミュージシャンは使いたくないのだが、女性ミュージシャンは男性ミュージシャンほど体力の無い人が多いので、このようなことになった。
しかしアクアは、この話を聞いた時『ボクの体力は考慮してくれないの〜?』と思った。(しかしアクアは替えがきかない)
11月5-6日(土日)。
岡山県総合グラウンド体育館(ジップアリーナ岡山)で全日本社会人バスケットボール選手権大会が開かれた。この大会ではクラブ1位の40 minutes と、実業団1位のジョイフルゴールドは別の山になったため、両者勝ち上がって決勝戦での対決となった。試合はジョイフルゴールドが勝つ。
この大会は2位以上がオールジャパンに行けるので、どちらも昨年に続いての出場である(ジョイフルゴールドは2011年以来7年連続出場)。
11月上旬。
阿倍子はまた買物中に倒れたのだが、彼女を介抱してくれたのは、通りがかりの古い友人・立花晴安だった。彼は阿倍子と京平を自分の車に乗せて阿倍子のマンションまで運び、阿倍子をベッドに寝せ、京平に着換えも持って来させた。
晴安がいったん寝室の外に出ている間に阿倍子は着換え、その着換えた服も京平が洗濯機の中に放り込んだ。
「京平君、偉いね。2歳くらいかな?」
「1さい5かげつだよ」
「それでここまでできるって凄い!」
結局晴安は阿倍子の体調が回復するまで2時間ほどそばに付いていてあげた。
お互いここ10年か15年くらいのことを語ったのだが、阿倍子に頼れるような友人が全然居ないという話に、晴安は阿倍子を気遣っていた。晴安の方は結婚して子供が2人居るということではあったが、どうも奥さんとうまく行っていないように阿倍子は感じた。その原因は女装癖かなぁ〜?などと阿倍子は晴安のワイシャツから透けて見えるブラ線を見ながら考えていた。
11月12-13日、千里たちレッドインパルスは大分県(中津市・大分市)で2連戦の予定が入っていた。12日朝新横浜駅に集合して新幹線で九州に向かう。
ところが新大阪駅で、京平を連れた貴司が乗ってくる。
「あ、おかあさんだ!」
「京平!」
京平とは旧知!(**)の渡辺純子が「やっと生まれたんだね!」と言って、千里も含めてしばらくその場で話していた。
(**)渡辺純子は、月山の“秘密のコート”でたくさん練習していて、その時、まだ生まれる前の京平にいろいろ支援してもらっている。
「ところで男の子に生まれたんだっけ?女の子に生まれたんだっけ?」
「男の子だよ!」
「女の子に生まれれば良かったのに」
「ぼく男だもん」
「京平ちゃん、可愛いから女の子になってもいいと思うけどなあ」
「スカートはすきだけど、女の子にはなりたくない」
黒木不二子が気を利かせて「千里さん、細川さんの方の席に行ってゆっくり話すといいですよ」と言うので、千里もキャプテンに許可を取ってそちらに移動することにした。京平は純子にバイバイして、千里に抱かれ、貴司の座席の方に移動した。
貴司は北九州市に住む従兄の結婚式に行く所だということだった。花嫁が福岡市に住んでいるので、結婚式は両市の中間くらいにある福津市の宮地嶽(みやじだけ:“嶽”は“岳”の旧字体)神社であげるのだという。
3人は道中たくさんおしゃべりしていたのだが、千里は大分に行くので小倉で降りた。しかし試合終了後メールチェックしたら、(貴司の妹)理歌からメールが入っている。それで《こうちゃん》に“福岡に飛んでいってと言ってから”、理歌に電話してみると、明日の結婚式・披露宴に出席できないかということであった。時間を聞いてみると
11:00-11:30 結婚式
13:00-15:00 披露宴
16:00-18:00 二次会
ということである。
「披露宴は試合(14:00-16:00くらい)とぶつかるけど、結婚式、それと二次会の最期の方に顔を出そうかな」
と千里は答えた。
ところがしばらく理歌と話していたら、電話の向こうで京平が
「ぼく、こんやは、おかあちゃんといっしょにねたい」
という声が聞こえる。
「分かったよ。じゃそちらに行くね」
と言って千里は電話を切る。千里は中津市内で開かれるレセプションに行く前だったのだが、《すーちゃん》を身代わりに残し、電話前に福岡に飛んで行ってもらっていた《こうちゃん》と入れ替わって福岡市に行った。こういう予定調和は千里のいつものことである。
そしてホテルの中に入っていくと、ばったり、貴司の母・保志絵に遭遇する。
「こんばんは。どうしたの?」
「理歌ちゃんに、明日の結婚式に出てと言われて、厚かましくも押しかけてきました。取り敢えず京平のお母ちゃんということで」
保志絵は話したいことがあると言って、千里を自分の部屋に招き入れる。
「千里ちゃんのことを、うちの親戚の多くが、貴司のお嫁さんだと思っている」
「そうですね。そういうことで私、高校の頃から貴司さんの妻として親戚の集まりに出ていたし、4年前の美沙ちゃんの結婚式にも出たし」
「だから明日の結婚式に千里ちゃんが出るのも全く問題無い」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
「あなたにこれを渡しておく」
と言って、保志絵は2つの指輪を渡した。千里は緊張した。
千里と貴司が2012年2月にティファニーで一緒に選んだ、大粒ダイヤのエンゲージリングと、その後、貴司が作ってくれたものの結局1度も指に通さないままになってしまった同じくティファニーの結婚指輪である。
「2012年12月22日の結婚式で千里ちゃんに貴司がプレゼントする予定だったもの。当時の千里ちゃんの指に合わせてあるはずなんだけど」
と保志絵は言った。
「でしたら、もし今の私の指に合ったら頂きます」
と千里は言った。
「うん」
それで左手薬指に填めてみると、無理なくきれいに入った。
「入ったね」
「少し痩せたかも。入ったので頂きます」
と言って、千里はダイヤのエンゲージリングの方も重ねてつけた。
「1年前(2015年11月2日)に私、お母さんの前で宣言したように、私としては貴司さんの妻に復帰したつもりです。ですから、これは頂くことにします」
「うん、それでいい」
と保志絵は笑顔で言った。
それで千里は翌日の結婚式に出席した。朝配られた披露宴・二次会の席次表に“細川貴司・千里・京平”とあるのに涙腺が潤む。でも貴司の親族たちに、千里はとっくの昔からおなじみである。京平を見て
「あら、お子さん生まれたのね」
と言われた。
色留袖を着るのに、下に肌襦袢代わりにレッドインパルスのユニフォームを着ているのを見て驚かれるが、実は披露宴と重なる時間に試合があることを話す。
「大変ね!」
「試合があるのなら、自分の結婚式ででもない限り休めないかもね」
と同情してもらえた。
「会場は近くなの?」
「ええ、20分くらいかな」
などと千里が言うので、みんな宗像市か福岡市東部あるいは折尾あたりで試合があるのだろうと思ったようである。
こういう親戚の集まりは、今回の新郎の妹・美沙の結婚式(2013.1.20)以来なのだが、今回はその美沙の子供・満理(3)と絵里(1)も来ていた。絵里は1歳7ヶ月で、1歳5ヶ月近い京平と年齢が近く、よくしゃべっていた。絵里はアメリカ育ちでバイリンガルなので日本語・英語ミックスだが、京平も1歳児の話す英語程度は分かるので、ふたりの会話も日本語・英語ミックスで、母親の美沙から「京平ちゃん、私より英語の発音きれい!」と感心されていた。向こうは英語の幼児教育をしているのだろうと思ったようである。
結婚式に入場するのに並んでいる人を見ていて、千里はそこに冬子(ケイ)がいるのを見てびっくりする。向こうはこちらに気付いていないようである。そういえば、新婦は民謡の家元の家系と聞いた気がした。冬子も若山流鶴系の家系なので、その親族だったのかと思い至った。
宮地嶽神社の結婚式場はとても広いので、親族は双方40-50人くらいずつ式場に入った。真っ赤な内装の厳かな式場である。その内装を見て、冬子が何か曲を書きたそうな顔をしていたので、千里は(貴司の妹)美姫に頼んで、冬子に五線譜とボールペンを渡してあげた。
式が終わって女性親族控室に入り、しばらくした所で、やっと冬子は千里に気付いた。
「親戚だったんだ!」
と向こうは驚く。
「私と花嫁は従姉妹なんだよ。母同士が姉妹。そちらは?」
と冬子が言う。
「こちらは、花婿と貴司が従兄弟なんだよ。花婿のお母さんと貴司のお父さんが実の姉弟。戸籍上は腹違いの姉弟ということになっているけど、本当は実の姉弟」
と千里は少し面倒な説明をした。
「千里、もしかして貴司さんの親戚の結婚式に出席してるの?」
と冬子が本当に困惑したような顔で訊く。
「だって私、貴司の妻だし」
と言って千里は昨夜保志絵さんから渡された結婚指輪をした左手薬指を見せた。
そこに京平がやってきて千里のお膝に座る。
「おしっこ、もらさずにできたよ」
などと報告している。
「その子は?」
「京平だよ。京平、お前が生まれる時に、このお姉さんに助けてもらったんだよ」
「おねえさん、ありがとう」
「ううん。いいんだよ」
「実は昨日の朝、私は大分県の中津市の試合に出るのに、新幹線で移動していたんだよ。そしたら新大阪で貴司と京平が乗ってきてさ」
「へー」
「『あかあさんだ!』と京平が言うから、キャプテンの許可もらって、小倉まで一緒にいたんだよ。それで昨日の試合が終わってから、こちらに来た。だから私は実は京平のお世話係。後少ししたら今日の試合会場に移動する」
「そういうことだったのか」
「阿部子さんは身体が弱いから、長距離の旅行ができないしね」
「あの人、新幹線で福岡まで来るだけでもダメなの?」
「近所のスーパーに買物に出ただけでも倒れるような人だからね」