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■娘たちの誕生日(7)

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翌日8月26日(金)。
 
東京に戻ってきていた和実が呼びかけて、千里のお疲れ様会をしてくれた。
 
「わあ、喫茶店を造る土地を買ったんだ!」
「うん。今月初めに買った。青葉に見てもらったんだよ」
と和実は言う。
 
「だったら万全だね」
「やはりいい土地?」
「ある意味最悪の土地」
「え〜〜!?」
「風水的によくないし、人の流れが無いし、幽霊はたくさん彷徨っているし」
「なんでまたそんな土地を」
 
「その彷徨っている霊を昇天させてあげたいんだよ」
「その前にお店が経営難で昇天したりして」
 
「土地の広さは、30-40坪くらい?」
「400坪」
「そんな広い土地、どうやって使うの?」
「まあ建物は100坪くらいで、残りは駐車場かな」
 
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「ああ、人の流れから離れていても充分広い駐車場があれば、客は来てくれる可能性がある」
 
「でもその400坪の土地、幾らしたの?」
「1500万円」
「安い!」
「嘘みたい!」
 
「震災の時、周辺まるごと津波でやられた地区なんだよ。海水浴場もあったんだけど未だに再建中。いつ再オープンするか分からない。だから残っていた建物もどんどん撤去されているし、地価はどんどん下がっている」
 
「やはりその喫茶店、すぐ潰れるというのに1票」
 

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「ここに住宅も一緒に建てて、希望美と一緒に暮らそうかと思っている」
「店舗兼住宅?」
「住宅は別棟にするつもり」
「1つの土地に2つの建物を建てられるんだっけ?」
「だから分筆する」
「ああ、それなら問題無いね」
「ただ分筆の比率は慎重に検討する。うまくやらないと、建蔽率か容積率かどちらかが制限を超える危険がある」
「そのあたりは設計を進めながらかな」
 
「でも今の所、東側が開けているからさ。朝日とともに、鳥の声とともに目が覚める、素敵な環境になるかもという気がしている」
 
と和実が言った時、政子が何かを思いついたような顔をした。
 
「政子ちゃん、何か?」
と小夜子が訊く。
 
「いや、何かあったなと思って。鳥の声とか、目覚めとか、東とか」
と言って政子はしばらく考えていたが、突然こんな短歌を暗誦した。
 
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「鳥啼く声す夢覚せ。見よ明け渡る東(ひんがし)を。空色栄えて沖つ辺に、帆船群れ居ぬ靄の中(うち)」
 
「何?何?」
 
知っていたのは千里だけだった。
 
「とりな歌だね」
「何それ〜?」
 
「『いろは歌』と同様に、日本語のかな文字を48個1回ずつ使った歌なんだよ」
「おぉ!」
 
「たしか『乙女歌』とかもあったよね?」
と千里が言うと、政子はそれも覚えていたようで暗誦する。
 
「乙女花摘む野辺見えて、我待ち居たる夕風よ、鴬来けん大空に、音色も優し声ありぬ」
 

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「何か美しい歌だね。本当に48文字1回ずつ使ってるの?」
と小夜子が尋ねるので、千里は《とりな歌》を仮名文字で紙に書いてみせた。
 
《とりなくこゑす、ゆめさませ。みよあけわたる、ひんがしを、そらいろはえて、おきつへに。ほふねむれゐぬ、もやのうち》
 
みんな、ずっと見ながらチェックしている。5分ほどで、その場にいる全員、確かに48文字を1つずつ使っていることを確認した。
 
「凄いね」
「よくこんなの思いつくね」
と歓声が上がった。
 
「こういうのをパングラムというんだよ。パンは、パン・ヨーロッパとか、パノラマとかのパン。これって作るだけなら、そんなに難しくない。ただ美しく作るのが難しい」
 
と千里は言う。
 
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「そうなの?」
 
「いろは48文字を紙に書いて切り離して、並べて行くといいんだよ。最初は何かテーマを決めて適当に書き始めて、途中から使える単語が限られてくるから、あとはパズル。最後に微調整」
と千里は言ったが、淳が
 
「それプログラム組んで支援できると思う」
と言って、彼女は20分ほどでブラウザから利用できる、支援プログラムを作ってしまった。JavaScriptで書かれているので、WindowsマシンからでもMacintoshからでも、Android, iPhone, ガラケーからでも使えるので、みんなそれを利用して作ってみる。
 
30分くらいで何人かが作品を作り上げた。冬子はうまく行かないようで、かなり悩んでいて「やはり冬は忙しすぎで疲れている」とみんなから言われていた。
 
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小夜子の作品。
 
女の子スカートひらり揺れ舞いて、洋服を見つめる私、添えろ気持ちへ、歩速さに消せぬ胸。
 
千里の作品。
 
春雨降りぬ。夕暮れに霞む細道、足迷わん。思い刹那聞こえたら、寝部屋の戸を広げて。
 
そして政子の作品はみんなから「非道い!」と言われて非難された。
 
秘密百合部屋、性を女の子に変えろ。朝胸膨らして玉抜き消す。夜は割れ目持ち、棒取るぞ。
 

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その翌日、青葉と電話で話していたら、青葉も《とりな歌》のことを話題にしたので千里は昨日みんなが作った作品をメールしてあげたが、政子の作品には青葉も
 
「ひどい」
と言っていた。政子は例によって、この歌をアクアに歌ってくれない?とメールしたものの拒否されたらしい!(結局2014年10月に北海道で書いた『モエレ山の一夜』という作品を渡すことになる)
 

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2016年8月29日(月)、ハナちゃんと吉田和紗は、江東運転免許試験場で学科試験に合格して、新しい運転免許証をもらった。和紗は緑の帯だが、ハナちゃんは既に自動二輪免許を持っていたので青い帯である。
 
「ハナちゃん、ほんとありがとう。お買い物とか行くのにバイクに乗せてくれたし、ゲームセンターに連れて行ってくれて一緒にシミュレーターで練習したりとか、おかげで仮免試験一発合格できたし。他にも卒業試験のコースの地図をゲットしてくれたりとか、あんなのその場で地図を渡されてもコース決めきれない」
 
「バイクに人を乗せるのはそれ自体が楽しみだしね〜」
 
ハナちゃんの愛車はカワサキZZR400である。真っ黒な塗装が格好いい。ちなみに黒いライダースーツのハナちゃんが蛍光イエローのライダースーツの和紗を乗せていると男の子が彼女を後ろに乗せているように見える!
 
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「地図とかも、代々自動車学校の生徒の間で受け継がれていくから。そういう情報掴むのは任せて」
 
「ハナちゃんは車買うの?」
「買うよー。ランクルかエクストレイルにしようかなと思っているんだけどね」
「車種名聞いてもさっぱり分からない!」
「車に興味無いと全然そういうの分からないよね。かずちゃんも何か買いなよ。ずっと運転してないと、すぐペーパードライバーになっちゃうよ」
 
「お金無いよー」
「中古で買えばいいんだよ。このバイクなんて2万円で買ったよ」
「嘘!?」
 
「型式が古いからね。四輪も古いの探せば10万円以下で買えるのあるよ。一緒に見に行かない?とりあえずお金は貸しておくからさ」
「借金の額が増えてく!」
 
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そんなことを言いながらも、和紗はハナちゃんのバイクのタンデムシートに乗って、一緒に中古車屋さんに行ってみた。
 
ハナちゃんはオフロードに耐えるような大きな車がいいと言って、ランクル、ハリアー、フォレスター、と見ていったが8万円!のエクストレイルがあるのを見て「これにします」と言った。
 
NISSAN XTRAIL-S TA-NT30 2000.11 1998cc 4WD 5MT SuperBlack
 
この車は幅が1.7mを越える(1765mm)ので3ナンバーである。
 
その後、和紗用の車も見る。和紗は軽にしようかなと言っていたのだが、ハナちゃんが「軽ばかり乗っていたら、軽しか運転できなくなるよ。最初は少々ぶつけてもいいから3ナンバーで慣れよう」と言い、大きな車を見せる。結局和紗が選んだのはシビック・タイプRであった。価格は15万円!である。
 
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Honda CIVIC type-R LA-EP3 2001.12 1998cc FF 6MT Championship-White
 
この時代のシビックは車幅が狭かった。この個体は1695mmなので5ナンバーのサイズに収まっている。
 
「ぎりぎり5ナンバーだな」
とハナちゃんは言っている。
 
「でもハナちゃんが買うのの倍もするのは申し訳無い」
「いや、私が買うことにしたのの8万円は極めて異常に安い。この15万も無茶苦茶安い」
 
とハナちゃんが言うと、お店の人も頷いて
 
「普通は50万以下は“動けば儲けもの”と思った方がいいんですが、この2台は奇跡的に状態がいいですね。年式が古くて走行距離も長いので安くなってますけど」
と言っていた。
 
ハナちゃんは「2台まとめてカードで」と言ってクレカをお店の人に渡していたので「カードとか格好いい!」と思って和紗は見ていたが、実際にはVISAデビットである!(高校生はふつうクレカは持てない)
 
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なお、駐車場だが、寮の前の空間に駐めておいてよいということで紅川さんの許可を得ている。それで紅川知世子さんに車庫証明も書いてもらえる予定である。
 

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8月31日(水).
 
『ときめき病院物語II』の撮影がクランクアップした。最終日は21時で終わる、余裕の終了となった。アクアは今夜は0時すぎかもと思っていたので、思いがけず早く終わって良かったと思った。
 
「アクアちゃん、葉月ちゃん、お疲れ様。今日はどうする?都内に泊まる?」
と鱒渕マネージャーから訊かれる。
 
「自宅に帰ろうかな。明日から学校があるし」
「だったら駅まで送っていくね」
 
それでふたりを上野駅まで送っていき、それから鱒渕はそのまま車で自宅のある新百合ヶ丘まで戻る。到着したのは22時半頃である。近所のTimesに駐めてからアパートに辿り着き、そのまま倒れ込むように布団の上に横になった。エアコンのスイッチを入れ、タオルケットをお腹に掛けて、眠りに落ちていく。
 
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「結構私もきついなあ。でもまだ中学生のアクアちゃんや葉月ちゃんが頑張っているんだから、私も頑張らなくちゃ」
と鱒渕は思った。
 

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