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この時期の千里の眷属の居場所。
結局スペインに日常的に行かなければならなくなったので、《すーちゃん》をグラナダに置いておき、フェイの見守りに《びゃくちゃん》、京平の見守りに《いんちゃん》を使うが、フェイと京平の見守りには交代要員が必要なので、《てんちゃん》と《げんちゃん》を交代要員とする(但しフェイに付けるのは必ず女性眷属。結果的にこの頃から《げんちゃん》は京平のお世話をすることが多くなり、京平も彼になついた)。
《すーちゃん》は“須佐ミナミ”としての活動もあるが、土日中心なので何とかなっている。またしばしば千里の代理もさせていたのだが、日本代表の活動は休止期間に入っているのでこれも何とかなる。どうにも彼女だけでは足りない場合、この時期《ボラちゃん》に代わってもらうこともあった。
《ボラちゃん》は《すーちゃん》の古い友人で、千里がスペインに居る間に200年ぶりに再会したらしい。200年前はオランダ商人を宿主にしていたのだが、その後ずっとヨーロッパに居て10代近い宿主に仕えたものの数年前からフリーの状態ということだった。彼女は鳥族の女子5人のスポーツチームを作っていて《すーちゃん》にも加入しないかと勧誘したものの、すーちゃんは時間が足りない!と言って断ったという。5人とも現在宿主が居ないということだったので、市川ドラゴンズのメンバー同様、千里が仮の宿主になってあげている。5人はスペイン語・フランス語・英語・イタリア語(トスカーナ語)・ナポリ語などを話すが、最初日本語が分からなかった。しかし5人の中でボラちゃんだけは日本語を頑張って覚えてくれたので、昨年の秋頃からは千里の代役が務められるようになっていた。それで実は今年《すーちゃん》は“須佐ミナミ”を演じられたという背景もあった。
(翌年春の千里分裂後は、市川ドラゴンズは千里3、ボラちゃんたちのバレンシア・ハルコンズは千里2の担当となったが、2019年チームまとめて来日して小浜ラボを拠点にすることになる−来日した時は男の娘の鷹の精霊《アギ》ちゃんも加わり6人になっていた)
「女子とのチームとの試合組む時にアギちゃん出せるんだっけ?」
「もう睾丸無いから大丈夫」
「ああ、そうだったんだ?」
「みんなで寄ってたかって取っちゃったから」
「潰すのと取るのとどちらがいい?と言われて、取られる方を選んだ」
「麻酔は掛けてあげたよ」
「潰す方が楽しいんだけどね」
楽しいのか?
《わっちゃん》は葛西のマンションにいることが多く(千葉玉依姫神社にもよく行ってくれている)、千里専属アレンジャーとして千里の音楽活動を支えてくれている。《きーちゃん》と《せいちゃん》はJソフトに交替で勤めているが、できるだけ早く退職できるようにしばしば専務と話しているものの、なかなか辞めさせてもらえない。
千里の傍にいつも付いているのは、《とうちゃん》《りくちゃん》《たいちゃん》の3人で、この3人はよほどのことがない限り、千里と別れて行動することはない。《こうちゃん》はふらふらと出歩いていて、逆にめったに千里の傍にいないが、呼べば数秒以内に来る(実際には自分のエイリアスを千里と龍虎のそばに置いているのだが、このことを千里はこの時点ではまだ知らない)。
そして《くうちゃん》は常に遍在していて全ての眷属の様子を見ている。但し彼は見ているだけであり、めったなことでは語ることがない。
2016年9月10-12日、八王子市で全日本実業団バスケットボール競技大会が行われ、玲央美たちのジョイフル・ゴールドが優勝した。先週は秋田県横手市で行われた全日本クラブバスケットボール選抜大会で40 minutesが優勝しており、両者は11月5-6日の全日本社会人バスケットボール選手権大会で相まみえることになる。(同大会にはクラブ3位以上・実業団3位以上・教員2位以上が出場する)
“千里”はこの大会を40 minutesの主な選手とともに観戦したのだが、大会終了後、玲央美が千里に「少し2人だけで話したい」と言ってきた。それで他の選手たちと別れて、玲央美をアテンザの助手席に乗せ、少しドライブすることにした。
しばらく走ってから玲央美は言った。
「それでさ、すーちゃん」
「ああ、バレてるか」
「当然」
「千里本人は溜まっている作曲作業をしているんだよ」
「あの子も大変ネ」
「それで何か相談?」
「オリンピックの間や、それ以前の合宿でさ、私随分外国のリーグで鍛えろと千里から言われて」
「ああ、レオちゃんは自分を甘やかしすぎている。私千里にも随分言ったけど、クラブチームとかに居ないでもっと強い所に行けって。同じことをレオちゃんにも言いたい」
「私も千里と同様に一時期バスケットから逃げていたからね。それで、私の実力でどこか行ける外国リーグあると思う?できたらジョイフルゴールドと兼任で」
「その問題は千里がだいぶ悩んでいたから、条件としてはかなり整理できている」
「ほほぉ」
「日本のチームと兼任で参加する場合、季節もしくは時間帯がずれていればいい」
「へー」
「取り敢えず、玲央美が参加する価値のあるリーグを考えてみると、こんな所だと思う」
と言って、すーちゃんはいったん車を脇に停めて、バッグの中からこんなリストが書かれた紙を取り出して見せた。
USA WNBA 5-9月 3:00-11:00
USA WBCL 5-7月 3:00-11:00
ESP LFB 10-4月 21:00-5:00
FRA LFB 10-4月 21:00-5:00
AUS WNBL 10-2月 13:00-21:00
CHN WCBA 10-3月 14:00-22:00
RUS WPBL 10-4月 19:00-3:00
USA:アメリカ ESP:スペイン FRA:フランス AUS:オーストラリア CHN:中国 RUS:ロシア
「これは各国のリーグ開催月と、その国の13:00-21:00が、日本では何時に相当するかを並べたもの」
「ほほお」
「FIBAランキング上位の国で、自国リーグがあるのは、アメリカ(USA)、スペイン(ESP)、フランス(FRA)、オーストラリア(AUS)、トルコ、中国(CHN)、セルビア、日本、ロシア(RUS)、チェコ、ベルギー、韓国、ナイジェリア、などといった所だけど、ここに書いた以外の国は日本とレベルが大差ないから行く必要はないと思う。セルビアは強いけど、政情がやや不安だから避けた方がいいかも」
「うん」
「いちばんハッキリしているのがアメリカで、シーズンが日本と重なっていないから兼任可能。ところが、レオちゃんの場合、WNBAとかWBCLをやっている時期は日本代表の活動で忙しいんだ」
「ああ」
「だからまずWBCLは取り敢えず外していいと思う。WNBAの場合は、そこで活躍しているという前提で、代表合宿を免除して本戦の選手に招集されるという可能性はある」
「それは羽良口さんのようなケースだね?」
「たぶん王子もそういう扱いになる」
「だろうね」
「でもレオちゃんの実力では正直微妙だと思う」
「私もそう思う」
「亜津子さんや千里も同様」
「まあこの3人はだいたい実力が並んでいる気がする」
「三すくみなんて言ってたね」
「それ高校時代の話だね!懐かしい」
「オーストラリアと中国は、日本のシーズンと重なるし、時間帯もぶつかるから兼任は不可能」
「確かに」
「そういう訳で候補として残るのはヨーロッパなんだよ」
と言って《すーちゃん》はさっきの紙のコピーを取り、マジックでかなり消したものを見せる。
ESP LFB 10-4月 21:00-5:00
FRA LFB 10-4月 21:00-5:00
RUS WPBL 10-4月 19:00-3:00
「ロシアの場合は時間帯が微妙なんだけど、スペインとフランスは、向こうの練習や試合の時間帯が日本の夜になるから時間的に兼任可能。同じ日に日本とヨーロッパで各々試合がある可能性もあるけど、そこは気力で頑張る」
「1日2試合は頑張れると思う」
「だから、千里がここ3年ほどやっていたように、フランスかスペインのリーグに参戦すると、日本と兼任でいける」
「日本とスペインの間の移動は?」
「最初はまともに飛行機で入国して、その後はテレポーテーション」
「なんか凄く体力を使いそう。でもそのテレポーテーションは協力してもらえるんだろうか?」
「身代わりを誰か確保してもらえたら、きーちゃんに頼んでみるよ」
「身代わりか・・・」
「レオちゃんと位置交換される身代わり。レオちゃんが日本にいる間はスペイン、スペインにいる間は日本に居て、状況次第では練習の代理も務める。顔形はレオちゃんに似ていなくてもいい。姿形と声は誤魔化せるから」
「それって、ある程度バスケット能力のある人にしか務まらないよね?」
「うん。私が千里の代理をやっているのと同じようなものだから、最低でも私程度の実力があって、不思議なことに驚かなくて、秘密が守れる人。あとフランス語またはスペイン語ができる人」
「そういう人が確保できたら、その兼任ができる訳か・・・」
「人でなくても私みたいな精霊の類いでもいい。猫とか犬でもいい」
「バスケットができるなら?」
「そうそう」
「バスケットのできる猫は少なそうだなあ」
「ルール教えるだけでも大変かもね。人間の男の子でもいいよ。女の子のふりができる人なら。練習の時にちんちんまで見ないから」
「ふむふむ」
玲央美はふと思った。
「千里の彼氏はダメだよね?」
「ああ。貴司さんは女装もいける」
「ほほお。でも千里に嫉妬されるかな」
「そうだね。でも見つからなかったら彼を使う手はあると思うよ」
「まあ、誰か居ないか少し考えてみるよ」
「でもレオちゃんがやる気出したのなら、私、個人的なコネ使って、フランスかスペインのチームでレオちゃんが入れそうな所を少し探してみるよ」
「助かる。よろしく」
個人的なコネというのは、むろんバレンシア・ハルコンズのメンバーである!この時、すーちゃんは玲央美の代理としてハルコンズのメンバー《コアちゃん》を想定していた。
日本語をもう少し覚えてもらえたら使えるよなあ。。。。。
貴司は9月9-18日にテヘランでFIBA ASIA Challengeを戦っていたが、日本は1次リーグを2位通過、2次リーグを3位通過して決勝トーナメントに進出。準々決勝でヨルダンに僅差で敗れ、5-8位決定戦に回る。ここでインドに勝って5位決定戦へ。そしてここで中国に敗れて、目標の5位以内は達成できなかった。
しかし同じ東アジア地区の中国が5位以内に入ったことから、東アジアは来年のアジアカップの出場枠が1つ追加されることになった。
この大会では5位以内に入った国が所属するエリアが、アジアカップの出場枠を1つプラスされるというシステムになっていたので、実は日本と中国で5位決定戦を戦うことになった時点で目標は達成されていたともいえる。
そういう訳で日本はよくやったのだが、この貴司のイラン遠征中、阿倍子は部屋の掃除をしていて見慣れない女物の下着を発見した。カッと頭に血が上った阿倍子は千里に電話して来て「千里さん、貴司と浮気したのね?」と責める。千里は貴司は(御守り代わりにあげた)自分の下着はイランに持っていたはずでマンションの部屋には無いはずと思い、冷静にその下着のサイズを尋ねた。
「パンティはL、ブラジャーはA95かな」
「それ私のじゃないよ。私はパンティはMだし、ブラジャーはD70だし」
「千里さんのじゃ・・・ない?」
「待って。私もそちらに行って見てみる」
それで千里は新幹線で大阪に駆けつけたのである。
「こんなフリルの付いたパンティなんて私穿かないよ。ほら今穿いているのを見てみて」
と言って、千里はスカートをめくって自分のパンティを見せる。
「シンプルなのを穿いてるね。サイズも確かにMだ」
「私はバスケットしてどんどん汗掻くから、コットン製のシンプルなのを使う。ナイロンのパンティも使わないよ」
千里は今着けているブラも阿倍子に見せる。
「ほんとにD70だ。こちらもシンプルなデザインだね」
「だいたいA95なんて、そんなブラつける女がいるとは思えない。アンダーが95もあるなら、EとかFとかGとかでないとおかしい。それ着けてたの男じゃないの?」
「まさか貴司さんが女装するのに使った?」
「貴司だとパンティはLでも無理。XLでも入るかどうか。胸囲も100以上あったはずだよ」
貴司が一時期《こうちゃん》たちにより、千里を捨てた罰として胸を膨らませられていた時C100のブラを着けていたことは、とりあえず黙っておく。
そういう訳で、イランから帰国した貴司が千里(せんり)のマンションに帰宅すると、阿倍子と千里が睨んでこちらを見ていたので、あまりに想定外の光景に貴司は仰天するのである。
それで「ちんちん切り落とされたくなかったら正直に告白しなさい」と迫られ、貴司は浮気をしていたことを自白する。千里は翌日その浮気相手と会って、貴司との関係解消を迫り、電話番号とメールアドレスを変更させ、もう会わないという念書も書かせた。
阿倍子は怒って京平を連れマンションを出たのだが、あまりの怒りで体内バランスが崩れ、寝込んでしまった。
「どうしよう?明日京平をUSJに連れて行ってあげる約束をしていたのだけど」
と悩んでいる。そしてふと気付いたように
「千里さん、代わりに連れて行ってあげたりできないよね?」
と訊く。
「まあ京平ちゃんとのデートもいいかな」
そういう訳で、9月22日、千里は京平を連れてUSJに行ったのだが、京平はお母ちゃんと一緒にお出かけできるというので喜んでいた。このUSJで千里は高倉竜(丸山アイの男性態−男性体?)が先日フェイの父親候補のひとりとなっていた宮田雅希(女装)とデートしているのに行き逢い、びっくりする。千里はなるほどー、こういう展開になったのかと納得したが、竜はフェイに指輪を贈ったのに節操が無いなどと恥ずかしがっていた。彼は千里に小さなボールの御守りをくれた。
この御守りは千里はバッグにしまったつもりでいたのだが、実際には千里の身体に吸収されてしまい、その行方を見たのは竜以外には京平だけである。実は千里が三分裂した時、その各分身の維持をするのに、この御守りに込められている“呪”が必要だったのである。
丸山アイ(“虚空”)は、夏にアクアが苗場のステージで倒れた時に、既に千里とアクアが近い内に分裂することを予測していた。