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映画『時のどこかで』の撮影は、順調に遅れ!7月31日になっても、まだ幾つかのシーンを残していた。逆池プロデューサーは後輩の橋元に頭を下げて3日延長をお願いし、結局8月2日の深夜、23:55頃“撮影”は終わった。最後は中高生の生徒役を22時前に帰して、また主役級3人のボディダブルも今井葉月以外は帰して残りの4人(葉月は真理子のボディダブルを演じた)とおとなの俳優だけで23:55まで撮影を続けた所で、何とか河村監督の感覚で演技としては完成域に到達したという判断になり、クランクアップということにした。
しかし明日8月3日の午後にはマスコミ主体の試写会をすることになっている!
編集チームは撮影と同時進行で場面場面が撮影されたものをパソコン上で組み立てていく作業をしていたのだが、この最終日の撮影映像を組み込んで一応つながったものができたのは、徹夜で作業を続けて8月3日の朝7時であった。
仮眠していた河村や逆池に花崎が初めて通しての映像を見る。
「凄い。ちゃんとできてる」
と逆池も花崎も驚きの声をあげた。2人とも撮影に立ち会っていて、どういうものができるのか、よく分からない状態だったのである。たぶん出演者の大半もそうである。
「出演者が状況の分からないまま台本に書かれた演技をするので、感情投入が難しいのが、このマルチ撮影の欠点なんですよ。しかもボディダブルが多用されているし」
「同じ場面を別の俳優さんの組み合わせで何回も撮るというのもありましたね」
しかしこの時点では「ストーリーとしてつながっている」というだけであり、商業的な公開までには、かなりの調整を続ける必要があった。
まず根本的にボディダブルの人たちの声がそのまま残っているので、これをアフレコして本人の声に差し替える必要があった。他にも若干の撮り直し発生の可能性もあった。
そういう訳で、8月3日の試写会では、ボディダブルの声が残ったままの状態のビデオを公開することになる。しかも場面のつながりが一部おかしなところも残存したままで、これを見せられたマスコミ関係者は、論評に悩むことになる。正直、これは本当に8月12日に公開できるのか?と危ぶむ声もあった。
『ときめき病院物語』の撮影クルーも8月3日(水)の時点ではかなり殺気だっていた。一応撮影中断前に8月5日放送分の撮影まで一応完了していたものの、編集段階で一部撮り直したい箇所が出ていた。それでこの日はまずそれを撮影した。これに1時間ほど掛かった。
その後、8月12日放送分の撮影に入るがこれを何とか深夜まで掛けて撮影して、終わらせることができた。そして翌日8月4日の撮影で8月19日分の撮影を済ませて何とか綱渡り状態からは脱却できた。
『時のどこかで』の追加撮影やアフレコ作業だが、コスモスもアクアのスケジュールを念のため8月上旬にはレギュラー番組の出演や撮影以外、入れないようにしていたので、何とか時間を取ることができて、8月5日から8日まで、いくつかのテレビ局の番組や、後述のライブに出演した以外は、毎日12時間くらいアフレコ作業をしていた。他の主役級5人もずっとアフレコ作業をして、一部は撮影自体の撮り直しも行われた。
実際問題として、これらの作業が本当に終わったのは、8月9日の夕方で、映画公開のわずか3日前である。編集チームはその後、連日徹夜の作業で必死に調整を続け、河村や大曽根部長などの感覚で「これで完成」ということになったのは8月11日、映画公開の前日お昼頃であった。
大和映像企画では、この完成した映画のビデオを夕方まで掛けてどんどんコピー。同社の社員や、ΛΛテレビの社員に“持たせて”全国300館以上の映画館に持参してビデオの入ったハードディスクを渡した。映画館側も明日映写しなければならないのに昼過ぎてもビデオが到着しないので、どうなっているんだ?という問い合わせが凄まじかった。
一部8月11日の夕方から先行公開する予定だった映画館では、観客にビデオの不着を謝らなければならないのではとヒヤヒヤしていた所に、社員が持ち込んできたので「もう胃が痛くなりましたよ」と苦情を言った。
このアクア主演の初映画はそのようなまさにドタバタ状態で、何とか予定通りの公開に漕ぎ着けたのであった。
ただし制作費は当初予算の5倍!の10億円も掛かってしまい、逆池プロデューサーは責任を取って辞表を提出した。ただし社長に慰留される。7月ボーナスの返却、12月ボーナスの辞退、給与の1割カットについては認められた(奥さんが悲鳴をあげる)。
8月6日(土)、横須賀でサマーロックフェスティバルが行われ、アクアは映画の調整作業で忙しい中、これに参加してきた。
体調がかなり厳しい中でのライブとなったため、ケイが心配してテレビなどにも時々出ている霊能者中村晃湖さんにアクアの控室に入ってもらい、出番の1時間前からずっとヒーリングをしてもらった。
「私は青葉ちゃんのヒーリングとは系統が違うんだけど」
とは言っていたが、身体が暖まるような感じで気持ち良かった。
ライブ演奏後も横須賀市内のホテルで1時間ほどヒーリングしてもらってから東京のスタジオに戻った。
8月7日(日).
第3回ロックギャルコンテストの本選が昨年同様、新宿文化ホールで行われた。応募者は昨年より増えて8000人、都道府県予選通過者が200人、そしてブロック予選を通過して本選に出てきたのは32人である。都道府県を通過した200人の中には戸籍上男子という人が3人いたのだが、この本選にも1人だけそういう子が入っている。
徳島→四国とトップで通過してきた門脇真悠(まゆ)君、現在中学1年生である。予選でビキニの水着姿も披露しているが、股間が目立たないのは「ボクのは小さいから」などと、アクアみたいなことを言っていた。但し胸も無い。肩に掛かる髪は自毛だが、校則の緩い学校なので、それで通学しても文句は言われないらしい。一応男子制服で通学しているが、女子制服も所有はしていて校内外で着ていることもあると言っていた。実際コーラス部では女子制服を着てソプラノの所に並んで歌っているらしい。しかし物凄い美人である。
「女の子になりたいの?」
と尋ねた所、自分はMTXだと主張した。“男”にはなりたくないので現在微量の女性ホルモンで第2次性徴を抑えているということである。そのため声変わりしていないので、女の子のような声である。
「アクアさんと同様ですよ」
と言っていたが、コスモスは一応
「アクアは身体の発達が遅れているだけで女性ホルモンとかは使っていないのだけどね」
と言っておいた。
例によってこのコンテストの本戦では有力な参加者の番号を分散している。
8番が北海道1位の高島瑞絵(中1)、16番が沖縄1位の安良城謡子(あらしろ・ようこ:中3)、24番が四国1位の門脇真悠(中1)、28番が北陸1位の山口暢香(中1)、32番が東京1位の中井朋絵(高1)である。そのほか、12番、20番の子も、この日のパフォーマンス次第では優勝が射程内になるだろうと思われた。
1次審査ではほとんど差が付かなかった。ダンス審査ではバレエ経験者という8番の高島さんがいちばん良く、24番の門脇君・28番の山口さんがそれに次ぎ、1番の関西2位吉沢蕾美もその2人に僅差のとてもよい評価だった。32番の“本命”中井さんは「身体を動かすのは苦手」と本人も言っていたが、全体の中の8番手くらいであった。
そして歌唱審査になる。1番で出てきた吉沢さんがダンス審査でうまく行った勢いで、物凄く良い歌唱をした。その後の、8番・高島瑞絵、16番・安良城謡子は彼女の点数を上回れなかった。
24番の門脇真悠は1番より高い点数を出す。この時点で24, 1, 8, 16 の順である。まさか3年続けて男子がトップなんてことないよね?などと審査員が不安を覚えてきた所で、28番の山口暢香がもっといい歌唱をしてホッとした。そして本命の32番・中井朋絵がエレキギターを弾きながらCyntiaの『Run to the Future』を物凄く格好良く歌い、会場全体から盛大な拍手をもらった。
本気で優勝を狙っていた門脇真悠が「参った!」という感じの顔をしていた。
そういうわけで第3回ロックギャルコンテストは、女子高生の中井朋絵が優勝して第3代ロックギャルになった。
第1回の優勝者・アクアは男の子(?)で、第2回の優勝者・秋田利美は小学生で、どちらも優勝者がロックギャルを名乗らなかったが、第3回のオーディションで、やっと優勝者がそのままロックギャルとなった。
今回の優勝者・中井朋絵は都内の高校に通っていて、学校側と話した所、常識的な範囲での芸能活動は問題無いということだったので、卒業まで今の学校に通い続けることになった。彼女は“姫路スピカ”の芸名をもらうことになる。
2位・山口暢香、3位・門脇真悠、4位・吉沢蕾美、5位・高島瑞絵、6位・安良城謡子という順位になり、2〜5位の4人は§§ミュージックの研修生になることになる。富山の山口、兵庫の吉沢、根室の高島の3人は近い内に足立区の寮に入ることになった。安良城謡子は他のオーディションを受けてみたいということで、§§ミュージックとは契約しないことになった。
門脇真悠(実家は徳島県)については「ボクは女装は好きだけど、女の子になりたい訳でも無いし、自分自身は男の意識だから、女子寮に入るのはまずいと思います」と言うので、西宮ネオンと同様、都内のマンションを斡旋して(家賃自費)、そこから研修所や芸能学校・音楽教室などにレッスンを受けに通うことになった。実は西宮ネオンと同じマンションなのだが、同じフロアで部屋が確保できなかったので、ネオンは7階、門脇は3階である。
彼はハナちゃんから“信濃町ガールズ”にも勧誘された。
「ミニスカート穿いて、アクアちゃんとか、ひろかちゃんとかのバックで踊るの?やりたい、やりたい」
と言って、(ハナちゃんの見解で)信濃町ガールズの男子メンバー第1号となった。ちなみに葉月は男子メンバーとは思われていない!
「出演料は原則として1ステージ3000円ね。もっと出る場合もあるけど期待しないで」
「お小遣いにしよう」
「あんた足の毛とかはどうしてるの?」
「生えてないです。ホルモン剤で第2次性徴を抑えているから」
「じゃ問題無いね。放送局に来る場合は学校の女子制服がいいんだけど」
「女子制服はけっこう着て歩いているから問題無いです。コーラス部の大会の時も女子制服だもん」
「それは凄い。あと、できたら出番の時は下着もブラジャーとパンティ着けてきてほしいんだけど。着換えることになる場合もあるから、男の下着はまずい」
「ブラジャー持ってません」
「嘘!? 何なら買物に付き合おうか?」
「心強いかも!ボク1人では女性下着売場に近づくの怖くて」
「誰も変に思わないと思うけどなあ。まゆちゃん、女の子にしか見えないもん。でもパンティとかビキニとかスカートとかはどうしたのさ?」
「通販で買いました」
「なるほどー」
「でも僕、胸が全然ないんですけど、ブラジャーなんて着けられるかなあ」
「ジュニアブラなら着けられるよ」
「ジュニアブラはアンダーが入らないと思うんですよ。僕のアンダーが入るのになると、Eカップとかのしかなくて」
“思うんですよ”と言っているが、着けてみたことあるな?とハナちゃんは思った。
「スーパーフック使えばいいのに」
「何ですか?それ」
「知らない?下着売場には売ってるから、教えてあげるよ」
「助かります」
「ブラジャーは学校行く時も着けておくといいね。まゆちゃんがブラジャー着けてても誰も変には思わないよ。おっぱい大きくするつもりはないと言ってたけど、胸の無い女の子でもブラジャー着けてるよ」
「ハマってしまいそう」
「ハマッても実害無いでしょ? どうせ睾丸は取るつもりなんでしょ?」
「友だちからは唆されているけど、まだ自分では悩んでます」
「取っちゃえば楽になるよ」
「あ、その“楽になる”という意味は分かります」