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■娘たちの1人歩き(13)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-09-23
 
名古尾プロデューサー、毛利五郎、金墨円香が自己紹介をしたが、春吉さんも舞鶴さんも毛利五郎を知っていた。
 
春吉社長は
「しぁたー・しぁたープロダクションの社長、シアター春吉で御座りまする」
と名乗る。
 
「それは博多の春吉近くにあった住吉演舞場から来たお名前とか?」
と優羽が尋ねる。
 
「よく知っているね。僕は春吉で生まれたんだよ」
「そうでしたか!」
 
「小さい頃から演劇に関わっていてね。僕も随分子役で住吉演舞場の舞台に立った」
「凄いですね」
「うちの父親も母親も役者でね」
「へー。俳優の家系なんですね」
「母親なんて、ダブルキャストだったから」
「えっと・・・」
 
「母親の1人は藤娘とかの踊りが得意な女形(おやま)で」
「へ?」
「もう1人の母親は役者と兼任で近くのゲイバーに勤めていたゲイボーイで、凄くきれいなドレス着て『愛の讃歌』とか『ミラボー橋』とか歌ってて、幼心にきれいだなあ、と思っていた」
 
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「ちょっと待って下さい。それどちらから産まれたんですか?」
 
と優羽が訊く。ボケられたらツッコむのがタレントの務めである!
 
「2人とも自分が産んだと主張していた」
「どうやって産むんです?」
「気合いじゃない?」
「じゃ私も30歳くらいになったら気合いで産んでみよう」
と優羽。
「頑張ってね」
と社長。
 
このやりとりを名古尾は困惑した表情で見ていたが、金墨は頷きながら聞いていた。
 

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「私は取締役のターモン舞鶴」
と舞鶴さんは自己紹介する。
 
「それは舞鶴城(**)で多聞櫓(たもんやぐら)ですね」
「あなた博多の出身?」
「実は祖母が博多の須崎町の出身なんです」
「博多のど真ん中じゃん!」
 
須崎は下川端通りに近い問屋街で、老朽化した安アパートの多い庶民の町だった。
 
(**)舞鶴城は福岡城の別名。
 
「今みたいにきれいになる前の下川端町の写真とか見せてくれました」
「うんうん。あそこはきれいになりすぎたね」
「きれいになったというか、町が消滅したというか」
「まあきれいさっぱり何も無くなりましたね」
「祖母が小さい頃、既にシャッター街だったらしいです」
「うん。僕が覚えている頃も、ほとんど開いている店が無かった」
と社長も言っている。
 
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「上川端通りには人がたくさん居るのに、大通り1つ挟んだ下川端通りには全然人が歩いていなかったらしいです」
「そうなんだよ。信号ひとつ渡るだけなのに。人の流れは微妙だよね」
 
「それでもうひとりの取締役のサニー春吉は今ステラジオのアルバム制作に付き合って某所に籠もっているのだよ」
と春吉社長は言っている。
 
(実際には療養中のステラジオに付き添い、ナミとふたりで絶対にホシから目を離さないようにしている。この時期ホシの周囲の人はホシが発作的に自殺したりしないか心配していた)
 
「それは・・・春吉の近くにあったサニー渡辺通店?」
「うん。今は西友になっちゃったけどね」
 
「あと2人取締役を増やす予定でね。1人がここに居るフロート大堀君」
 
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「みんなよろしく」
と言ってフロート大堀は全員に新しい名刺を配る。
 
「可愛い!」
と八島が声をあげた。その無邪気な様子に浮見子が微笑む。彼女の名刺は可愛い猫系キャラの漫画絵が描かれている。
 
「私の名前の解読はできるかな?ことり君」
「えっと、大堀は大濠公園から。フロートは大濠公園内の浮見堂からです」
「凄いね!実は私の本名がその浮見堂から取られているんだよ」
と言って、浮見子は優羽に渡した名刺の下に、大堀浮見子と可愛い字で書いた。
 
「私の母はもう亡くなっているんだけど、ピュア大堀だったのよ」
「うーん・・・大濠公園からは少し離れるけど、清川ですか?春吉に近いし」
「そうそう。母は清川で生まれたんで、清河(さやか)という名前だった」
 
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「ターモン舞鶴のお姉さんはこちらも亡くなっているけど、キャッスル舞鶴」
「それはそのまま舞鶴城ですね」
 
「以前居たマネージャーでメーン長浜という人がいたんだけど」
と浮見子は言う。
 
「それは長浜ラーメンですね」
 
「まあそういう訳で、僕と舞鶴姉妹と大堀君、それに長浜君も博多の出身でね。他にも何人か博多出身の社員がいるけど、最初は福岡で事務所を立ち上げたんですよ。それが20年ほど前に東京に移転したんですけどね」
と春吉社長が言う。
 
「ナラシノ・エキスプレス・サービスを売り出すためですね」
「よく分かっているね」
 

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「それでもうひとり加わる予定の取締役は今日は来ていないけど、メーン長浜の娘さんで、ハート長浜というのだけど」
と浮見子が言う。
 
「長浜にある一心亭かな」
「私、あんたたちが大好きになったよ」
と浮見子は言った。
 
「浮見子ちゃんがこの子たちを担当する?」
と春吉社長は訊く。
 
「いえ。私は昨日社長と話し合いましたように、ステラジオの担当で。この子たち、ハート長浜さんに預けましょうよ。若いから、きっと頑張って売り出してくれますよ」
 
「北野裕子ちゃんはマーメイド祗園で、三つ葉ちゃんたちはハート長浜というので、お互いライバル同士で頑張れるね」
 
と舞鶴が言っていた。
 
「まあそういう訳で切磋琢磨していこう」
と言って北野裕子が3人に握手を求めるので、3人とも
「よろしくお願いします」
と言って、笑顔で握手した。
 
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「でも今日は皆さん、わざわざ私たちを歓迎するのにコスプレして下さったんですか?」
と波歌(しれん)が尋ねる。
 
「うん。楽しいプロダクションだと思ってもらおうと思ってね」
と春吉は言うが
「やまとちゃんとか不安そうな顔してたよ」
と舞鶴が言う。八島(やまと)は
「御免なさい!」
と謝っている。
 
「でも木枯らし紋次郎に、黒田武士に、キャッツに、ごちうさって凄いですね」
と八島は取り繕うように言ったが、優羽が
「やまとちゃん、木枯らし紋次郎じゃなくて、国定忠治(くにさだ・ちゅうじ)」
と注意する。
 
「きゃー!ごめんなさい!」
と八島は再び言った。
 

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波歌がふと気付いたように言った。
 
「そういえば、社長と舞鶴さん、北野さんは、この会議室から出て来られましたけど、大堀さんはドアから入ってこられましたよね。全員同じ所から出てくるのは詰まらないから1人だけ別にしたんですか?」
 
「いや。私は今出勤してきたところだったんだよ」
「・・・別室で着換えてこられたんですか?」
「自宅で着換えてきたよ」
 
「・・・・」
「自宅からその格好で?」
「うん」
「自家用車ですか?」
「電車だけど」
 
「え〜〜〜!?」
とこれには3人とも驚愕した。物事に動じない優羽にも想像力の範囲外だったようだ。
 
「そういえば今日は電車の中で私のことじろじろ見つめる人あったなあ。この服何か変かな?」
 
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「私もフロートさんのこと大好きになりました」
と優羽(ことり)は言った。
 
「そう?よかった。じゃ握手」
と言って、フロート大堀と優羽は握手した。
 

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「ところでこの子たち3人のこの後の予定なのですが」
と言って名古尾プロデューサーは説明した。
 
「へー。しばらくレッスンを受けて、8月にCDを作って、手売りして3万枚売れたらメジャーデビュー、売れなかったら3人そろって性転換ね」
 
「それマジで性転換するの?」
と舞鶴さんが呆れて尋ねる。
 
「普通の男の子に戻るということで」
と八島は楽しそうだ。
 
「まあ男の子も楽しいかもね」
と優羽は笑っている。
 
波歌は嫌そうな顔をしている。
 
「性転換するなら、いい病院紹介してやるよ」
などと春吉社長は言う。
 
「社長、性転換なさるタレントさんもあるんですか?」
と金墨が尋ねる。
 
「ここだけの話だけど、海野博晃は密かに性転換して女になっちゃったんだよ」
 
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「え〜〜〜!?」
「彼は、ちんちん付いてるの嫌だ、取りたい取りたいとずっと言ってたからね。実は僕も3年前に性転換して男になったし、ターモン舞鶴君も去年までは美青年だったのが手術して美女に生まれ変わったし」
 
「私も実はまだ男の子だけど、来月手術を受けて本当の女の子に生まれ変わる予定だから」
と浮見子まで言っている。
 
悪のりして金墨まで
「実は私もデビュー前に海外で性転換手術受けさせられて女の子アイドルとして売り出されたんだよ」
などと言っている。
 
「ああ、この業界そういう話は多いですね」
と優羽も言った
 
むろん全てジョークである(と思う)!
 
でも波歌はジョークかどうかの判断がつかないようで不安そうな顔をしている。八島は本人が性転換と言い出したのもあるのか、楽しそうな顔をしている。この子は男の子になってもいいと思っているのかも!?
 
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なお優羽の“移籍問題”について名古尾プロデューサーはカメラをいったん停めさせてから事情を説明した。すると春吉社長は
 
「ああ、全然問題無い。僕は紅川君とは“女子高”の同級生だから」
などと言って、直接紅川会長に電話した。
 
「おはよう。実はそちらに所属していた“つじま・ことり”さんのことなんだけど。ああ、オーディション受けた話は聞いている?それで僕の所で使わせてもらおうと思って、そうそう。うん、それで500円くらいでどう?」
 
500円!?
 
「へー。そんなのでいいの?じゃ分かった。だったらカン子ちゃんの言う通り移籍金は200円ということで。うんうん、映像や音声はお互いにそのまま使っていいという条件で。OKOK。じゃ今度一緒にウナギでも食べに行こうよ。またね」
 
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と言って電話を切る。
 
「解決したよ。君の移籍金は200円になったから。明日にも振り込んでおくよ」
 
「200円・・・なんですか!?」
と優羽は少しショックを受けながら訊いた。私の値段って200円なの〜〜!?
 
すると北野裕子が言った。
「私1円で移籍したタレントさん知ってる」
 
「1円〜〜〜!?」
 
「帳簿上の備忘価額ってやつだな」
と名古尾さん。
 
「まあ人気絶頂のアイドルとかが移籍したら移籍金は数十億円ということもあるけど、まだ売れていない人だと1円もあるね。でも移籍金を払ったという事実が大事。それで円満移籍とみなされる」
と金墨さんが言っていた。
 
「アクアとかが移籍になったら、いくらくらいですか?」
と優羽は訊いてみた。
 
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「アクアちゃんなら3兆円だな」
と春吉社長。
 
「10兆円出す所もあるかもね」
と浮見子。
 
「アクアは10兆円で私は200円か」
「やる気無くした?」
 
「いえ、俄然やる気出ました。移籍金がせめて100億円くらいになるくらい頑張ります」
「よしよし」
と春吉社長は笑顔だった。
 
なお先週「はなやま・しれん」「つきじま・ことり」「ゆきおか・やまと」というテロップを入れてしまった件については、名古尾プロデューサーは責任を問われて“あそこ切断の刑”!に処せられ、処刑の様子がテレビでも流された。
 

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7月18日(月)朝1番にΘΘプロダクションから§§プロダクションに200万円の振り込みがあり、その入金を確認して月嶋優羽のマネージメント権の譲渡契約書が§§プロからΘΘプロに送付された。押印後1枚は§§プロに返送され、これで優羽のマネージメントはΘΘプロに移籍された。∞∞プロ系列の共通書式で、移籍前の優羽の音源や映像はそのまま§§プロ側が無償で使用してよい、などの条項が盛り込まれている。
 
優羽はこの譲渡契約書でΘΘプロとの契約が成立したので、ΘΘプロ・★★レコードとの三者契約書を新たに結んだのは、波歌・八島の2人だけである。
 

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