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■娘たちの1人歩き(15)

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千里たちは6月29日に帰国。そして7月2日から第五次合宿に入った。
 
7月2日の夜、毛利五郎から山森水絵のプレス直前のアルバムに修正依頼が入ったと連絡があった。千里は冬子に電話して代わりに修正作業をしてもらえないかと打診。冬子は快諾してくれたのでこちらは練習を中断しなくて済んだ。
 
7月6日の午後は練習が休みだったのだが、15時半頃、また毛利から連絡があり、山森水絵のアルバムに今度は1曲追加して欲しいという依頼がある。アクア主演で制作予定の映画『時のどこかで』のテーマ曲にするらしい。プレスは明日の夕方から始めなければならないので、今夜中に伴奏を収録し、明日の朝から山森の歌を録音したいという話だ。つまり今から4時間程度以内に曲を書かなければならない。
 
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千里は矢鳴さんを呼び出し、彼女の運転するアテンザの後部座席で曲をまとめようと考えた。しかし矢鳴さんが到着するまでは1時間半くらい掛かる。それで千里はそれまでに選手村の部屋の中で何とかとっかかりだけでも掴もうとした。
 
そこに玲央美が来訪する。『時をかける少女』のテーマ曲を書くことになったと言うと「私たちも時を駆けたね」と言った。
 
あれは7年前の2009年。U19日本代表に召集されていたのにそれから逃亡して他のことをして夏を過ごしてしまった千里は、年末に旭川N高校の後輩たちから『U19は凄い活躍でしたね』と言われた。何か変だと思いながらコンビニに行って玲央美と遭遇するが、玲央美も自分はU19に出た覚えは無いのに後輩たちからやはりU19での活躍を称えられたという。
 
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2人は何かおかしいと言いながら千里が運転するインプレッサの中で話し、更に道路脇に停めて話していたら、江美子が自分のランエボを寄せてきて言った。
 
「日本代表の合宿が始まるよ」
と。
 
2人は2009年12月21日の朝にコンビニで遭遇してその後話し込んでいたはずなのに、時計を見たら2009年7月1日だったのである。そのあと2人はU19世界選手権が終わるまで35日間“タイムシフト”した中で時間を過ごすことになる。
 

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そんな話をしている内に頭の中にメロディーが浮かんでくるので書き留める。そして当時のことを懐かしそうに玲央美が語る中で千里は曲をまとめていった。
 
やがて矢鳴さんが来るので千里は彼女が運転するアテンザで出かける。首都高をぐるぐる何度も周回してもらっている間に曲をまとめていく。そして19時過ぎスタジオに入り、毛利さんにギターコード付きメロディ譜を手渡した。
 
「ハサミで切ってセロテープでくっつけてある!」
「カット&ペーストです」
 
「タイトルは『∞の鼓動』か」
「∞は悠久の時の流れを表しています」
 
「メロディーが二重になっている所があるけど」
「多重録音でよろしく」
 
「あ、これって一種の輪唱だ。すっごく離れているけど」
「メロディーがタイムリープしているんです」
 
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千里の手書きの譜面ではさすがにそのまま演奏できないというので、この後、千里、毛利、女子大生?の奥原沙妃、ハナちゃん!の4人でこのつぎはぎだらけの譜面を“大雑把に清書”し、千里がチェックして多少の修正、毛利の意見で更に調整をした。
 
ちなみにここにハナちゃんが居たのは、急遽1曲追加しなければならなくなり、ミュージシャンを集めている時間が無いので、毛利がアクアの制作もしている縁で品川ありさのバックバンド・フィフティースリーをまるごと呼び出して徴用したためである。ハナちゃんは先月からこのバンドのベーシストに就任している。
 
この譜面をコピーしてバンドメンバーに配り朝までに実際に演奏しながら曲を練り込み、伴奏音源を完成させることになるが、千里は解釈が難しい所を「ここはこんな感じで」と言って、実際にドラムス、ベース、ギター、キーボードを弾いて演奏してみせた。
 
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「鴨乃先生、何でもできる!」
とフィフティースリーのメンバーが感嘆していた。
 
「鴨乃君は、何でもちょっとだけできるんだよ」
と毛利。
 
「自信があるのは横笛だけ。あとはかなりごまかしがある」
と千里も言う。
 
「そうだ、その横笛を吹いてよ」
と毛利は言い、千里はスコアに指定されているフルートパートを吹き、これはそのまま発売音源に残ることになった。
 
千里は2時間ほどスタジオで作業をした上で
「宿舎に戻らないといけないから」
と言って21時頃、選手村の自室に戻ることにしてスタジオを出た。
 

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千里が帰った後、バンドメンバーは徹夜でこの曲を演奏しながら練り上げ(ハナちゃんが高校生であることは無視されている)、(7月6日) 午前4時頃に完成の域に到達した。それで全員スタジオ内で仮眠する(毛利だけ廊下で寝た。彼以外は女子である。この場では取り敢えず奥原沙妃も女子扱いでいいことにした)。
 
朝6時に山森水絵が来てくれたので、最も元気な奥原の指導のもと、伴奏音源を聴かせて歌わせる。元々歌がうまい子なので1時間で充分良いできになる。それで7時すぎにはミックスダウンをして、9時までにはマスタリングを終え、起きてきたハナちゃんがタクシーで工場に持ち込んだ。
 
そしてこの曲は7月8日朝からテレビCMの映画トレーラーのバックに流され始めた。この時点では実はまだ映画はクランクインさえしていない!このトレーラーに使用された映像は5月の段階で、アクアと木田いなほの2人だけで撮ったものである(数日後に元原・広原・黒山も入ったバージョンに差し替えられる)。
 
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一方、千里はスタジオを出て合宿所に戻ろうとしていたら、途中の路上で偶然冬子・政子に遭遇。彼女たちを恵比寿のマンションまで送っていくことにする。ところがその途中で更に淳と会う。淳は
 
「赤ちゃんが生まれそうなので仙台に向かおうとしていた所」
と言う。すると政子が
「赤ちゃん見に行こう」
 
と言うので、結局4人でそのまま千里のアテンザで仙台に行くことにし、千里は《すーちゃん》に身代わりで合宿所に戻ってもらうことにした。千里は青葉のサポートも必要だと思い連絡したら「じゃ私も車でそちらに向かう」と言う。
 
「青葉、車あるの?」
「彪志がこないだフリードスパイク買ったんだよ」
「だったらさ、少し遅れてもいいから、桃香も一緒に連れて来てくれない?」
 
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それでこの夜、千里たちより少し遅れて青葉・彪志・桃香の3人も仙台に向かった。
 
赤ちゃんは7月7日朝4:20に生まれた。
 
千里たちはこの出産に間に合ったが、青葉たちは間に合わなかった。しかし青葉は途中のPAから千里を“端末”に使って赤ちゃんの出産をサポートしてくれた。この時桃香がそばに居たことで、この作業をスムーズに進めることができた。桃香の曖昧なものを嫌う性格(才能?)が、曖昧な状態で胎内に存在していた赤ちゃんを現実世界に連れてきたのであった。
 

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貴司たち男子日本代表は7月4-10日にセルビアのベオグラード(旧ユーゴスラビアの首都)で行われたオリンピック世界最終予選に出場していた。この予選は世界3ヶ所(トリノ・マニラ・ベオグラード)に分けて行われ、各大会の優勝者のみがリオ五輪に出場することができる。
 
しかし日本はラトビアとチェコに連敗して、決勝トーナメントにも進出できなかった。
 
チェコとの試合は7月6日の21:00-22:45に行われ、千里は現地まで応援に行っていた友人から現地時刻の22:50 (日本時間 7/7 5:50) に結果のメールをもらった。仙台駅で東京行きの新幹線を待っている時にこのメールを受信したのだが、すぐ貴司に「惜しかったね。お疲れ様」というメールを送った。貴司は控室で監督や協会の人たちの話を聞いて着換えようとしていた時にメールに気付き、もう知っているとは!と、びっくりしたらしい。
 
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なお日本バスケットボール協会のfacebookに敗戦の報が書き込まれたのは日本時間8:11であった。
 

7月7日(木)23:59.
 
『ときめき病院物語II』の8月5日放送分までの収録が終わった。正確には強引に終わらせたというのに近い。
 
8月12日放送分以降は8月1日から撮影再開することにし、約3週間のお休みに入る。しかし8月1日から、絶対に収録終了しなければならない8月31日までの1ヶ月間で残り6回分の収録をすることになる。再開後はハードスケジュールになるものと予想された。
 

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7月8日(金)朝6:00.
 
この日の朝から“アクア主演映画『時のどこかで』(原作:筒井康隆『時をかける少女』)8月12日全国ロードショー”というトレーラーのCMが一斉にテレビで流れ始めた。
 
しかし実は、その映画の撮影はこの日早朝から始まる予定だった。ところがスタジオに顔を出したのは、プロデューサーの逆池、監督の田箸、脚本の花崎弥生、の他は、福島先生役の沢田峰子、芳山和夫の両親役2人、浅倉吾朗役の広原剛志、吾朗の両親役2人、の6人だけであった。
 
実は今日の朝から撮影に入るつもりで準備していた所、昨日の夕方、労働基準監督署の労働基準監督官が直々に制作委員会の事務局を訪れ、この映画に出演予定の複数の中学生の親から通報があり、学校の授業がある日なのに朝から撮影に入るよう要求されたというが、小中学生を就学時間内に使用するのは違法なので、絶対にそのようなことがないようにしてもらいたいと警告を受けたのである。
 
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更に18歳未満の労働は1日最大10時間・1週最大40時間・最低1日の休みとなっているので、それを遵守すること、労働計画書も提出することを約束させられた。それで制作委員会で急遽検討して、このような労働時間予定をまとめた。
 
日10 月(休) 火5 水5 木4 金5 土10
 
10時間労働の日を作る場合4時間以内の日もなければならないので木曜を4時間とする。平日の5時間は17-22時である(年少者の午後10時以降・午前5時前の労働は禁止)。学校が夏休みに入っても“最大40時間”は遵守しなければならないので、結果的に上記の時間内で撮影するしかない。
 
それで高校生以下の俳優全員に8日は学校が終わってから出てくるように一斉メールしたのである。
 
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結果的に、アクア(中3)、今井葉月(中2)、元原マミ(高3)、黒山明(高1)、木田いなほ(中2:滝蜜子がもらった芸名)、および生徒役の役者全員!が平日の日中は使えないということになってしまった。
 
そのメンツが居なければ撮影できるシーンは存在しない。
 
それで19歳大学生の広原剛志と、おとなの主な役者は一応顔を出したものの、監督から「今日の撮影は17時からになった」と言われ、沢田峰子さんが
「私がおごりますから、お茶でも飲んでからいったん帰りましょう」
と言って、結局全員引き上げたのであった。
 

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「元々撮影期間が短く、この3週間はフル稼働で撮影をしないと間に合わないスケジュールでした。この撮影時間では7月中に撮影を終えるのは不可能です。どう考えても9月いっぱいまで掛かります。映画の公開を延期してください」
 
と田箸監督は言った。
 
「いや8月になったら『ときめき病院物語II』の撮影を再開しなければならない。だから7月31日を越えての撮影はできない」
と逆池プロデューサーは言った。
 
「そんなこと言われても不可能なものは不可能ですよ」
と田箸は言う。
 
1時間ほどの激論の末、とうとう監督は切れた。
 
「そんな無茶な撮影はできません。短時間に仕上げようとするとクォリティの低い演技のままになってしまいます。そんな作品なんて公開できませんよ。それで強行するというのなら私は責任を持てません。辞めさせて頂きます」
 
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それで田箸は帰ってしまった。
 

「どうします?私も田箸さんの意見に賛成だけど、ここで中止する訳にもいかないことは理解します。もう公開日を明示した予告編までテレビで流しているのに中止も延期もできませんよ」
 
と脚本の花崎弥生が逆池に訊く。
 
「どうしようか?」
と逆池も困ったように腕を組んで考え込んだ。
 
ちょうどそこに人が来る。
 
「あれ?撮影は休憩中ですか?」
「えっと?」
 
「すみません。河村と申しますが、沢田峰子さん、こちらにおられません?」
 
「今日はいったんお帰りになって夕方からまたいらっしゃるのですが・・・あれ?『ハチミツ日記』の河村監督でしたよね?」
と花崎が言った。
 
「はい、『ハチミツ日記』や『讃岐うどん大戦争』の監督をさせて頂きました」
 
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「あなた昨年『ねらわれた学園』の監督をなさいましたよね?」
と逆池が立ち上がって河村のほうを向いて訊く。
 
「はい」
 

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「『ハチミツ日記』は、いつクランクアップですか?」
「先週撮影終了したんですよ」
「河村さん、次の予定は?」
 
「え、えっと、10月放送開始予定のキャロル前田ちゃん・七浜宇菜ちゃんW主演『変身!ポンポコ玉』の監督をする予定です。キャロルちゃんの女装・宇菜ちゃんの男装がたくさん見られるらしいと、前評判が高まっていますけど、こちらは倫理委員会との打合せが大変で」
 
「それ、いつクランクイン?」
「えっと・・・9月撮影開始で10月撮影完了予定です。それまでは使い走りばかりで」
と言って頭を掻いている。
 
「3ヶ月のドラマでしたっけ?」
「いえ。10月から3月まで半年間22本の予定です」
「それを2ヶ月間で撮影するんですか!?」
 
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「キャロル前田ちゃんのスケジュールが厳しいので、その2ヶ月間だけ空けてもらって、その間に高圧縮撮影です」
 
「どうやって圧縮するんですか?」
 
「キャロル前田、七浜宇菜のボディダブルを各々3人ずつ使います。どちらも女の子ばかりですが。それで同時進行で各々セットを組んだ8個のスタジオの8台のカメラで計画的に撮影を進めるので2ヶ月間に6ヶ月分の撮影ができるんですよ。コンピュータのマルチコアみたいなものですね。費用は倍かかりますけど」
 
逆池と花崎は顔を見合わせた。
 

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娘たちの1人歩き(15)

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