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■娘たちの1人歩き(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-09-20
 
2016年3月下旬、仕事で鹿児島まで行ったアクアは鹿児島市近郊の温泉旅館に泊まった。仕事疲れが一気に出て旅館に辿り着く間もなく、御飯も食べずに眠ってしまった。目を覚ますと夜中の1時で自分の分の御飯がテーブルに置いてある。そして「お刺身は冷蔵庫」と書かれていた。
 
お腹も空いているが汗を流したい気分だったので、お風呂に行く。
 
「えっと、どちらに入るんだっけ?」
と一瞬悩んでしまった。
 
「えっとボク多分男の子だよね?」
 
などと独り言を言いながら、男湯に行く。何だか《男》と大きく書かれた文字が自分を拒否しているような気がした。実を言うとアクアは男湯に入った経験が無い!
 
それでドキドキしながら(まるで覗きでもするみたいな気分だった)、脱衣場の戸を開けた。すると裸の男性が3人いて、こちらを見てびっくりしている様子。
 
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「君!こちらは違う!女の子は向こう!」
と言われたので
「御免なさい!間違いました!」
と言って戸を閉めて外に出る。
 
なんかおちんちん大きかった!びっくりした!
 
でもボク間違ったっけ??
 
と考えてみたものの「向こうに入れ」って言われたよなあと思い、だったら仕方ないよね?などと自分に言い訳をして、女湯の暖簾をくぐった。
 
誰も居ないようである。それで服を脱いで浴室に入るが、やはり誰も居ないようだ。拍子抜けした思いで髪と身体を洗い、湯船に浸かる。
 
その時初めて湯船に誰かいるのに気付く。嘘!?誰も居ない気がしたのに!
 
「丸山アイさん!?」
「おはよう。アクアちゃんってやはり女の子だったんだね?」
と丸山アイは優しく言った。
 
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アクアが自分は男の子だけど、男湯に入ろうとしたら、こっち違うと言われたと説明すると、アイは笑った上で、
 
「そういう時はちゃんと自分は男です、と説明しなきゃ」
「そうですよね〜」
 
「でもこの身体では説明困難な気もするけどね」
と言ってアイはアクアのおっぱいにも触る。
 
「ちんちんも無いし」
「あるんですけど、小さくて身体に埋もれているんですよぉ」
 
「アクアちゃん、自分自身はどう思っているの?自分は男だと思っているの?女だと思っているの?」
 
「どっちだろう・・・」
アクアはあらたまって訊かれて迷ってしまった。そして5秒くらい考えてから
 
「ボクやはり自分は男の子だと思います」
 
アイは「男か女か」と訊いたのにアクアは「男の子」と答えた。アイはその微妙なニュアンスを感じ取ったが、アクア自身は気付いていないようだった。
 
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「じゃ質問を変えるよ。アクアちゃん、男の人と結婚したい?女の人と結婚したい?」
 
「それよく訊かれるんですけど、結婚とか恋愛とかいうの自体が分からないんです」
 
アイはそのアクアの答えに頷き、無理にどちらかに決める必要は無いとも言った。
 
「誰か好きになったら、男でも女でも気にせず結婚すればいいんだよ」
「あ、それでもいいかな」
 
「だけど、アクアちゃん、一応男の子だと思っているのなら、やはり男湯に入らなきゃ」
「そうですよね!」
「次からは男と書かれた身分証明書とか用意しておいてさ、自分は男ですと主張しよう」
「あ、身分証明書というのはいい手ですね!」
 

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その時はそんなことを話したのだが、アクアが温泉に入る機会は割とすぐにやってきた。
 
ゴールデンウィークのツアーで初日は札幌だったのだが、宿泊は札幌から車で30分ほど走った所にある小さな温泉宿に泊まった。
 
この日は車の中で一眠りしたおかげで、晩御飯は食べることができたものの、その後お風呂に行く前に眠ってしまって、またまた起きたのは夜中の2時だった。
 
「お風呂行ってこよう」
などと独り言を言ってから、お風呂セットを持って温泉に行く。こないだアイさんに言われたので、アクアは「性別:男」と印刷された生徒手帳を持ってきた。疑われたらこれを見せればいいよねと思ったのだが・・・
 
「これどっちに入ればいいんだっけ?」
と悩む。
 
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左手にニタイノンノの湯、右手にカムイワッカの湯とある。それで必死に思い出すと、旅館に着いた時仲居さんが、「女湯はニタイノンノの湯です」と言った気がした。
 
ということはニタイノンノの湯に入ればいいのかと思い、左手に行きかけてから
 
「待って!ボクたぶん男の子だから男湯に入らなきゃ!」
と気が付く(実はライブの疲れで頭がちゃんと回転していない)。
 
それでニタイノンノの湯の入口の所まで行ってから、名残惜しそうにその戸を見て、カムイワッカの湯に行った。それで身体を洗って浴槽に浸かっていたら
 
「あれ?アクアって女湯に入るんだっけ?」
と声がする。見ると秋風コスモス社長である。
 
「え?ここ男湯じゃないんですか?」
「12時までは男湯だったけど、12時過ぎたら女湯になるんだよ。1泊で両方のお風呂に入れるようにそうなっているんだよね」
 
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「そうだったんですか!」
「12時になる瞬間にそのお風呂に入っていた人は性転換される」
「マジですか?」
「ジョークだけど」
 
「びっくりしたぁ。でも済みません。そんな説明聞き漏らしていました。すぐあがります。ニタイノンノの湯の方に行きます」
とアクアは言ったが
 
「でも他に客も居ないし、このまま入っていてもいいと思うけど」
などとコスモスは言っている。
 
「でも痴漢とかと思われたらいけないし」
「アクアはむしろ男湯に入ったら痴漢と思われるね」
「え〜?そうですか?」
 
「だって小さいけどおっぱいあるし、ちんちんは無いし。普通それを見たら小学4年生くらいの女の子だと思うよ」
 
「私実際小学4年生くらいの身体なんですよ」
 
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それで結局女湯の中でコスモスと15分くらい話した上で
 
「やはり向こうに行きます」
と言ってアクアは女湯を出た。
 

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いったん服を着てから、今度はニタイノンノの湯に行く。ドキドキするのを抑えながら中に入る(実は男湯初体験!)。誰も居ない。それで服を脱いで浴室に入り、簡単に掛け湯をする。身体はもう女湯のほうで洗ってきているのだが、気持ち、一通り再度身体を洗う。それで浴槽に入る。
 
すると声を掛けられた。
「アクアちゃん、おはようございます」
「え?丸山アイさん?おはようございます」
 
「でもアクアちゃん偉いね、今日はちゃんと男湯に入っているのね?」
「ええ。こないだアイさんから注意されたし。でも何でアイさんは男湯に入っているんですか?」
 
「だって私男だもん」
 
「うっそ〜〜!? だって、こないだは女湯にいたじゃないですか?」
「うん。私、女湯に入るのが趣味なのよね〜」
 
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「え〜〜〜!?」
 
「でも今度は私がアクアちゃんに叱られちゃうね。退散するね。じゃね」
と言って丸山アイはお風呂を出た。胸はうまく手で隠している。股間の付近を見ていたが、特におちんちんのようなものがあるようには見えなかった。
 

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5月中旬、アクアと秋風コスモスはΛΛテレビに呼び出された。時期的に秋からまたアクア主演のドラマを撮りたいという話かと思った。昨年秋からこの春にかけての『ねらわれた学園』は17時代としては異例の高視聴率をあげている。
 
「映画ですか?」
とアクアは驚いて声をあげた。
 
「昨年『ねらわれた学園』が大成功だったので、それと並ぶ古典的SFジュブナイルの『時をかける少女』をやろうという話が持ち上がったのですが、この小説は内容が少ないんですよ。あまり事件らしい事件が起きないまま収束してしまう。それで原作の内容を先行して映画でやってしまい、その後はオリジナル脚本で10月から3月まで連続ドラマをやろうという企画なんです」
 
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と逆池プロデューサーは言った。
 
「10月から連続ドラマを放映し、その前に映画を公開するというのはスケジュールが厳しくないですか?」
と秋風コスモスは尋ねた。
 
「映画を7月中に撮影して8月上旬に公開し、その後8月中旬からドラマの撮影に入ります」
「1ヶ月で映画を作るんですか!?」
 
「大丈夫ですよ。映画というより1時間半のドラマと思ってもらえばいいです」
と逆池。
 
「アクアに無理な負荷を掛けないのでしたら内容によってはお受けします」
とコスモスは答えた。
 

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「それでアクアの役どころは・・・浅倉吾朗ですか?」
「いえ芳山和子をお願いしたいんですが」
「アクアは男性俳優ですので女役はお受けできません」
「と言われると思いましたので、設定を変更して男の子の芳山和夫というのでどうです?」
「それケン・ソゴルの仮名(かめい)深町一男と同音になりますけど」
「そちらは一彦で」
 
「でも和子ではなく和夫なら『時をかける少女』になりませんよね?」
「はい、それでタイトルも『時のどこかで』とする予定です」
 
「男役ならお受けできますが、それちゃんと物語が破綻せずに組み立てられます?」
とコスモスは本気で心配して質問した。
 
芳山和夫とケン・ソゴルでは恋愛要素を出す訳にはいかない!
 
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「大丈夫です。任せて下さい」
と逆池は言ったが、コスモスもアクアも逆池の適当そうな雰囲気に一抹の不安を感じた。
 

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テレビ局からの帰り、コスモスが運転するマツダ・ロードスターの助手席で、アクアはコスモスに尋ねた。
 
「今年は『ねらわれた学園』の小池プロデューサーじゃなかったんですね?」
「うん。小池さんはどうもキャロル前田主演のドラマを撮るみたいだよ。それでアクアの企画は予算が大きいこともあってベテランの逆池さんが担当することになったんじゃないかな」
 
小池はまだ20代のプロデューサーだが、逆池は50代のベテラン・プロデューサーである。これまで多数の人気ドラマを世に送り出してきている。特に30年間も続いたホームドラマ『豆腐の角も削れば丸』はオバケ的な視聴率を上げ、特に現在の40-50代以上の人を中心に大量のファンが居る。その成功のおかげで、将来のΛΛテレビ社長という呼び声もある。
 
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「キャロル前田ですか!あの子、可愛いですね!最初会った時、てっきり女の子かと思っちゃった」
とアクアは言った。
 
「向こうもアクアちゃんって女の子とばかり思ってたと言ってたね」
「そうですか?ボク女の子に見えますかね?」
 
コスモスはさすがに返事に窮した。
 
「世間ではアクアのライバルとか言われているみたいだけど」
「ライバル大いに結構です。競い合うの大好きです」
「うん。アクアはそう言うと思った」
と言ってコスモスが笑っているので、アクアはなぜ笑うのだろうと疑問を感じた。
 

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アクア主演の映画が夏に公開され、その続きが秋からのドラマで放送されるという情報が公開され、アクアの相手役の男性俳優オーディションが行われることになった。条件がかなり話題になる。
 
・年齢15-19歳の日本人男性で事務所との契約関係が無い人
・体重35kgのアクアを抱えて10m以上歩ける人
 
オーディションではアクアに見立てた35kgの人形を持って実際に10m歩いてもらいますと書かれていた。
 
このオーディションには力自慢のスポーツマンが多数参加し、元ラクビー部の19歳・広原剛志君が合格した。彼は腕力があるのに比較的細身で、浅倉吾朗のイメージにぴったりであった。彼はオーディションの時「このくらいの重さなら100m走れます」などと言うので、実際にやってもらった。本当に35kgの人形を抱えて100m走ってきたのに、あまり息が乱れていなかったので
 
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「君凄いね!」
と脚本を担当することになった花崎弥生さんが歓声をあげていた。
 

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娘たちの1人歩き(9)

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