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■娘たちの1人歩き(10)

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5月下旬、アクアは「映画のプロモーションビデオを撮りたい」と言われて、都内のスタジオに出て行った。いきなり白いドレスを渡される。
 
「あのぉ、これ女の子の衣装のような気がするんですけど」
 
「いいじゃん、いいじゃん。可愛いアクアちゃんを見たいというファンの要望があるからさ。こういうのって若い内しかできないもん」
 
などと逆池さんに言われてドレス姿で写真・ビデオを5分くらい撮られた。
 
しかしその後は学生服を着てくださいと言われてホッとする。それで着換えてからスタジオに戻ると、知らない女の子がいた。
 
「おはようございます。滝蜜子(たきみつこ)と申します。まだ芸名は頂いておりませんが、よろしくお願いします」
と言って丁寧に挨拶する。
 
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「映画の出演者さんですか?」
「そうそう。先週オーディションやって3000人の応募者の中から選ばれた」
「先週は浅倉吾朗役のオーディションしたのかと思ってました!」
「午前中に女子のオーディション、午後から男子のオーディションをしたんだよ」
「慌ただしいですね!」
 
それでアクアと滝さんの絡みの撮影をおこなう。滝さんはモンペを着て、顔も煤(すす)で汚れた感じのメイクである。どうも戦時中の設定のようだ。アクアは『時をかける少女』にこんな場面あったっけ?と思った。逆池さんは
 
「もし生き延びたいなら、僕についておいで」
 
という台詞をアクアに言うようにいった。
 
「それって、ターミネーターの "Come with me if you want to live" ですか?」
「そうそう。若いのによく知ってるね。ターミネーターもタイムトラベルものじゃん。それにリスペクトしてこの台詞を考えたんだよ」
と逆池さん。
 
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考えたというよりまんまじゃんとは思ったが、アクアは座り込んでいる少女を演じる滝さんを前に
 
「もし生き延びたいなら、ボクについておいで」
と言った。
 
監督の田箸さんが
「アクアちゃん、少しイントネーションが違う」
と言ったのだが、逆池さんは
「いや、今のイントネーションのほうがアクアちゃんらしくていい」
と言い、これで1発OKとなった。
 

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『スター発掘し隊』の女性歌手オーディションの方だが、5月7日朝1番に名古尾は合格者を所属させてくれることになっていた(滝口推薦の)卍卍プロに連絡を取った。ところが卍卍プロは「そんな数ヶ月育成してデビューなんてのは話が違う。しかも3人というのも話が違う。うちではソロ歌手で即デビューというのでなければ受けられない」と言ってきたのである。
 
それで卍卍プロは使えないことになった。名古尾自身、卍卍プロにあまりいい印象を持っていなかったので、これはもうキャンセルでよいことにした。午前中サポートのためにΨΨテレビに来てくれていた★★レコードの加藤次長も
 
「卍卍プロと関わるとろくなことないです。他のプロダクションを僕が推薦するよ」
と言うので、卍卍プロから要求されたキャンセル料300万円を★★レコードが払い、こことの関わりを消した(滝口がこことの契約を進めていたので★★レコードが責任を取った)。
 
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それで結局、7日午後からの撮影では、プロデュースするミュージシャンも未定、担当してくれる事務所も未定、という状態で撮影をせざるを得なくなった。
 
「じゃプロデュースしている大先生が3人とも不合格だけど3人まとめてならギリギリ1人分と言っているということにして」
と名古尾。
 
デンチューの2人は不安そうな顔をしている。それで金墨が言う。
 
「じゃ私がその大先生からの伝言を伝える係を演じるよ」
「分かった、頼む」
 

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撮影が始まる。ラフなシナリオが完成したのは撮影開始の30分前である。
 
「え?私男装するの?」
と金墨が焦ったように言う。
 
「最初は後ろ姿を映して、その大先生かと思わせておくんだよ。金墨さん、かなり低い声が出るじゃん。それでお願い」
「まあいいよ」
「次回は女装させてあげるから」
「その女装って凄く怖い」
 
ミスると物凄く詰まらなくなるので、デンチューの2人と金墨、それに3人を連れ戻す役の3組のAD・カメラマンとで、綿密に打ち合わせた。
 
スタッフ間でかなり議論したのだが、3人の内、演技力のある波歌と優羽には演出上いったん落選を伝えたあと呼び戻すというのを予め伝えることにした。これは名古尾が個別に2人と電話してOKをとり、本人たちの希望に添って急遽シナリオが作られた。事実上の合格連絡なので2人とも物凄く喜んでいた。演技力のあまり無い八島はガチで撮影することにしたが、これが思わぬトラブルを起こすことになる!
 
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マイクロバスで12人がホテルからテレビ局に移動し、4番スタジオに入ってもらう。同局で最も広い300坪のスタジオで抽選で選ばれた観客も入っている(サクラを30人混ぜている)。
 
撮影が始まる。
 
スタジオに作られたステージに参加者12名を並べて自己紹介の上で1人ずつ歌も歌わせる。審査を待つ間(と称して)中野でのステージオーディションの映像も流す。1人ずつ歌を歌わせデンチューの2人が各々に話しかける時、春都の性別も明らかにされるが、観客席から「うっそー!?」という声が出ていた。
 
「これは女性歌手オーディションだから、もし優勝したら、即性転換手術を受けてね」
「分かりました。思い切って手術を受けます」
 
そしてCM明けという設定で、司会役のデンチューは
 
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「合格者はありません。全員落選です」
と言う。
 
スタジオに集まっている観客から
「え〜〜!?」
という声が出る。
 
参加者たちはお互い顔を見合わせてから指示に従って退場する。全員に交通費や日当が配られる。そして解散する。
 
(スタジオにいた観客は、合格者無しということになり、全員退場した所までしか見ていない:それで「合格者無しらしい」「この先は第二回オーディションの企画とかかな?」「○○番の子可愛かったのに」「次は男子オーディションかも」などの書き込みしかネットには流れていなかった)
 

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「春都ちゃん、性転換手術が受けられなくて残念ね」
と紀子が声を掛けた。
 
「ちょっと残念なようなホッとしたような」
「ああ、やはりまだ性転換する覚悟ができてないんだ」
と優羽。
 
「迷いがないと言えば嘘になるよ」
と春都。
 
「後戻りができない手術だもんね」
と紀子。
「既に後戻りできない所まで来ている気がするけど」
と優羽。
 
春都におっぱいが少しあるのは、合宿参加者には既にバレている。本人は明言しなかったが、多分女性ホルモンをやっている。
 
「でも女子制服を着て通学していいというのは、お父ちゃんが学校と交渉してOKになってるから、この後は女子制服で通学する」
「良かったね!」
 
「でも20歳までには性転換手術を受けなよ」
「そうしたいー!」
「だったらこの後、都内の病院で去勢してから福岡に帰るとかは?行けば即去勢してくれる病院知ってるよ」
 
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なんでそんなの知ってんのさ?
 
「それお父ちゃんに叱られるよ!」
「言わなきゃバレないって」
 
(島田春都が実際に性転換手術を受けるのは2018年夏で、20歳の誕生日が過ぎてからになった。去勢したのは高校卒業後の2017年・・・と本人は主張している)
 

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テレビ局のスタッフが解散した12名の内、波歌(しれん)、優羽(ことり)、八島(やまと)の3人を追いかけ、スタジオに呼び戻した。この時、八島を追っていたカメラマンが、駅構内で痴漢と誤解され、八島が悲鳴をあげたので周囲の乗客に取り押さえられるというハプニングが起きた。
 
同行していたADがテレビの撮影だと説明し、八島がその説明に納得したのでカメラマンは解放してもらえたが、彼は
 
「人生終わったかと一瞬思った」
などと言っていた。
 
その話を聞いた優羽が
「ヤマトちゃんで良かったですね〜。私は空手初段だから、痴漢だと思っちゃったら二度と使えなくなるくらいの力で蹴り上げていたかも」
 
などと言うので、優羽担当のカメラマンは
「男を廃業するのを免れたようだね」
と名古尾から言われて冷や汗を掻いていた(この部分台本!)。
 
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3人を小さなスタジオに入れ、椅子に座らせてから、金墨が“大先生のメッセージ”を伝える。実際には加藤次長が作文したものである(そのことを3人は知らない・・・はずだが、実際には優羽はだいたい想像していた)。
 
“大先生”の見立てでは、全員合格レベルに達していないということだったので不合格にしたが、この3人はまだ少しは見込みがあり、3人合わせれば1人分くらいになるので、3人でユニットを組んでもらうという話をする。それでしばらくレッスンを受けて鍛えて、8月にCDを作り、それを手売りして3万枚売れたらメジャーデビュー、売れなかったら“普通の女の子に戻る”という方針を伝えたのである。
 
(村上専務は5万枚と言い、会議でも最初はそのくらい行けるだろうと多くの会議出席者が言ったが、金墨は万一のことがあったら大変なので3万枚にしましょうと提案。確かにもし到達しなかったらとんでもないことになるというので名古尾やなぜか会議に出席させられていた蔵田孝治!もそれに賛成してノルマは3万枚に軽減された)
 
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もっともここで金墨が
「普通の男の子に戻ってもいいけど」
と言ったら、八島が
「それもいいですね」
などと言ったので、
 
「だったら、売れなかったら全員性転換ね」
と言われてしまう。
 
「それヤマトちゃんだけじゃなくて?」
「連帯責任」
「え〜〜!?」
「おっぱい無くしたくなかったら頑張ろう」
 
この撮影内容が放送されるのは5月12日(木)である。今から5日以内に、この放送ででっちあげてしまった“大先生”を誰かにお願いし、またできるだけ早く引き受けてくれるプロダクションも見つける必要があった。
 
それで、名古尾、加藤、明智、ケイ、蔵田孝治、などが走り回ることになる。ケイにしても、蔵田にしても、本来ただの通りすがりである!
 
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NTCで合宿をしていた千里は、金沢K大水泳部の事件で1年前に病院の窓から突き落とされ意識不明になっていた幡山ジャネが意識回復したことを聞いた。彼女を何かサポートしてあげられないかと考えていて、先日の高知県での法事で会った舞耶が義肢製作会社に勤めていたことを思い出し、連絡を取ってみた。
 
舞耶は日本代表候補にもなっていた水泳選手の足先切断と聞き、ひじょうに興味を持った。そしてスポーツ選手向けに開発中の義足があると言い、製品開発のテストに協力してもらえないだろうかということだったので、取り敢えず本人を連れて行くと言った。
 
千里の合宿は5月11日に終了したのだが、ここで前田彰恵が、ブラインド・バスケットボールの話をした。以前インターハイにも出たことのある優秀な選手で鱒鷹さんという人が、学校で化学実験をしていた時に事故が起き失明し、バスケットの道を断念したのである。ところがその彼女が今ブラインド・バスケットをしていると彰恵が言ったのである。
 
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「目が見えなくてもバスケットができるの?」
「ちょっと面白いよ。見てみる?」
「見てみたい!」
 
それで千里を含む数人の選手が合宿終了の翌日・12日、ブラインド・バスケットボールの練習試合を見に行くことになったのである。
 

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ボールからは常に音が出ているので、その音を頼りにボールの位置を判断する。自分の近くを通過すればドップラー効果でそれを認識できる。ゴールからも音が出ているので、それを頼りにシュートする。コートの周囲には目立つ色のマットを敷いていて、その色の違いとマットの感触でコートの範囲が分かるようにする。全盲の人は赤い腕章を付けていて、この人たちはゴールに入らなくても、バックボードに当たっただけで得点が認められる。
 
千里はこのブラインド・バスケットボールの試合が今週末に神奈川県内で行われると聞き、これをジャネに見せてあげたいと思った。目が見えなくてもバスケットをしている人たちがいるのを目の前で見せれば、足の先を失い、もう水泳選手はできないと思っているジャネを勇気付けられると思ったのである。
 
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それで青葉に連絡した所、青葉、ジャネとお母さん、それに水泳部4年の圭織さんが東京に出てくることになった。
 

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