広告:メイプル戦記 (第1巻) (白泉社文庫)
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■娘たちの1人歩き(16)

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「河村さん、7月いっぱい『時のどこかで』の映画部分の撮影を指揮してもらえません?」
「え?そちらは田箸さんがするはずだったのでは?」
「さっき辞任しました」
「え〜〜〜!?」
「取り敢えず明日、北海道に主演級の4人を連れて行ってラベンダー畑で撮影をするんですけど、この指揮をしてもらえませんか?」
 
「済みません。私のスケジュールについては、大和映像企画の大曽根部長に照会して頂けませんでしょうか?」
 
逆池がビクッとする。実は大曽根さんが怖いのである。この業界の大御所のひとりだ。しかし話さなければならない。
 
「今すぐ連絡します」
 
それで逆池が大曽根部長に電話した所、案の定「それは計画が甘すぎるし無茶すぎる」と叱られたものの、何とか作りあげなければならないことは理解してくれた感じであった。それで取り敢えず明日の河村の北海道行きについてはOKだが、映画自体の監督をしてくれという話については、大曽根さん自身がこちらと話し合いたいということだったので、今日の午後、逆池・花崎・大曽根の三者で会うことになった。
 
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そして午後の会談(途中でΛΛテレビ社長も入った)で結果的には河村が映画『時のどこかで』の監督をすること、過去に『アルティメットの星』で部分的に行い、今回『変身!ポンポコ玉』でもっと本格的にやろうとしていた、マルチ同時進行撮影を今回の映画で試行してみることになった。『変身!ポンポコ玉』はあまりにも日程が厳しい上に失敗が許されないので、失敗してもテレビ局のせいにできる今回の映画でテストしておきたい雰囲気もあった。
 
但しこれを実行するには出番の多い、アクア(芳山和夫)、黒山明(ケン・ソゴル)、広原剛志(浅倉吾朗)の3人のボディダブルが最低2人ずつ必要で、特にアクアのボディダブルは3〜4人欲しい、と大曽根部長は言った。
 
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「アクアちゃんと黒山君は、各々のプロダクションに訊いてみよう。広原君についても黒山君のプロダクションに訊いてみようか。あそこは若い男性俳優が多いし」
 

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逆池はまず§§ミュージックに連絡し、アクアのボディダブルができる人を3〜4人出してもらえないかと打診した。
 
コスモスは
「女子でもいいですか?」
と尋ねたが、逆池は
「むしろ女の子の方が多分アクアさんの雰囲気に近いと思います」
 
と言った。さっき河村が、キャロル前田のボディダブルは全員女子と言っていたことを逆池は思い出していた。アクアちゃんも多分それでいい。
 
「映画の撮影中のみ、学校時間外という条件なら、元々アサインしている今井葉月のほか、比較的体型が似ている、ハナちゃんという子と花咲ロンドという子を追加でアサインできます」
 
「助かります」
 
「それと、小学生なので20時までという条件で秋田利美(後の白鳥リズム)も行かせていいですか?演技は上手いです」
 
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「20時まで限定でも助かります。お願いします」
 

それでコスモスは3人にそのことを伝える。ハナちゃんと利美は
「学校の時間外や夏休み中ならいいですよ」
と承諾する。
 
しかし大村祭梨は
「あのぉ、そのスケジュールだと、ロックギャルコンテストの東京予選にぶつかるのですが」
と言った。
 
祭梨は既に東京・区北部予選をトップ通過しており、7月17日に東京都予選に出る予定だった。東京都予選を通過すれば次は全国大会(本選)である。
 

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「ああ、そうだね。だったら君は予選免除で8月7日の本選に直接出場」
「分かりました!やります!」
 
「いや、待って」
「はい?」
 
「本選も免除して、そのまま契約にしようよ」
とコスモスは言ったが
「取り敢えずオーディション受けたいんですけど」
と祭梨は言う。
 
「私も紅川会長も既に君を高く評価しているから今更オーディション受ける意味は無い。祭梨ちゃんはオーディション辞退して、若い子にチャンスをあげなよ」
 
「そうですか?だったらそれでもいいかなぁ」
「じゃ区北部予選2位・3位・4位の子に繰り上げを連絡しよう」
「ああ。4位の子もいい素材でしたもんね。可愛い男の娘だった」
 
「ちょっと待って、あの子男の娘?」
「女の子にしか見えないですよね。みんな信じないから控室でちんちん触らせてくれましたよ」
「5位の子を繰り上げにしよう」
 
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と言いながら、なぜ住民票チェックが漏れたんだ?と考えていた。
 
「男の娘はダメですか?」
「万一今年も男の子が選出されたら、もうこのオーディションは男の子のためのオーディションになってしまう」
「確かに」
 
「じゃこれあげるね」
とコスモスは言って、自分の机から名刺の箱を出して渡した。
 
「名刺??」
 
「君の芸名は私と会長とゆりこで話し合って花咲ロンドに決めたから、その名前で映画の撮影に行ってね」
 
「もう芸名決まっちゃったんですか〜!?」
 

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金曜日の夕方、一応今回の映画に出演する人がほぼ全員集まったが、監督が交替したというのに、出演者たちは驚きを隠せなかった。河村新監督は言った。
 
「本当は3〜4ヶ月掛けて撮影したい所なのですが、事情が許してくれません。きわめて不本意なのですが、ボディダブルを多用してマルチ撮影を行います」
 
それで“マルチ撮影”の方式が説明される。物語の筋に添って撮影していくのではなく、カット単位で、複数のスタジオを使用し、同時進行で部品製造的に撮影を進め、それを編集チームが組み立てて行くという話にざわめきが起きる。
 
「自動車の組み立てみたいですね」
という声がある。
「まさにそういうことです」
 
「ちょっと前衛的な撮影方法かも」
と深町の祖父役・海沼夬時さんが言う。今回の出演者の中では多分最年長の彼が好意的な発言をしたことで、出演者たちも受け入れる気になった感があった。
 
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「本日の撮影予定を全員に配ります。ひとりひとりスケジュールが違いますので他の人をあてにせず、そのスケジュール表に従って、指定の部屋に行き撮影をしてください。割当て時間は常識的に考えてこのくらいで終わるだろうという時間で確保していますが、その時間内に完成品質に到達しなかった場合は、翌日以降に再撮影になりますので、毎日リスケジューリングします。ともかくも撮影は22時終了です」
 
「そんな時間に終えられるのですか!」
 
「中高生を使いますので、22時以降の撮影はおこないません。おとなだけで撮影できるシーンも存在しません」
 
「そんな健全な撮影なんて、久しぶりかも」
という声があちこちからあがった。この業界も極めてブラックである。
 
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「中高生の場合、休日は朝5時から夕方4時までの人と、午前11時から夜22時までの人とシフト制になっていますので自分がその日どちらの組か確実に確認しておいてください。なお、どちらの場合も途中に1時間の休憩時間があります」
 
「ほんとに工場みたい!」
「中高生は10時間しか使えないという制限の中で撮影を進めなければならないので時間帯を2つに分けたんです」
 
「なるほど!」
 
「そういう中で大変申し訳無いのですが、アクアさん・元原マミさん、黒山明君、広原剛志君の4人を連れて私と灰山カメラマンは明日ラベンダー畑での撮影に北海道まで往復してきますので、明日はボディダブルの方々を使っての撮影を東京のスタジオで進めてもらいます。主役級が居ない中での撮影で心苦しいのですが、よろしくお願いします」
 
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「北海道日帰り!?」
「主役級はハードそう!!」
 

そういう訳で、アクア・元原マミ・黒山明・広原剛志、および河村監督、撮影の灰山さん、それに女性の撮影助手2名の合計8名は翌日朝1番の飛行機で旭川に飛んだ。
 
HND 7/9 6:45 (NH4781 767-300) 8:20 AKJ
 
旭川から現地テレビ局の協力スタッフが運転するハイエースに乗り富良野市に入る。現地のラベンダー園に到着したのは10時頃である。
 
偶然にもこの日は靄(もや)が掛かっていて、とてもいい雰囲気であった。
 
その中で『時をかける少女』冒頭の幻想的なシーンが撮影された。和夫、真理子、吾朗の3人がラベンダー園を散策していた時、いつの間にか深町一彦が3人の近くに居たという場面である。一彦のことを3人は自分たちのクラスメイトと思い込んでいる。
 
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そろそろ帰ろうということになった時、一彦が帰りのロープーウェイのチケットを持っていないと言い出す。それで和夫が“福島先生”に「先生、深町さんがチケットを無くしたそうです」と言うと、先生は「大丈夫だよ。団体で来ているから話せば乗れるよ」と返事をする。
 
ここで福島先生(原作では男性だが女性に改変)役の沢田峰子は来ていないので、撮影助手の人が代行して返事をする。後で沢田の声に差し替える予定である。
 
全員上手いので1発でOKになった。念のためもう1回同じシーンを撮影する。
 

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その後、アクアがセーラー服を着て!ラベンダー畑を主題歌『∞の鼓動』を歌いながら歩くシーンを撮影する。これはエンドロールで使用する予定と河村監督は説明した。
 
『∞の鼓動』は7月6日(水)の夕方、突然千里の所に『時のどこかで』の主題歌を書いて欲しいという連絡があり、千里が数時間で書き上げた曲である。徹夜で品川ありさのバックバンド“フィフティースリー”のメンバーで伴奏を作り上げ、7月7日(木)の早朝から山森水絵がスタジオに来て歌唱を練習、録音して9時過ぎにマスターを工場に持ち込みCDのプレスを始めたという、これも綱渡りで制作した曲である。昨日7月8日からTVで流れるトレーラーのバックに流れているが、TVCMを流し始める前日にできた曲であった。
 
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フィフティースリーのベーシストで、マスターの納入作業もしたハナちゃんはスタジオに戻ると技術者さんにマイナスワン音源を作ってもらい、それを7月7日深夜に『ときめき病院物語』の撮影を終えて寮に戻ってきたアクアに渡した。
 
アクアは7月8日(金)は元々学校を休むつもりだったが(どっちみち前日『ときめき病院物語』の撮影が深夜に及んで帰宅不能だった)、『時のどこかで』の撮影が夕方からになったので、寮でお昼近くまで寝ていて、午後からこの『∞の鼓動』の練習を寮内の音楽練習室でしていたのである。
 
なお、このエンドロール・シーンの歌声は後でスタジオで収録して差し替えるのだが、ちゃんとその歌を歌っていないと、曲と口が合わなくなる。このシーンでアクアはロングヘアのウィッグを付けていて耳が隠れているのだが、実は耳掛けタイプの目立たない色のイヤホンを付けていて、それで音源を聴きながら歌っているのである。ロングヘアはイヤホン隠しを兼ねていた。
 
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このシーンは念のため音源のテンポを微妙に変えたものを3回撮影し、これでラベンダー畑でのロケを終えた。
 
10:40頃に撤収。旭川空港に戻ったら12時頃である。それで次の便で東京に戻った。
 
AKJ 13:25 (HD84 767-300) 15:10 HND
 

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元原マミ・黒山明・広原剛志の3人は「お疲れ様でした。また明日は朝からよろしく」と言われて羽田で解放されたが、アクアについては
 
「悪いけど、アクアちゃんは、この後の撮影に付き合って」
と言われて都内のスタジオに入った。
 
アクアは「北海道まで日帰りで往復してきて、その後休めないの〜?」と思った。しかしアクアがスタジオに入ると、主役級抜きで撮影をしていた出演者やクルーたちから歓声が上がる。それでアクアも
 
「皆さん、私抜きでの撮影ごめんなさい。この後私も参加しますね」
と笑顔で言い、取り敢えずお土産に買ってきた富良野のチーズケーキを切り分けて休憩にした。
 
みんなの表情が明るいのを見て、アクアは「ちょっときついけど、大勢の役者さんたちに無理してもらっているんだもん。ボクも頑張らなきゃ」と思ったのであった。
 
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30分ほどしてから撮影再開する。実はアクアが入ったことで休憩中にスケジュールを組み替えていたのである(組み替えはパソコン上の古典的人工知能ソフトで半自動で行われる)。新たなスケジュール表が配られ、この日も22時まで撮影は行われた。
 

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アクアが北海道まで日帰り往復してきた7月9日、青葉・朋子・桃香・彪志および桃香の男性同僚3人が富山県の水仲温泉を訪れ、ここで療養中だったソウ∽と遭遇(朋子がソウ∽の顔を知っていた)したことから、ソウ∽は1年以上に亘るスランプから抜け出すことができ、ラララグーンの活動再開へとつながっていく。
 
一方千里は7月10日までNTCで合宿を続け、7月11日朝に合宿所を出ると、東京都庁、冬子のマンション、%%レコード、川崎のレッドインパルスの体育館、川崎市役所と歴訪?し、7月13日夕方には次の合宿のためNTCに入った。この間、ほとんど休みが無かった!
 
 
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娘たちの1人歩き(16)

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