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■娘たちの1人歩き(6)

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2016年5月3日の朝、月嶋優羽(つじま・ことり)は、数日分の着換えと洗面道具などお泊まりセットの入ったスポーツバッグを持ち、神奈川県内の某駅に降り立った。
 
「おはようございます、つじまさん」
と言って寄ってきたのはステージ・オーディションの時にも見た★★レコードの明智光代さんである。
 
「おはようございます、明智さん。すみません。遅くなりました」
「とんでもない。まだ集合時刻の30分前ですし」
「早くから待っておられたんですか?」
「早く来る参加者がいて誰も居なかったら途方に暮れるだろうからと言われて7時から来ていました」
「大変でしたね!私がいますからトイレ行ってこられません?」
「助かるかも!ちょっと行ってきます」
 
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と言って明智は駅のトイレに行って来たが、その間には誰も来なかった。
 

20分前になって花山波歌(かやま・しれん)と島田春都が一緒に話しながらやってきた。
 
「あれ?一緒だったんですか?」
「東京駅で偶然遭遇して一緒に来ました。私わりと方向音痴だから、春都ちゃんを見つけて、助かった!と思った」
と波歌。
「私もあまり交通には強くないんですけどねー。昨夜の内に乗り継ぎを確認しておいたから」
と春都。
 
「ああ、2人とも前泊?」
「そうそう。北海道からも九州からも朝1番の便では、ここに11時くらいにしか到達できない」
「大変ですね!」
 
「そうだ。忘れる所でした。父からこれを書いてもらいました」
と言って、春都は明智に書類の入った封筒を渡す。
 
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「えっと・・・芸能活動許可書は頂いていましたよね?」
と言いながら、中を見る。
 
《性転換許可書。私、島田春道は、次男・春都が性転換手術を受けて女子になること、女子用衣装を着て女性アイドルとして活動すること、女子制服を着て学校に通学することを認めます》
 
などと書いてある。実印らしき印鑑も押されている。明智はこれは誰がこういうのを要求したのだろう?と疑問を感じたものの、
 
「取り敢えずお預かりします」
と言って、バッグにしまった。
 
(後日確認した所、森原プロデューサーが要求していたことが判明した。森原は春都が優勝した場合、彼が性転換する過程も番組でレポートする気だったのかも知れない、と高平ADは言っていた。どう考えてもゴールデンタイムでは放送できない内容だ。だいたい18歳未満の子の性転換手術はよほどのことがない限り、まともな病院では拒否される)
 
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2人が来た直後に、テレビ局のクルーが来る。ADの高平さん、カメラマンの皆月さん、そして助手の赤島さんの3人である。3人とも女性で、今回テレビ局のスタッフは全員女性で構成していた。
 
スタッフは既に来ている優羽・波歌・春都の3人を映していた。
 
15分前に到着する便、10分前に到着する便で、ドドドっと多数の参加者が到着する。彼女らも撮影する。残りは長野の種田広夢(おいだどりむ)と金沢の雪丘八島(すすぎやまと)である。
 
5分前に広夢がお父さんが運転する車で到着した。
 
お父さんも運転席から出てきて一緒に
「遅くなって済みませんでした」
と謝る。
 
「まだ時間前ですよ。長野から車でおいでになったんですか?」
「すみません。夜10時になってから、朝1番の便では間に合わないことに気付いて。父に車で送ってもらいました」
 
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「疲れなかった?」
「私は車内で寝てましたので大丈夫です」
「じゃお父さんはどこかでゆっくり休んでからお帰り下さい」
「ありがとうございます」
と言って、広夢の父は帰っていった。
 

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9時になる。
 
雪丘八島はまだ来ていない。
 
「どうします?」
とΨΨテレビの高平ADさんが明智に尋ねる。
 
「そうですね・・・」
 
明智はこれが滝口だったら、
 
「遅刻者はここで落選だね。さあ、みんな行くよ」
などと言うところだよなと思った。
 
「9:10まで待ちましょう」
と明智は言った。
 
そして9:04、到着した電車から八島が必死の形相で走り出してきた。
 
「御免なさい!遅刻しました!」
と言っているが、彼女について一緒に名古尾プロデューサーまで走ってきたので明智も高平も仰天する。
 
「この子、横須賀まで来ちゃってたんだよ。僕は別件で横須賀に来ていて、駅で見掛けたから、君何してるの?と訊いたら、**は横須賀の近くだと思っていたから、横須賀駅からタクシーでも拾おうとしていたらしくて」
 
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と名古尾さん。
 
「え〜〜?」
「電車のほうが速いからと言って、それでも不安だから僕も付いてきた。この子、金沢でのビデオ審査でも会場を見つけきれなくて他の参加者に連れてきてもらって、ステージ・オーディションでも中野ブロードウェイに行ってて、親切な人がスターホールまで連れてきてくれたらしい」
 
「方向音痴なんだ!」
 
「本当に遅くなって申し訳ありません。何とか合宿に参加させてもらえませんか?」
 
それで明智は一瞬考えてから言った。
 
「だったら、あんただけマイクロバスじゃなくて合宿会場までジョギング」
「分かりました!」
 
「明智さん、それやるとこの子、迷子になる」
「だから私もジョギングに付き合います」
 
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「すみません!」
 
「名古尾さん、申し訳ありませんが、他の参加者を会場まで案内してもらえませんか?」
 
「いいけど、僕は男で、あそこは男子禁制なんだけど」
「予め確認しておきましたが、1時間以内でお寺の人が同伴していれば大丈夫だそうですよ。それにあそこ住職様も男性だし」
 
「そうだったんだっけ?」
 
「最近住職の資格を持つ女性の数が絶対的に足りなくて、尼寺なのに住職だけ男性というお寺多いそうです」
 

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今回はそもそも運動ができる服装ということで、全員スニーカーやバッシュの類いを履いてきている。
 
それで明智と八島、それに「私も付き合いますよ」と言った優羽と3人が準備運動をしてから、ジョギングで会場の尼寺を目指した。
 
駅から尼寺までは車では約3kmだが、人だけが通れる道を通れば2.2kmである。3人の中で優羽が「私わりと方向感覚ありますから」というので先頭に立ち、危ない八島をはさんで、明智が最後につく。最初優羽はゆっくりとしたペースで走り出したが、八島がわりと押してくる感じなので少しずつペースを上げた。それで結局10分ちょっとで到着した。
 
「遅くなりましたぁ!」
といってお寺に入って行く。40歳くらいの尼さんが出てきて
「いらっしゃい」
と言うが、
「あら、あなたたち3人だけ?」
と言う。
 
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「あのぉ、マイクロバスまだ来てません?」
「うん、来てない」
 
明智たちは顔を見合わせた。
 

3人が汗を掻いているのに気付いた尼さんがシャワーを勧めてくれたので、3人はお風呂に入りシャワーを浴びて汗を流させてもらった。
 
「取り敢えずこの3人はお互いに女であることを確認したね」
「性別確認作業もあったんですか?」
 
「でもどうしよう?着換えを1回分消費してしまった」
などと八島が言っている。
 
「あんたは集合場所に来る前に既に汗を掻いていたね」
「すみませーん」
「私、少し余分に持って来ているし、もし他人の服でも気にしなければ、足りない時は貸してあげるよ」
と優羽。
 
「私、そういうの全く気にしません」
と八島。
 
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「まあ洗濯して干しておけば3日目には使えるよ」
と明智。
 
「ああ!洗濯もできるんですね!」
「まあそれで着る服には名前をマジックで書いておくように言っておいたんだけどね」
「なるほどー!」
 

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結局バスが到着したのは優羽たちがお風呂からあがってしばらくしてからである。バスは駅からお寺まで3kmの距離を40-50分掛かったことになる。
 
「いやぁ参った」
と名古尾さんが言っている。
 
「渋滞ですか?」
「元々交通量の多い道なんだけど、すぐ目の前で事故が起きてね。身動き取れなくて。トイレの近い子が辛かったようだ」
 
「ああ、可哀相に」
「でも春都ちゃんが『みんなで歌を歌ってましょうよ』と提案して、それで順番に回しながら歌っていたら、けっこう気が紛れたみたい」
 
「あの子も気配りがいいですね」
 

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全員揃ったところで
「せっかく来たんだから一言お願いします」
と高平ADに言われて名古尾さんがスピーチ、続いてこのお寺の住職(本来は市内の別のお寺の住職で名目上ここの住職を兼任しているらしい)のお話があり、それから合宿は始まった。
 
この日は午前中自己紹介、発声練習の後、この3日間で覚えてと言われて配られた楽譜をパート分け(ソプラノ・メゾ・アルト)して歌唱する練習をした。お昼を食べた後、カラオケ・ダーツというのを3時間!する。カラオケを適当に再生させ、前奏の最中にダーツで歌う人を決める。1曲3分で60曲流れ、1人平均5曲歌う計算になるが、実際には3曲しか当たらなかった子もあれば8曲当たった子もいた。
 
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8曲当たったのが春都だが、彼女はその8曲を全部歌えた。八島と優羽は6曲当たって全部歌えた。波歌は6曲当たったが、1曲演歌の曲を歌えなかった。紀子という子は3曲しか当たらなかったのにその3曲が洋楽と演歌と古いアニメの曲で全部アウトだった。
 
これが終わった後1時間ダンスレッスンをしてから夕食は12人全員で手分けしてカレーを作った。春都と広夢が料理上手のようで、ジャガイモの皮むきはこの2人が全部引き受けていた。紀子ちゃんはお肉を切るのが上手く、包丁を適宜磁器の小皿の裏で研ぎながら、脂身の多い肉をきれいに一口大に切っていた。お肉を切るのは波歌もやったが「紀子ちゃん、うまーい!」と感心していた。
 
カレーを煮込んでいる間にジョギングに行く。わずか2kmなのにバテて
いる子もあった。
 
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夕食を食べた後は、様々な歌手のライブ映像を鑑賞したが、八島が居眠りしていたのを起こされていた。更に八島はこの日の夜、スマホを持ち込んでいるのが見つかり、没収されていた!
 
「私今日1日で30点くらい減点された!」
などと言っていたが
 
「自業自得って気がするな」
と広夢に言われていた。
 
「でもこの合宿はポイントが高ければいいというものではないけどね」
と優羽は言った。
 
「私もそれに賛成。この合宿はたぶん個性を見るためのものだよ」
と紀子。
 
21時以降入浴タイムとなるが、春都は最後に1人だけで入れた。寝るのは大部屋で全員一緒である。春都を解剖したがっている子もいたが、明智も一緒に寝ているので、羽目を外すことはなかった。
 
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2日目は早朝から近所の公園と神社の境内を竹ぼうきを持って掃除した(公園組と神社組に分かれた)。朝御飯を食べた後、午前中は音楽やダンスの理論講習、午後は座禅をした後、発声練習に歌唱練習、ダンス練習。この日も夕食はみんなで手分けして八宝菜を作る。
 
ウズラの卵を煮るのは翠ちゃんがしていたが、殻が割れて白身が飛び出してきたものが多数あり
「これどうしよう?」
と悩んでいた。
「平気平気。食べれば形なんて関係無い」
と優羽が言ってあげていた。
 
春都は椎茸の軸を切っていたが
「おちんちんを切り落とすみたいでドキドキする」
などと発言して
「ついでに自分の軸も切り落とそう」
と紀子に言われる。
 
「どうしよう?」
と春都が悩んでいるので
「やはりオーディションが終わったら、タイ行きの航空機に乗って」
と広夢から言われていた。
 
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下ごしらえが終わった所でジョギングに行き、戻ってきてから素材を全部中華鍋に入れて加熱して完成させた。
 
夕食後はランダムデュエット大会というのをする。最初にルーレットに当たった人がメインメロディー、次に当たった人はその原則3度下でハーモニーになるようにデュエットする。サブを歌った人が次の曲ではメインパートを取り、次にルーレットで当たった人がサブパートを歌う。
 
楽曲はこの12人なら全員知ってそうな最近のアイドル歌謡限定にしている。実際この日は、少しあやふやという人はいたものの、全然知らないと言った子は居なかった。
 
このゲームをしながら優羽はやはりこのオーディションは“ソロシンガー”を選ぶと言っているけど、実は2〜3人のユニットを想定しているのではという気がしていた。
 
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そもそも合宿というのは、協調性を見るのにいちばん良い方法である。
 

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娘たちの1人歩き(6)

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