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6月18-19日(土日)には旭川で野球の北北海道大会が開かれた。
S中は春のリベンジに燃え、部員たちに加えて応援団、チア部、吹奏楽部をバス2台で旭川に送り込んだ。
司は女子マネの水野尚美と隣り合う席で(*17) 旭川に向かったが
「3年生は最後の大会だし、今度こそ優勝したいね」
などと語った。
「司先輩は卒業したらどこの高校に行くんですか?」
(尚美や1年生マネージャーの飛鳥(あすか)ちゃん・美甘(みかん)ちゃんは司を“福川先輩”ではなく“司(つかさ)先輩”と呼ぶ。ちなみに3年生の男子部員たちは司を“福川君”ではなく“福川さん”と呼ぶ)
「ぼく勉強もできないし、S高校かU高校に行くつもりだったんだけどね。生駒先輩から札幌SY高校に来ないかと誘われてるんだよ」
「あそこいいですよね。私もあそこか入れなかったら夕張V高校に行きたいんです」
「夕張にも女子野球部のある高校があるんだ?」
「はい。でも札幌SY高校のほうが強いし練習環境もいいんです」
「ああ。でも水野さんは高校の女子野球で充分戦力になると思うよ。100km/hくらい出てるもん」
(*17) 旭川にバスで向かう時、昨年は司は生駒優と隣の席だった。今年は毎回水野尚美と隣の席である。いつも女子マネと隣の席になっていることについて司は特に何も考えていない!
「そうですか。もっとボールの速度をあげたいんです。司先輩みたいに男子並みの速度まで出なくても110km/hくらい出せるようになりたいんですが、やはりたくさん投げ込みした方がいいんでしょうかね」
と水野さんは言ったが
「むしろ走るといいと思う」
と司は言う。
水野尚美がワインドアップから投げ下ろすボールは前川君のボールより速い。ここの野球部の女子マネに「格好いい男の子たちのサポートをしたい」という子は居ない。このチームでは雑用はレギュラーに入ってない男子の1年生部員がする。女子マネたちはみんな「自分が野球をしたい」という子ばかりである。紅白戦ではチームに入ってプレイしている。
「走るんですか!」
と尚美は驚いたように言う。
「ボールは腕で投げるんじゃない。身体全体で投げるもの。腕だけで投げてる人は絶対そのうち肩を壊す」
「ああ」
小学校の時の自分がそうだったよなあと司はあらためて思う。5年生の時までの自分は腕だけで投げていた。それで肩を壊してピッチャーができなくなり、キャッチャーに転向した、でも去年の春までの自分は肩に激痛を感じながらキャッチャーをしていた。腰痛も抱えていた。椅子に座るのが辛かった。今思えばあのままだったら中学卒業する頃にはもう野球自体できなくなっていたであろう。それどころか体育の授業程度の運動をするのも辛い状態まで行ってたかも。
この1年ほどのできごとって、思えば貴子さんが見せてくれた夢かも知れない。
女の子に性転換してもらった副作用で身体が作り直されて腕や肩の痛みも腰痛も消え、またスピードボールが投げられるようになった。
またそもそも女の骨格になったことで腰が安定し、走塁などがしやすくなった気がする。女の身体は塁を回る時の方向転換がしやすい。男性時代は足で走っていたのが今は腰で走ってる感じだ。
もっとも男子野球選手として出場できるのはこの大会が最後かも!
男の身体が壊れちゃったから健康な女の身体に交換してもらったようなもの?(秋本治「Mr.クリス」の世界?)
強飯先生が頑張ってくれたおかげで、とにかく今季は男子チームに参加できるけど、高校では無理だろうなという気がする。ぼくどんどん女性化している気がするし。ぼく自身女装にハマっちゃったし、1年前は女の子になるとか思いもしなかったけど(*18)、今はむしろ女の子になるのもいいなあという気がしている。
司は水野さんと色々おしゃべりしながら、そんなことを考えていた。
(*18) 嘘はよくないなあ。これが嘘であることはすぐにバレることになっている。
18日の1回戦。相手チームは例によって
「なんで向こうは女がキャッチャーしてるの?」
「キャッチャーは女房役というからピッチャーの彼女じゃないの?」
「だったらお前も橋本と結婚しないといけないぞ」
「え〜!?」
「結婚式の前日に性転換手術」
「あら素敵じゃない?」
「あなた女の子になる素質あるわよ」
「ちょっと待ってぇー」
などと軽口を叩いている。
しかし1回例によって立ち上がりは制球が定まらない小森君から4ボールを選んだ選手が「キャッチャー女だし」と思って大きめのリードを取っていたら司が矢のような牽制球で1塁走者を刺す。
この送球を見て向こうの選手の顔色が変わった。
「何つう凄い球投げるんだ?」
「あいつピッチャーへの返球は緩い球なのに」
「女とは思えん」
と驚いてた。(本人は男だと主張しているんですが)
「男でもあそこまで凄い球投げるキャッチャー居ないぞ」
「むしろあいつピッチャーになるべきでは」
小森君も1アウトを取れたことで自分を取り戻し、後続を三振と内野ゴロに打ち取って1回表を終える。
その裏、1・2番は倒れたものの、3番菅原君は相手エース橋本君の初球を打ってレフト前ヒット。4番阪井君は右中間の深い所にヒット。13塁となったところで5番前川君はレフトポールに直接当たるホームランであっという間に3点取った。更に6番小林君は4ボール、7番加藤君も連続4ボールで、ここでエースを引き摺りおろした。
2回以降こちらの小森君は調子を取り戻して相手打線を抑えていく。たまにランナーを出しても司の牽制球ですぐ殺される。
こちらの攻撃では相手の2番手・3番手・4番手・5番手・6番手!の投手をどんどん打ち崩し、毎回得点で5回コールド14-0で勝った。
試合が終わったのは14時半頃であった。選手たちは着替えた後、木原光知校長のおごりでマクドナルドに行き好きなだけ!食べさせてもらう(かなりお金が掛かった気がする)。
その後腹ごなし?にジョギング!で市内の公営球場に移動し(せっかく着替えてもまた汗を掻いたりして)、ここで16時半から18時まで軽〜く練習をした。投手たちの肩に負荷を掛けないように、紅白戦は女子マネの水野尚美と山口飛鳥が登板したが、水野は100km/hくらい、山口も90km/h以上の速度が出ており、
「水野さんの球は前川より速い」
と言われていた。
司は1年生の女子マネ佐々木美甘に(自分の)キャッチャーミットを持ってもらい、防具も着けてもらって軽く20-30球投げた他はジョギングと腕立伏せ・腹筋・柔軟体操程度に留める。柔軟体操で背中を押す役、腹筋で足を押さえる役も美甘がしてくれた。美甘は司の背中を押す時、司の身体の感触が女子であることを確認する。ブラジャーしてるのも触って分かるし!
この後“明日の試合に出る野球部員”は旭川市郊外の旅館に入った。試合に出ない野球部員と2人の1年生マネージャーは校長先生の運転するワゴン車で留萌に帰った。なお応援団・チア・吹奏楽部および今日登板した小森君は試合終了直後にバスで留萌に戻っている。彼らはまた明日午前中に出てくる。
2日目の試合に出場する選手も新人戦・春の大会の時は留萌に帰ったのだが、今回は宿泊することになった。実は春の大会の時に一部のチア部員・吹奏楽部員から声が出たのである。
「留萌から寿司詰めのバスで旭川まで行って2時間踊り続けて(吹き続けて)また留萌に戻り、翌日またそれを繰り返すって身体がきついよね」
応援団の子たちは頑丈なので平気である!
でもそれでチア部の部長と吹奏楽部の部長が協同で顧問を通して教頭先生に意見を出したのである。
「留萌と旭川の往復だけでもかなり体力を消耗します。私たちは応援だから頑張りますけど、試合に出る選手たちはそれで体力使って旭川の地元中学より絶対不利になりますよ。出場選手だけでも宿泊させることは考えられませんか」
それで結局、教頭がPTA会長と話し合い、PTAから補助を出して翌日の試合に出る選手だけでも宿泊させる(食費分だけ自費)ことを決めたのである。
(*19) 中学生は連投禁止規定により今日完投した小森君は明日は投げられない。2日間で10回以上は投げられない規定なので、新人戦の旭川T中・近藤君のように準決勝の最後に出て来て1/3投げただけの場合は翌日の決勝戦でも7回完投できる。
投手の少ないチームなら完投した投手を翌日リリーフに使うようなこともあるが、S中には現在ピッチャーが5人(前川・福川・山園・小森・工藤)いるので、明日小森君を出す可能性は無い。念のためベンチには入れるが。
ということで小森君は旭川に泊まらず、(身体を休めるため)夕方の練習にも参加せず、いったん留萌に戻ってまた明日出てくることになった。
旅館に泊まるメンバーは旅館に到着すると、そのまま食堂に食事に行く。全員疲れているのでどんどん食べる。メニューは焼き肉の食べ放題なので、みんなもりもり食べていた。これ旅館が赤字にならないか?と少し心配した。
食事をしている最中、強飯監督が各自に部屋番号を配っていた。司は301と書いた紙をもらった。旅館なので鍵は無い。貴重品(主として財布)は各部屋の金庫に入れるようにと注意があった。
さてこの日宿泊したのは下記18名である。
強飯監督
3年生(6)菅原(主将)・前川・小林・加藤・東野・福川
2年生(6)橋坂・阪井・宇川・田中・山園・梶屋
1年生(4)柳田・松阪・工藤・飛内
マネージャー:水野尚美
ベンチ入りしてスコアを付けるマネージャーはプレイする訳ではないが体力を考慮して宿泊組に入れる。
そして部屋割はこうなる。
301 水野尚美・福川司!
302 強飯監督・菅原主将・前川・小林
303 加藤・東野(以上3年)・山園・宇川
304 橋坂・阪井・田中・梶屋(以上2年)
305 柳田・松阪・工藤・飛内(以上1年)
4人部屋(8畳)4つと2人部屋(6畳)1つできれいに収まる。
不宿泊:小森・田口・西谷・長山/山口飛鳥・佐々木美甘
司は301の札をもらっていたので荷物を持って301に入った。
6畳の部屋でトイレは付いているがお風呂は無い。大浴場に行く方式のようである。司は困ったなあと思った。6月5日の夜に貴子さんから
「そろそろ生理だから」
と言われて女の子の身体に変えられた後そのままなので、今男湯に入ることができない。
(女湯に入ればいいと思うが?これまで何度も入ったくせに。それに司が男湯に入ろうとしても従業員さんが飛んできて女湯に誘導されると思うぞ)
取り敢えず
「疲れたぁ」
と言って横になり海老さんのポーズで目を瞑って少しウトウトしていた。
誰か入ってくる気配があるので上半身を起こして見ると、水野尚美である!
「水野さん何か用事だっけ?」
「司先輩と同室ですから、よろしくお願いします」
「え?ちょっと待って」
と言って司は、隣の部屋に行き、強飯監督に言った。
「先生、ぼくと水野さんが“間違って”同じ部屋になってるようなんですが」
「何も間違ってないよ。“女子”を同じ部屋にしただけだよ」
と先生は言う。隣にいた菅原君も
「宿泊するメンバーで女子は福川さんと水野さんだけだから同じ部屋にするのは当然」
などと言う。
「ぼく男子なんですが・・・」
「うん、建て前、建て前。でも実際は女子なのはみんな分かってるから」
と小林君。
「今日は女性同士安心してぐっすり寝て明日は頼むよ」
と前川君。
ということで司は不本意にも水野さんと同室になったのであった!
「なんかぼくは女子だから水野さんと同室でというんだよ。水野さんには絶対変なことはしないから、ごめん。今晩は同じ部屋で寝せて」
と司は301に戻ってから尚美に言った。
「女同士ですから、リラックスしてくださいね。司先輩の裸を見ても誰にも先輩の性別のことは言いませんから、安心してください」
などと尚美は言っている!
なんかぼく完全に女子として扱われてる?
(何を今更)
結局尚美の布団を窓側に敷き、司の布団を入口側に敷いて、間に荷物を置いた。
「私夜中に司先輩を襲ったりしないのに」
と尚美は笑っていた。
襲うって何???
「水野さん、お風呂行って来たら?」
「今の時間は混むから少し後で行きます」
「ああ、それがいいかもね」
それで司は自分はお風呂どうしよう?と思いながらも入口側の布団で眠ってしまった。
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女子中学生・春ランラン(15)