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新学期の男の娘たちの状況。
沙苗とセナはもう完全に女子生徒なので、当然セーラー服で出て来た。2人は女子トイレ・女子更衣室を使用する。ふたりは生理もあるので完全な女性になったと思われる。ふたりとも戸籍を女子に訂正済みである。
雅海はほとんど女生徒扱いにされているのに、まだ男子制服で出て来る。彼女はトイレも更衣室も女子用を使うし、身体測定も女子と一緒である、それなのにまだ「恥ずかしい」と言って男子制服での通学を続けている。
司はますます女子度がアップして男子制服を着ていても女子にしか見えない。彼は1月以降いつもブラジャーを着けているようになったし、男子トイレの小便器を使わなくなったので
「とうとうペニスを切断したのでは?」
「かなりバストが発達してきたのでは?」
とみんなから噂されている。
(彼は試合中に打球が股間に当たってもほとんど平気であることから、睾丸を除去済みなのは確実と言われている)
司は一応男子制服を着て登校してきたものの、この4月に、とうとう男子更衣室の使用禁止を宣告された。
「男子更衣室使っちゃだめというなら、ぼくどこで着替えればいいの?」
「用意した」
といって保健室に連れて行かれる。
「ああ、司ちゃん、心配しなくていいよ。あなたはここで着替えてね」
と保健室の先生に言われ、彼女は公世と同様、保健室のカーテンの向こうで着替えることになった。
公世は昨年の夏以降何度も性転換されて、女の子になる度にトイレに困っていたのだが、それが秋頃やっと落ち着いたかと思ったら唐突に男性尿道が消失してまたトイレに困る状態になった。それを12月下旬に修正してもらい、やっと普通に男性的排尿ができるようになった。
しかし彼自身の女性化が進行しているため、友人達に個室に誘導されるようになってしまい、彼は男子トイレは使うが、個室しか使わない(使わせてもらえない)状態になっている。また彼は着替えは保健室でしてねということになっている。
彼を女性化したい人は複数いるようだ。彼はセーラー服も持ってはいるが、本人の意識は男なので、男子制服で登校してくるし、道着も基本は紺色である。
新2年生の潮尾由紀(うしお・よしのり)は
「君、女子剣道部に行く?」
と訊かれて
「どうしよう?」
と悩むように答える子である。卒業までずっと男子剣道部に居るとは思えない。そもそも男子生徒のままとはとても思えない。クラスメイトたちは、彼女が女子制服で通学し始めるのは既に“織り込み済み”の状態である。
彼女は道着も白である。彼女はクラスメイトの女子から
「ゆきちゃん、女子トイレに来ない?」
「ゆきちゃん、女子更衣室に来ない?」
と言われて
「恥ずかしい」
と言っている子である。1月頃、何か心境の変化?があったようで、女性化が更に進み始めている。恐らく女性ホルモンを飲み始めたのではとみんな言っている。もう下着は女子下着しか着けていないようで、女子更衣室に連れ込まれるのは時間の問題かも。
(女子選手が男性ホルモンを飲めばドーピングだが、男子選手が女性ホルモンを飲むのは別に禁止ではない)
司、公世、由紀は身体測定は個別測定されている。
また公世は中体連の剣道連盟から、司は中体連の野球連盟から、各々性別診断書を取ってくれという要求があり、各々指定された病院に行って検査を受けた。2人とも「確かに男性」という診断書が出たものの、剣道部の岩永先生も、野球部の強飯先生も
「どうやって医者を誤魔化したんだ?」
と思わず呟いた。
(由紀も多分夏には性別診断を受けさせられる。そしてきっとあの子の場合は「確かに女性」と診断されそう!)
さて新学期は学級の再編はされなかったものの、委員は改選された。図書委員・放送委員などの“専門職”はそのままだが、他の委員は改選される。千里たちの3年1組では、男子は飛内君、女子では優美絵がクラス委員に指名された。
「クラス委員なんて無理ですー」
と優美絵本人は言っていたが
「まあやってみよう」
とみんなに励まされていた。実は蓮菜と玖美子がどちらも受験勉強のため委員を辞退したのでこの付近に回ってきた。でも去年同様、学年途中で交替することになるかもねーと千里は思った。昨年は1学期は恵香がクラス委員を務めたが、ミスが多く本人も「私には向きません」と言うので、2学期からは世那に代わった。世那は結果的に男子クラス委員と女子クラス委員の両方を経験するという不思議な経歴を持つことになった。
なお今年はクラスが再編されなかったので、生徒手帳も更新されず“3年”というシールが配られ、各自生徒手帳の身分証明書欄に貼ってということになった。小春はこのシールを2枚確保し、1枚は自分の生徒手帳、1枚は千里Bが持つ“男子16番”の生徒手帳に貼り付けた。(千里R/千里Yは女子31番の生徒手帳を使っている)
S中の女子剣道部は1年生の新入部員を迎えた。
N小出身
ノラン・エイジス(英国国籍)、エヴリーヌ・ポアン(フランス国籍)、カレン・バウアー(ドイツ国籍)、丸橋五月(日本国籍!)
P小出身
棚橋揺子
増毛町から転入
佐倉美比奈
N小剣道部にいたもうひとりの波頭由紀ちゃんはミニバスと兼部だったので迷った末、バスケ部を選んだらしい。五月ちゃんも卓球部と兼部で悩んでたらしいが、春休み中にラケットのケースをうっかり踏んじゃって割れてしまったので、買い直すと高いしと言って、剣道部に来てくれた。
「なんか外人さんが多い」
と美比奈ちゃん。
「全員日本の小学校を卒業したことで、大会参加資格がある」
と五月ちゃんが言っていた。
1年生は全員春の大会の個人戦に出すことにする。団体戦は2−3年生で構成する。
今年女子バスケ部には剣道部とどちらにするか迷った末こちらを選んだ波頭由紀ちゃんを始め3人の新入部員があり、部長の数子は
「やったぁ!これで大会に出場できる」
と叫んだ。
実は千里と留美子を除くと5人ギリギリしかいなかったのに、その内のひとり新2年生の伸代が転校してしまった。それで現状4人しかおらず、このままでは出場もできない状態だった。
しかし波頭由紀は数子の言葉を聞いて「この部、大丈夫か?」と思い、バスケ部を選んだことを後悔し始めていた。
4月16日(土).
千里Rは今年度最初の旭川行きをした。朝一番の高速バスで旭川駅まで行く。瑞恵にきーちゃんの家まで運んでもらい、その日はフルート・ピアノのレッスンを受ける。
そして翌日は午前中龍笛の手ほどきを受け、午後からは越智さんに来てもらって剣道の指導を受けた。夕方、天子のアパートに顔を出してから瑞恵に旭川駅まで送ってもらったが、駅に到達する前に(疲れたので)消えた!
(髪の長い女性が後部座席で走行中に消える怪異!?)
数子はメイン体育館で剣道部の練習をしている千里の所に来て言った。
「ねね、千里ちゃん、23日、バスケ部の春の大会なんだけど、出てくれないよね」
「23日?ごめーん。翌日24日が剣道部の大会だから、練習に集中したいからパスで」
「そっかー。ごめんね」
数子は同じクラスの留美子の机の所に来て言った。
「ねね、ルミちゃん、23日、バスケ部の春の大会なんだけど、出てくれないよね」
「あ、ごめん。23日24日は応援団で野球部の応援に行くからパスで」
「そっかー。ごめんね」
数子は放課後、部活を休んでバスでC町まで行き、P神社まで行って、そこにいる千里に訊いた。
「ねね、千里ちゃん、23日、バスケ部の春の大会なんだけど、出てくれないよね」
「23日?ごめーん。頼まれている仕事(実は光辞の翻訳)をできるだけ急いで欲しいらしくて。しばらく時間は取れないと思う」
「そっかー。ごめんね」
数子はひとりになると叫んだ。
「つまり春の大会は千里・留美ちゃん抜きで戦わないといけないの〜〜!?」
実際真理さんからは
「事情は今話せないけど、翻訳作業をできるだけ前倒しでお願いしたい。私も書写頑張る」
というお手紙が来ていたのである。
光辞の翻訳は真理さんが原文を見ながら書写し、それをこちらに郵送してくるので、千里がそれを朗読し、その朗読を小町が録音して真理さんに送り返している。できるだけ急ぎたいというのは、もしかして遠駒恵雨さんの健康状態にでも問題が生じているのだろうかと千里は考えた。恵雨さんは87歳の高齢である。
千里は真理さんが書写したものは読めるが、コピー機でコピーしたものでは読めない。真理さん以外の、たとえば紀美などが書写したものでも読めない。光辞は読む人も選ぶが、書写する人も選ぶようなのである。
それで千里はこの所、空いている時間はずっとこの朗読作業をしていた。
中体連野球大会留萌地区大会が4月23-24日に留萌市内の中学校運動場を使って開催された。
S中は市内の中学校グラウンドでC中と対戦した。
試合前。向こうのベンチ。
「何で向こうは女子が入ってるんですか」
「なんか男子として出場していいという許可を取ったらしいよ」
「へー。でもやりにくいなあ」
しかし彼らはすぐに司の実力を知ることとなる。
この試合S中は1年生ピッチャーの小森君が先発した。司がマスクをかぶった。小森君は右腕の直球投手で、彼が使えるようになると、2年の左腕・山園君と2本柱にしてピッチャーのやりくりが楽になる。
彼は一巡目は何とか相手打線を抑えたものの2巡目では打たれ始める。ノーアウト13塁になったところで打順はクリーンナップに回る。小森君はかなり辛い顔をしている。
小森が投球する。1塁ランナーがスタートする。バッターが空振りする。司はボールを持ち大きくふりかぶって2塁へ投げた。
のを見て3塁ランナーが本塁に突っ込む。
しかし司は実は2塁へ投げたのではなく、ピッチャーの小森君に投げていた。小森君は一瞬ビクッとしたものの反射的にキャッチしてすぐ司に戻す。
3塁ランナーは司にタッチされてアウト。
それでピンチを脱した。
その後は冷静さを取り戻した小森君が4番バッターを三振、5番バッターを内野ゴロに打ち取ってこのピンチを無失点で切り抜けた。そしてその裏、ライトに入っている前川君がソロホームランを打って貴重な1点を奪った。そして5回からはその前川君がマウンドに立ち、多彩な変化球で相手打線を翻弄。S中は1回戦を勝ち上がった。(勝投手小森)
24日の地区決勝はR中との対戦である。
R中はもちろん司の怖さを知っているので1年生部員が
「あれ、向こうは女子が入ってるんですか」
と言っても
「あの選手は女子ではあっても男並みの実力だから甘く見るなよ」
と先輩が注意していた。
それでも早々に1年生の走者が牽制で刺され
「嘘だろ?」
という顔をしていた。
この試合は2年生の山園君がR中の強力打線をきれいに抑える。立ち上がりにランナーを出したが上述のようにすぐ司に牽制で刺されてチャンスが消えた。山園君も2回以降はペースに乗って気持ち良く投げていた。
山園は昨年までは直球とカーブしか無かったのが、今年はチェンジアップを覚えたので、これでR中の打者はタイミングを外しまくられ、彼の前に沈黙する。試合は内安打で出た菅原君を阪井君がバントで送り、前川君のタイムリーで勝ち越した。(勝投手山園)
これでS中は地区大会を制し、来月行われる春の北北海道大会に進出した。
この2日間、河合君を団長とし、留美子を旗手としたS中応援団は必死の応援を送り、優勝した時は物凄い歓喜だった。河合君の声が枯れていた。
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女子中学生・春ランラン(2)