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■女子中学生・春ランラン(11)

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5月14-15日(土日).
 
旭川で中体連野球の北北海道大会が行われた。
 
S中はシードという訳ではないのだが、昨年死闘を演じたT中とは別の山に入れられており、対戦する場合は決勝戦という位置に置かれていた。
 
14日午前中には旭川市内4つの会場に分かれて1回戦が行われた。
 
「そちらのキャッチャーは女じゃないんですか?」
「男子チームの一員として参加が認められているそうです」
「何かやりにくいなあ」
などと言っていたが、すぐに司の力を思い知る。
 
S中は小森君が先発した。立ち上がりに制球が乱れ、4ボール→送りバント→内安打でワンナウト13塁となった所から相手4番打者の巨大レフトフライ(フェンス際で捕球した:ホームランかと思った)が犠牲フライとなり1点を失う。
 
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なおもツーアウト2塁の場面。5番打者(左打者)は2ボール2ストライクからの5球目の変化球を空振りした。しかしこのボールはアウトサイド(3塁側)に大きく逸れ、さすがの司もキャッチできなかった。
 
すぐさま追いかけてボールを押さえる。バッター(左打者)は1塁へ走っている。司は剛速球を1塁に送球。振り逃げになる所を潰した。
 
「すげー。女とは思えない肩だ」
と向こうの選手たちが驚いていた。
 
これでピンチを1失点だけで切り抜けた。
 

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小森君も2回からは本来の調子を取り戻す。ランナーを出しながらも司の牽制球など堅い守備に守られて無得点に抑えた。
 
5回からは3年の前川君に代わる。彼の多彩な変化球で相手打線は翻弄される。こちらの攻撃では、6回に代打の梶屋君がデッドボールで出て、すかさず盗塁。橋坂君のバントで3塁に進み、柳田君の犠牲フライで生還して1点を取り追い付いた。この回はなんとノーヒットで1点取っている。
 
そして同点で迎えた最終回の7回、前川君は制球を乱しノーアウト満塁のピンチを迎えた。ここで次のバッターは向こうのエースピッチャーだったが、彼の打球はピッチャー前に転がるゴロであった。
 
前川君が司にトス。司はホームベースを踏んで剛速球を三塁・小林に送る。小林は三塁を踏んだままキャッチしてすぐさまセカンド阪井に送る。
 
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1-2-5-4のトリプルプレイが成立。
 
あっという間にスリーアウト。
 
(フォースプレイでタッチ不要なのでできた:満塁は点が入りにくいという好例)
 
そして7回裏はショックを受けている相手投手から、先頭打者・菅原君が初球をフルスイング。打球はスタンドに入りサヨナラ。
 
S中が劇的な逆転勝ちをおさめた。
 

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午後は休憩時間だったので、みんな着替えた後、休憩場所に指定された教室でぐっすり眠っていた。司は監督から呼ばれて別の教室で休ませてもらった。(ここでは監督と司のほか、水野マネージャー、応援団の留実子が休んだ)
 
夕方から準決勝が行われた。対戦相手の帯広B中は3年前の夏の大会では優勝して全道大会まで行っている強豪校である。この試合は司が先発した。
 
「なんで向こうのピッチャーは女なんですか?」
「男子チームへの参加が認められているそうです」
「何かやりにくいなあ」
などと言っていたが、試合が始まるとすぐ彼らは思い知る。
 
司の玉を打てないのである。
 
司は130km/hを越える速球を投げるが、このクラスのピッチャーは上位チームにはたまに居るので、その速度自体はB中の選手にとっては脅威ではない。しかし司とキャッチャー宇川君の配給は絶妙で、しかもストライクかボールか判断に悩むような所に丁寧に投げてくる。それで司のボールを打てない。それでも打ち気に行っていたら、そこをチェンジアップでタイミングを外され空振りしてしまう。
 
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それで相手はなかなかランナーを出せず、ランナーが出てもすぐ司の牽制球に刺されてしまう。相手チームの得点は0の行進となる。
 
こちらの攻撃では5回に阪井君がショートの奥深い所に飛ぶ内安打で出塁後、パスボールで2塁に進み、前川君のエンタイトルド・ツーベースで帰ってきて貴重な1点を取った。
 
あとは司がこの1点を守り抜いてこの強豪に勝利した。
 

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この日はいったん留萌に帰り、また翌日旭川に出る。
 
そして旭川T中との決勝戦となる。
 
さて昨日は晴れていたのにこの日は雨模様である(*11).
 
応援団・チア部と吹奏楽部は昨日は全員で来てくれたのだが、この日は吹奏楽部は楽器を傷めるため派遣中止。チア部も女子は風邪を引いてはいけないということで、応援部のみの派遣となった。彼らは激しく雨が降る中、必死に応援してくれた。むろん留実子は豪雨の中、旗手として、濡れて重くなった応援団旗を全力で掲げ続けた。
 
10:00開始予定が1時間以上遅れた。
 
(*11) 2005.5.14が晴れで15日が雨だったのは史実。ただし以下に書くほどの大雨だったかまでは不明。
 

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11:10の試合開始。
 
S中は左腕2年の山園君、T中は昨年の新人戦では最後に出て来てこちらを沈黙させた近藤君が先発した。
 
T中のメンバーはこちらのキャッチャーが女であっても軽口を叩いたりはしない。司が男子と変わらない実力を持つ選手であることを認識している。
 
T中は右打者を多く起用した“対左腕”打線を組んでいた。それでも山園は司ほどではないがわりと制球がいいし、司が巧みにリードするのでT中はなかなか山園を打てない。しかも今年の山園にはチェンジアップがある。
 
一方S中もT中のエース近藤君の剛速球を全く打てない。かすりもしない。
 
緊張した試合が続く。
 
しかし4回の裏、T中の3番・右打者の後藤君が山園の制球ミスで真ん中寄りに来た球をジャストミート。これがホームランとなってT中は貴重な1点を挙げた。
 
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試合は5回に入るが、先頭の菅原君が、雨で足が滑った感じの近藤君の失投気味緩い球を打ち、これが外野の奥深くに飛んでランニング・ホームラン!(雨で足元がぬかるんで生まれたとても珍しいプレイ)を打つ。これでS中は追いついてゲームを振り出しに戻す。近藤君が物凄く悔しそうだった。実は彼の今季初失点だったらしい。
 
ところがここで強雨のため試合は中断する。
 

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中断は続く。雨脚は強くなり、この球場から避難しなければ危険とも思える状態になる。両校の応援団を含む観客に退避指示が出る。
 
雨脚は更に強くなる。グラウンド内に川が出来ている。既に大雨警報か発令されている。
 
審判団が協議する。
 
中断から1時間半経ったとこでコールドゲームが宣言される。
 
この場合5回に入ってからの菅原君の得点は無効(近藤君の初失点も無効)で4回までの点数で勝敗が決することになる。つまり1−0でT中の勝利となる。
 
S中は追いついていたのに!!
 
(これが2−0で負けていて5回表に1点返して2−1になったところでコールドになった場合はこの1点は認められて2−1でホームチームの勝ちとなる。つまり勝敗に影響しない得点は認められるが勝敗に影響する得点は無効となる)
 
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このルールを認識していたのは、菅原君や前川君など一部の部員のみで、大半の部員はここまで細かいルールを知らず「なぜこちらの1点が認められないのだ?審判はおかしい」と怒っていた。
 
強飯監督が審判に抗議したが決定は覆らなかった。
 
むろん強飯監督はこのルールを知ってはいるが、こんな微妙なところでコールドにされたのに納得しなかったのである。
 
それでこの大会は、T中の優勝となった。
 
強飯監督は準優勝の賞状の受け取りを拒否し、選手を帰してしまった。
 

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女子マネの水野さんは司の身体を心配した。
 
「ずぶ濡れですけど大丈夫ですか?」
「平気平気」
「すぐ着替えましょう。女子更衣室に来ません?」
「ぼく男なのにそんな所に入れないよ。トイレで着替えてくる」
「あ、そうですよね」
と言いながら水野はさりげなく司の胸に触る。
 
あれ〜。なんでバストを感じないんだろう。ナベシャツ着てるのかな?と水野は思った。
 
でも男子更衣室ではなくトイレで着替えるというのは、やはり男子に見られてはいけない身体なんだろうなと水野は考えた。
 
(実は生理はだいたい終わったもののまだパンティライナーを着けていたので、それを人に見られたくなかったし、汚物入れもある場所で着替えたかった:男の子の身体に戻してもらったのに下り物があるのは何故だろうと思っていた)
 
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5月17日(火).
 
帯広の田中音香(27)は元気な女の赤ちゃんを出産した。結婚5年にしてやっと産まれた初めての子供で、これまで音香にあれこれ辛く当たっていた義母が歓喜し
「おとちゃん、よくやった。頑張ったね」
と言ってくれたので、音香はとても嬉しかった。実際このあと、義母は人が変わったように音香に優しくしてくれるようになるのである。
 
この出産には音香の母(小登愛や玲央美の父の姉)も来てくれて“初孫”の誕生を喜んでくれたが音香は「お母ちゃんには悪いな」と思っていた。「でも次はお母ちゃんの孫を産むからね」と思う。
 
実を言うとこの子供は、2003年12月に死亡した佐藤小登愛の卵子が保存されていたのを音香の夫の精子と受精させ、音香が産んだものである。
 
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音香自身は卵管閉塞のため自然妊娠できない。それで小登愛の“孫”を作りたい天野貴子と取引したのである。
 
(1) 小登愛の卵子と、音香の夫の精子を受精させ、音香が妊娠して子供を産む。
 
(2) 2年後、今度は音香自身の卵子を採取して夫の精子と受精させ、再度妊娠して子供を産む。
 

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貴子はこの“代理母”をしてくれる報酬として2000万円払うと言ったが
「まとめてもらうと絶対使い込む!」
と音香は言って今回は500万だけもらい、次の自分の子供の妊娠の時にあらためて1500万もらうことにしている。
 
このことは音香と貴子だけの秘密てある。今回の子供も、夫や義母には自分の卵子を採取して夫の精子と受精させたと説明している。
 
(子供の本当の母親は、母だけが知っている!)
 
だからこの子供は義母にとっては本当に初孫だが、自分の母にとっては実は姪孫(姪の子)(*12) なのである。ただ、小登愛と音香は元々容姿が似ていたし血液型も同じなので、まずバレることはない。
 
それに音香は2年後には今度は自分の卵子を使って子供を産むつもりである。
 
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(*12) ことばが似ているが、従姪はいとこの娘、姪孫は甥・姪の子。

 
甥・姪の子供は性別によらず姪孫と呼ばれる。つまり甥孫という言葉は“あまり”使用されない。
 

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貴子としては今回生まれた子供が大人になって結婚して子供を産んだ時、その子に強い霊的素質が備わっているのではと期待しているのである。霊的な素質は隔世遺伝する(*13).
 
貴子は“千里が寿命で死んだ後は”その子で遊ぼうと思っていた。
 
(*13) 確か藤子不二雄だったが言っていたと思うのだが霊的な感覚というのは普通の人には備わっている大事な感覚が欠けているから、それを補うために発現する。
 
だから霊的感覚は結果的に劣性遺伝になる。子供の世代は優性のほうが現れるから霊感を使う必要が無い。
 
霊感の強い人には目の悪い人とかがよくいる。普通に見える人は霊感で補う必要が無いのである。
 

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強飯監督が北北海道大会で準優勝の賞状を受け取らずに選手を帰した件は連盟から厳しい注意を受けたが、強飯監督は謝罪も拒否した。それで連盟は強飯監督に対して向こう3ヶ月の指揮停止という重い処分を課す。その場合、夏の大会で強飯先生は監督になれない。
 
ところが追いつかれていたのにコールドで思わぬ優勝を手にしたT中の監督と校長が「あのコールドは自分たちも納得がいかない。試合はあの時点でイーブンだったのだから、どうしても継続不能なら翌週再試合にすべきだった。強飯さんの行動は当然だ。自分が彼の立場でも準優勝の賞状を拒否する」と強飯さんへの処分に対して抗議した。
 
全道大会の期日が迫る中、結局北海道連盟の理事長の裁定で、コールドゲームは有効でT中の優勝も有効だが、今後決勝戦ではコールドゲームの宣言には慎重を期し、再試合のオプションも考えるということになり、強飯監督への処分は撤回されることになった。
 
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今後コールドゲームの適用を慎重にするという理事長の意見で強飯先生も裁定を受け入れた。でも準優勝の賞状はS中の校長が受け取ってきた。
 
しかし強飯監督はおかげで6月からの夏の大会でも指揮を執ることができるようになった。
 

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女子中学生・春ランラン(11)

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