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(C) Eriko Kawaguchi 2022-08-27
決勝戦はそのままプールサイドで行われることになった。
千里は水中に落下していないので身体は乾いたままである。水着の上にすぐ服を着てくださいと言われたので、愛子が寄って来て渡してくれたワンピースを着る。
「決勝戦はダーツを投げて当たった所に書いてあった楽器を使って演奏をしてもらいます」
と言われる。二次審査で最初に勝ち抜けた24番の番号札の人が最初にダーツを投げる。
大正琴と書かれた所に当たった。大正琴が持ち込まれてくるが、
「えー?私、こんな楽器触ったこと無ーい」
などと言い出す。
「触ったこと無くても何か弾きなさい」
とスタッフさん。
でも彼女はこの楽器を全くどうにもできず、サヨナラとなった。
2番目に勝ち抜けた3番の番号札の人がダーツを投げる。フルートと書かれた所に当たった。
フルートが持ち込まれてくる。
「私フルート得意なんです」
と言って笑顔で彼女はその楽器を受け取った。へー。それは凄いと思って見ていると彼女はそのフルートを構えて唄口の所に唇を置き、
「ターラララ、ターラ、ターラララ、ランララ」
とモー娘。の『恋のダンスサイト』の節を歌い出した。
千里は思わず笑顔になった。そうそう。1番目の人もこれをすれば良かったのよ!できないならできないなりに、何かパフォーマンスするのが、芸人魂である。できないからといって「できません」と言ったり無言なのは失格だ。
彼女はまるで本当にフルートを吹いてるかのように指を盛んに動かしている。千里はその指使いを見ていたが、でたらめである。そしてラララで曲を歌い続ける。スタッフの人も審査員の人たちも笑顔でお互い顔を見合わせながら、頷いて聴いている。彼女のパフォーマンスは堂々とした感じで続く。だいたいラララで歌っていたが『セクシービーム!』だけはフルートを胸の所から前に突き出すようにして、セリフをしゃべった。
2分ほどで終らせる。客席から大きな拍手が起きた。
「ご静聴ありがとうございました」
と言ってお辞儀をして、自分の席に戻った。
3番目。千里がダーツを投げる。バイオリンと書かれた所に当たった。やれやれ。
それでヴァイオリンと弓を渡された。
なんか1万円くらいで売ってそうな超安物だ!でも千里は調律が合っているっぽいことを確認した上でカメラの方に向き、弾き始める。
ミッミ|ミードラ|ラーミド|シラファラ|ミーーミ|ファ(ミレ)レレ|ラーーミ|ファ(ミレ)レレ|ソ#ーー
とメンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトである。
さっきの人が笑いに徹した。だったら自分は逆に超まじめにやった方が笑いが取れると千里は考えた。他の人がしたのと似たようなことをするのも愚である。芸人は個性が大事である
(でもなんで私こんな凄い曲弾けるんだっけ??ヴァイオリンなんて1年半前に北海道グリーンランドで弾いて以来、その前は小学3年生の時以来弾いてないのにと千里は思った←Vが練習してたから:実はVが覚えたことは全員使える)
いきなりマジなクラシック曲の演奏が始まったので会場はざわめきが起きる。しかし千里はそのざわめきを黙殺して演奏を続ける。そして1分ほど弾いたところで、スタッフさんが合図をするので演奏を終了した。
「なんか凄い曲を弾いたね」
「はい。ドリームボーイズの『あこがれのおっぱい』でした」
と千里が言うと、爆笑が起きる。
「曲が違う気がするけど」
「あれ?そうでした? ベートーヴェンの『白鳥の湖』でしたっけ?曲が似てるから」
と答えると、スタッフさんが千里の背中を叩きながら笑っていた。
審査結果が発表される。
「優勝は3番****さん」
千里は笑顔で拍手をする。彼女は千里と握手をした上で、嬉しそうに賞状とトロフィー賞金の入った袋を受け取った。
「そして準優勝、18番大中愛子さん」
と言われて千里もそちらへ行く。
「準優勝者には特に何もありません」
それで千里は笑顔で手を振った。
そして千里はそのスタッフさんに訊いてしまった。
「ところで、これ何のオーディションだったんですか?」
「はあ!?」
とスタッフさんが呆れるように言った所で
「お疲れ様でしたー、放映終了です」
という声が掛かった。
「へ?放映って、これ放送してたんですか?」
「君ね・・・・、ちょっと面白すぎるよ。クイズで毎回のように2番目にボタン押してたのも美味しいと思ったし。ハッタリも凄いしさ。君が男の子だったらデートに誘いたいくらいだよ」
とスタッフさんは千里の肩を数回叩いてから笑いながら手を振って去って行った。
放送局の人?が寄って来て
「これ今日の参加御礼と交通費です」
と言って封筒を渡してくれた。
「あなた結構楽しませてくれたし準優勝だったから少し色付けてますから」
などとも言われた。
愛子が寄ってきた。
「ありがとう。千里、度胸あるね」
と言って笑っている。
「えー?ただの気合いとハッタリだよ。でも、マジこれ何のオーディション?」
と千里が訊くと、愛子は
「これ『ザッツ・ビッグ・オーディション』という番組なんだけど」
「番組〜!? じゃ、これ放送されるの?」
「生放送だけど」
「うっそー!?」
「一次審査は編集して審査通過した人の分だけダイジェストで流す。でも二次審査からは生放送」
「えーーー!?」
「いや、私、書類審査通ったけど、本番に出る自信が無くてさ。代わってもらってよかったぁ」
千里は急に心配になって訊いた。
「ね、これの放送って札幌市内だけ?」
「全国放送だよ」
「きゃー」
と千里は悲鳴をあげる。
「もしかして・・・・私の友だちとか、お父ちゃんとかも見たかな?」
「かもね。でも千里のお父ちゃんは、名前を大中愛子にしてたから、私が出たと思ったかもね」
「はははははは」
千里は父がそう思ってくれたことを祈っていた。
「でも司会の蔵田孝治さん、軽妙だったね」
と愛子が言う。
「蔵田孝治? なんかどこかで聞いたような名前ね」
「ドリームボーイズのリーダーじゃん。千里、だからメンコン弾いた後でわざとドリームボーイズの曲名を言ったんじゃなかったの?」
「えーーー!? あの人、放送局のADさんか何かかと思ってた」
愛子は悩むようにおでこに手を当てた。
「でもあの人、私が男の子だったらデートに誘いたいとか言ってたけど」
「知らないの? あの人ホモだってので有名だよ」
「あはははは」
私の性別バレてないよね?
(この千里は自分が戸籍上は男だと思い込んでいる)
蔵田はおそらく、やがて永遠のライバルと言われることになる、ケイと醍醐春海の双方に接触した最初のプロミュージシャンである(多分2番目が春風アルトで3番目が雨宮三森)。
愛子と千里(B)はミスドで軽くカロリー補給してから、各々次の連絡で帰宅した。
札幌16:52(スーパー北斗18号) 20:14函館
札幌17:00 (スーパーホワイトアロー21号) 18:02深川18:05- 19:03留萌
千里は“スーパーホワイトアロー”の中で熟睡していたが、深川での乗換が「絶対危ない」と思って司令室でモニターしていた千里Vが脳間通信で「起きて。乗換だよ」と言って起こしてあげた。それで旭川まで行っちゃう事態は避けられた。
留萌駅を出ると小春が待っていて「お帰り。買物しといたよ」と言ってエコバッグを渡される。それで小春が運転するカローラで帰宅した。自宅に戻ったのは19:20くらいである。
千里を降ろしてから自分の家に戻った小春は
「なんか今日は千里が6〜7人出没してたような気がするけど、どうなってんの?」
と呟いた。
「留萌駅でBを迎えたけど、Bはどこに行ってたんだ??Bは15時まで神社に居たのに。その後、旭川とかに行って来た???」
念のため乗換案内で調べると、旭川までは行けないが、深川往復なら、こういう連絡があることが分かる。
留萌16:15- 17:14深川18:05- 19:03留萌
「千里Bは何しに深川とかに行ったのだろう?あるいはBが2人に分裂してひとりは神社に出て、ひとりはどこかに行ってきたのだろうか??Rまで2人か3人に分裂してたような気がするし!?」
などと、混乱したままの小春であった。
※この日出没した千里
(1)Y? ずっとP神社に居た→Y
(2)B? 8-15時にQ神社に居た→実は星子
(3)B? 17時頃に小春に電話で買物とお迎えを依頼した→実はV
(4)B? 19:03留萌着の列車で帰還→B
(5)R? 旭川まで沙苗たちと一緒に往復→R
(6)R? 夕方から旭川に行った→これもR
(7)R? CM撮影に行ってきた→実はG
一方、千里(B)は
「なんか久しぶりに家に帰った気がする」
と思った(多分約4ヶ月ぶり)。
(この時点でYはまだP神社に居る。Rは天野道場に居る)
千里Bが晩御飯(材料を炒めるだけで出来る八宝菜)を作り始めたら父が言った。
「おい、優芽子伯母さんとこの愛子ちゃんがテレビに出てたぞ」
「へー、そうなんだ?」
「なかなか面白い子だな。あの子。でもあの子も髪長くしてるんだな」
「可愛いから似合うよね」
「歌も上手かったし、バイオリンも上手かったし。やはり女の子はそういうお稽古事とかさせるといいのかも知れないな」
などと父は言っていた。
母は後で「心臓が停まるかと思った」と言っていたが!
8月30日(月)、千里が学校に出て行くと、クラスメイトたちにつかまり
「土曜日のテレビ見たよ、千里すごいねー、準優勝」
と言って、だいぶこの話題で話すことになった。
「名前が違ってたけど、あれ千里だよね?」
「本当は従姉が応募したんだよ。私と双子みたいに似てるんだよねー」
「へー。そういえば千里双子説というのは昔からあるね」
ここでこの日の朝、学校に出て行ったのは千里Bを装った千里Gである。
「夏休みの宿題で練習してた曲を弾いてたね」
「うん。キンコンね」
「メンコン!」
(↑マジで間違えた:RやGは特に言い間違いが多い)
千里Bは土曜日、夕飯を食べたら消えてしまったので、千里Gは月曜日(Vに司令室を任せて)自らBの振りをして学校に出てきたのである。Gは学校の授業を受けるのは久しぶりだなあと思った。
この日、昼休みに廊下で遭遇した貴司からも声を掛けられた。
「土曜日の番組見たよ」
「ふーん」
「マイケル・ジョーダンの質問、千里が取れなかったらバスケ部をクビにしてた所だな」
「貴司の恋人をクビじゃなくて、バスケ部の方をクビなんだ?」
「僕の恋人の方はまだしばらくクビにしない」
「へー」
貴司“が”千里“に”恋人クビにされなかったらいいね。
「でもあらためて千里のおっぱい見てたけど、かなりサイズあるね。こないだ見た時は場所が場所だったから、あまりじっくり見なかったけど。Cカップあると思った。やはり豊胸手術したの?」
「何なら確かめてみる?」
と言って、“この千里”は貴司の右手を取り、自分の夏服セーラー服の中に手を入れさせ、ブラジャーの上からバストに触らせた。
「うぉー!!」
と貴司が声をあげている。千里は素早く彼の頬にキスすると、
「またね」
と言って立ち去った。
貴司はキスされた頬をずっと左手で押さえボーッとしていた。
(こんな対応はVにはできなかった)
一部始終を見ていた恵香が
「廊下で胸に触らせてキスするとは大胆な」
と言う。
「校則には廊下でキスしてはいけないという規則は無いし」
(胸に触らせたことには取り敢えず言及してない)
「追加されたりして」
「まあこれで3日くらいは浮気しないでしょ」
「千里開き直ってるね」
「貴司は浮気をする人だから、そういう人は諦めて別れるか、そういう人だと諦めて気にしないか、どちらかだよ」
と千里Gは言う。(多分Rも同じ感覚だと思った)
「悟りの境地だね」
と恵香は言っていた。
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女子中学生・ミニスカストーリー(21)