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■夏の日の想い出・虹の願い(15)

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ということで、サンルームでインタビューは行われることになった。
 
やっと本題に入る。
 
青葉が作曲家として活動し始めた経緯、音楽業界に足を踏み入れるようになったきっかけなどから話していく。
 
「へー。ケイ先生が書かれた曲に、大宮先生のモチーフのようなものが混入していたので、その曲の共同制作者としてクレジットしたのが始まりですか」
 
「『聖少女』だね。リーフの名前でクレジットした。今でもあの曲を聴くと心が癒やされる気がするという声を頂くんですよ」
し私は言う。
 
2011年6月19日の“クロスロード”での出来事である。あの時、私はローズクォーツで避難所を巡って慰安演奏をしていた。青葉は大船渡市内の避難所で過ごしている人たちの心のケアを頼まれて避難所めぐりをしていた。あきらは美容師団体の洗髪・ヘアカットのボランティアに参加していた。和実と淳は救援物資を運んでいた。千里と桃香は勤めていたファミレスの炊き出しに参加していた。
 
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そして、これだけのメンツが偶然同じ避難所で遭遇した。その時、急な余震があり、赤ちゃんがスープを手にかけて火傷をした。それをそのメンツで応急手当をしたのだが、青葉はその赤ちゃんにヒーリングをしていた。その様子を見て私は『聖少女』を書いた。その時、青葉のヒーリングの波動が曲に混入してしまったのである。
 
この時全員が別方向から大船渡に来ていたので私たちは“クロスロード”と呼んでいる。
 
私は盛岡・花巻から移動してきていた(R263/R107)。
千里と桃香は釜石から南下してきていた(R45)。
和実と淳は気仙沼から北上してきていた(R45)。
あきらは一ノ関から東行して来ていた(R343)。
青葉は高岡から高速バスで仙台まで来て、佐竹慶子さんの車で大船渡に入っていた。
 
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そして当時全員が“人生の迷い道”に入り込んでいたのをお互いに助け合ってそこから脱出したので“クロスロード”でもあるのである。
 

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「その後、マリさんに無理強いされて、私がマリさんの詩に曲を付けたのが、本格的な作曲活動の始まりですね」
と青葉。
 
「『遠すぎる一歩』だね。槇原愛が歌ってヒットした。あれは鈴蘭杏梨絵斗(すずらん・あんりえっと)名義。鈴蘭杏梨(すずらん・あんり)というのは、マリ&ケイの別名義で、万葉が作曲した場合は絵斗(えっと)が付く」
と私は言う。
 
「その名前って何かいわれがあるんですか?」
 
「バルザックの小説に "Le Lys dans la Vallee" (ルリ・ダンラ・バレ)という作品があって、日本でも逐語訳した『谷間の百合』のタイトルで出版されている。ここで"Le Lys dans la Vallee" というのは英語でも"the lily of the valley" というけど、鈴蘭の別名(*16)でね。またこの小説のヒロインの名前がアンリエット(Henriette) なんだよ。それで題名とヒロインの名前をくっつけて“鈴蘭杏梨絵斗”というペンネームが生まれた」
 
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(*16) 鈴蘭の、より一般的な名前は Muguet de mai (ムゲ・ドゥ・メ:マイアのムゲ/5月のムゲ)である。マイアは5月 Mai (フランス語では“メ”と読む。英語ではMay)の語源となった春の女神。日本語でも鈴蘭のことをムゲあるいは谷ムゲと呼ぶこともある。この花には多数の異称があり、アムレット(amourette, 愛の情熱)、ギエまたはグリエ(guillet/ grillet 熱(多分燃えるような愛)という意味?)、森の鈴(clochette des bois), “マイアのユリ”または“5月のユリ”(lis de mai), 谷間のユリ(lis des vallées), 森のムゲ(muguet des bois), 森の女王(reine des bois), マリア様の涙 (larmes de sainte Marie) などといったものがある。
 
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「なんか面白い」
「要するにローズ+リリーのリリーに掛けてる」
「なるほどー」
 
「この小説読んだことない?」
「無いです」
 
「わりと高校生向け。移動時間とかにでも読んでみるといいよ。たぶん2-3時間で読めると思うし」
 
「へー。じゃ時間が取れたら」
 
後日、東雲はるこは読んで、ボロボロ涙を流したらしい。町田朱美は、はるこからあらすじを聞いて、それでいいことにした!
 
(むしろ恋愛中の朱美向きなのだが)
 

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「まあ、あの時、ケイさんはライブの準備をしながら、アルバムの制作をしつつ、グランドオーケストラの企画も進めてて、くたくたに疲れて寝ていたんですよ。それなのにマリさんが『お腹が空いた。ケイを起こさないと御飯ができない』と言うので、私が御飯を作ったんですけどね」
と青葉は当時の状況を説明する。
 
「それで御飯を食べて、マリさんもお休みになるかと思ったら、詩を書いて、これに今すぐ曲を付けてもらいたいからケイさんを起こすと言うから、『じゃ私が曲を付けますよ』と言って」
 
と青葉は苦笑しながら言った。
 
「マリちゃんのワガママって、本当に困ったものだからね」
と私は笑いながら言った。
 
「それで作曲したんですか!」
 
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「大宮万葉のペンネームのいわれは何なんですか?」
「あれはマリさんが勝手に私に命名したんだよ」
「へー」
「ある日マリさんから電話が掛かって来て、言うんだよね。『私が岡崎天音になるから、青葉は大宮万葉ね』って」
 
「どういう意味ですか?」
「私もさっぱり分からなかった!」
と青葉。
 
「マリって前提を言わないから何のことやらさっぱり分からない。あの子は自分が今したいことしか頭の中に無いんだよ」
と私。
 
「小さな子供と同じだよね。目標物しか見てない」
と千里が言う。
 
私も頷く。
 
「それでマリさんの字で岡崎天音名義の『黄金の琵琶』と書かれた歌詞がFAXされてきたから、これに曲を付ければいいのかと思って曲を書いて送り返したんだけどね」
と青葉。
 
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「それがKARIONが歌ってYS大賞の優秀賞を頂いた『黄金の琵琶』だったんだよね」
「すごーい」
「その曲で、大宮万葉自身がコーラスの大会に出て全国3位になった」
「わぁ!作曲者ご自身で歌われたんですか!」
 
「たまたま部員の中に琵琶が弾ける子がいたから。でもコーラスの大会で琵琶を使ったのは、かなり珍しいと思う」
 
「ギター伴奏は見たことあるけど、琵琶は見たことないです」
と東雲はるこも言っている。
 
「あれ実は『黄金の竪琴』だったんだけどね」
と私。
 
「え〜〜!?」
 
「マリが青葉にFAXする時、竪琴を琵琶と書き間違った」
「そんなことあるんですねー」
「マリならしょっちゅうだね。でもあの歌詞は竪琴のつもりで書いた所を琵琶として読んでも違和感が無かったんだよ」
「それで私も全く気付きませんでした」
 
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「それに琵琶にしたお陰で、万葉の友人のお祖母さんが人間国宝クラスの琵琶の名人さんでさ。それを入れた仮音源があまりにも素晴らしかったから、琵琶の演奏はその仮音源のものをそのまま発売音源に残したんだよ」
 
「へー!」
「あれは弾いた本人も、こんなに上手に弾けたのが信じられないと言ってたけどね」
「そんなことあるんですねー」
「希(まれ)によくある」
 
「カーペンターズの『スーパースター』は音源制作の時にカレンが最初に歌った歌唱があまりに素晴らしかったので、その最初の歌唱の録音でそのままリリースした。昔リトル・エヴァが歌う『ロコモーション』という曲が世界的なヒットになったことあるけど、本来は別の歌手が歌う予定で、リトル・エヴァは仮歌係だった。ところが彼女の仮歌があまりにも素晴らしかったので、そのままリトル・エヴァが歌ってレコードを出してヒットした」
 
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「カモン・ベイビー・ドゥー・ザ・ロコモーションという曲?」
「そう、それそれ」
 

「コーラスの大会でもその人が伴奏したんですか?」
「さすがに65歳に女子高制服を着せてステージに並べるのは無理」
「社会人入学してもらえば」
「偶然琵琶の先生をしている人の息子さんが1年生に居たから、その子に女子制服を着せてステージに並べたけどね」
「息子さんに女子制服着せたんですか!?」
「その後、それを機会に学校の授業にも女子制服で出るようになったみたいよ」
「あ、元々そういう傾向の子か」
「最初男子制服で並ぶつもりだったみたいだけど、女子制服着たいでしょ?着ちゃいなよ、と唆した」
 
「ああ、そういう子はどんどん背中押してあげたほうがいいです」
と朱美は楽しそうに言っていた。
 
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「でもそれで、岡崎天音・大宮万葉の黄金コンビが生まれたんですね」
と、珍しく、東雲はるこのほうが話を元に戻す!
 
「『黄金の琵琶』でデビューしたから、まさに黄金コンビだね」
「ほんとだ!」
 
「岡崎天音というのは、天から聞こえてくる音を感じ取るようにして詩を書くから、とKARIONの和泉は言ってたけどね」
「マリ先生ってチャネリング型の詩人ですよね」
 
「そうそう。頭で詩を書く人にはああいう詩は書けない。だからマリは一切校正しない。実際できないのだと思う。文法的におかしい所はあるけど、それを直そうとすると全面崩壊する」
 
と言いながら、ワンティスの高岡さん(アクアの父)が似たタイプだったよなと、私は小学生の時に出会った高岡さんのことを思い出していた。夕香さん(アクアの母)は頭で詩を書くタイプだ。
 
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「“岡崎”は、マリが長崎県生まれの福岡県育ちだから、長崎と福岡を合体させて岡崎」
「愛知県の岡崎じゃないんだ!」
 
「大宮万葉は、大宮市の生まれで、今は“万葉の里”高岡市に住んでいるから」
「それぞれいわれはあったんですね」
 
「まあ適当に付けたんだと思うけどね」
「あはは」
 

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「ラピスラズリという名前も実は、コスモスとこの3人で決めたんだけどね」
と私が言うと
「そうだったんですか!」
と2人は驚いていた。
 
「東雲はるこ・町田朱美という名前を付けたのはコスモス社長だけど、2人のユニット名でいいのはないかと相談された。それで“朱美”は“あけぼの”から来ていて、“しののめ”も“あけぼの”も朝の時間帯でしょ?」
 
「あ、はい。それは聞きました」
 
「それで朝の時間帯の美しさを読んだ、清少納言『枕草子』の一節」
と言って、私はその部分を暗誦する。
 
「春はあけぼの。ようよう白くなりゆく山際、少し明かりて紫だちたる雲の細くたなびきたる」
 
「ここの“紫だちたる雲の”から紫色のものを使おうということになって、醍醐春海がラピスラズリというのを思いついたんだよ。2人組だから合成語っぽいものがいいと言って」
 
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「そうだったんですか!」
 
「まあ合成語といっても lapis lazuli の lapis は“石”の意味でラズリは地名だけどね。ラピスラズリの産地の名前をとったもので、ラズリ石という意味だったんだ」
と千里は説明する。
 
「でもコスモス社長からそのあたり聞いてなかった?」
「全く聞いてません。あんたたちの名前は“ラピスラズリ”になったからと言われて、“ラピスラズリ・東雲はるこ”“ラピスラズリ・町田朱美”という名詞を頂いただけです」
 
「ああ、だいたいそのパターンが多い」
 
「花咲ロンドなんかも、いきなり『花咲ロンド』と書かれた名刺を渡されて、映画の撮影に行って来てねと言われた。川崎ゆりこなんて『新しい名刺ができたから』と言われて渡された名刺を見たら“§§プロダクション取締役副社長・川崎ゆりこ”と書かれていたらしい」
 
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「うっそー!?」
 
(このあたりは“内輪ネタ”だが、放送時に結構視聴者には受けていた)
 

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