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■夏の日の想い出・虹の願い(14)

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リビングが広い!30畳くらいないか?計画図の倍じゃん。全て計画図の倍のサイズで作られてたりして??などと青葉は思っていた。
 
(計画図は77坪だったのが完成形は(ピアノルームを除けば)88坪なので、“南田にしては随分”控えめである)
 
「広いリビングですね」
と東雲はるこが言うが、千里は
 
「広すぎて落ち着かないし、今日は天気がいいからサンルームの方でお話しするといいよ」
と言った。
 
「サンルーム?」
 
何それ?
 
それで千里は一行を、広いリビングの向こう側にあるサンルームに案内した。
 
リビングとの間は壁とかではなく、プラスチック製のパステルカラーの衝立で区切られている。衝立に『鬼滅の刃』のキャラが、炭治郎・禰豆子・伊之助・冨岡義勇・胡蝶しのぶ・煉獄杏寿郎などと、描かれているので、東雲はるこが喜んでいた!(はるこは伊之助が好きらしい。朱美は冨岡義勇がいいと言ったが、青葉はそもそも『鬼滅の刃』を知らなかった!)
 
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この絵は、ホワイトボードマーカーで描いているので飽きたら別の絵に描き直すこともできる。鬼滅のキャラは京平のリクエストで千里が描いたものだが、“早月画伯”が何か描きたいようである。しかし朋子が、今日お客様がいらっしゃるから、その後にしなさいと言った。早月はそのお客様に自分の絵を見せたそうだったが!
 

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千里がボタンを押すと、カーテンが自動で開き、外側の雨戸シャッター?が上にあげられた。すると道路側(南側)と駐車場側(東側)は全面、すりガラスの掃き出し窓(*12)である。
 
「わあ、すてき〜!」
と東雲はるこが言う。
 
そこは15-16畳ありそうなサンルームであった。
 
屋根は透明ガラス?(*13)であり、照明を点けてなくても、とても明るいし、12月だというのにとても暖かい。
 

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(*12) 窓の下辺が床と同じ高さである窓を掃き出し窓と言う。掃除する時に床のゴミをそのまま外に掃いて捨てることができる!言い方を変えれば全面ガラスの出入口である。襖(ふすま)や障子(しょうじ)のガラス版である。掃き出し窓で開き戸の形になっているものを特にフランス窓という。新・青葉家の場合は横に動かす引き戸である。
 
(*13) 天井はガラスではなく軽くするため、透明のポリカーボネイト板を使用している。(千里によると屋内で天体観測できるとか!)
 
こういう用途ではよく透明アクリル板が使用されるが、アクリルは燃えるし有毒ガスを発生する。ポリカーボネイトは難燃性だし、燃えても有毒ガスを発生しない。ただしアクリルに比べて透明性が若干落ちる。このポリカーボネイト板は千里が66%所有する(残り34%は“ひまわり女子高2年A組16番白雪ユメ子”が所有する)、フェニックス・ケミカル福井の若狭工場で作られたもので、非常に安価に売ってもらっている。
 
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ムーラン建設や播磨工務店の料金が安い背景には、ムーランハウジング製(*14)のユニット素材やPCを多用するし、木材、プラスチック製品、吸音板などを系列会社で自前で調達できるのも大きい(H型鋼などは“ひまわり女子高2年A組16番白雪ユメ子”(以下面倒くさいので“紫微”)のコネでK製鉄から買うが、現在K製鉄の大得意さんになっていて、ランクが上がり仕入れ値が安くなってきている)。
 
(*14) ムーラン建設とフェニックス・ケミカルが共同で設立した会社で、PC(Precast Concrete 成形済みコンクリート)とユニットハウスおよびその部品などの建材を生産している。工場は福島県にあるが、播磨工務店の緑組(運搬専門チーム)が全国どこへでも、あっという間に運んでいってくれる。
 
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千里は山を崩したり、川を堰き止めて洪水を起こしたりしたくてたまらない連中をまとめあげて、彼らの有り余っているエネルギーで“材木・鉄骨遊び”感覚の営林や土木建築をさせているのである。だからみんな楽しんで作業をしてくれている。人間の子供の砂遊びと大差無い!(但し“鉄骨チャンバラ”“鉄骨キャッチボール”などは禁止した)
 
斫り専門の茶組はとにかく壊すのが好きな子たち、運搬専門の緑組はとにかく飛び回るのが好きな子たちである。
 

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ドーム球場の屋根とかは軽すぎて騒音がよく問題になるが、この新・青葉邸のサンルームの屋根は二重になっているので、多少の防音性はある。雨が降っても「そんなにうるさくないんじゃないかなぁ」と南田の予想。
 
床はプララスチック製のクッションマット・ブロックが敷き詰められているので冷たくない。
 
畳は優しいが家具を支えきれない。フローリングは美しいし、Pタイルはわりと丈夫だが、どちらも冬はとても冷たい。カーペットだと暖かいが、ほこりやダニが溜まりやすく、コロナの感染源にもなりかねない。
 
クッションマットは拭くだけで掃除できるので、清潔に保つことができるのに冷たくない。いいとこ取りのできる素材である。ブロックだから傷んだりしたらそこだけ簡単に交換できる。
 
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この家のお掃除は新導入のルンバ2台がやってくれる。リビング・サンルーム担当の“そよ風”と奥側のプライベートエリア担当の“南京豆”である。早月の字で「そよかぜ」「なんきまめ」(←表記ママ)と本体に書かれている。
 
(京平が書こうとしたが、早月が「あたしもかける」と言って書いた。京平は優しいので文句は言わない。桃香は何も気にしない!)
 

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青葉は唖然としていた。
 
計画図と全然違うじゃん、あの計画の話し合いは何だったの〜〜〜?と青葉は思っていた。
 
ということで、青葉の家の計画図と実際の完成図はこのようになっている。
 
計画図(再掲)

 
完成図

 
家が完成してから設計図を書く主義(?)の南田らしい。もっとも↑の計画図には、かなりの問題があったので、南田はそれを修正したのである。詳細は後述(*21). しかしそういう状況を千里から伝え聞いていたので、コスモスは町田朱美の家の打合せには七瀬に同席してもらった。
 

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取材陣一行がサンルームに置かれたテーブルのまわりの椅子に座ると、朋子が紅茶を持って来てくれた。お砂糖を町田朱美は2個入れたが、東雲はるこは砂糖を入れない。ミルクは2人ともたっぷり入れた。
 
「これニルギリに似てる気がします」
と東雲はるこが言った。
 
「よく分かるね。これはニルギリの隣の州にあるカンナンデヴァンの紅茶」
と千里が言う。
 
「その名前は聞いたことあるけど、地理が分からない」
と青葉。
 
「インド半島の南端にふたつの州がある。右側・東側がタミル・ナードゥ(Tamil Nadu)州で、その中のニルギリ(Nilgiri)県で生産されているのがニルギリ。発音的には“ニラギリ”の方が近いみたいだけどね。音楽ユニットのNIRGILISの語源だね。その隣、左側・西側にあるのがケララ(Kerala)州」
 
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↓インド付近全体図

 
「あ、ケララは聞いたことある」
と町田朱美。
 
「そのケララ州の、トラヴァンコール(Travancore)地方イドゥッキ(Idukki)県のムンナル(Munnar)という町に、カンナンデヴァン(Kannan Devan)という丘があって、そこで生産されている紅茶なんだよ」
 
↓インド南部超略図

 
「すみません。良かったら地図で教えて下さい」
と言うので、千里が地図ソフトを開いて、場所を見せていた。
 
「よくそんなにパッと表示できるね」
と青葉は半ば呆れて見ていた。
 
「あ、ラクシュミー紅茶会社なんてある」
「紅茶の生産をしている企業が20個くらいあるみたいね」
「すごーい」
 
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「だけどここはサンルームの仕切りも衝立なんですね」
と東雲はるこ。
 
「今日はリビングの仕切りを全部片付けて全体を見せたんだけど、普段はあんなに広くては落ち着かないから、4畳半とか6畳程度に仕切って使ってるんだけどね」
 
「あ、やはりそうですよね!」
「その間仕切りも衝立だよ。パーティションとかで固定しない」
「へー」
 
「元々日本の家屋には壁で仕切るという考え方が無かったんだよ」
と千里は言う。
 
「そうなんですか?」
 
「平安時代の寝殿造りとかは、柱と屋根だけが作られていた。あとは衝立とか幕とかで部屋を区切って、必要に応じて組み替えていた。その組み替えすることを室礼(しつらい)と言っていたんだよ」
 
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「すみません、どんな字ですか?」
と町田朱美が訊くので、千里が教えてあげた。
 

「でもこのサンルームは、お仏壇もあるし“仏間”なんですね」
と町田朱美が言った。
 
「そうそう。君たちも北陸出身だから“仏間”の意味が分かるよね」
と千里が言う。
 
「ええ」
とラピスラズリの2人が答える。
 
それで千里が私や東京のテレビ局のカメラマン、そして遅れネットで見る他県の視聴者(*15)のために“仏間”の意味を説明してくれた(千里は北海道出身だが、青葉が呆然としていて、今説明できる状態に無い)。
 
「北陸では、しばしば仏間を道路沿いに作って、お祭りの時に前を人が通ると声を掛けて呼び入れて、お酒を勧めて料理をふるまってお接待する習慣があるんです。これ、顔見知りの人ではあるけど、わりと通りがかりの人なんですよ。それで北陸ではそういう、お接待をしやすいように、玄関を通らずに直接道路から入れる広間を持つ住宅が多くて、そこに仏檀も設置するので仏間と言うんですが、これがあるのが北陸の家の特徴なんです」
 
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「仏間に接続する続きの間になっている所もありますね」
と町田朱美が補足する。
 
「そうそう。直接入れる所が8畳くらいの和室で8畳くらいの仏間と障子や襖(ふすま)だけで仕切られていて、それを開放すると16畳くらいの大広間として使えたりする」
と千里。
 
「うちの伯父の家がそういう作りなんですよ」
と朱美は言っている。
 

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「だからこのサンルームが仏間で、さっきのLDKが居間だよね。英語で言うとパーラーとリビング」
と千里は言う。
 
「パーラーと言うんですか?」
 
「日本の北陸以外でも、広い家では応接室と居間がある所があるね?昔の上島雷太先生の家とか、24時間365日誰かお客さんが居たから、そういうお客は応接室に入れておいて、家族は居間に居た。ああいう家では応接室と居間を分離する必要があったんだよね」
と千里は説明する。
 
「そんなにお客さんがいたら、分けないと家族が安らげませんね」
と東雲はるこも言う。
 
「西洋では、元々その家のメインルームとなる、最も広い部屋はパーラー(Parlour)と呼んでいた。しかしその内、パーラーで男性たちが政治のこととか経済とかで議論をしている間に、女たちは別の部屋に引き籠もって、おしゃべりするようになった。そういう部屋をドローイング・ルーム(Drawing room) と呼んだ」
 
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「まさに引く draw なんですね」
「そうそう」
 
「ちなみに draw と drag は同じ語源。どちらも古英語の dragan から音韻変化したもの」
と千里は言う、
 
「ああ、どちらも“引く”だね」
と私。
 
「ドラッグクイーン (drag queen) の drag は元々女役をする少年俳優さんたちが女性の衣裳を引き摺っていたことから来てるよね」
 
「あれ女になる薬を飲んでるからとか思ってる人いますね」
「薬ならdrugだね。発音もスペルも違う。薬はdrug [drΛg], 引くはdrag [dræg]」
「だいたいドラッグクイーンさんたちは女の真似をしているだけで女になりたいわけではなないからお薬とかは飲まない」
 
「でも昔の女性の服ってそもそも引き摺るようになってますよね」
「だから裙を持つ係が必要になる」
「昔のお姫様は服も長い髪も引き摺る」
「昔のお昼様がフィギュアスケートしたら髪で躓いて転ぶかも」
 
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「そういう訳で女たちの部屋ドローイングルームができたのがヨーロッパの状況だったんだけど、アメリカの場合は来客をパーラーで接待している間に、家族がのんびり過ごす部屋が発達した。それがリビングルームと呼ばれるようになった」
 
「じゃパーラーが一番古いんですか」
 
「うん。お金持ちの家のパーラーは広大だったから、結婚式や葬式は基本的にパーラーでやった。それからパーラーというのは家の中であって家の外でもあったから、髪を切ったりするのもパーラーでやった。美容院のことをパーラーと言うのはその名残り」
 
「喫茶店のパーラーもそれですね」
「うん。接待する場所だったんだよ。英語では葬儀場のことを funeral parlour と言うけど、それもその頃の習慣の名残りだね」
 
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「へー!」
 

(*15) この番組は石川・富山・福井の北陸3県では毎月2回月曜の深夜に放送されるが、現在全国約40の放送局で遅れネットで翌週日曜の午前中などに放送される。つまり北陸3県の視聴者は2度見られる。
 
この番組は元々、現役水泳選手であるため水泳連盟からの要請で“東京オリンピックまでは”、定常のニュース番組などにあまり参加しないことになった青葉のために“石川県出身の新人アイドル”ラピスラズリを支援するのも兼ねて、〒〒テレビが、◇◇テレビの協力のもと、制作することになった番組である。
 
ラピスラズリの最初のレギュラー番組である。
 
しかし当初“2020年7月の東京五輪まで”1クールの予定で始まった番組はオリンピック延期で1年間終了時期が延び、結局2022年3月まで2年間にわたり放送されることになった。
 
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更にラピスラズリがトップクラスのアイドルになってしまったため、ラピスのスケジュール確保にも苦労するようになった。また青葉は東京五輪で水泳を引退してアナウンサーに専念するつもりだったのに、五輪でメダルを3個(1500=Gold, 800=Gold, 400im=Bronze)も取ったことから、水連会長に説得され2024年のパリ五輪まで現役を継続することにした。結局青葉は少なくともそれまではとてもアナウンサーの仕事はできなくなった。
 
ラピスのギャラも、最初は「新人だしローカル番組だし」ということで、1回30万円(2人で30万。1人あたりの取り分は6万円)というタレントとしての最低未満のギャラだったのが、現在は20倍以上になっているし、その分制作費もあがっている。(青葉はアナウンサーなのでギャラ無し!放送局にも出社しないまま曖昧な月給を毎月10万円もらってるだけ)
 
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遅れネットする局も当初は10局程度だったのが、すぐに20局程度に増え、現在は◇◇テレビ系列を含む全国40局で放送されている(2週間遅れの局もある)。
 
実は人気のラピスラズリの番組だし、土日の日中あたりに移行してくれないかという声もあり(実際そのような時間帯に放送している局も多い)、スポンサーも制作費を出すと言っているのだが大物作曲家は既にほぼ網羅したし、ラピスのスケジュールが厳しいし、青葉も忙しいしで、番組は今回の取材分で終了の予定であった。
 
この時期までは!!
 
§§ミュージック側は、ラピスが多忙なので、何らかの形で続ける場合もラピスではなく、誰か他のタレントでお願いしたいと放送局には申し入れていた。
 
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夏の日の想い出・虹の願い(14)

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